表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を×××、小悪党ども  作者: つちのえーたつ
1/27

拾われる

 道ゆく人とは逆方向に、ぷかぷか煙草をふかしながら私は歩いていた。

 バリバリと空を裂く音がして上を見る。


 飛空挺があった。


 魔物の攻撃で崩壊した街を歩く。ここは小さいから比較的復興は容易い。どこの街も村も集落も、復興しては壊れ、復興しては壊れの繰り返し。

 鍛冶屋ではなく、建築家の方が儲かったろうか。しかし建築するには道具が必要だ。鍛冶屋で良かったかもしれない。鉄を叩くのは好きだ。好き勝手に武器を作れたらよかったのに。ああ、ちくしょう。クビとかもう。

 ムカムカしながら歩いていると、目当ての場所を通り過ぎそうになっていた。危ない危ない。

 今日まで働いていた職場は全壊していた。すっきりして、全方位見渡せる。職場だったので、どこに何が置いてあるかは覚えているから問題はない。金は人が戻ってくるとやっかいだ。武器やレアメタルを退職金として貰っておこう。

せっせか瓦礫をどかしているとうめき声が聞こえた。元親方だ。柱と崩れた天井に体が挟まれている。私の姿を見つけると嫌な顔をしたが、すぐ取り繕うように感激した顔で猫なで声を出した。

「おお! 助けに来てくれたのか。今朝クビにしたばっかだってのに、真っ先に駆け付けるなんて。そうだよな、お前はいつも義理堅い奴だ……」

「今朝は二度と近づくな、この街から出て行けクズ野郎と罵ってましたのに」

 しかも殴りかかってきた。避けたらバランスを崩して転び、罵声がひどくなった。

「確かにそう言ったが今はそうも言ってられない。早く、ここからオレを出せ。こんな姿弟子たちに見られたくない」

 ムカつくおっさんだ。謝りもせず、しかも助けられて当然と思っている。散々人を罵っておきながら虫のいい。一泡吹かせてやるか。

 太陽を背に無言で親方の前に立つ。右手に斧を具現化させた。この位置だと逆光で顔は見えない。もともと私は無表情だから、薄気味悪いだろう。

「ここ、金庫置いてる部屋ですか」

 醜いおっさんの怒った顔は、見ても不愉快なだけだ。真っ赤っか。そのまま憤死すればいいのに。

「道具は職人の命と言っときながら、結局は」

「うるっせぇ! てめえこそそうだろが?! とっとと消えろっつたのに、魔物が攻めてきたら戻ってきやがって。火事場泥棒する気だったんだろ? この卑しいク……」

 顔が真っ青になった。念の為周囲を見渡す。誰も何もいない。私以外のモノを見て、顔色を変えたわけではなさそうだ。やっと自分の立場を理解したのか。常に自分は上だと思っているんだな。

「荷物を取りに来たんです。いきなり追い出されたものだから。誰もいないと思ったから戻ってきたんです」

 正確に言えば退職金だけど。ゆっくり両手を上に上げて斧を構える。斧に当たった光が反射して、男の表情が見えなくなったところで振り下ろした。

 一泡吹かせるつもりが、血泡を吹かせてしまった。鼻まで刃がめり込んだ。男は目をむいてピクピク痙攣している。手袋で刃についた血をきゅっと一拭き。適当な大きさの瓦礫を手に取り、刃の代わりとして顔にめり込ませた。よし、芸術芸術。死体を検分する人も私を疑う人もいないが始末はキチンとしなければいけない。人生、何が枷になるかわからないのだから。

 退職金を探しながら、私はゆっくり姿を変えていく。

 頭を撫でると、頭上にある獣耳は消え、顔の横から人の耳が出る。

 髪色は茶から黒。

 目をこすり、ほんの少し瞼と目尻を下げて余計光の入らない愚鈍な目に。

 二度三度強く瞬くと瞳は鳶色から黒になる。

 頬をくるくるさせ、顔を一回り大きく。

 肩を軽く払い、筋肉を盛り上げ。

 前掛けをはためかせ、青から茶に。

 ブーツの紐を緩めると、背が伸びる。

 完成。……極東の役人め、時々現れる「ツミ」の姿に煩わされ続けろ!

