カルトなオカルトのアラカルト話(7)
文章量が長くなったり短くなったりです。
運ばれてきた私の朝食も冷めていたが食べられないほどではない。いただきます、と食事をとる。
「サンさん、今更なんだけど」
「はい」
「ごめんなさい」
「何がですか」
「うっ。……ぼくが鳥につられて崖から落ちて、しかもぼくを庇ってケガしたことかな」
本当に今更だ。しかも昨晩なんか、なんで平気なんだとヒいていたくせに。しかしどうも引っかかる。
「構いません。注意力なら私もフォローできるのでいいですけど、魔導はどうしようもないです。いちいち気を失われてはめんどくさいので魔力の使い方を学んでください。それより聞きたいことがあります」
「……うん。何を聞きたいの?」
落ち込まれた。言い過ぎたかもしれない。
「灰色の小鳥を見たと言いましたね。どのように見えたか教えてくれませんか」
「どのようにって、これぐらいのふわふわ。丸い感じの小さいのが枝に止まってるのが見えたんだ。なんの小鳥だかわからなかったけどすごくかわいかったよ。全部灰色でさ」
身振り手振りで教えてくれる。勝手なイメージであるが昔見せられた小鳥に似ている。灰色のまんまるい、ふわふわした小鳥。カトーって名前だった。
「何か縁起でもないもの見ちゃった?」
「そんなことはまったく無いので安心してください。私には見えなかったのでどういうものか気になっただけです」
あいつが近くにいたら嫌だから念のため聞いただけだ。
「そういえば信心深い人が住んでる集落って言ってたけど、ここの宗教ってどんなの?」
変なことを吹き込まれる前に一般的に広まっているのを教えねば。とてもうろ覚えだが頑張ろう。
「ザオ……ザメン……。おっさんの神様です」
「もういい」
手で制された。
主神の名前すら忘れている人間の話は当てになるまい。少しは勉強しておけばよかった。
「さっきまで読んでいたのにポーズだけ? 自分で読むよ」
ぷっすーと馬鹿にした笑い。そう思うのも無理は無い。
「まともな教育を受けていない私が言うのもおかしな話だと思うかもしれません。ただ、一般的な神の名や教義はこんな内容ではなかったような気がしたんです」
「地域が違うんじゃない。サンさんはどこ出身か知らないけどさ」
どういうことだ。さも当然のように言う。
「地域によって宗教や神が変わるということですか」
「そうだよ。類だっていっぱいあって形すら違う人間がいっぱいなんだから常識が違ったりしない?」
「そうですね」
「それと一緒だよ」
そういうものなのか。太陽の昇る位置が左右逆転する程度には世界を回ったけど。なんにせよカルトと気づいて騒がれるよりはマシだ。しばらくそう思っといてもらおう。
「これが全てと思わなかったらいいです」
「わかってるよ。田舎の土着信仰ってえげつないの多いから」
ドヤ顔を決めて経典を読み進める。
「出だしからこれか……」
ドン引きだ。頼むからその顔を信者の前でしないように。彼は半刻も経たないうちに本を閉じ、暇と伸びをした。
「アメ食べますか」
「うん」
胸ポケットに入れている小瓶を出す。アメは水晶のように白く輝いている。2欠片しか生成されていない。何日滞在するか分からないので全部マユさんに食べさせよう。
「何味がいいですか」
「ハッカにしか見えないよ」
「食べたい味をイメージすると、その味になるんです」
「!! じゃあはなくそ味って念じるとはなくその味!?」
とっさに出てくる味がはなくそってなんだ。食べたいかそれ。
「なります」
「マジか! 百味豆ならぬ百味アメなんて……!」
何やら感動している。どちらも珍しい品だからな。自動アメ生産機は呪いを受けたときに渡された品だ。少量しかなくしかもまずい。どうにも持て余していた。味を付与する機会はたまたま参加した遺跡調査で発掘した。触っていたらアメ生産機と融合したのでそのままいただいた。珍しいから高く売れただろうけど、アメ生産機と離れなかったのだ。かくして、世にも便利な小瓶ができたのだ。
