とある世界の片隅で~そして羽は散る~
先日感想を頂いたのを機に、書き足りていなかった部分や裏話的なものを詰め込んでみました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
ほぼ一発書きですので、誤字等御座いましたら教えていただけると助かります。ちょっと誤字修正しました。
「エメラルディア様、よろしいのですか?」
「……仕方が、無いもの。私があの方を愛していたのは真実だったけれど、もう……疲れたわ……」
愁いの表情を浮かべる漆黒のドレスを纏う姫を慰めるように、茶色の制服を纏った女性達が身を寄せる。
「何て恩知らずな方達! エメラルディア様にも、エメラルディア様の兄上様方にも庇護されている立場でありながら、別の娘にうつつを抜かすなんて!!」
「そうよ! あんな、どこにでもいるような娘なんて、エメラルディア様のお美しさには決して敵わないのに!!」
姦しく囀る女性達。
そんな彼女達に囲まれた黒の姫君は悲しそうに顔を伏せる。
顔を伏せる前に彼女の視界に入ったのは、自身が愛した男性。名をレグホーン・ブラン・クドゥルと言い、クドゥル国の第三王子である。
木陰に乳兄弟達と並んで座り、傍らにはエメラルディアでは無い女性を置いていた。傍らの女性に微笑みかける顔はとても優しげだ。何か楽しいの事でも言ったのか、彼らの笑い声が響く。
そして、そんな彼を悲しそうに見ていた黒の姫君は、名をエメラルディア・マウヤール・サイベリアンと言う。異国の姫君で、黒く美しい長い髪と、神秘的なエメラルドの瞳の持ち主だ。
他でも無い、レグホーンの婚約者である。
だが、彼女は何故かレグホーンから離れた場所にいる。悲しみにその顔を曇らせながら。
彼女は幼き日にとある場所に迷い込み、そこで出会った少年達の一人。レグホーンに恋をした。本来ならば実らぬ筈の恋。だが、エメラルディアを溺愛する国王が王妃を説得し、条件付きではあったものの許される事となったのだ。
エメラルディアはレグホーンを慈しみ、レグホーンもまたエメラルディアを慕っていた。
しかし、それも今は過去の出来事……。
「レグホーン様には、アイラ様がいらっしゃいますもの……」
「「「「「エメラルディア様……」」」」」
そう。今やレグホーンの傍らには別の女性がいる。目の前でレグホーンに寄り添う女性がそれだ。
以前エメラルディアがいた場所は、レグホーンが学園で出会ったアイラ・ブラウンという少女に奪われ、かつて親しくしていたレグホーンの乳兄弟達も、全員がアイラ嬢に愛を囁いている。
それは酷く歪であったが、ある意味ではとても正しいものであったが故に、エメラルディアがレグホーンを責める事は無い。同じくアイラ嬢の事も。
だが、心とは裏腹に、衝動的にアイラ嬢に手を上げてしまった事があった。学園の庭園を歩いていた時、気付けば制服を乱して地面に倒れるアイラ嬢がいた。
それにはエメラルディアの方が酷く慌ててしまった。本当に他意は無かったのだ。
アイラの上げた悲鳴にすぐさまレグホーンが飛んで来て、すぐに連れて行ってしまったので詫びの言葉もいう事が出来なかった。後日詫びの品を届けたのだが、果たして無事に受け取って貰えたのだろうか。国の違い故に何を送れば良いか分からず、自国で人気の品を取り寄せて送ってみたのだが……。
遠ざかって行くレグホーンとアイラ嬢をボンヤリと見つめ、そんな彼女を女性達が悲しそうに見つめる。
もはや、レグホーンの心がエメラルディアには向かっていないのは明白だ。
「やっぱり、初恋は実らないものなのかしら、ね……」
ポツリと呟いたその言葉に返事を返す者は、誰もいなかった。
