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異世界権利者と救世主【前編】

 あの買い物騒動からしばしの時が流れた。

 フィスリムは仕事として都市復興に尽力し、ミッドとリーズは互いの組織から都市を支えている。ちなみに俺はというと相変わらず救世主様として皆の相談役ポジションとなっていた。救世主としての世辞も含めてなのだろうが、適切な助言が好評なのだとか。

 そんな日々の中、俺は冒険者ギルド長に呼び出された。

 おそらく仕立屋で依頼した衣服が完成したとかそういう所だろう。

 仕立屋は完成したら冒険者ギルドに納品すると言っていたので多分当っている。

 という予想を伝えると。

「さすが救世主様ですね。その通りです」

「完成したんですか」

 実は結構楽しみにしていた。

 特注という事もあるが、今まではミッドやリーズしか持っていなかった装備を自分が付けられるという状況を想像するだけで胸が高鳴る。

 俺は渡された木製の……店の印が入った小奇麗な箱の中身を確認する。


 防具/星と空と識心のスクールローブ。

 効果/空と星と識心の力を同時に内包している。強力な防護結界を発している。

 エーテルによる高い耐久性、アストラルによる防御力と親和性、マナスによる精神防御膜によって作られたローブ。三つの繊維は互いに共鳴して効果を引き立てている。

 材質/アストラルエーテルマナス。着用者に降り掛かる如何なる災いをも防ぐ。


「あれ? 白くなるんじゃありませんでしたっけ?」

 服の色が濃い紫。どちらかといえば紺色に近い色をしていた。

 エーテルもアストラルも明度の高い色の服になると聞いていたのだが。

 その疑問にギルド長は手品でも披露した、含みのある顔で口を開く。

「実は化け物が落とした盾からマナス繊維が取れまして、救世主様が仕立屋に依頼したと聞いたので提供したのですよ」

「マナス繊維? それよりも盾なんて持っていましたっけ?」

 俺の記憶が正しければオークキングは蛮族の巨剣【EX】以外持っていなかった。

 なんだかんだでブリストールでの暮らしも長くなってきたので、あの戦いも記憶からは風化しつつある。でも、盾なんか持っていた覚えは無い。

「そうでした。救世主様は実際に見て居られませんでしたね。ミッド君と共にあの化け物と遭遇した際、こちらに気付いていなかったのでミッド君と一緒に不意打ちを仕掛けたのです。結果はあまり褒められた物ではありませんでしたが、その際に盾を落としたのですよ」

「なるほど、その時の盾から取れたのがマナス繊維、という事ですか」

 オークキングの奴、あんな重い剣を持って、更に盾まで持っていたのか。

 そういえば装備は元素抽出が出来るんだっけ。

 蛮族の巨剣【EX】みたいのは厳しいそうだが。

 なんでも話では製造組合の鍛冶屋が溶鉱炉に入れたが全く変化しなかったらしい。

 さすが『破壊、磨耗、腐食』無効。溶けすらしないとは。

 思考を戻すが盾に使われるという事は硬い元素なのか?

 聞いてみるか。

「マナス繊維とはどういう物なんですか?」

「主に教会と王族が重宝している材質で、魔力を活性化させる効能があります。特徴は、その綺麗な紫色でしょうか」

「ああ、やっぱりこれはその色なんですか」

 しかし、想像していた服よりも現実の衣服に近付いてしまったな。

 スクールローブで解ると思うが俺が仕立屋に発注したのは、いわゆる学生服だ。

 現実世界的表現をするならセーラー服。

 エーテルとアストラルを混ぜると綺麗な白になると聞いたので、そうした。

 まあ学生服を選んだ理由としては、俺は少なからず高校生活に憧れていたのも強い。

 俺が少し通っていた高校の制服はブレザーだったのだが、服の作りから難しいとかなんとかで、じゃあセーラーにするかというノリの結果、セーラー服の形状を訳あって知っていた俺が仕立屋に説明したら作ってくれたという訳だ。

 冒険者がスカートなんて大丈夫なのか、と、突っ込みはあるかもしれないが、元々セーラー服は海軍の軍服だし、女生徒用の奴も元々は運動服だった事を鑑みるに仕立屋の観点からしても運動し易いとの事。

