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9/12

作戦会議

 その日の夜、僕は眠れずに本を読んでいた。

 窓からはペンキをぶっかけたような深い闇が底なしに続くように思え、恐怖すら覚える。

 たまに闇から出てくる虫達はランプの周りをうろうろしたあと、また闇に戻っていった。


 本の内容は、過去の出来事が理由で、他人との間に壁を作ってしまう少年が、あることをきっかけに他人を思いやれるようになるという物だった。


 僕はこの主人公に自分を重ねてしまえた。

 過去の事だが、似たような境遇だったから。


 そうして、また一枚、ページを僕はめくった。


------


 日が昇り始めてまだ間もない頃、

 僕は眠い目を擦りながらも、顔をまた昔のように子供っぽい笑みを浮かべながら、王立統制院の第12支部に向かうのであった。

 今日はなんと、初めての夢の仕事の会議に参加できるのだ。

 更になんかの役で出させてもらえるのだ。

 嬉しくて堪らない。2年ほど待ったかいがあるというものだ。


 多分今の僕は誰が見ても嬉しい表情だと思えるだろう。

 それほど嬉しいのだ。

 普段はしない、住宅の上を走るほど嬉しいのだ。

 師匠の試練を達成するダイニフェイズまでこれたのだ。

 (師匠みててください)

 

------


<王立統制院.王都12支部おとぎ話科> 会議中


「メイジ君、資料をこちらに」

「はい、これが今日のスケジュールと大まかなシナリオです」

 

 髪が長く、しっかり者である女性の応答に僕は即座に答える。

 

「とりあえず、最終確認を行います。

 舞台は夜のお城 ダンスパーティー

 今回のターゲットは10歳前後の少女、

彼女は城のお姫様として参加します。


 大まかなシナリオは素敵な王子様との出会いに憧れるこの国のお姫様が、ダンスパーティーの時に王子と出会い、

 締めは2人で恋に落ちるハッピーエンドで終わらせます。

 

 役は王子、メイド、王子の護衛と悪い王妃、その他はいつも通りにその世界の人達にお願いします

 

 以上です」


 大まかな説明を終え、僕は席に戻る。

 

 この会議は今日行われるこの世界に来た現実世界の人々に夢を見せるためのものだ。


 夢とは向こう側の人の心の一部がこの世界に漂い、見たものを夢と感じるのだ。

 つまりは幽体離脱みたいな、


 そして帰り際に負の感情を落とすことがある。

 それがドリムの元になるのだからとてもめんどくさい。

 

 ならば負の感情が出ないくらいに楽しませればいいのだ。

 これが僕らの行う“一夜の理想作戦”

略してOIS


 向こう側の人は楽しめるし、僕らはドリムの数を減らせて一石二鳥なのだ。



「んじゃ、その役割分担についてだが......」


 今喋っている男性はユーリさんだ。


 顔はもちろんのこと整っていて、スラリとした体格の中に綺麗に収まる筋肉が格好いい。

 その顔から放たれる笑顔は職場の女性陣を瞬殺する最強の武器らしい。

 運動神経抜群、リーダーシップがあり、彼女持ちという憎たらしいほど優秀過ぎる僕の先輩で、この会議のリーダーなのだ。


 そして、さっきの髪の長い女性の名はヒサミ咲蓮先輩だ。

 艶のある黒髪は動く度に光を反射し、光り輝いているようだ。

 男はみんな、彼女の姿を見ればどうしても目がヒサミ先輩の方にいってしまう。

 そんな不思議な魅力を彼女は持っている。

 なおかつ、刀の腕前がプロで、美と強さを兼ね備える優秀な人だ。

 あることを除けばだが......


(ともかく、ヒサミ先輩はやっぱり美人だよな~......って痛い! ラル、足踏むの止めて!)


 ヒサミ先輩の美人っぷりを見ている僕にラルが苛立ちの表情を浮かべて足を踏んでくる。

 なんでかわからんがラルはご機嫌斜めだ。

 僕が話しかけようとするとぷいっと顔を背けてしまう。

 どうしていいかわからず、そのまま放っておく事にした。

 すると、またラルが足を蹴り始めてきた。

 ムスッとした表情を浮かべたまま、僕を睨んでいる。

 (何が正解なんだよ......)

