タイムリミット
爆破予告まで三十秒。
凄絶な緊張感に包まれた船内は、未だ犯人グループが僕ら人質を抑えつけていた。
「ねえこの船もうすぐ爆破するんでしょ! いつまで私たちをこうするつもりなの!?」
ひとりの女性が声を荒げて犯人の一人に怒鳴った。
「うるさい! 我々は崇高なる使命のため、自らの命を神に捧げるのだ! 貴様たちにもこの腐った社会を破壊し、新たな世界への礎となってもらう!」
「そ、そんな……」
崩れ落ちる女性。
誰だって他人の都合で自分の命を失いたくはない。僕だってこんなところで死にたくはない。
でも、目の前に置かれた爆弾のカウントは無情にも止まらない。
あと、十八秒。
船内の至る所に設置されたらしい爆弾が一斉に起動したら、万が一にも助かる可能性はないだろう。
せめてもう少し早く助けが来ていたら……。
「おい、警察の突入部隊が来たぞ!」
いまさら過ぎるその声に嘆きつつも、わずかに安堵の表情を浮かべる人質たち。しかし時間はもうない。
「今すぐ爆弾を止めろ! お前たちの地上部隊はすでに制圧してある!」
「何を言うか! この時間さえ守れば我々の勝利だ!」
両者間で飛び交う怒声。その間にも戦闘は繰り広げられていて、次々と無力化されていく犯人たち。
と、そこに。
乱闘で吹っ飛んだのか、リモコンのような物が僕の足下に転がり込んできた。たぶん、制御スイッチなのだろう。そう思うと行動は早かった。
後ろに縛られた手で何とかリモコンを掴み、手探りでボタンを探す……あった、これだ。
時間はとカウントを見ると、あと三秒。
まにあった。
これで僕ら助かる。
僕は安堵を胸に、ボタンを押した。
「ほら、母さん! 僕映ってただろ」
テレビ画面が爆発を免れた船を映すのと同時に、僕は母に詰め寄った。
病院で大声はいけないとわかっていても、声を張り上げずにはいられなかった。
端役とはいえ、はじめてドラマに出演できた。夢へとまた一歩近づけた喜びを、母に教えたかった。
「母さん、ほら、僕夢が叶ったんだ。今まで脇役さえ出来なかったけど、やっとテレビに出れたよ」
ベッドに横たわる母に懸命に呼び掛けるが、返事はない。
「母さん、僕、やっと……夢、叶ったんだ……」
声が萎んでいくのがわかる。
皺の寄った母の顔に、雫がこぼれる。
「やっと……親孝行……出来たのにっ……」
母の笑顔には、僕はまにあわなかった。
小説書き始めたばかりの頃に書いた作品です。多分掌編処女作。昔に書いた作品ですが、圧倒的に描写が少ないという欠陥があります。……恥ずいのぅ。