 それがこのマナス繊維という物質の混入で更に現実のセーラー服に近くなった。

「他にも、状態異常に対する耐性や思考力を向上させると言われています」

「なるほど」

 十分な性能じゃないか。

 エーテルを腕力、体力、アストラルを俊敏、魅力とするならマナスは魔力といった所か。

 その三つ全てが入っていて、装備概要から互いに相殺してないとするなら、優秀な装備という事になる。

 紫色なので多少目立つが、それを言い出したら普段のリーズと似たようなものだ。

 なるほど、リーズが普段使っている仕事着もマナス繊維が使われているのか。

「難点としましてはとても材質的に脆い事ですので、一般的にエーテルと一緒に使われます。救世主様の物もエーテルが使われているはずですので破損の心配は無いかと」

「そうですか、ありがとうございます。貴重な物の様ですが良かったんですか?」

「いえいえ、教会へと献上したのですがリーズ様が是非にと言われまして」

「なるほど、では喜んで頂きますね」

 服を木箱に戻して両手に受け取るとギルド長はまだ用事があるのか、俺を呼び止める。

「後一つ救世主様に頼み事があったのでした」

 少なくとも事前の情報からギルド長が俺にある用事が思いつかない。

 精々先日の買い物騒動位だが、アレは大成功だったと聞く。後から救世主様にもお礼をしなくては、とか機嫌良さそうに翌日の朝言われた。

 ま、まあ滅茶苦茶ぼろ儲けしていたからな。

「後日、都市の主要人が集まる会議があるのですが、各組合の方々が救世主様にも出席してほしいと、宜しければ参加して頂けませんか?」

 会議、か。

 状況的に断る理由も無い。参加するか。

「わかりました。ですが私にできる事なんてそんなに無いと思うんですが」

「あくまでブリストールのこれからを会議する場なので。ブリストールもあんな事があったばかりで救世主様の姿を一目みたい方も多いのです」

「そうですか、なら喜んで参加させていただきます」

「それは助かります。後、冒険者カードが完成したのでお渡ししておきますね」

「ありがとうございます」

 渡された冒険者カードは半透明の板だった。

 板に触れると脳内に認証中の文字が表示され、本人確認完了と出た。

 そしてSF映画にでも出て来そうなホログラム映像が表示される。

 冒険者ギルドで偶に弄っている奴がいるが、ここだけ超文明だよな。

 普段視界に映るステータス表示と違って、携帯端末は感覚が違うな。

 俺は久々に自分の能力を冒険者カード越しに確認してみた。


 種族/人間 性別/女 年齢/十

 出身/人間界 容姿/幼い 社会的地位/×××××、ブリストールの救世主

 称号/××××××、××××××××、救世主(×1) レベル/12

 取得能力/××、×××××、初級状態異常魔法、初級支援魔法、審美眼、十字の神罰、詠唱速度上昇(少)、カリスマ(少)、影響力(中)、××××××××

 身分証明/教会の印、冒険者組合の印


 うわ……フィスリムやリーズに文句言えない程度には××だらけだ。

 特に淫魔を彷彿させる系統に至っては殆ど埋まっている。

 世界の権利者は当然ながらって感じだが、救世主は称号なのか。


 称号/救世主。

 効果/全能力上昇(少)。魅力に対しては上昇(中)。

 (×1)とは同称号の所持数。所持数に応じて同様の効果が得られる。

 概要/人々の絶望と怨嗟の声が高まった時、現れる救世の存在。


 性能はまずまずといった所だ。

 特に俺はサキュバスだから魅力値の上昇は素直に喜ぶ所だろう。

 分類で言えばフィスリムの英雄と同じカテゴリーだ。あっちは魅力値よりも攻撃よりの上昇だったはずだけどな。

 種族に関しては人化の影響か人間と表示されている。

 まあこの項目で淫魔と表示されていたら、全く持って無意味だが。

 レベルは12。やっぱりそんなに上がってないな。

 これが普通の人間。ミッドみたいな勇者だったら20か30は上がったはずだ。

 オークキングはあれでも90レベル帯のボスだしな。

 取得能力に関してはかなり増えている。

 魔法は練習から初級にランクアップしているし、四つも能力が増えている。

 後で確認しておこう。

「どうですかな、冒険者カードは」

「ちょっと感動しますね。色々と自分を知れて」

 身分証明などの欄は自分では見られないからな。

 他にも第三者が俺の能力を覗いた場合、どう映るのかの確認にもなる。

 リーズの話では人物鑑定ではリーズの様な、隠している秘密までは見られないはず。つまり俺が隠している部分まではバレないはずだ。

 中には人化の偽装を見破る能力もあるんだが、結構珍しい能力だからな。

 ちなみに実際のステータスはこんな感じだ。


 種族/淫魔 性別/女 年齢/十

 出身/人間界 容姿/幼い 社会的地位/見習い淫魔、ブリストールの救世主

 称号/世界の権利者、身体を貢がせた女、救世主(×1) レベル/12

 取得能力/人化、淫魔の発現、初級状態異常魔法、初級支援魔法、審美眼、十字の神罰、詠唱速度上昇(少)、カリスマ(少)、影響力(中)、魅力上昇(×1)