***
あの日、まだエメラルディアがあどけない幼女だった頃。
エメラルディアは両親の目を盗んでとある場所に立ち入っていた。
今でこそ立派な令嬢だが、幼い時はそれなりにヤンチャな娘だったのだ。それが故に、国王に溺愛されるようにもなったのだけれど。
両親からは決して入ってはいけない、と言われていた場所。
だが、ダメと言われたら余計に気になるのは子供の習性のようなものだ。好奇心旺盛な性格も相まって、彼女は両親の不在の隙に部屋を抜け出し、入ってはいけないと言われていた部屋にコッソリと忍び込む。
小さな体であるが故にそれは見事に成功し、薄暗い部屋の中、闇を恐れる事無くご機嫌で探索を続ける。
そうする内にふと、何かが動いているのを見つけた。やれ、何やら面白いものか? と駆け寄る。
その先で見つけたのは自身よりも小さな幼子であった。
春に花咲くと言う、背の高い花のような色の髪を持った幼子。自身よりも小さな子供達が、身を寄せ合って眠っている。
その中の、とある幼子に目が惹きつけられた。
柔らかそうな花色の髪。思わず触れてみれば、ふんわりと優しく指を擽る。その感触が面白くて、何度も髪に触れている内に、目を覚ました幼子と目が合ってしまった。
その幼子こそが、レグホーンだ。
怯えた様子で身を竦める彼に優しく声を掛け、何故こんな場所にいるのか尋ねる。
彼がその理由を知っているかは、エメラルディアには重要では無かった。ただ、彼の不安を少しでも和らげたいと思ったが故の行動だ。
見知らぬ場所への不安故か、弱々しく訴える声はエメラルディアの庇護欲をそそり、震える彼の体を思わず抱きしめていた。
抱きしめられた瞬間こそ身を固くしていたが、すぐにエメラルディアの温かさに安心したのか、レグホーンも身をすり寄せて来た。そうする内に他の子達も目を覚まし、エメラルディアの姿に目を瞠るも、レグホーンの安心しきった様子に惹かれて次々と身を寄せて来る。
ぎゅうぎゅうと、幼い子供達が身を寄せ合う姿は傍目にも非常に微笑ましく、気付けばエメラルディアも彼らの温もりから来る睡魔に身を委ねていた。
どれだけそうしていたのか、ザワザワと周囲が騒がしくなり、その気配にエメラルディアの意識が浮かび上がった。
自分達を囲んでいるのは大人達で、中には国王夫妻も混じっている。
エメラルディア達を見つめる目は優しげではあるものの、同時に酷く困惑しており、その反応に思わず腕の中の幼子を強く抱き寄せる。大人達の困惑がさらに強くなった。
腕の中の幼子も、抱き寄せた腕が苦しかったのか目を覚ましてしまった。すぐに周囲の大人達に怯えて泣き始める。
その泣き声にすかさずエメラルディアが幼子を宥め、より固く身を寄せ合う様子供達の様子に、大人達から溜め息が零れた。
幼子達を引き離そうとする王妃に縋り、必死に泣いて懇願する。どうか、彼らを連れて行かないでと。
だが、エメラルディアの願い虚しく、幼くまだ軽い体はいとも簡単に持ち上げられ、彼らから引き離されてしまった。
その夜、エメラルディアはせめてもの抗議とばかりに夕食を拒絶し、翌朝も何も口にしようとはしなかった。幼い子供がそんな事をすればすぐに体調を崩してしまう。エメラルディアも例に漏れず、グッタリと動けなくなってしまった。
そんな状態にも関わらず、何も口にしようとしない頑なな態度に先に音を上げたのは大人達だ。か細い声でレグホーンの名を呼ぶエメラルディアに根負けして、すぐさまレグホーン達とエメラルディアが引き合わされる事となった。
