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異世界権利者の物色【前編】

 明けて翌日。

 その日の朝、宿泊用の客室に泊まっている俺が冒険者ギルドの入り口に行くと、フィスリム、リーズ、ミッドの三人が同時に話し込んでいた。

「ど、どうしたの? 三人そろって珍しいね」

 三人共、俺と比べると忙しい身だ。

 ここ数日は個別に会う事はあっても一同が同時にいる事は一度として無かった。

 俺が声を掛けると三人は振り返って答えた。

「どうしたんですのってお買い物ですわよ。お忘れになったのかしら?」

 当然の様に答えるリーズ。

 昨日の事を言っているんだろうけど、ちょっと早くないかな。

 商業組合も製造組合も昨日今日で情報が行き渡るはずもないだろうに。

 いや、でもこの街なんかおかしいからな。

 リーズとギルド長がミッドを使って『明日、救世主様が視察に来るから準備しておく様に』とか言い出したら明日まで準備して置きます、とか言いそうだよな、ここの住人。

「覚えているけど、なんで三人共一緒にいるの? というか忙しくないの?」

「休みを入れたんだ」

 おいおい、勇者様。

 昨日今日で休みを入れたって、それもはやサボタージュじゃね?

 フィスリムの方はなんか『もじもじ』と口で言っている。

 この子はアレだな、恥ずかしい時の表現を口で言う癖でもあるんだろうか。

 ……そんな所もかわいいと思ってしまう俺も大馬鹿野郎って事か。

 ところでこの集団『類は友を呼ぶ』とか言わないよな?

 つーか、誰が類だ?

 い、いやな思考が過ぎるな。気にしない方向にしておこう。

「ユタカ様、本当にありがとうございます! わたしは一生涯、頭の先からはね、じゃないです、足の爪の先までユタカ様の物です!」

 おい……。

 この子、一瞬自分が混血ですよって公言しかけたぞ。

 そもそも頭の先から爪の先って表現、妖精的には羽の先って言うんだ。

「フィスリム?」

「すみません。あまりの事に冷静さを欠いて一足飛びで話してしまいました」

「え~っと……ううん、大体フィスリムの反応で解ったから」

 良く見てみればフィスリムの首元に付いていた青い紋様がなくなっている。

 おそらくあれが奴隷の証なのだろう。

 それにしてもこの都市、ブリストールってやっぱりおかしいよな。

 フィスリムの奴隷解放について話したのは昨日だぞ。

 それがもう本人の耳に入っているという事は奴隷身分を解放されたって事だ。

 気になってチラっとフィスリムと目を合わせる。


 種族/フェアリージャイアント 性別/女 年齢/18

 出身/人間界 容姿/若く美しい 社会的地位/ブリストールの英雄

 称号/不敗、力の証明、英雄(×1) レベル/25

 取得能力/変身、物理戦闘力、魔力変換(物理)


 案の定、社会的地位の労働奴隷が消えている。

 これで晴れてフィスリムは自由の身という事だ。

 よかった、よかった。

「だけどフィスリム。自由になったんだからそういう事を言っちゃダメだよ。フィスリムはフィスリム自身の物なんだから、冗談でもそういう事は言わない様にね」

「冗談なんかじゃありません。わたしはわたしの意志でユタカ様の物になりたいんです」

 なん……だとっ……!