 なんか種族や称号が見事に矛盾しているよな。

 魔王が勇者の称号持っている様な感じ。やった事あるけどさ、勇者魔王。

 魔王なのに人間に加担して自分で自分の種族を滅ぼすという、微妙に面白いプレイだ。

 あー、こういうの思い出すとゲームやりたくなってくるな。

 ゲームみたいな異世界だが、ゲームと現実は全く違う。

 似ているルールの現実は、それはもうゲームじゃない。

「えと、では会議の日が決まったら教えてください」

 俺はそう言ってギルド長室を後にした。


 もはや俺の部屋と化している冒険者ギルドの客室に戻り、星と空と識心のスクールローブに着替える。

 どんな風に作られているのかは知っていたが実際には着た事が無いので中々に難しい。

 男の服とはちょっと違うみたいだ。まあこんな事、外では軽々と口にはできないが。

 服の材質は結構良い。というか、かなり良い

 触れた感覚は不思議と例えるのが無難だ。何故ならアストラル繊維の影響なのか、まるで自分の身体の一部みたいに馴染む。

 リーズがアストラル繊維は馴染むという表現を使うが、確かにその表現が一番適切だ。

 そしてどうにか着替え終わると解った事は、服自体に能力上昇効果がある事だ。

 以前オークキングを倒した時程ではないが、似た様な感覚がした。

 これはマナス繊維という奴の効果だろうか。

 聞いた所魔力上昇などが掛かっていると予想できる。間違ってはいないだろう。

 服のサイズは完璧だ。後々の成長の事を考えるとちょっと心配でもあるが、あの仕立屋、リーズの話通り、腕は良いな。目盛りなどを使わずに両手で俺の身体を抱えただけで、ここまで精確に作るのは人間離れしている。

 普段着ている服もスカートだが、セーラー服は胸に来る物があるな。

 残念なのは鏡が無い事か。

 着替え終わった俺は部屋から出て、冒険者カードと睨めっこしながらゆっくり歩く。

 さて、能力の確認と行こう。

 詠唱速度上昇(少)、カリスマ(少)、影響力(中)、魅力上昇(×1)

 追加された能力はこの四つだ。

 詠唱速度上昇は確認するまでも無いが、カリスマ(少)はリーダーシップ的能力といえば解り易いか。結果的にだが、あの事件で指揮をして、救世主となってしまったから多少なりともカリスマが俺にはあるのだろう。


 能力/影響力。

 効果/自身の発言や行動における他者への影響力が上昇する。

 この能力が高い者は他者との行動を有利に進める事ができる。


 知ってはいたが、これも救世主としての役職から付いた能力だろう。

 しかも上昇量が(中)だ。どおりで俺の話を他人が聞く訳だ。

 そして最後に。


 淫魔固有能力/魅力上昇(×)

 効果/魅力値に(×1)毎に倍の計算を加算する。

 尚、追加効果として魅了系状態異常能力の成功率に上昇修正が入る。

 ただし人化している場合、効果は半減する。


 淫魔らしい能力だ。

 ちなみに淫魔固定となってはいるが、取得できる種族は淫魔に限らずいたりする。

 神や教祖、吟遊詩人なんかが覚えた記憶がある。

 どれも魅力値の影響を受ける種族や職業なので当然といえば当然か。

 増えた能力の大半が他者に対する物なのは、淫魔という種族柄しょうがないと言えばしょうがないが、どれも戦闘能力と考えると微妙と言わざるを得ない。

 これが一国の王や神などを選択しているなら話は別なんだけど。

 ゲームの頃も思った事だが、自分の行動によって本当に取得能力が変わる。

 冒険者として生きるならミッドやフィスリムの様な能力構成が理想的だ。

 だが俺は、種族もそうだが行動が戦闘よりでは無かったのが敗因だろうか。

 元々状態異常魔法と支援魔法が得意という関係、前衛として戦う経験が無かったのが最大の理由だろう。今のままでは正しく救世主型のステータスだ。

 いやまあ、ブリストールで墓まで埋まる覚悟ならそれでもいいんだが、せっかくの異世界で、そんな直に自分の居場所を決めてしまうのはもったいないじゃないか。

 これは……人生設計を考え直さないといけないな。

 長所である状態異常を伸ばした戦闘にシフトするか、今まで通り支援魔法に特化するか。

 他にも武器を、それこそミッドに習うとかすれば技能として取得位は可能か。

「フィスリム! そんなんじゃ絶対に当たらないぞ!」

 ん?