「こんなもんですか」

 荷をまとめるのも変身も終わり、離れようとしたら。

「あーっ、火事場ドロボー!!」

 私よりも背丈のあるカメレオンと、そいつに肩車してもらっているヒゲの長いネズミがいた。

 この街で見たことない顔だ。タイミングからして先の飛空挺の団員だろう。見られたか? くそ真面目な奴らなら、騎士団や国に突き出される。2対1。六尺八寸はある派手な体色をしたアウトローなカメレオンと、二尺程度の茶色いふわふわ探検家風ネズミ。ネズミは大きなソフト帽がずれるたびにいちいち直してかわいい。勝てるだろうがまた後始末をするのも面倒なのでまずは判断だ。

「いいえ、退職金をもらってるだけです。あなた達は?」

 しまった。変身したからこの言い訳はいけない。

 カメレオンが煙草に火をつけながら答える。

「この街の様子を見てンだよ。そろそろ活動報告しねえとヤバイからなー」

 どこか他人事のように言う。『そろそろ』ということは適当に活動している団だろう。飛空挺団はランク付けされ、それによって受けられるサービスも異なる。その為、必死で上位を目指す団も多い一方、テキトーなとこで留まる団もいると聞く。

「それはお疲れ様です。住民は南の広場に避難しました。救助活動されるなら、ご案内します」

「遠慮するぜ。こーゆー街だと、来るのが遅ぇって言われるのがオチだからな。魔物追っ払ってやっただけで十分だ」

 カメレオンは丸く突き出た目を細めケラケラ笑っている。こいつには見られていたとしてもごまかせる自信が出てきた。

「退職金ってことは、そこで働いてたんだろ。あの血まみれで挟まれてる奴助けなくていいのか」

 よく見ているチビだ。カメレオンがしょうもないことを言うと、こいつがフォローするんだろう。

「もう死んでます。そもそもやめた職場なんで関係ないです」

「弔おうとかないのか」

「他の方がするでしょう。たぶん、形式上はするでしょう」

 ものすごく嫌われてたけど処理はするはずだ。死体は放っていたら臭い。

「アぁシャああ。お前もバカだな。関係ねー奴に手ェ合わすとか、坊主とかじゃねえ限りしねーよ」

「じゃあしな、ドゥルジ。坊主だろ」

 そのカメレオンどう見てもアウトロー。

「金積まれねーと経が思い出せないンだよ。ま、ここも見た感じ何もないし引き上げるぜ。金目のモンねーな」

 こいつらマジの火事場泥棒か。魔物退治している間、別動隊が金品盗るってタチが悪い。いや、この街なら別に構わない。被害を最小限に抑えたって幻獣が出たことに対する文句や不満をぶつけられる。聞かなかったことにして立ち去ろう。では、と言って背を向けた。


 別れたつもりなのに方向が同じとは気まずい。私が行こうとしてる方向に飛空船があるのだろう。 変に時間を潰すこともしたくないので黙々と歩く。後ろからネズミに声をかけられた。

「なあ、君は鍛冶士か」

「一応」

「じゃあ、鍛冶スキルはある?」

「それなりには」

 スキルがあるというより趣味が高じただけだ。長い旅生活の中、戦闘職以外で唯一私がつけた職である。もっとも、この街の近辺は平和で魔物も少なく傭兵がいらなかった。だから鍛冶工房に入ったが、まさか元親方があんなに嫌な奴だとは。街の人からも煙たがれるとは逆にすごい。

