カルトなオカルトのアラカルト話(8)
太陽が出ていると村の中がよく見えた。
この石造りの建物はキングーと神と主神ティアマトのための神殿で、従者たちの控室や私とマユさんが出ていた場所は神殿の別館だそうだ。
村の中に神殿より高い建物は無い。外から見えるのは村を囲む壁と農作業を営む者ばかりだった。
外は寒いからと羽毛のマントを渡される。
「あったかーい!」
「軽いですね。これはいい」
「私たちから抜けた羽を集めたものなの。羽の手入れには凄く気を使っているから、そう言ってもらえると嬉しいわ」
なるほど。羽が綺麗だとやはりあったかいのか。船にいるカモメとハゲタカ、あの2人の羽を集めても暖は取れそうにない。マントをよく見ると、少し破れて中身が出ていた。押し込んでも入らなかったのでズボンのポケットに詰める。
「案内するよ!」
4人で村を歩きまわる。村の中だけでまわさないといけないからみんな農家だ。畑を耕し動物の世話をする男、機織りをする女。子供も年寄りも関係なくのんびり働いていた。やはり私が近づくと家畜は怯えてしまう。何も知らない農夫は見慣れないからかなぁと呟いた。
「ここが私の家よ。最近妹が生まれたばかりなの。見ない?」
可愛くて仕方ないのだろう。とても見て欲しそうだ。羽がパタパタ動いている。
「こんな大人数で入って赤ちゃん驚きませんか」
「そっか、寝たばかりならかわいそうだわ。聞いてみる」
「セイント冴えてるぅ」
冴えているのではなく大人だからわかっているだけだ。赤ん坊はうるさい。狭い世界を自分の思い通りにするまで泣き続ける。
彼女はすぐ出てきた。
「大丈夫だって。でも静かに入ってきて」
松葉杖の音が大きくならないよう気をつけて入る。トントン機織りの音がする部屋の隣で赤ん坊がベビーベッドに入れられスヤスヤ寝ていた。まだ羽が揃っていないが、ガイドと同じ緑褐色である。2人が並んで飛んだらさぞ美しかろう。将来が楽しみになる羽色だ。
「うわああ、可愛い!」
「柔らかそうなほっぺです」
「触ってもいいわよ」
「まだぶにるには適さないのでいいです」
「なにそれ?」
「こうです」
マユさんのほっぺを触る。ぶにぶにぶにぶに。
「あはは変な顔!」
「小さい子にするものでは無いわね」
「ええ。2歳前後位がベストです。ほっぺがふっくらほちゃほちゃしていい感じなんです」
「そうなの? ふふ、楽しみだわ」
ガイドはにっこり笑う。明日も変わらぬ今日があると信じきっていて、かわいそうだ。
ほっぺをツンツンされても赤ん坊は気づかない。マユさんはハニーにぶにられて困っている。ガイドの母親の声がした。
「ガイド。お客さんが来たらお茶の1つでも出しなさい」
「あらうっかり。ちょっと待ってて、すぐ入れるわ」
「お気遣いなく」
「いいのいいの。セイント立ちっぱなしだと疲れるでしょ。ここに座りなよ」
「ハニーの家じゃないわよ」
「エヘヘ」
なんて眩しいやりとりだ。私にはただ眩しく感じたけど、マユさんは頷きながらキマシとつぶやく。彼は心が少し汚れているようだ。
お茶を飲んで一息つく。話しているうちに昼の鐘が鳴ってしまった。長居しすぎた。昼食は神殿に戻ってからかな。
「家で食べるといいわ。神殿には」
「あたしかガイドのどっちかの家で食べるって言ったから大丈夫!」
手際のいいことだ。
出されたのはクリームシチュー。マユさんは鶏肉を見つけてとても何かを言いたそうにしていたけどぐっと言葉を飲み込んだ。
「どうしたの? 鶏肉は苦手かしら?」
「そんなことないよ! 大丈夫、美味しいよ」
グッと親指を立てる。何を我慢したのだろう。
食後にミントティーを飲み、また村を散策する。カルト信者全員が住めるだけあり、すべて回る頃には日が暮れていた。ゴミ捨て場のことを聞くタイミングがなく、残念だ。
神殿の前で、今朝勘違いしたガゾンゾが待機している。
「お帰りなさい。セイントさん、巫女様からお話がありますのでこちらに」
何もしていないのに何故呼びだされる。
「私だけですか」
「はい。マユさんは呼ばれておりません」
村の暮らしの素晴らしを説いて囲い込む気だろうか。マユさんと離れても大丈夫かな。
「あの美人さんと2人きりだと緊張するので、マユさんがいてくれるとありがたいのですが」
「ケモナーなの?」
なんでそういう言葉を知っているのだ。
「うーん……。じゃあマユさんも一緒にどうぞ」