 丁度頭に浮かべていた人物がフィスリムを呼んでいる。

 その声が聞こえたのは冒険者ギルドの裏手。組合員用に作られた訓練スペース。

 木製の格子戸からその方角を覗くと、フィスリムとミッドがとんでもない事をしていた。

 周りには数名のギャラリーが出来ているのだが、問題はそこじゃない。

「何やってんのあいつ等!?」

 フィスリムが先日手に入れた蛮族の巨剣【EX】を振り回してミッドに当て様としている。ミッドも空のトゥ・ハンド・ソードを構えているが避けるばかりだ。

 多分、多分だけどさ。

 あの二人が訓練をしているのは場所と状況から簡単に想像できるんだけどさ。

 フィスリムさん、その剣がもしもミッドに当たったら死にますよ。威力的な意味で。

 死ななくても全治何週間だ。まあリーズが治癒魔法掛ければ終わりだろうけど。

 俺は直に下の階へと降りて、冒険者ギルド裏手に急いだ。

「そう、剣じゃなくて、相手を見るんだ!」

 ミッドの声が響き、フィスリムの呼吸音が聞こえてくる。

 あんな重い剣を持っていればそりゃあ疲れるだろうよ。

 辺りには疎らながら数人がその光景を眺めていた。

 ギャラリーは俺が来るなり横に割れる。その行動にも慣れたよ。

「お、ユタカじゃないか。ソレ、新しい服か? 似合ってるぞ」

「ミッド、前! 前!」

 俺に気が付いたミッドが俺の服装を褒める。微妙に嬉しいが、今はそうじゃない。フィスリムがミッドの隙に剣を振ったのだ。卑怯とは言わないが、当たったら大惨事じゃ済まないぞ。

「ハハハ、俺がこれ位の攻撃に当たる訳ないだろう?」

 ま、まあそうだろうけど、心臓に悪いんだよ。

 フィスリムも真剣に取り組んでいるのか蛮族の巨剣【EX】の動きが以前よりもキレがある。まるであれから更に能力を取得したみたいな……。

 まさかとは思うが、これ今日が始めてじゃないんじゃないか?

「ミッド、この訓練始めて何日目?」

「うん? 四日はやってるぜ?」

 フィスリムの攻撃を紙一重で回避しながら答えるミッド。まるで小さい頃に乗ったジェットコースターを三倍に濃縮したみたいな恐怖感がある。

 以前誤解で戦った時、素手のフィスリムの攻撃を避けていたミッドなら可能だとは思うが肌と切っ先をギリギリで避けるのはさすがに怖いよ。

「そんなに心配するなって。ユタカは心配性だな!」

「心配もするわ! というかフィスリムも止めようよ。危ないって!」

「ふぇ?」

 今まで俺の存在に気付いてなかったのか、フィスリムがそんな呆けた言葉を上げる。

 ズドーンッ! という爆音と共に地面にクレーターが完成した。

 よくよく眺めてみるとクレーターになっている場所はそこだけではない。

 其処彼処に凸凹した訓練所になっていた。

「んじゃ、しばらく休憩にしようぜ」

「はい、師匠!」

 師匠?

 まあ何をやっているのかは言われなくてもわかるけどさ……。

 フィスリムとミッドは汗を拭うと俺の方向に歩いてきた。

「ユタカ様! お綺麗ですね!」

 俺をその瞳に入れるなりフィスリムは褒めてきた。

 褒められるのは嬉しいが、この状況では素直に喜べるはずもない。


 種族/フェアリージャイアント 性別/女 年齢/18

 出身/人間界 容姿/若く美しい 社会的地位/ブリストールの英雄

 称号/不敗、力の証明、英雄(×1) レベル/25

 取得能力/変身、物理戦闘力、魔力変換(物理)、自然共鳴、巨剣技能、腕力上昇(少)、体力上昇(中)