「採取は?」

「出来ます」

「戦闘は?」

「出来ます」

 何を聞くかなチビスケは。鍛冶士は非戦闘職だ。筋骨隆々な見た目だから戦えそうに見えてしまうのか。

「話すならもっと近づけよ。ちょっと待ってくれ。すぐ行くから」

 で、で、で。重い足音を立てて、今度は尻尾にネズミを乗せたカメレオンが隣まで来る。ネズミが私と目線が合うぐらいに尻尾を高く上げた。特に話すことはないのだが。煙草に火をつける。

「おっ、それどこの?」

「極東産です」

「渋いなあ」

「ここらだと高くないか」

「よく言われます。あなた達はどこのを?」

 なんで話広げようとしているんだ私は。

 雑談をしているうちに彼らの船まで来てしまった。隙を見て逃げるつもりだったのに。久しぶりにまともな会話が出来て嬉しすぎた。工房は死んだ目の奴ばかりで仕事するのが精一杯、話す気力を持った奴なんていなかったからだな。

 飛空挺は森の中の、1台入るギリギリのところに止められている。相当の技術が必要だ。素直に感心する。

 カメレオンがでかい声で団長と呼ぶ。うすうす感じていたが、私を勧誘するつもりか。目標とか目的とかあってないようなものだから別にいいとは思う。属していると得が多いとも聞く。もし、最低ライン維持の為に魔物退治するだけのゆるーいゆるーい団なら入ってみるのもいいかもしれない。集団生活は好きじゃないけど。

 ドクロを模った禍々しい仮面を被った男と白いタレ耳フードを被った麗しい美人が梯子を降りてくる。団長と副団長だろう。ドクロ仮面が二人を労う。

「よう、ご苦労。収穫はどうよ?」

「こいつ」

 ピ、と指を差される。どうやら本気で船に乗せる気だ。意思確認していないだろ。

「それ以外は?」

 フードは露骨に嫌そうな顔を向けてくる。一瞬で理解した。こいつは合わない、絶対合わない。しかも男。騙された気がして仕方ない。

「特徴のない小さな村だったぞ。住民は多いけど、ホントそれだけ。それと、いい感じに焼け野原だったぞ」

「魔物のせい、と言いたいとこだが調子乗りすぎたな。ま、死体が増えるのはいいことだ」

 ドクロ仮面は呪術師か何かか。嬉しそうな声で、顔こそ見えないものの笑顔であると容易に想像出来る。彼は死体が増えると喜んだ顔のまま握手を求めてきた。

「俺はここの団長でホ類ヒト族、死術師(ネクロマンサー)のアン。隣は副団長兼船医ホ類ヒト族で弟のリタ。来る者考え、去る者追わず主義だ。よろしく!」

 一瞬も考えるそぶりは見えなかった。というか、フードはかなり上手く擬態しているが彼らの気配はホ類のものではない。それにこの船に乗るとか一回も聞かれていない。もういい、乗ろう。

「よろしくお願いします。私は鍛冶士の……」

 名前どうしよう。いつも適当に呼んでくれとか目についた物の名前を言い、それでも呼ばれることはめったにない。ふと、アンの胸に付いているクリスマスの飾りが目に入った。族はこの見た目なので素直に言おう。

「ホ類ヒト族のセイント、です」

「血の匂い染みつけてるやろうの名前じゃねぇよ」

 即、アンに突っ込まれた。ついさっき殺したからだろうが、それに気付くってことはこいつも。

「ドブ色の目をしてる奴の名前じゃねーな」

 カメレオンにケラケラ笑われる。そんなに私は腐ったヒトではないと思う。昔、見知らぬ男に『君の本質は悪で世界を滅ぼす』とかすごいこと言われたことあるけど。ドブ色はない。

「気にしたか?」

「いいえ」

「よし。アン・リタ団へようこそ、セイント!」

 気前よく迎えてくれるのはありがたい。

 ……自分の名前をそのまま団にするのは珍しくなく、兄弟で運営しているならおかしい名前でもない。しかし「アン・リタ」って、昔のどこかの国の言葉で「外道」って意味だと教えた方が良いだろうか。



 補足

 一尺…約30cm

 一寸…約3cm


 六尺八寸…約200cm

 二尺…約60cm

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