レグホーンの姿を見るなり、飛び付いて喜ぶエメラルディアに国王夫妻は完全に降参した。それ以来、レグホーンはエメラルディアの遊び相手兼婚約者となり、彼の乳兄弟達もエメラルディアの遊び相手として共に行動するようになった。
幼子故の執着心か、自分から離れようとするレグホーン達を引き止め、どこかへ行こうとするものなら自分も付いて行くエメラルディアの行動は大人達の笑みを誘った。レグホーン達もエメラルディアに付いて回り、エメラルディアが離れようものなら必死に泣いて引き止めたものだ。
***
そんな、懐かしい記憶。
幼い頃はフワフワとした花色の髪の毛も、両親に良く似た艶のある白へと変わり、額の赤い宝玉が髪色に映える美青年へと化した。
乳兄弟達もレグホーンと似た髪色へと変わり、それぞれタイプの違った美青年へとなっている。まだ幼さを残している者もいるが、見目良い彼らは生徒達の中でも評判だった。
そんな彼らを独り占めしていたエメラルディアには女生徒たちから文句が出そうなものだが、サイベリアン家はこの学園の平和を守る一助となっているのは周知の為、彼女達がエメラルディアに不満を漏らす事は無い。……無かった。
「レグホーン様ぁ、私、レグホーン様といられて幸せです……!」
「アイラ……学園内では皆平等だよ? だから、僕の事はどうか『レグ』と呼んで?」
「そ……そんな……! そんな不敬な事出来ません……! ……それに、レグホーン様にはエメラルディア様がいらっしゃいますもの……私なんかが気安く呼んだら、きっとまた気分を害されるわ……!」
「王子たる僕が、君にお願いしているんだよ? 誰にも文句を言わせないよ」
「ちょっと、殿下。何を抜け駆けしてるんですか? 自分だけ愛称で呼ばれようとするのはずるいですよ」
「そうだよ! 僕だって、アイラから愛称で呼んで貰いたいんだからー!!」
「ハッ! まだ声変わりもしてないお子様は下がってろ! アイラ、殿下を愛称で呼ぶなら、俺の事もティキって呼べよ……」
「みんな、待って!? 一度に言われても、私……困る……」
遠ざかったと思ったらすぐに戻って来た。エメラルディア達に目を向ける事無く、横を通り過ぎて何処へと去って行く。
誰の目も憚らずに自分達の世界を作る彼らの様子に、女生徒達が眉を潜める。女生徒達の中にはすでに婚約者のいる者もいる為、男達を侍らすアイラの事は不快なモノにしか映らないだろう。
周りの目も気にしない彼らに不満を持った彼女達は、自然とエメラルディアを頼るようになった。
だが、唯一レグホーン達を諌められる筈のエメラルディアは動こうとしない。否、彼女は既に動いた後なのだ。
国王夫妻の目も段々と厳しくなって来ている。それもあってレグホーン達には何度も苦言を呈したのだが、彼らは全く聞き入れようとしない。それどころか、諌める彼女を疎ましく思い、最近では全く近付けようとしない始末だ。
それも段々と悪化してきており、ますます態度が頑なになってきている。
エメラルディア自身も何とか穏便に婚約を破棄して、国王夫妻にはレグホーン達の処遇についての嘆願を……と色々と手を尽くしている。だが、肝心のレグホーン達の協力が無いとどうにもならないのも事実だ。
このままでは彼らは恐らく……。
そうは考えるものの、エメラルディアに出来る事はもう無い。
そもそも、エメラルディアとレグホーンの婚約は国王夫妻によるものだ。現状が続けば、遠からずエメラルディアとレグホーンの婚約は破棄されるだろう。
婚約を破棄したその後、アイラ嬢と結ばれるかと言うと……その可能性は物凄く低い筈だ。
「皆様のご不満は理解しておりますけれど、現時点で私が出来る事は何もありませんの……。ただ、この事はすでに陛下にも伝わっておりますので、皆様はどうぞ、何もなさらぬようお願い致します」