 審美眼で普通に確認するもやはり能力が三つも増えている。

 どおりで剣をブンブンと振り回せる訳だ。

 段々とフィスリムが最強の戦士へと歩んでいる。

「まあ訓練なんだろうけどさ。二人は何をやっているの?」

「剣を教えてた」

「剣を教わっていました」

 まさかの同回答。意識的にやっている事の様です。

「いや~フィスリムに頼まれてさ。俺とフィスリムの仲だし、訓練してたんだ」

「はい!」

「ユタカ、フィスリムってば凄いんだぜ。ちょっと教えるだけですぐに覚えていくんだよ」

「そ、そんな……てれてれ」

 俺などお構いなしに二人の弾んだ会話が進んでいく。

 ……そういう物なんだと思って諦めよう。

 良く考えればミッドは結構なレベルの勇者だ。25レベルのフィスリムが師として仰ぐには理想的な人物といえる。

 ミッドの俊敏値は目を見張る物があるのも事実だし、現に傷一つ無い。

 何よりほんの四日でフィスリムがここまで成長しているのも事実だ。

「ごめん、ちょっと上から見た時にとんでもない事している様に見えたものだから」

「確かにあの剣は目立つからな!」

 目立つなんて次元じゃないけどな。上から見た限りだと、どっちかが滅びるまでやりそうで心臓が止まるかと思った。

 まあそれも杞憂だったみたいだけど。

「お、冒険者カード持ってるって事は発行されたのか」

「うん、今さっきだけど」

 俺が手に持っている冒険者カードをミッドが目聡く気付いた。隠している物が多いからできれば見せたくないんだけどな。

 そんな俺の思考とは裏腹にミッドはそれ以上詮索してこない。ミッドの性格からいって『どんな能力なんだ? 見せてくれよ』とか言い出しそうだと思ったんだが。

 そこでさっき渡された冒険者カードの取り扱い説明書みたいのに書いてあった文を思い出す。

 ――相手の能力を無闇に詮索しない事。

 単純に個人情報という事もあるが多種族で構成されるこの世界では、冒険者ギルドは何も人間だけを商売にしている訳ではなく、多くの種族で成り立っている。

 無論、人間程浸透率は良くないが様々な事情で冒険者になる者もいるのだろう。

 偽造冒険者カードの問題も難しいが、その辺の問題も難しいのかもしれない。

「じゃあ俺からは一言だけだ。自分の能力はしっかり把握しといた方がいいぜ。冒険者は『自分に何が出来て、何が出来ないのか』を知るのが一番長生きする秘訣だからな」

「自分に何が出来て、何が出来ないのか……」

 なんだかんだ言って勇者って事か。重要な部分はしっかり見ている。

 まあそうなると俺にできる事は救世主としての生き方と淫魔としての生き方位しか無くなってしまうんだけどな。

 俺もフィスリムみたいに特訓した方がいいのかも。

 例えば支援魔法のランクを上げるとか。

「それでフィスリムはどうして剣術を習っていたの?」

 気になって訊ねる。フィスリム程の戦士なら無理に剣にしなくても良いと思う。まああの巨大な剣を手に入れたのも理由の一つなのだから、他人事でも無いが。

「そ、それは……もじもじ……」

 恥ずかしそうにモジモジ言っている。

 フィスリムの会話パターンにも大分慣れたな。

 そこにまたもやミッドが割り込んできた。今日は妙にアグレッシブだな。

「何照れてるんだよ。ユタカをどんな奴からも守れる奴になりたいんだろ?」

 ……それは……どうも。

 いや、フィスリムなら言いそうなセリフだと思うんだけど何か胸に来た。

 心臓がドクドク鳴っている。

 どう例えていいのか。あんなに汗を流してがんばっている理由が俺だと思うと嬉しい。

「どうして言うんですかー!」

「え? 言っちゃダメなのか?」

 顔を真っ赤に染めてミッドに詰め寄るフィスリムを視界に入れて、俺はその感情がいつもと同じで、俺の身体である女の部分が訴えているだけだと思っていた。

 男の心と女の身体の矛盾。

 その共存が俺の思っている以上に難しい事だと知るのはブリストールの主要人が集まる会議の席の事だった。


   †


 会議の席、場所に選ばれたのは教会の一室だ。

 大凡、三十人位が入れる俺達の世界でいう記者会見とかに使われていそうな場所。

 そこには見知った顔だとミッドやギルド長などが座っている。

 他、覚えている者は疎らだが製造組合のおじいさんもいる。

 そんなブリストールの重役達はリーズに連れられてやってきた俺を眺めて破顔した。

 異常過ぎる光景だが救世主効果だろう。

 特に先日発覚した能力がこれを更に引き立てているに違いない。

「救世主様、此度は忙しい中お越しに来て頂きまことにありがとうございます」

 忙しいって程忙しくも無いけどな。嫌みでは無いだろうけど、自分に働いていない自覚があると微妙な気持ちになる。

 出席者の簡単な自己紹介を終えて俺が座った場所は会場の中心。

 ミッドが冒険者ギルドで固められた右側に対し、リーズが教会で固められた左側だ。

「それでは始めさせていただきます」

 以降始まった物議はまさしく会議と呼ぶに相応しい内容だった。

 魔物との戦いで傷付いた都市の修復や工程、必要な物資、資金工面。ブリストールが魔物に堕ちたという噂で近隣の村や町に柄の悪い人々流れてきたという問題。各組合の納税などなど、一同真剣に会議していた。

「それでは救世主様達の像は完成したのだな?」

 ん?

 特に口に挟む事も無いので話半分に聞いていたのだが、気になる案件があった。

「先日お披露目会を開いた際には好評に終わりました」

「ふむ。もう予定位置には設置してあるのか?」

「はい、予定通り」

 ど、どうやら像などという物が作られているらしい。

 言わなくてもいい補足だが、俺はそんな話一度も聞いていない。

 異世界だから許されるが、俺達の世界だったら肖像権問題に発展したな。

 なんでも俺が大きな十字架を構えている銅像であるらしい。

 ……どう考えてもあの不本意なパワーキャラ扱いはここが出所だ。

 その後救世主様案件はかなりの数あった。

 製造組合が行った力自慢大会――要するにフィスリムが手に入れた蛮族の巨剣【EX】の際に発生した収入の話だ。元々企画は冒険者ギルドだったらしく、かなりガッポリと冒険者ギルドに入金されるそうだ。

 他にも俺が寄った各商会、あの日以降も定期的に自分に合った武器を探していたので何度か行ったのが理由なのだが、売れ筋が伸びているらしい。一部からはブリストールが魔物に占拠された事件から不安の現れによって購入者が続出したのでは、とも話していた。

 中には冗談みたいのもある。

 救世主様焼きなるお菓子が製造されていて、そのお菓子が結構売れているらしい。ちなみに表面に『†』文字が入った唯の焼き菓子だ。何が救世主様なのかはさっぱり解らない。尚、出資先が教会だったりする。ぶっちゃけ唯の十字架焼きです。言うまでも無く、リーズが微妙な表情で報告していた。

