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世界を×××、小悪党ども  作者: つちのえーたつ
9/27

赤い鉄の国(1)

「今日はよく寝た気がする」

 むっくり起き上がり、伸びをする。

「もう10時だぞ。肉の回収は終わった。花に光やっておいたぞ」

「ありがとうございます」

 壁の時計を見る。いつもより4時間も余計に寝ていたら、寝た気になるはずだ。寝させてくれたことに感謝する。

「ドルダーハが一度来た。少し機嫌悪そうだったから、機嫌とるといいぞ」

「そうします」

 窓から太陽光が入り、室内の温度をじわじわあげている。

「船はどこへ?」

 町なら起こされているはずだ。

「赤い鉄の国。シェンカーからの依頼だ」

 昨日は船に着くと速攻で寝たけど、どうやら上手く言い訳したようだ。

「へえ。あの国、空気悪いから好きじゃないんですよね」

 黄色い砂の国、次に緑の森の国を抜ぬけると、赤い鉄の国になる。この異世界も、昔はヒトが機械を用い栄えていたが滅んでコ類ばかりになった。その中で赤い国は機道を解明し、軍事に応用するため躍起になっている。だからいつも『工場』から黒や白の煙が出っぱなしで息苦しく、空は切れ目なく灰の雲に覆われている。

 団長曰く金持ちはとことん金持ちだから、物は捌きやすく商人には良い国らしい。しかしほとんどの住民は空色と同じく薄暗い。

「飯はどうする?」

「食べます。……エプロン縫わないと」

 食堂で軽いものをと冷蔵庫を探す。行儀が悪いけど、トマト丸かじりですまそう。トマトに塩をかけて、シンクの上でガブリ。汁が手を伝って落ちる。甘くて美味い。頑張って値切った甲斐があった。牛乳をぐいっとあおり、部屋に戻る。

 トランクの奥底にしまわれていた型紙を引っ張りだす。すっかり変色し破れていて、汚い紙切れにしか見えない。

「ボロボロだぞ」

 アシャの言いたいこともわかる。しかし、滅多に使わない物なのだ。新調してもすぐトランクの肥やしと化すのがわかっているので、いまいち気が乗らないのである。

 飯になったら呼んでほしいと頼み、倉庫に向かった。

 まとめて布が置いてある場所には、時代遅れの売れなさそうな柄のカーペット、すりきれたサテン生地、エプロンには向きそうもないちりめん。普通の布っ切れはどこにある。使い道のない毛玉を転がさないよう注意し、すっかり埃を吸い込んでしまった生地達をあさる。やっと、適度な厚みのある地味な色合いの焦げ茶を見つけた。生地を買わずに済んで安心する。

 よれた型紙でも、印は案外ちゃんとつけられる。凝ったデザインも機能性もない簡単な作りなので、昼までに裁断が終わりそうだ。

「サンさん、いるー?」

「います」

 マユさんの声。もう昼飯なのか。まだ印つけの途中だ。

 乱雑に積まれた木箱を避けて、姿を見せる。なんだか沈んだ様子だ。まだ疲れがとれていないのか。

「昨日はごめんなさい!」

 勢いよく頭を下げられた。何がだろう。

「ぼく、変な魔法使ってサンドワームを飛ばしちゃったみたいで……。しかも余計なお仕事も増やしちゃって」

 ああ、そういう。

 椅子から立ち上がり、彼の肩に手を置く。

「昨日はありがとうございます。私を助けようとしてくれたんですね。倒れたので心配してました。顔色はまだ優れないようですが、もう動いて大丈夫ですか」

「うん、大丈夫だよ。……あの、ご飯飛んでって機嫌が悪いって聞いて」

 彼は驚いたように見上げる。

 説明が面倒くさかったから早々に寝ただけだ。私は食い意地が張っているから、怒ってふて寝したと思われたのだろう。

「私が怒ることは特にないです。あなたが無事で安心しました」

「え!!?」

 顔を赤くして固まった。何だっていうのだ。ほっぺをふにふにする。まだ固まっている。お礼はちゃんと言った。彼は放って置いて、裁縫の続きをしよう。

 しばらく固まっていたマユさんが元に戻り、向かいの椅子に腰かけた。

「な、何をしているの?」

「新しいエプロン作りです。前のも自前です」

「意外だ……。話変わるけどさ、サンさんってエプロンしてないと印象変わるね。なんだかちょっと小さく感じるよ」

「……! 厚みのあるエプロンをしていますから、気のせいですよ」

 しまった。どうやってごまかそう。今から気合を入れて筋肉を盛り上げても不自然だ。本当の体格や体型がばれるとせっかくの変装も疑われやすくなる。だからいつもだぼだぼの服で着ぶくれしているのに、うっかり気を抜いてしまった。

 セイントという名前の、ヒトの6尺もある大男として過ごすようになってからもう半年。まだいけるまだいけると思っているうちにズルズル居着いてしまった。1ヶ所に半年、しかも姿を変えずに留まるなんて初めてで落ち着かない。大体は3ヶ月もしないうちにいざこざを起こしてか、変装のボロを出さないため自発的に逃げる。

 ところがこの姿、長らく消していた本当の姿とほぼ変わらない。それが驚くほど楽なのだ。幸いなことに、全員が全員それなりの立場(お尋ね者)で、余計気兼ねなく過ごせてしまう。そのくせ全うな商売をしており、ダラダラしても怒られず居心地がいいことこの上なく、出て行く気が起きない。

 マユさんはじーっと私の手元を見ている。何を言おう。金牛の話がベストか。

「早いなー。裁縫の先生みたい」

「ん? 確かに、お針子してました」

「お針子?」

「服や小物などの細々した物を繕う仕事です。廓にいるとき、用心棒と兼ねてやってました」

「用心棒? うわあ、かっこいい!」

「そんなことないですよ」

 目をキラキラさせている。どうやらただの感想をいっただけで細部まで見ていない。よっしよっし。

「用心棒ってどんなことするの? 銃や刀で悪い人をばったばった倒したりする?」

「相手は一応客だから素手で応戦してました」

 気がそれたみたいでよかった。裁縫ついでに、彼の付け耳を作る。終着点にしろ異世界にしろヒトは珍しい。私もそうだが、ヒトが全て機械の知識を持っているわけではない。それでもいろんな期待を持ってヒトは見られる。用心はしておくべきだ。

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