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世界を×××、小悪党ども  作者: つちのえーたつ
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黄色い砂の国の話(3)

 餌を仕掛けた周辺でもうもうと大きな砂埃が舞っている。月に照らされすすけた黄色い砂の隙間から、甲殻類独特の艶をおびた黄土色がうねって見えた。1、2、3、4、5……4匹だ。

 くいくい袖を引っ張られる。

「あのさ、すっごく離れているとは思うんだけどね? それでも大きいってわかることは、とっても分厚いと思うんだ」

「肉厚でうまいとさっきから言っています」

「手に持ってるその斧で斬れるサイズには到底見えないよ」

「私は出来ます」

「数多いよ?」

「群れですから」

「こんなに人いるのに戦うのサンさんだけってマジなの? 誰も手伝わないの?」

「さっき言ったでしょう。倒せはしますが、量が多くて運べないと」

 困ったような呆れたような、情けない顔をされた。実物を目にして怖気づいたか。

「おめーさっきからしつこいな。なんでサンを心配するンだ?」

「大丈夫だぞ。それにいざとなったら、オイラが君をつかんで飛んで逃げてやるぞ」

 アシャはドゥルジの頭からマユさんの頭に飛び移る。予期せぬ衝撃に彼は少しふらついた。

「あんなでかい虫を斧一本で仕留めるとか正気の沙汰に思えないの!」

「正気とか常識が一切ないからサンは強いンだぜ」

 何が面白いのかドゥルジはケラケラ笑う。彼に言われたくないし、それはただの危ない奴だ。

 ふぅーっと息を吐く。準備運動も終わった。煙草を携帯灰皿に入れる。しっかり斧を握る。靴紐の確認もして、と。

「行ってきます」

 いってらっしゃいの声に軽く手を上げて、群れに突っ込んでいく。1匹の個体が危険を察知したか、波打つように砂に潜った。相手から来てくれるのはありがたい。浅く潜っていて砂が盛り上がり、現在地がわかりやすい。あと数間で私、という所で大きく口を開けて頭を出した。私は虫の上に乗って額をわる。バリンと殻が割れた。傷口からこってりしたタールのように黒い血が流れてサンドワームの目を覆う。

 ギィアアア。仲間の助けを求める声に残りが気付き、砂煙を巻き上げながら一斉に向かってくる。それじゃ、お前は用済みだ。殻と殻の間の柔らかい身を斧で軽く撫でる。音もなく頭は胴から離れて落ちた。また切れ味があがって嬉しくなる。

 怒りの奇声を発し左右から襲ってくる2匹のサンドワーム。避けるため真上に高く飛んだら、お互いに頭をぶっつけた。アリさんか。

 揃ってベタッと地面に倒れる。左側に着地して首をはねた。右側を向いた所で黒い影が頭上を覆う。群れ一番のデカ物が耳が痛くなるほどの唸り声をあげた。デカ物の腹がボコンと一回り大きくなり、何かがどんどん上に登っていく。おそらく粘着液だ。飛んで避けたら的になってしまう。右側をはねるのは後にして、真正面のデカ物に狙いを変えた。背後に回って駆け上る。虫の感覚が鈍いのか人間が軽いのか、デカ物は背中に気付かず頭を左右に振って急に消えた的を探している。戸惑っているうちに、このままてっぺんまで登りきろう。

 ギガァアアーー。

 右側が全身のバネを使い、私に向かってきた。単細胞め、また自滅してしまえ。飛び跳ねて避ける。勢いよくぶつかっての同士討ちにはならず、直前で動きを止めた。デカ物に目を移すと首を真後ろに曲げて私を見ている。さっきの声は的の位置を知らせるためのもの。連携プレーなんてしないでほしい。

 デカ物から黄色い粘着液が吐き出される。鼻が曲がりそうだ。腹から出たものに直撃したくない。エプロンを外して盾にする。それでも少しは飛び散って袖につき、エプロンもべったり重くなり最悪だ。これはもう燃やすしかない。ぺいっと投げ捨てる。

 地面に着地すると、デカ物の腹がまた膨らんでいる。連射はできない、また右側が突っ込んでくる。避けるのは止めだ。

 軽く斧をふる。顎から上がすっぱり斬れた。これでもう動けない。

 どろどろ溢れる血を避けてデカ物に乗り、斧で殻を傷付けながら走る。痛みにギーギーわめき、身体を左右にぐらぐら揺らす。砂埃がひどいがこの程度で見えなくもならないし、バランスは崩れない。登りきって首をはねた。