 問題はこの後だ。

 冒険者ギルドの代表であるギルド長とその補佐であるミッドの案件だった。

「今回の事件で都市の防衛力が足りない事が判明しました。都市が堕ちたという噂からも近隣の治安悪化が起こっています。自警団の増強や魔物対策の強化を進言します」

 それは俺としては、かなり無難な案件だと思う。

 確かにブリストールは本来であれば比較的に治安が良く、隣国に戦争を行っている国も無いので今までは必要なかったかもしれない。

 だが、あんな事があったのだから多少の武力は必要だ。治安悪化で盗賊や悪い商人などが流れてくる確率はゼロではないだろうし、その対策も欲しいだろう。

 それにブリストールという土地は農作地でもある。立地として金銭を無尽蔵に産む場所なのだから魔物でなくても奪われれば相当な痛手を受ける。今までがおかしかったんだ。

「それならば救世主様がおられるではありませんか」

「はあ!?」

 つい大きく疑問の声を上げてしまった。

 この時俺は相手が何を言っているのかさっぱり解らなかった。

 ブリストールの防衛力。これは一人で作れる様な簡単な話じゃない。

 ミッドやリーズが居て、それに連なる人々全てが団結して初めて作れる力なんだ。

 それをこいつは救世主がいるから大丈夫だと!?

 何より問題なのは、その意見に賛同しそうな奴が予想以上に多い。

 ミッドやリーズは態度から察するとさすがに反対派だが、周りを見ると『救世主様ならばやってくれるだろう』みたいな雰囲気が蔓延している。

「そんな事よりも救世主様の威光をより示す為に――」

 そんな事……だと?

 リーズの方向を見ると悲しそうに首を横に振った。ミッドの方は少しイラついた表情をしている。二人は俺の味方と考えて良いだろう。

 だが、ここにいる奴等は……。

 救世主という存在を信頼し過ぎるあまりに周りが見えていない。

 相手を過大評価している典型だ。

 いや、待てよ? これはここにいるお偉いさんに限った話なのか?

 俺は先日の買い物騒動を思い出した。

 正直に言えば、アレは異常だ。一人の人間への評価としては問題があり過ぎる。

 救世主様という崇拝が一人歩きを始めているに違いない。

 だから、こんなイカレタ発想が出てくる。

 これは直に言って聞かせないとダメだ。

 じゃないと遅かれ早かれブリストールは破綻する。

「待って私の話を……くっ!」

 頭を大きな金槌で叩いた様な感覚。以前同じ物を味わった事がある。

 あれはブリストールに来た日だったか。

 これは……。


 ――依頼発生! 『時は満ちた……』


 ワールドクエストが発生した。

 なんだ? 何故このタイミングで発生した。

 クエスト名から判断できない内容を反射的に確認した。


 種族/淫魔 性別/女 年齢/十

 出身/人間界 容姿/幼い 社会的地位/見習い淫魔、ブリストールの救世主

 称号/世界の権利者、身体を貢がせた女、救世主(×1) レベル/12

 取得能力/人化、淫魔の発現、初級状態異常魔法、初級支援魔法、審美眼、十字の神罰、詠唱速度上昇(少)、カリスマ(少)、影響力(中)、魅力上昇(×1)

 世界依頼発生中/『時は満ちた……』


 世界依頼/時は満ちた……。

 内容/始まりの日より積み重なりし策略の砂は今、満ちた。

 都市ブリストールはもはやあなたの物。あなたを疑う者は誰もいない。

 あなたの邪魔をする者は誰もいない。己が望むままに情欲を満たせばいい。

 達成条件/人々を堕落させる。あるいは都市を自身の物へと作り変える。

 報酬/クラスアップ『見習い淫魔→サキュバス』、レベル20アップ。

 * 最終達成状況によって追加報酬。

 初動報酬/淫魔の衝動。

 適正レベル/なし。


 俺はクエスト画面を眺めて呆れていた。

 話にならん。却下だ、却下!

 何が『時は満ちた……』だ!

 かっこつけておいて内容は完全にダークサイドじゃないか。まるで俺が最初からブリストールを堕落させる為にオークキングを倒したみたいな説明文をやめろよな。

 いや、まあこういうワールドクエストがあるのは知ってはいたが。

 というか、もしもこれがゲームだったら便乗したかもしれない。

 達成条件と報酬が、もはやボーナス並みに多い。

 ぶっちゃけボーナスクエストと言っても良い位だ。

 だが、こと現実となると話は別だ。せっかくオークキングから救ったブリストールを俺が滅ぼしてどうするんだよ。俺がオークキングになっているじゃないか。

 というか妙に暑いな。身体全体が火照っていて変な気分になってくる。

 呼吸まで乱れてきているし、何が……淫魔の衝動?