 

 乙女心って難しい。そう実感できた。




 とりあえず、僕とラル、ヒサミ先輩とユーリ先輩の四名が12支部おとぎ話科のメンバーだ。

 

 僕らが任されている世界はお城がある小さな国の世界だ。

 そこにやって来た現実世界の人を精一杯もてなせばいいのだ。

 素晴らしい一夜の夢物語として、

 やっていることはお芝居と何ら変わらないけど、夢は夢として終わらせなければいけない。


 最後に重要な事を話す。

 そう言ってユーリ先輩は喋りだす。


「いいか、負の感情を生み出させないのは大前提だが、もう一つ。

 向こう側から来た人に笑顔でお帰りいただくんだ。

 その人が明日も頑張れるように、

 俺達は人に希望を与える仕事をしているんだ。

 

 だから、例え数ある内の一人でも精一杯もてなすんだ。

 いいな!」


「「「はい!」」」


 ユーリ先輩は本気だ。

 僕も初めてのこの仕事、絶対成功させてやる。


 そう、心に決めたのだった。


------


 会議が終わり、僕とラル、ヒサミ先輩はそのまま会議室で話をしていた。

 ユーリ先輩は彼女さんと食事だそうです。

 羨ましいですね。男性陣みんなで殺しにかかろうかな。

 まあ冗談ですけど、


「ユーリ先輩は予定がぎっしりで僕は真っ白。

 はぁ~泣けてきた」

「むむ、聞き捨てならないセリフが。

 先輩も、その、誰かと付き合いたいんですか」


 彼女はキラキラさせた目をこちらに向けてきた。

 僕はその目を見るなり、ああ、そうだねと気の抜けた返事をした。

 するとラルは嬉しそうにバンザイをし始めた。

 その様子を見て、何がそんなにラルを喜ばすのかわからず、

 僕はヒサミ先輩にアイコンタクトでラルの心境について訪ねたが、ヒサミ先輩はため息をつくだけだった。

 その目は諦めのような目だった。


「どこかにいい人がいればいいんだけどね」


 僕がさり気なく言ったこの一言は後に争いを生み出した。


「先輩、酷いです。近くに先輩を思う素敵な人がいるというのに......」

「あなたという人は鈍いにもほどがあるのでは」


 ラルの顔からは赤みが消え、机をバンッと叩いて騒ぎだした。

 ヒサミ先輩はなんだか苛立っていた。

(あれ、地雷踏んじまったのか、これ)


 何が2人のかんに触ったのかわからないが、良くはない事は確かだ。

 疲れ気味の気分を顔にだしながらただただ耐える事にした。


「だから先輩はモテないんです!! いいですかこういう時はですね......」


 わめき散らすラルにヒサミ先輩もなんか怒っている。

 対する僕はいつも通り冷静で、2人の罵りを受け流している。


 ラル.ヒサミvs僕?な状態だ。

 結局、30分くらいで2人は落ち着いた。


「じゃあ、メイジ君に女性との接し方をレクチャーするために3人で食事でもどうですか」


 誰かさんのお腹が鳴り、それをきっかけにヒサミ先輩が僕らを食事に誘ってくれた。

 ラルはわぁーいと子供っぽくはしゃいでいる。


 対する僕は、


「ごめんなさい、少し用事があるので......すみません、せっかくお誘いしてくださったのに」

「えっ、ああそう、いいのよ、用事があるなら仕方ないわよね、ではまた後で、」


 その場を早々と立ち去った。

 

 特に断る理由もなかった。用事なんて本当はない。 

 でも少し怖くなった。

 理由はわからない。

 普段から僕は人との交流を避けると自覚はしているが、はっきりいって理由がわからなかった。

 その時は何かが崩れる、

 そんな気がしたのだ。


(とにかくどこかで暇を潰さないとなぁ)

 気だるげに僕は図書館へと向かった。


------


「先輩なんでいつも急にいっちゃうかなぁ。

 この前もああだったんですよ」


 不満げにぶつぶつと言うラル。

 その様子を見ながらヒサミも考えていた。

(彼は悲しむ人はほっとかないけど、自分を深く干渉させない。だとすると)


 彼は何かに怯えている。何かまではわからないがおおよそ検討はつく。

 ヒサミは彼がこの科に来るときの面接官だったのだ。

 だから過去の資料も一通りは目を通している。


 ゆえに彼女はあの出来事がきっかけだと理解できた。

 決して他人では解決できないことだとも、


「彼自身が改善するようにしないと、こればっかりはねぇ」

 ヒサミは一回ため息をつくと、ラルを引っ張って食堂へと歩き出した。


 彼は無意識だが、他人を避ける傾向にある。

 でもそれは、彼が直そうとしなければ治らないのだが、

 無意識なのだからたちが悪い。


 (何かきっかけがあれば......)


 世話思いな先輩は今日も後輩のために考えるのであった。

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