「まぁ……、すでに陛下もご存知ですのね?」「でしたら、私達は何もしない方が良いのでしょうね……」「ですが、エメラルディア様のご心労を考えますと……」
「ご心配頂きありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですわ。ですので、皆様はご自身の事を優先して下さいませ」
「「「「「分かりましたわ」」」」」
そう、既に事態は動いている。もはや止めようも無い。
エメラルディアを溺愛する王妃はレグホーンに厳しい。元々レグホーン達にあまり良い顔をしていなかったが、最近はそれも顕著になっている。つい先日エメラルディアがレグホーンを諌めていた時に、レグホーンがエメラルディアに手を上げるのを見てしまったからだ。エメラルディアを『エメ』と呼び、可愛がる王妃にはレグホーンの態度は許せないものだったのだろう。
エメラルディアが守っていたからこそ、レグホーン達は許されていたのに……。
幸いにしてレグホーンには聡明な姉がいる。彼女もまたエメラルディアとは親しくしている為、レグホーンと婚約を破棄しても両親達がこの学園の守りを止める事は無いだろう。
しばらく誰も近付かないで欲しいと頼み込む。彼女達が三々五々に散って行く様子を見ながら、先程までレグホーン達がいた木陰へと近付く。
既にレグホーン達はその場を立ち去っているが、その場に残る懐かしい香りに頬を緩めながら、気だるげにその場に身を横たえる。
せめて夢の中だけでも、懐かしき面々と笑って過ごせるよう、願いながら……。
すでに活動報告でもネタバレしてますが、エメラルディアは猫。レグホーン以下、女生徒達は全員鶏です。ほぼ100%モフモフ祭り。だけど、癒しはほぼゼロです。
幼少時のレグホーンはヒヨコなので、ふわふわ黄色の毛玉です。菜の花色。エメラルディアやレグホーン達からしたら背の高い植物。
幼女猫はモッファモファです。ヒヨコに埋もれた子猫が、ヒヨコを抱きかかえて眠る姿とか萌えます。悶えます。国王夫妻(じっちゃ&ばっちゃ)も萌え萌えで写真とムービー撮りまくりです。ですが、レグホーン達は雄なので処分対象。それ故の葛藤。
結果『萌え』の大勝利(婚約)。
ちなみに、エメラルディアがお詫びの品に渡したのは『ねずみの死体』です。猫的には大歓喜。鶏は貰ってもドン引き。種族(国)の違い故のすれ違いです。
裏話第2弾、アイラ視点を22時に予約投稿設定です。そちらもよろしくお願い致します。
~キャラ設定~
エメラルディア・マウヤール・サイベリアン
コシール国から来たサイベリアンのご令嬢。血統書付き。
首元モッファモファの萌え対象。美猫。尻尾もフッサフサ。超美猫。
口調はお嬢様。一部の鶏さん達に口調が伝染。周囲への影響力激高。
レグホーン・ブラン・クドゥル
クドゥル国第三王子。
私的立場には『僕』、公的立場では『私』。
一応公私を区別する頭は持っていたが、エメラルディアに守られるのが当然と思い込んで、そもそもの婚約に至った経緯を綺麗さっぱり忘れていたお馬鹿。ついでに、エメラルディアのフルネームを覚えていない鶏頭。
ティキ(愛称)
レグホーンの乳兄弟(重臣の子)。エロス系俺様。
レグホーン同様、エメラルディアのおかげで命が永らえた事を綺麗さっぱり忘れている鳥頭(その2)。
名前の由来は『チキン』から。
その他乳兄弟達
敬語・お子様・俺様・セリフも描写も無い誰か。(お好きな設定を追加して下さい)
鳥頭ーず。
アイラ・ブラウン
ヒロイン()
詳しくはこの後の『とある世界の片隅で~そして羽は散った~』をご覧下さい。22時投稿です。