 初動報酬に見覚えの無い能力が追加されている。これはゲームだった頃の経験も含めてだ。少なくとも俺は淫魔という種族を使っていて、こんな能力見た事が無い。


 淫魔固有能力/淫魔の衝動。

 効果/性交における獲得経験値増加(大)。淫魔の衝動が心を染める。

 取得者は経験が無ければ無い程、あるいは日が遠くなればなる程、淫らな衝動に飲み込まれていく。症状の進行度合いに応じて魅力値を上昇させる。

 効果時間/永遠。この能力は外す事が出来ない。


 嫌な汗が額を流れ落ちる。

 性能は相当良い。淫魔という種族をするならば、これ程必須な能力も無い。

 効果説明文の『経験』という文字は、恐らく想像通りと考えていいだろう。

 となると、今身体全体から心を犯す程の欲求の正体はこれで間違いない。

 どうやら世界は俺にブリストールを堕落させたいらしい。

 俺の選択は、否だ。

 クエストを受けるも受けないも選択者の自由。それがこの世界のルール。

 俺はブリストールを少なからず気に入っている。だからそんな事はしない。

 だけど……この欲求は……。

「はぁ……はぁ……」

 呼吸は乱れ、足腰が座っているだけで苦しい。身体がフィスリム、リーズを……この二人じゃなくてもいい。それこそミッドやそれ以外の知らない男でも良いと言っている。

 首を横に振る。

 俺は男に犯されたりしない。ましてやこんな衝動なんかに負けない。

 もしもここで折れればワールドクエスト通りに行動してしまうだろう。

 それだけは何があっても避けなければならない。

 しかし……能力の効果を見るにやばいかもしれない。

 この効果が『いつから』を指しているのか解らないが、俺はこの世界に来てから一度も……この世界に来る前からその手の経験が無い。あの日の朝、フィスリムの羽を触った日ですらそれらしい事は一度足りとてやっていないからな、自分でも相当だと思う。

 苦しい……誰でもいい……タスケ。

「ユタカちゃん! 大丈夫ですの!?」

 衝動によって暑くなった俺の身体を心配そうに抱えるリーズ。自分が置かれている状況から俺は椅子から滑り落ちて、倒れたのだろう。

「治癒魔法は外傷にしか効果ありませんわ。おそらく慣れない生活での疲れが――」

 何やら誰かと話しているが俺の瞳にはリーズしか映っていない。

 既におかしくなっている頭でも冷静な部分はあるのだろう。リーズの姿がいつもより魅力的に見える。当社比300%アップとか冗談とか無しに言える程度には綺麗だ。

 ああ……リーズが欲しい……それで、それで……。

 リーズでは無い別の誰かに抱きかかえられ、俺は本能的にリーズを掴んだ。

 自分の物にしたいという欲求。以前感じた物とは比べ物にならない即物的なものだ。

 頭がおかしい。まるで俺が俺じゃなくなるみたいだ。

 ともあれ、身体がリーズを求めていると考えていいだろう。

 ここで負ける訳にはいかない。

 俺は自身の欲求を可能な限り我慢して教会にある医務室の様な場所へ運ばれていく。

 医務室に怪我人などは誰もいないのか、リーズと運んでくれた人……どうやらミッドだった様だ。必死の我慢が効いたのだろう。少し楽になった。

「わたくしは医者を呼んできますわ! ミッド、ユタカちゃんを頼みますわよ」

「ああ、早く頼むぜ!」

 コツコツという妙に耳に残る足音と共にリーズの匂いが遠ざかっていく。

 はは、匂いと来たか。淫魔の衝動という奴は相当ヤバイ能力の様だ。

「ユタカ、直に医者が来るからな?」

「ミッド……」

 ミッドは人として当然の事を言っているだけなのに、何故か異常にかっこよく見える。普段なら首を横に振ってTS擬似BL反対! とか宣言しまくる所なのだが、そんな余裕が無い。ミッドが男であるという理由だけで身体が疼く。