 あれだ。このセリフ言われると胸がドキドキするな。

 考えても見て欲しい。女の子に『わたしは貴方の物です』とか本人の口で善意の籠もった表情と一緒に言われるんだぞ。

 いや……まあ俺だってゲーム世代だし、色んなゲームやってきたからさ、女の子に好意を持たれる主人公とか沢山見てきたよ。

 だけど実際にリアルでこんな言葉を言われる経験ある訳も無い。

 何よりサキュバスとしての本能が超疼いています。

 今直ぐ抱きしめてあげたい。

 フィスリムの方が大きいから抱きしめられるのは俺だけどさ。

 お、微妙に現実的な発想になった所為か抑えられる程度には自身を保っている。

「あの……迷惑……ですか……?」

 俺が自身の本能と黙って葛藤している様をフィスリムは別の意味に捉えたらしい。

 全く持って見当違いな言葉を吐いた。

 控えめなフィスリムの小動物の様な声に、またもや葛藤が生まれるよりも前に、俺事大聖寺優、サキュバス十歳幼女は本能の赴くままに言葉を吐きやがった。

「そんな事無い! フィスリムがこんなに慕ってくれるなんて嬉しい!」

「ユタカ様!」

「フィスリム!」

 ガバーっと抱き合う。っていうか抱きしめられた。

 フィスリムが加減しているからか痛くもなく、体温を感じられる。

「あの二人仲いいよな~」

「え、ええ……」

 ミッドが何も知らない笑みで答え、リーズが微妙に頬を赤くして顔を伏せた。

 聖女リーズ様、女の子同士の恋愛について知っていますね?

