誰もがメジャー作を書きたがる理由
ある小説サイトの規定。
・性描写禁止
・性的表現禁止
・スパム禁止
「よし! あまり書かれない古典物、書こう! まずは古事記を引用して……」
是の天の御柱を行き廻り逢ひて、みとのまぐはひ為む……
『運営から警告! 性描写は禁止!』
「ええ? だって、現代語じゃなく古文ですよ?」
『まぐはひは訳せば性描写の直接表現だ。禁止!』
「私は恋愛もの書こうっと」
男は女に声をかけると、戯れに……
『警告! 性的表現禁止!』
「この文章のどこがっ?」
『古語では戯れは淫らな行為のことだ。禁止!』
「これ、現代小説です!」
「じゃあ俺はホームコメディを」
その時暗雲が立ち込め、雷が鳴った。俺は「くわばら、くわばら」と古いまじないを唱える。
* * *
そんな時に限ってうちの『雷おやじ』までやってきた。俺は心の中で再び(くわばら、くわばら)と……
『けいこーくっ! スパム禁止!』
「これのどこがスパムなんだ?!」
『同じ言葉をむやみに繰り返す。記号を多用して文字数を水増ししている。これはスパムの手口とみなされるから、禁止!』
「むちゃくちゃだ! そんなに言うなら許される表現をもっと詳細に提示してくれ!」
「そうよっ。わかりにくいわ」
「そうだ、そうだ!」
『わかった。では』
ある小説サイトの新たなる規定。
・主人公は平凡でとりえのない男子とすること。
・主人公は神の手違いでトラックに轢かれ、異世界に転生すること。
・転生先で主人公はチート化すること。主人公が気付いた際には「俺TUEEE!」と心の中で叫ばせるとなおよい。
・住民から勇者と祭り上げられ、国王から魔王退治を命じられること。渡される装備は最低限で、腕の立つ剣士を伴わせること。
・旅の途中で森に入り、魔物に襲われること。そして可愛い魔女を登場させること。
・魔女をパーティに加えること。ただし魔女はツンデレで一度断るが、結局は勇者に従わせること……
以下略。
こうしてWEB小説の世界では、「転生チート勇者もの」が爆発的に流行した。
わかりやすけりゃいいってものでも……