 もう誰でもいい。誰かを襲わないとダメな位心が侵食されて来ている。

「ミッド……お願い……」

「なんだ? 何か欲しい物があるのか? 何でも言ってくれ、直に取ってくる」

 心配そうに覗き込んでくるミッド。

 まるで何かに飲み込まれる様に、ミッドの姿が性の対象にしか見えなくなっていく。

 言うな。心ではそう警告しているのに、身体が言う事を聞かない。

 心の方も止めようとしているのに『それでもいいか』と諦めている。

「私を……抱いて……」

「なっ!?」

 言ってしまった。男の俺が最もやってはいけない禁忌。負けてはならない衝動。

 ミッドは驚愕の声を上げた。当然だ。設定上、俺は十歳だぞ。この世界の性教育が何歳位から行われるかは知らないが、ミッドが驚いたのはそういう事じゃないはずだ。

 だが、一度転げ落ちたボールは地獄の底まで堕ちていくしかない。

 淫魔としての俺、女の部分が知っている知識を駆使してミッドへ誘惑を始めた。

 驚愕で時間の止まっているミッドの右手を掴むと自分の胸に当てる。

 そしてもう一つの腕にも触れて――。

「ダメだ!」

 バンッ! と振り払われる手に俺はベッドへと飛ぶ。

 ミッドは場に流されずに理性で耐えて見せた。

『違う違う違う違う。俺は、違う!』

 うわ言の様に言葉にならない言語をブツブツと念じながらミッドは踵を返す。

「ユタカ、俺は濡れた布持ってくる。待ってるんだぞ。俺は幼女趣味じゃないからな?」

 最後の一言の意味が解らなかったがミッドも医務室から飛び出していった。

 医務室には誰もいなくなり、少し冷静になってきた。

 と、同時に自分が今さっきやった行動に後悔だけが募る。

 淫魔の衝動に負けかけている。いや既に負けている。

 もしもミッドが場に流されていたら俺は今頃野郎に犯された挙句、下手をすれば今保っている自我すらも失っていただろう。

 唯一抵抗できている事といえば、まだ魅了魔法を使っていない事か。

 あれを使ったら成功と同時に全てが終わる。

 俺が俺じゃ無くなる。それは心が身体に敗れるという事だ。

 あの日、服屋で俺は女の子である自分と共存する道を選んだつもりだった。

 そして今日までうまくやっていっていた自覚があった。

 だが、考えが甘かった。甘過ぎた。

 俺の身体である女の子は淫魔なんだ。

 女という性の象徴が具現化した化け物――それがサキュバスという生命体だ。

 そんなこの子を簡単に飼いならせると思ったのは完全な失態だ。

「ここから今直ぐ離れないと……」

 このままここに留まれば皆が戻ってくるだろう。下手をすれば倒れたという話を聞きつけたフィスリムまでもが来てしまう。そうなったら終わりだ。俺はその状況に耐えられる自信が無い。まず間違いなく負ける。

 ……逃げよう。

 教会には少しは詳しくなっている。誰にもバレない道を使おう。

 今なら妙に鼻が利く。誰がどこにいて、どっちから来るのか解る。

 逃げるんだ。そして誰もいない場所に。

 俺は重い身体を引き摺る様に無理矢理動かした。


 ブリストールは大都市だ。

 大通りに行けばいつでも人で賑わっているが、逆に裏通り、それも滅多に人が通らない場所に行けば人気は途端に少なくなる。

 今の俺は匂いだけでどこに何があるのか解る位発情している。

 そういう状態異常もあったから、ある種重度の状態異常になっていると言える。

「ここまで来れば大丈夫か……」

 俺は静かな場所、木にもたれかかる様に座る。

 辺りには人はいない。精々小鳥か虫が飛んでいる位だ。

 これも一時凌ぎにしかならないだろう。

 淫魔の衝動の効果は時間が経てば経つ程上がって行く。

 それは要するに俺が耐えれば耐える程、効果が酷くなるという事だ。

 ほんのちょっと機会があっただけでミッドにあんな事を言ってしまう位なんだ。これ以上酷くなったら俺が耐えられるはずもない。

 かと言ってブリストールから逃げ出せば良いという問題でも無い。

 ブリストール以外でもこの欲求は続くのだから、何かしろの解決手段が無ければ、いつか衝動に負けて誰かを襲う。襲われた人が強ければいいが、もしも俺よりも弱ければ死ぬまで犯され続けるだろう。

 ……もしも襲うなら危険を冒すよりもワールドクエストをやった方が……。

 それをしない様にする思考だ。本末転倒も甚だしい。そんな事をする位ならリーズに俺が淫魔である事を話して殺してもらう方が遥かにマシだ。

 だけど、死にたくない。

 やっと自由になれたんだ。

 現実世界では不自由だったが異世界で俺を縛る物は何も無い。ここで正しい事の為に死ぬ位ならサキュバスとして、悪として生きて悪として死ぬのも悪くないんじゃないか。

 それにこの世界は俺の物だぞ。

 世界の権利者。

 100億も払って手に入れた俺の世界。

 確かにこうなる事を予想して手に入れたわけじゃない。

 だが淫魔にしてもこの世界にしても、本来なら正義として生きるも悪としても生きるも自由だったはずなんだ。

 あいつ等が救世主様救世主様と勝手に持ち上げた挙句腐ったのも事実じゃないか……。

「ダメだダメだ!」

 段々と自分以外全てが悪いみたいな考えになってきている。

 100億でゲームを……異世界権利書を買ったのも俺だ。淫魔という少女を選択したのも俺だ。フィスリムを助けたのも俺だ。ブリストールを救ったのも俺だ。救世主様として生活したのも俺だ。全て自己責任だろ。それを他人の所為にするな。

 考えろ。無い知恵を絞れ。お前は2レベルでオークキングを倒した男だろう。

 あの時の事を思い出せ。突破口を作り出せ。

 絶望には早過ぎる。耐えて耐えて、本当に自分を見失ったら壊れればいい。

 それまでは、絶対に最後まで負けない。諦めてたまるか。



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