カルトなオカルトのアラカルト話(4)
「お待ちしておりました。ガゾンゾ、下がりなさい。セイントさん、自己紹介がまだでしたね。私は救世の巫女キングーといいます」
キングーか。どこかで聞いたことがある名前だ。しかも救世を自称するとか嫌な予感しかない。
「私は母なる神ティアマトの声を人々に伝え、幸福をもたらすためこの世に来ました……」
いきなり騙りだして逃げたくなった。いつでも逃げられるよう、座面の裏に睡眠のカードを貼り付ける。長くなったら寝てもらおう。
「……ですが2つの帝国から迫害され、私たちは信者の皆さんとこの地に辿り着いたのです。本来ならば、ティアマトを信仰する……」
思い出した。『救世の巫女キングー』はカルトのリーダーだ。信者を連れて姿をくらましたとあったが、こんなとこにいたのか。
入信退信自由というわりに、退信する者を死ぬまで追い詰める危ない所だとか、少年少女をうんたらかんたらとかカルトの基準をがっつり満たしていると記事には書いていた。どこまで本当かわからない。ただ、ヴィラン帝国だけでなく獅子帝国も国をあげて追っ払ったというし、かなり危ないのだろう。これは早く逃げなきゃダメな案件だ。
「あまねく光はーー」
「キングーさん、説法中悪いのですが」
「……なんでしょう?」
神の教えを語っている所を邪魔してしまった。それでも笑みをたやさない。
「私、頭悪いんです。だから長い言葉や難しい言葉はわかなくって」
「では子ども用の経典を持ってきます」
そうじゃない。単刀直入に言う。
「私は神はいな……無宗教です。友人たちも心配しているだろうし、すぐ出て行くので教えを語られても困ります」
「そうおっしゃらずに、少しでもいいのでまず教えに触れてください。きっと心に残るものがあるはずです」
囲い込む気満々だ。タバコを吸えない場所に長居したくない。まずカルトに関わりたくない。だけどあんまり露骨に言って反感を買っても嫌だし、なんてめんどくさい。
「じゃあまずちょっとずつ慣らすと言うのでいいです」
最悪、マユを抱えて逃げるという結論に至った。足が治れば壁も崖も走れるはずだ。良く見積もって1週間以内。滞在するにはちょっと長い期間だ。それまでに誰か迎えに来て、くれないだろうな。
「だからさっきとったタバコを返してくれませんか」
「どうぞ」
空になった箱を返された。このクソ女と言う言葉が自然と湧き上がった。がしがし頭を書く。
「どこに捨てたんです」
「秘密です」
「ポイ捨てとは品がないですね」
「そんなことするわけないでしょう」
コロコロ笑う。部屋のゴミ箱からはタバコの臭いはしない。肥料にもならないものだから、燃えるゴミか。ゴミの分別しているのかな。ガイドに聞いてみよう。ゴミ捨て場を聞いても、ひかれることはないはずだ。
「そうだ、酒にタバコ、賭けも禁止とか言ってましたね。娯楽ってあるんですか」
「仲間と語り合い教えを心身ともに染み渡らせ」
ないな。
「どうも今の私には難しいようです。その子供用の経典を貸してください。読みはします、読みは」
このキングーという女性は口を開けばなんでもかんでも説法に結びつけペラペラ喋る。信者にとってはすばらしかろうが、不信心者にはわけのわからないことをまくし立てているに過ぎない。彼女とは話すだけ無駄である。私は口下手なのだ。なのに手が塞がっていては歩きにくいでしょうとご親切に部屋まで本を運んでくれる。巫女様のお手を煩わすとはなんてことだ。
「タバコが吸えなくてだいぶイライラしているのですね」
「どうしようもない焦燥感の方が適切です」
「何に焦っていらっしゃるの?」
正直にタバコと言えばまた、説法が始まるのではぐらかした。
「救護室はこっちでしたっけ」
「さっきあなたの部屋の準備が整ったと報告を受けたので、そちらに向かっているんです」
いつ受けたのだ。仕事が早い。
「どうも。マユさんは」
「あなたの部屋の向かいに寝かせています」
「同室ではないんですか」
「未婚の男女が同室で寝泊りするのはいけないことです」
多分勘違いしている。見た目で判断するのは難しいので訂正する気は起きなかった。
案内された部屋はキングーの部屋とは随分異なり、装飾品の類いはなく寒々とした印象だ。小さなタンスには大きな寝間着、花瓶は空っぽ、サイドテーブルの引き出しに経典が2冊。硬貨が出てくることはなかった。
粗末な作りの椅子は安定感に欠けるので、ベットに腰掛け経典に目を通す。
隣人には親切にしろ、ちゃんと働け、神を信じろなど国教の教典とかぶっているところも多い。
だが、独創性あふれる部分では巫女をやたらと持ち上げ、神を信じない者の本質は悪と断言し、信じることで善になれるとある。そんな簡単に性質や本質がコロコロ変わるものか。他にもなかなかぶっとんでいる教えが多く、国を挙げて狩られるのはよくわかった。信者じゃないけど大丈夫だろうか。備えよう。




