第一章 変わらぬ日々
木々はそよ風に吹かれ、さわさわと優しく揺れ、葉の間からこぼれる日差しは眩しい。
カン、カンと間隔の短い金属がぶつかる音がこの森にこだまする。
僕、無道迷焦通称メイジは片手に使い古されたであろう刀を握り、荒くなった息を整えていた。
その年には似合わぬ殺意を込めた目を途切れることなく5mほど離れた所にいる何かに向ける。
体系こそ人に似ているがその体は緑色で上半身裸だ
筋肉質な体に、見上げなければ顔がみえないほど大きい背丈。
顔も醜悪で殺気立っている。オーガだ。
そいつが三体もいるのだ。
オーガの大剣が空気を斬り裂きながら、こちらに迫ってくる。
その剣は鋭く研がれ、死となって迫ってくる。
それを僕は目で捉え、体の姿勢を低くして回避する。
顔スレスレを剣が通り過ぎると、がら空きになったもう一方の腕をめがけて刀を振るった。
刀はオーガの腕と体を繋ぐ肩を正確に断ち切り、すとんと音がして、オーガの腕が地面に転がった。
さすがのオーガもこれには堪えきれず、呻き声を上げながら
崩れ落ちる。
「あと2体」
頬に笑みを作りつつ、僕は攻撃の速度を上げた。
体格や腕力にかなりの差があるものの、僕は140cmという小柄な体系を生かし、オーガの攻撃を回避 そしてちょこまかと動き回っている。
更に鍛え上げた剣術により、身長が倍あろうオーガを圧倒する。
たぶん剣術で勝てないと判断し、肉弾戦に持ち込んでくるつもりだろうか。
オーガの図太い腕がこちらに伸びる。
僕は勢いよくジャンプし、その腕に飛び乗ると、オーガの体を駆けた。
予想外の行動にオーガは戸惑いつつも、僕を体から振り落とそうと体を木々に叩きつける。
必死のオーガの表情が見える。その顔には怯えがあった。
そうだろう。戦っている相手は顔に笑みを浮かべているのだから。それも遊んでいる時のような、純粋無垢で無邪気な子供の笑みを......
その後は圧倒的だった。
オーガが防ぐよりも先に攻撃し、攻撃するも避けるか、受け流しからのカウンターを喰らわせた。
戦いが終わり、オーガ達の死体が粒子となって霧散していく。
それは散りゆく花びらのように美しく、形が残ることなく消えていった。
オーガの体が完全に消え、あとに残った握り拳一個分の夢石を拾い上げ、僕は呟いた。
「夢石が出たって事はこのオーガはドリムに取り憑かれてたのか。どうりで強いわけだ。」
夢石を握り締め、僕は家に帰る。
「師匠-! 今帰ります!」
ここからでは届かないであろう場所にいる人に呼びかける。
これはもう、習慣なのだから仕方ない。
まだ12歳のメイジは今日も尊敬する人の元へと帰るのだ。
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ある森の奥にある小さな一軒家は今日も静かにたたずんでいる。
煙突からは白い煙がもくもくと出て行き、人が住んでいる事が伺える。
周りの木々が風に吹かれて揺らぎ、草木が踊っている。
木々の隙間から差し込む光が家を色づけ、おとぎ話の家のようなどこか落ち着く雰囲気をかもちだす。
「師匠ぉー。ただいま!」
僕は扉をおもっいきり開き、尊敬する人の名前をよんだ。
家の中は本や理解室に有りそうな小道具で散乱し、それをどけながら中を進んだ。
「これメイジ、いつも扉は優しく開けろと言っておるじゃろうが」
少ししわがれた そして聞き慣れた声が部屋の上から聞こえた。
覗くと、ローブに身を包んだ白髪のおじいちゃんがゆっくりと杖を使ってよいしょよいしょと階段の一段一段を踏みしめながらゆっくりと降りてきた。
師匠だ。本名は確かニコライ アレイス。
僕の親代わりで師匠でもある。だから通称師匠だ。
ふぅふぅと息を切らしながら、力なくよたよたとこちらに近づいて来る。
歩くたびにローブの裾が大きく揺れ、近くまで来ると、
師匠は もうだめじゃ と力尽き、勢いよくイスにドカッと
大きな音をたてながら座った。
「師匠。いい加減階段がきついなら一階で住んだら)
「ばかもん、わしはまだまだ元気じゃわい。
そんな事よりも、今日も精霊は使っておらぬな?」
ニヤリと挑発するような表情で肘をつく。
「大丈夫、使わずに勝ったよ。」
僕は自信満々にVサインをした。
師匠と僕は精霊使いというやつで、
精霊使いは精霊がいて初めてその新価が発揮されるのだが、それを使わないということは、全力を出さないのと同じ事だ。
力を抑えて戦う事も修行の一環だそうだ。
(やはりメイジは飲み込みが早いな、1ヶ月前はまだガキだったのにの~)
師匠が何やらにやにやしている。何か企んでいるのか?
「師匠。顔がよこしまになってますよ。」
「いやなに、1ヶ月前のメイジと比べて目を見張る成長だからのぉ。」
僕はティーカップを2つ取り出し、紅茶をいれる準備をする。
「そうでしょ師匠! 僕は強くなったんですよ心身ともに!!」
師匠が誉めてくれたので、つい感情が高ぶってはしゃいでしまった。
こういう所がまだ子供だと自覚はしているのだが、嬉しいものは嬉しい。
「心はいまだに子供じゃの」
師匠はためらいなくその言葉をつかう。
急所を突かれ、ぐらりとよろける体を踏み留め、僕は言い訳のように言った。
「だって僕まだ12ですよ。子供なので問題ありません」
えへっ 笑みを浮かばせ、開き直ってみる。
「全く困った弟子じゃわい」
師匠がそう呟くなり、指をティーカップの方向に向けた。
その仕草は子供が届かない物をとってもらう時のそれだ。
自分は年寄りだから動かない、か。
師匠の仕草が少しかわいかったのでよしとする。
僕はお湯を注ぎ、ティーカップの一つを師匠の手元に、もう一つを自分の手元に置いた。
ティーカップからは紅茶の香る匂いがいい。
さっきまではしゃいでいた僕でさえ、落ち着きを保てる。
夕暮れの光が僕らのいる部屋をオレンジ色に染め、
師匠は思い出にふけっている時のような顔をしている。
僕は今のように、師匠と過ごす日々が好きだ。
僕と師匠の出会いはまだ1ヶ月前からだとしても......
「ほんじゃ、1ヶ月前の話しでもするかの」
師匠とともに変わらぬ日々を過ごしたい。
僕はそう思いながら静かに頷く。
ティーカップに口をつけ、紅茶を口に運んだ。
今日はよく運動したせいか、紅茶がいつも以上に美味しく感じられ、疲れきった体の隅々に染み渡る。
「うん、美味しい」
今日は主人公メイジと師匠との会話を主に書きました。
できるだけほのぼのにしたつもりですがどうだったでしょう。
次回は明日投稿します。優しい感想お待ちしております。