 まあいい。こんな公共の場で抱き合っていたら在らぬ噂が立つかもしれない。

 事実な様な気がしないでもないが俺はフィスリムと離れて話を再開する。

「え~っとなんだっけ? 何するんだっけ? このまま部屋に戻るんだっけ?」

「買い物だろ!」

 ミッドに突っ込まれてしまった。

 どちらかと言えば突っ込みは俺のポジションだと思っていたんだがな。

 人間、直には思考を戻せない典型だな。

 ともかく買い物だよ。そこは忘れてはいない。

「買い物っていうけど、どんな物買えばいいのかな?」

「それはわたくしが教えますわ。こう見えて女の子ですもの、衣服についての知識はあるつもりですわ」

 サラっと流しかけたがリーズは今日、外行き用なのか普段の紫色のシスター服(?)とは違う俺達の世界でいうワンピースを着ている。

 そんなスカートを靡かせて自身のファッションセンスの高さをアピールした。


 防具/星のワンピースドレス。

 効果/星の魔力を帯びた上衣とスカートが一体になった衣類。

 表面に星の結界膜が発生される為、防御力が高い。

 材質/アストラル。着用者の魅力を幻惑的に際立たせている。


「俺は武器に関してはうるさいぜ? この剣を見てくれよ、昔スカンブリアで伝説って言われているドワーフのおっちゃんに作ってもらった一品なんだぜ」

 リーズの「それは(以下略)」というセリフと同時にミッドが俺の言葉に反応してなにやら自身の愛剣を撫でながら自慢をしている。

 ミッドの剣は陽光を浴びて俺に反射した。光が目に入って一瞬顔をしかめたのは秘密だ。


 武器/空のトゥ・ハンド・ソード。

 効果/人の身長をも超える大きな剣。

 限界重量。限界刀身。使いこなす事が可能ならば絶大な威力が約束される。

 空の力を帯びており『破壊、腐食・磨耗』に永続的な耐性を持つ。

 材質/エーテル。白銀色の刀身の表面に神秘的な光沢を帯びている。


「それは凄いね!」

 お世辞という訳ではないが素直に褒める。

 どちらが? と言われると微妙な線だ。

 何を言っているのか大方見当が付くけれど俺には二人が同時に喋っているのでスカートを靡かせたリーズと剣をキラリと俺に反射させたミッドしか映っていない。

 どちらの装備自慢も性能とお値段がしそうだな、というのが率直な感想だ。

「でしょう?」「だろう?」

 ミッドとリーズ、二人の瞳が交差した。

 なんか、リーズとミッドの目に炎が灯った気がする。

「「「…………」」」

 俺達三人はお互いを見合わせると嫌な沈黙が場を支配した。

 これは気不味い。

 ジリ……ジリ……。

 二人は俺を中心に間合いを取り、なにやら牽制しあっている。

 こいつ等……。

 俺も勘違いされるタイミングで言ったのは確かだが、張り合うなよ。

 そもそも張り合うような事でもないだろうに。

「と、取り敢えず武器屋から行こうか、私武器とかまともに触れた事が無いし、ミッドの話聞いて見たいな」

「勝った」

 ミッドがアホな事を抜かした。何に勝ったんだよ。

 勝利宣言と共にリーズが悔しそうな表情をする。

 こいつ等はいったい何の勝負をしているんだ。

「その後はリーズに服を選んでもらうから! 私も女の子だし、ね?」

「勝ちましたわ」

 勝ち負けなんかねぇよ。

 こうして俺は八方美人の苦しみというのを痛い程味わったのだった。

 ちなみにフィスリムは本人曰く荷物持ちらしい。

 あんまり買い物とかした事が無いと密かに教えてくれたが、何て難儀な子なんだろうか。

 そんな感じで牽制し合っている二人とフィスリムを連れて歩いていると今日は珍しく人が話しかけてこない事に気付いたのは五分程経ってからだった。

 普段ならちょっと外に出ると見付かりしだい話し掛けられて、話している内にギャラリーが発生する。そして子供が救世主様救世主様と集まってきて、遊ぼう遊ぼうとせがまれた挙句、結婚してください、などと告白される始末。

 尚、その子達には私はまだ子供だから、と言い張り続けている。

 いや、正確には住人はちゃんといる。普通に通り過ぎる……訳では無いみたいだ。通り過ぎる人々が何か必ず振り返る。そして後ろを振り返ると黙々と着いて来ている。

 行列を作るな。なんのイベントだよ。

「一つ、聞いていいかな?」

「なんだ?」

「今日の事ってどれ位の人が知っている話?」

「皆さん知っていますわ」

「……皆さん?」

「あ、張り紙の話ですね!」

 フィスリムが気になる事を言い出した。この子こういうの詳しいよな。

 嫌な予感が過ぎる。

 よくよく考えればリーズ達が同時に来た時点で解っていた気もするけど。

 張り紙と聞いて直にそれっぽい物を発見した。

 サキュバスであるこの身体は以前よりも視力が良い。

 だから張り紙に何が書かれているのか遠目にも確認できた。


 ――救世主様、お買い物! 当日は無闇に話しかけないでください。

 ――当日は商業組合、製造組合による催し物もあるので確認を怠らずに!

 ――なんと救世主様が選んだお店には豪華商品が送られます!

 ――この機会に救世主様の選んだお店の品々を購入するのはどうでしょう?