 タバコに火をつける。

 飛行船からもいいが、中途半端な高さから景色を眺めるのもいい。今日の月は銀色で、ウサギは餅をつきたいのに臼がない。ゆっくり景色が下がっていく。

 サンドワームは完全に崩れ落ちた。最後の砂埃が舞う。斧を霧散させ、ぴょんと飛び降りた。

「終わりました!」

 待機組に聞こえるように叫び、大きく手を振る。何人か反応し、手をふり返す。

 何人分の肉になるだろう。1匹だけでも十分な量になる。4匹分なら、特に美味しいと言われている部位だけをみんなで1週間ステーキにしたって消費しきれない。明日は朝からステーキだ。

 小躍りしたい気持ちを抑え解体のため振り向くと、黄色い口が空いていた。

 やっぱり5匹だった。避けるより、口内に入り込んで切った方がいい。ぐっと身を屈める。

「危ない!」

 マユさんの甲高い声がすると同時に砂嵐が起こった。私を襲おうとしたサンドワームが引き込まれ、ばらばらと斬り刻まれる。朝食が消えていった。

 倒したサンドワームも次々に吸い込まれてばらばらばらばら。砂嵐はどんどん近づいてきて、勢いも少しずつ強くなっている。このまま留まっていたら巻き込まれて虫と同じ運命を辿ることは明らかだ。

「みんな下がってください!!」

 後方に全力で走る。前兆なしに起こるのは魔法だ。大規模魔法が使える奴はクヨンしかいないが、彼女は今いない。

 何かが光っている。目を凝らすと、マユさんが地面に手をつき、瞳と同じ黄緑色の光を放っている様子が見えた。見たこともない図形や文字らしきものが彼の周りを飛んでいる。魔法を使えるかわからないと言っていたのに、かなり高位の魔法を使えているってなんなんだ。早く止めてもらわないと困る。地面を見ているから、この状況に気づいていないとでもいうのか。

「マユさん、マユさん! もういいですー!」

 魔力が尽きたか声が届いたか、砂嵐が消えた。マユはコテンと倒れる。心配になり更に速度を上げた。

「サぁーン。あの距離でよく巻き込まれなかったな」

「ここにいるオイラですら吹っ飛びそうになったのに」

「あなたよりは重いですから。それより、マユさんは無事ですか」

「気を失っていますわ」

 マロウトの持つソリにマユは寝かされている。顔色はもともとだからよくわからない。倒れたのが心配だ。

「一体何があったんです。急に光ったように見えましたが」

「マユが叫んで、地面に手をついたら、急にビカーッて光りだしたんだ。オレらがヤメロとか落ち着けとか言っても全然耳に入ってなくてよおー。近づこうにも触れないし」

 詠唱なしでの発動は相当な修練を積まないと出来ないと聞く。記憶がないのに、すごいな。

「なのに、サンがもういいっつったら手を離したんだせ? そんでぶっ倒れて今ってわけよ」

 私を助けようとしてくれたと。あれぐらい大丈夫だというのに。それでも心配してくれたのは嬉しい。お礼を言わないといけない。

 ただ、それにしても。

「お肉ばらばらになっちゃったねえ?」

「どうしよっか?」

 ゼンとアクはくすくす笑い、採取カゴを持ったままくるくる回る。

 砂嵐がどこで止まったか見ていないがおそらく徒歩で回収に行く距離ではない。そもそも、このように夜の砂漠を歩くこと自体危ない行為だ。

「私は帰りたいです。マユさんのこと気になりますし。それに疲れました」

「あまりうろちょろしても危ないから、オイラも帰るぞ」

「オレもー」

「……シェンカーになんて言えばいいんだ。サンドワームを倒したという証拠がない。それに、団長もサンドワームの肉を当てにしている」

 ドルダーハに睨まれる。気にしない、気にしない。私は今、ステーキが消えてしまって傷心なのだ。

「歩きながら考えようぜ」

 どう説明すべきか、話しながらぞろぞろ歩く。今日は撒き餌代も含み、なかなかの赤字である。給料から引かれないように願う。

 マユを見る。やっぱりきれいだ。彼について今日わかったことは、ヒトばかりの異世界から来た記憶喪失のヒトで、魔導が使えるということ。せっかくの美貌が台無しになるほどの百面相。

 まだまだ全然手がかりはなく、これからどうなるかわからない。彼にだけ聞こえるように呟いた。

「早く、記憶が戻るといいですね」


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