「ちょうど2つありますけどリクエストそれですか」
「違うよ! ちょっと待って今考えるから。何味にしようかなぁ」
「アメとしての食感は変わらないので、変にひねるとと辛くなります」
「そうなんだ。まずは……なめらかでクリーミーな味ってできる?」
それは味と言えるだろうか。抽象的すぎる。
「がんばってみます」
なめらかでクリーミー、なめらかでクリーミーと念じながらアメをマユさんの手のひらに出す。彼は口をモゴモゴ動かしている。うまくいっただろうか。
「こんな味だった気がする」
さすが機道。抽象的な指定にも対応できるとは便利すぎる。生産数に余裕ができたらいろいろ試さなくては。まろやかと指定したらどうなるだろう。
コーヒー、ワイン……美味しそうだ。いや白子ポン酢が来たら困る。慎重に味のイメージをしないと。
「次は何味にしますか」
「口直しになるようなさっぱりしたのがいい」
やっぱり抽象的な指定はやめておこう。
経典に目を通し終えて一気に退屈になった。どうやって時間を潰す考える。読書、散策、筋トレ。どう考えても筋トレしかない。
「少し運動してもいいですか。うるさくはしません」
「こんなとこで? どうやって?」
エプロンを外し逆立ち。左手を背中にあてて右手のみで腕立てを始める。ぽかんと口を開けて彼は私を見る。
「気が散りますか」
「ううん。すごい力だなぁって。足ケガしても筋トレ欠かさないってえらいよ」
「趣味ですから」
「うわぁ」
その反応はなんだ。
「マユさんもしますか」
「まず逆立ちができないよ。あれ、普通の腕立てできたかな?」
マユさんも腕立てを始めた。姿勢は良い。しかし5回もしないうちにやめた。腕が痛いと肩をぐるぐる回している。見た目でわかっていたけど体力がなさすぎる。
「木箱は運べる程度の力が必要なんですが」
「運べるよ! それ位僕だって」
「ゼンとアクより腕力も体力もないです」
「!!」
あの少女たちよりひ弱と言うのは彼の男としてのプライドを刺激したようだ。無言で腕立てを再開した。
「姿勢はいいです。速度はそのまま、反動でなく腕の力だけでするように。余裕があれば開ける腕の幅も変えるといいです」
「は、い……」
黙々と筋トレ。普段とやっていることが変わりなさすぎて笑えてくる。
「ええ? 何してるの?」
ハニーの呆れた声。ノックもなく入るとは失礼な。後ろではガイドがそっと部屋を覗き込んでいる。マユさんは滑らかな動きで腕立てをやめて椅子に戻った。
「筋トレです。することがなく暇なもので」
「暇してると思ってたけどさぁ……。その子起きたんだ」
「えっと、君たちは?」
さりげなく額の汗を拭き、息切れを見せないように気をつけながら話している。気を失っていたから彼はハニーとガイドを知らない。
「あたしはラーテル族のハニー。こっちは」
「ミツオシエ族のガイド。あなたは?」
「僕はえーっと」
マユさんは困ったように私を見上げる。とりあえずうなずく。
「ホ類カモシカ族のマユ。……男だよ!」
また女に間違われたらたまらないと先制。見たところハニーとガイドの方がマユさんより背が高い。農作業をしているためか日に焼けていて少女ながらがっしりしており、かわいそうなことに彼が1番少女じみている。
「うん。朝騒ぎになったから知ってる」
「騒ぎにまで……」
早い。それほど狭いのか平和なのか。ところで2人はどうしてここに来たのだろう。
「ハニー、巫女様からの伝言を言わないと」
「ごめんごめん忘れてた。巫女様から村の案内を頼まれたんだ。セイントは歩けそうならなんだけど」
中を知ったものは生かして返さないなんてことになったら嫌だな。単に囲い込むための下準備であることを願う。