                            ――冒険者ギルド発行。


 こ、これはっ……。

 あのおっさんやってくれる。

 さすがはギルド長といった所なのかもしれないが、見事にしてやられた。

 何が『ついでに商売も盛んになるかもしれません。これで影の射した都市が少しは活気付けば良いのですが……』だ! 思いっきり盛り上げる気マンマンじゃねーか。

 この商売根性が冒険者ギルドを世界全土に根強く栄えさせた理由なのかもしれない。

 罠に嵌められた気分だ。

 となるとミッドとリーズのさっきの反応も何か裏があるな。

 ミッドの方は冒険者ギルドの一員だから想像に容易いが、リーズの方はなんだろうか。

 無難な線で教会の歴史とも言える、お布施って所か。

 なんだかんだで、その辺シビアそうだよな、この二人。

「……不正はしないからな」

「な、なんの事かしら?」

「そうだぜ、俺は別にツケでおっちゃんになんか……もごもご」

 口の滑ったミッドの口元をリーズが後ろから押さえる。

 いくらなんでも解り易過ぎるだろ。勇者ミッド、俺はお前の将来が心配だよ。

 お前の強さを利用する輩が出てこないとも限らないんだからさ。

 本当、誰かに裏切られたりしないでくれよ。切実に。

「「ごにょごにょ……」」

 リーズがミッドの耳元で何かを囁くと二人はにっこりと微笑んだ。

 逆に気持ち悪いぞ。

 お互い自分の組織で使い走りにされているんだろうけど、見るに耐えない……。

「仕事なんだろうから邪魔はしないけど、絶対不正はしないからね?」

『おい、バレてるぞ』

『それはミッドが口を滑らせた所為ですわ』

『別にいいだろっ。元々ああいう、ちまちました卑怯なのは嫌いだったんだ。正々堂々おっちゃん達の力で勝ち取れば良いんだよ』

『そ、そうですわね。ユタカちゃんに策を労そうとしたわたくし達が愚かでしたわ』

 何かブツブツ言っているが普通に聞こえているからな。

 残念ながら俺は難聴属性を所持していない。

 というか、この世界の人って基本声がデカイよな。

 フィスリムみたいな控え目な子もいるから例外は沢山いるけど基本的に声が大きい。

 日本人基準で考えているが、海外でもこんな感じだったっけ。

 まあ自分を主張できないとやっていけなさそうな位には世界が殺伐としているしな。

「じゃ、じゃあ行こうか」

 この調子だと一日全て使いそうだし急いだ方がいいだろう。

「そうですわね」

「そうだな」

「はい、ユタカ様」

 三者三様に答えるとフィスリム以外が不自然にニッコリとした表情になった。

 その顔やめろ。

 まあいい、この際だから気にしない。笑顔なのは良い事だしな。

 しかし買い物か。

 さっきのミッドとリーズの装備を覗いて思ったが……。

 超ワクワクするな!

 なんだよ空の剣って、なんだよ星の服って、かっこよすぎね?

 エーテルとかアストラルとか現実に存在しない材質だし、期待で胸がソワソワする。

 いやさ、極度のゲームジャンキーとしては装備なんて良い物そろえるのが当たり前みたいな認識なんだよ。武器屋、防具屋で通過儀礼的に装備を買って無感動に次の戦いへ。

 ジャンル用語で言えばハック&スラッシュってそんなものだし、レア装備でも手に入れるのが当たり前。確率? 何ソレ、手に入れるまでヤルものでしょ? みたいな感じだ。

 例外は一部の本当ほんっと~に貴重な、それこそ0、0000001%位でしか手に入らない装備位でしか『よっしゃー!』とか心を弾ませたりしないんだよ。

 だけど事それが現実になるとどうだろう。

 唯の店売りの剣や槍、斧や鈍器、弓といった具合の装備がしっかりとお店で並んでいると想像するだけで胸が高鳴ってくる。

 現代地球でそんな光景が見られるのは一部の好事家が集めたコレクション部屋位な物だろう。残念なら俺はつい最近まで監禁されていたので、見たくてもそういう物は見られなかったし、地球の金属とファンタジーの不思議物質とでは訳が違う。

 そして売買された武器で戦っている人が実在に存在すると思うと尚の事燃える。

 やば、興奮で体温上がってきた。

「ユタカ様、嬉しそうです」

「なんだかんだで歳相応ですわね。少し安心しましたわ」

「そうだな。俺、ユタカのああいう姿初めて見るかも」

 どうやら内心が顔に出ていた様だ。

 その反応は解らないでも無いが、俺だって人間だもの、歳相応ですよ。

 ん? 歳相応?

