カルトなオカルトのアラカルト話(1)
ドルダーハと朝食をとっていると団長達が帰ってきた。死術士らはつやつやでご機嫌なのに、ドゥルジとリタはげっそり疲れきっている。
炊いてから1時間も経っていない炊飯器とまだ冷めきっていない惣菜を見て団長は喜んだ。
「おっ、飯用意してくれたのか。ありがとよ。サン、フィールカ起こしてくれ。早速出航だ。砂の国に戻るぜぇ」
今食事中なのに。お茶漬けにして、さっと漬物とご飯を掻きこむ。
「ふい」
「団長、有休くれ」
「僕もう寝る。……お水だけでいい」
「だらしないな」
はん、とドルダーハは笑う。戦士からすると魔導士はどうしても貧弱に感じる。動きすぎたら食事が辛くなるという感覚が理解できないのだ。
「夜の戦場跡っつー魔が活発な時間帯と場所で、浄霊や破邪の術式組んでたら余計体力使うンだよ! あーっ、女をヤレると思ってたのによお。 疲れてそれどころじゃないぜ!」
「だって僕、治すより壊すのが性に合ってるんだもん」
ドルダーハがゴミを見る目をした。癒しの魔法は他者を思いやる力の強さにより決まるって絶対嘘だと2人を見るたび思う。
フィールカを起こし、黄色い砂の国に戻る。キャラバンやそこそこ栄えた町で商いをしてから無事終着点に戻った。ただ、山のど真ん中で現在地がわからない。全員食堂に集められる。
「クヨンのアンテナは届かず、もう夕暮れ時だぁ。今夜はここで泊まる。どうするかは明日決める。以上!」
戦力的には夜間騒がしくなる魔物にだってひけをとらない。しかし、皆寝たいのだ。急く用事もない。反対はなかった。
ドゥルジからトランプに誘われたが断り、夕食までの軽い運動にと斧の素振りをする。やや肌寒いが風はまだなく、一汗かくにはちょうど良い。山の緑がぽつぽつ夕日に染められるのを見ながら斧を振る。
「運動しながらでもタバコ吸うの?」
甲板へ出てくるなりそれ言うか。
マユは柵から身を乗り出し暮れていく山を見る。夕日はいいな、と小さく呟くのが聞こえた。長い金色の髪が毛先まで夕日と絡んで美しい。キラキラしたまま彼は山から私に目を移す。あきれたまんまだけど。
「休憩するときに吸うのはわかるけど、タバコってそんな常に咥えてるもんじゃないよ」
彼がそう言うのも無理はない。私は結構なヘビースモーカーだからだ。もっとも、それにはちゃんとした理由がある。
「タバコ吸わないと死んじゃうんです」
「それはないわ」
「世の中不思議に満ちてるんです」
「サンさんって見かけによらず変な冗談よく言うよね」
「冗談でなく、ただの事実かもしれません」
「ほらそーゆーの! 他にもさー」
アハハと楽しそうに笑い、他愛もないことを話し続ける。
この間も私は素振りをしているけどマユは柵に持たれたまま。薬代的に風邪をひかれたら大変だ。汗を拭く時間も欲しい。キリのいいところで斧を霧散させた。
「風も強くなってきたし戻りませんか。日も暮れてきました」
「そうだね。前から気になってたんだけど、斧の出し入れってどぅやあっ!?」
軽い人だ。突風にあおられすっ転んだ。(見た目は)年頃の男子なのに食も細いし心配になる。
「大丈夫ですか」
少し屈んで尋ねる。子ども扱いと感じされたのかむくれられた。何故か腕をぺたぺた触られる。あまり近づかれると汗臭いから嫌なのだが。
「僕もこのくらい筋肉があれば……」
大きなため息。その顔で私の筋肉がついたところを想像する。軽く魔物の域に達した。バランスは大事だ。
「たくさん動いてたくさんご飯食べたらつくんじゃないですか」
「うう、ちょっとがんばってみる」
宣言通り、彼は夕食をおかわりをした。
翌朝、パンでなくご飯を食べる彼を見ながら団長の話を聞く。
いつ調べたか良質な乳香の木や薬草を見つけたらしく、今日一日は採取に費やすことになった。薬草摘みなら私もできるので手伝わねばならない。パンと酒と本を持って出ようとしたら、団長にパン以外とられカゴを持たされほっぽり出された。何があるかわからないので私はウサ耳、マユにはこの前作ったカモシカ耳をつけさせている。
「本ぐらい持ってっていいと思いませんか」
「働けと言われてるのに、ピクニック状態で出て行こうとするからだぞ」
「もっとうまく隠せよな。そうすりゃ飲みながら出来たのによー」
「おい、口より手を動かしな。マユ、薬草の見分け方はわかってきたか?」
「ええっと、その、細かな色の違いは難しいかな……」
現在のパーティーは我らKGP、ドルダーハ、マユ。ダメンズの見張り兼マユの採取指導のためにドルダーハがいる。悪気はないのだろうが、彼女は物言いがきついのでマユに怯えられている。それとも、まだ彼は亜型や原型に慣れていないのか。私とばかり話している気がしなくもない。
時々彼は周りの景色を確認するかのように手を止める。
「何か見覚えのある景色でも?」
「ぜーんぜん。ぼくがいた森ってこんな感じ?」
「いえ、もう少し木は密集していて、不思議と過ごしやすい気温でした。魔物の気配が感じられないという点では同じです」
「そっか。……思い出せるかな?」
「さあ。でもこの船は世界も異世界もまわります。手がかりは掴みやすいかもしれません」
言ってから、もう少し気の利いたことを言える人間になりたいとつくづく思った。
採取を始めてはや数時間。カゴいっぱいとまではいかなくともそこそこ集まった。太陽の位置を確認する。夕焼けになる前の強い日差しだ。
「そろそろ帰ろう。山は日が沈むのが早い。寒いとお前たちの動きも鈍るからな……」
ドルダーハの指示にドゥルジはひゃっほうと喜びアシャを定位置に乗せる。
「ドルダーハ、お前も乗るか?」
「断る。とっとと帰るぞ!」
身長差の都合によりドゥルジの腿をペチンと叩くドルダーハ。カメレオンのように突起があったり尾があったりすると小動物を乗せることができるので羨ましい。カツラや肩パットがあると無闇に体に触らせられないからな。
3人の少し後ろをマユと並んで歩く。
「楽しそうでいいですね」
「あれ楽しそう? あ、鳥だ。灰色なんて珍しい」
そんな鳥いるのか。指差すところを見ても擬態しているのかよくわからない。くいくい袖を引っ張られ、鳥が止まっているらしい木に近づく。
「ほらほらあそこ」
「視力には自信があるんですけどわかりま、せっん、んん?」
足場が無くなった。