変な目で見るなと怒られなくてよかった。マユさんと一緒にキングーの部屋に向かった。
「セイントさんのみと言いましたのに。足は大丈夫ですか?」
「ちゃんと薬塗ってもらえましたから。美人と2人きりなんて緊張するのでついてきてもらったんです。文句を言うなら私に」
「お上手ですこと」
「私は主に事実しかいませんよ。くだらない冗談はよくいますけど」
「それはありがとうございます。マユさんもご一緒におかけください」
一緒にいても問題ないのなら変なことはしてこないだろう。キングーは頬杖をつき柔らかく微笑んだ。
「この村はどうでしたか?」
「外の人間が見たことない人が多いと聞いていたので奇異の目で見られると思ったけど、皆さん明るくあいさつしてくれますし悪くなかったです。マユさんはどうでした?」
「僕? ……みんな楽しんで働いているよね。のどかで素敵な村だと思ったよ」
この前の赤い鉄の国と比較しているのだろう。あそこの労働者たちと違い悲壮感に満ちている者はいなかった。それは信仰のお陰と言うより、食いっぱぐれる心配がないからと見える。
「お二人に気にいっていただけて嬉しいです。きっとこれも神の思し召しです」
「崖から落ちて助かって村にたどり着けましたからね」
「いいえ。あなたたちが神の教えに触れ魂が救われる機会が--真の善人に生まれ変わる機会が得られた事です」
マユさんが何言ってんだこいつ的な表情になったのでほっぺをぶにる。連れてこないほうがよかったかもしれない。
「どうしました?」
「この子のほっぺ触ると気持ちいいので。そういえば経典には信じれば悪から善になるとありました。私とマユさんはまだあなた方の神様を信じていない状況に近いですけれど……悪人ということに」
「ええ。ですから--」
しっかり頷かれた。そしてお決まりのように信じなければ魂は救われず、地獄に堕ちると。ここが茶店でたまたま声をかけてきたねーちゃんならとっとと逃げたのに、カルトの本拠地でしかもリーダーからのお誘いだ。はてさて、なんて言おう。興味がないと言っても昨日は聞かなかったし。
「……天国に行ってもとーちゃんとかーちゃんいないなら地獄がいいです」
「!?」
黙ってうなだれる。ウサ耳がへちょんと垂れた。ぐぅ、と腹も鳴る。マユさんもキングーも呆気にとられていた。
巫女はいい返しが思いつかなかったようで、退室を勧めてきた。経典には先祖のことは何も書いていなかった。死んでいたらお金は絞れないから視野に入れてはいまい。いいことを言った気がする。両親も込みで私の知り合いで天国に行けそうな者はいないから関係ないけど。
「……村を廻ってお疲れなのにすみません。夕食を部屋に持っていかせます」
部屋を出て少し離れてからよろけたふりをして壁に耳をあてる。付け耳は壁から離れているので意味を耳を澄ましているとは思うまい。石造りなので声がよく伝わった。
「マユはともかく、セイントはとりこめなさそうですね。頭ゆるゆると言ってましたけど、素朴というか。まさかああいう考えを持つ者がいるとは……」
「ここに家族が出来れば、流れでいけるのでは? いい身体をしていますし」
何を言い出すのだ。誰かを夜這いに遣わす気か。
「いけません。彼のような者が和を乱すのです。早く神のみもとに旅立ってもらいましょう。元傭兵と言いえど、村人全員を相手などできません。それに恐らく、彼は私達のことを知っているでしょう。常にマユから目を離さないようにしていますし。うまく引き離して……」
夜這いに反対でよかった。しかし、殺る気満々。ならば然るべき処置をとらせてもらおう。
「サンさん、気分悪いの?」
壁にもたれてじっとしているから心配されてしまった。彼は何かと顔に出やすい。まだ伝えるべきでない。すっくと立ち上がった。
「大丈夫です」
「それならいいけど。でもさっきはびっくりしたよ。普通に無宗教ですって言えばいいのに。ケンカする気?」
「それで昨日通じなかったんです」
「マジか。え、あんなこと言ってもよかった? 」
「どうでしょう。仮にあの世があったとしても、人間が入れば天国も地獄に変わります」
マユさんはまじまじと、驚いた顔で私を見上げた。
「なんです」
「ニヒリストだなぁって。……うん、超あり!」
どういう意味だ。背中をばしばし叩かれる。
「褒め言葉だって!」
にっと笑ってサムズアップ。とりあえず、拳を合わせた。
マユは時々、厨二病を患います