 俺が十の幼女に見えるとでもいうのか、こいつ等は。

 ま、まあ外見年齢は、というか設定年齢は十歳だけどさ。精神的に……。

 精神的に……うん、いいや。今は買い物だよ、買い物。

 俺はミッドに連れられて、まだ所々修繕が必要な街並みを眺める。

 一週間前と比べると随分と綺麗になったと思う。

 中世を思わせる白い建物が立ち並ぶブリストールの街並みはお世辞なしに綺麗だ。

 あの白い壁は特殊な鉱石が使われていて最低でも十年は風化しないらしい。

 さすがは異世界だよな。

 ちなみに十年後は劣化するのかと聞いたら『どんな物にも永遠は無い』だそうだ。

 ファンタジーといえども、なんでもかんでも都合良くは行かないみたいだ。実際風化はしなくても魔物からの物理的衝撃では壊れているし。

「ここだぜ!」

 そんなこんなで歩く事数分、武器屋が立ち並ぶ商店街みたいな場所に到着した。

 武器屋は冒険者ギルドに近い。当たり前か。

 都市の整理はしっかりしている。武器屋は武器屋、料理屋は料理屋とまとめられていてお客としては使い易くて良い街だ。

 俺は武器屋を見上げる。とは言っても二階建ての一階スペースが店だが。

 武器屋には武器屋! って感じの巨大な剣の看板がぶら下がっている。

 店名はこれといって見えないが、そういう感性は日本と違うんだろうか。

「お店の名前は?」

「アームザヒルト」

「かっこいいね!」

 名前あるんかい。しかも妙にかっこいい。

 直訳で護指輪か。確か剣の部位に同じ名前があったはず。意味は結構普通だ。

 さっそく店内を覗いて見るとまさしく武器屋といった感じだ。

 おお、何か中古品みたいな剣の束が公園にあるゴミ箱みたいな物体に入れられている。

 武器屋の武器はどれも大事そうに飾られているとか勝手に思っていたから想像以上に生活感があるな。


 武器/中古のロングソード。

 効果/長年の劣化で刃が潰れ、錆びている。整備がされていない。

 平均的長さ。平均的重量。威力は全く期待できない。前時代の技術が使われている。

 材質/粗悪鉄。埃が覆いかぶさっている。


 武器としての質もそんなに高くない様で審美眼通りの効果だ。

 なんか新品の剣を見るよりも、実際にそこに存在したって感じがして情緒がある。

 いや、買わないけど。あくまで鑑賞的な感動が凄いだけ。

「なんで、中古に一直線したんだ?」

 ミッドに怪訝な視線を送られた。

 悪いね。君と違って武器屋なんて生まれて初めて見るんだよ。

 武器屋は男のロマンなんだからさ、もっと夢を見させてくれてもいいじゃない。

 俺は落ち着きなく店内全体を見回しながら、どんな武器があるのか確認していく。


 武器/中古のヘッドアックス。

 効果/重度の使用で破損寸前。長年の使用の形跡が見られる。

 最小長身。最小重量。威力は高いが長期の磨耗で柄が折れる寸前。

 材質/鉄。斧頭が幅広く、反対側に切っ先が存在する。


 中古といっても劣化具合はまちまちなんだな。

 さっきのロングソードは本当に使えなさそうだけど、こっちは一応使えそうだ。

 戦闘中に突然ポキンと逝きそうな危険はありそうだが。

「だから、なんでユタカは中古の奴ばっかり見てるんだよ!」

 そりゃあミッドお兄さん。ここには全人類、RPG好きの集大成が詰まっているんだ。

 新品や美術品なら現代日本でも見ようと思えば見られるが、こんな長年実際に使われた貴重な品々を中々見られるもんじゃないって、写真が欲しい位だよ。

 ま、まあ中古のコーナーばかり見ていてもしょうがないか。

 しっかりと展示さている方も見てみよう。


 武器/ダマスカスソード。

 効果/片手で扱える剣。威力は平均的だが高い磨耗耐性を所持している。

 平均的長さ。平均的重量。

 材質/ダマスカス鋼。表面に水面の様な刃紋が浮かんでいる。


 おお、それっぽい武器だ。

 綺麗な水を持ってきたみたいな刀身がかっこいい。

 まあそんな感じで半ば盛った猫みたいにキョロキョロと眺めまわっている。

 するとカウンター席から店長らしき人がこっちにやってきた。

「あ。あなたは!」

 確かブリストール奪還戦で俺の隊にいた冒険者の人。

 冒険者じゃなくて武器屋の親父だったのか。

「覚えておられでしたか、救世主様。それは光栄ですな」

「覚えてる覚えてる。掃討戦で活躍したと聞きましたけど武器屋さんだったんですね」

「いやはや、昔の癖が働きましてな」

「若い頃は冒険者だったんですか?」

「ハハハ、あまり名は売れませんでしたがな」

 武器屋の親父は自分を卑下しながら笑っている。

 記憶力が一部分しか働かない俺が何故この親父を覚えていたか、理由は一つしかない。

 この親父が使っていた武器が他のメンバーに比べて異彩を放っていたからだ。

 両刃、精々いってサーベル程度の反りが少ない剣が大多数を占める中、大きな反りを持った片刃の剣、湾刀を持っていた。それがとても印象に残っていた。

「そういえば珍しい武器で戦っていましたよね?」

「救世主様は良く物を見ておりますな。あれは店一番の一品でしてな『業と剣の国リェーズヴィエ諸島』の物なんですよ」

 業と剣の国、か。

 なんとなく日本的ポジションかもしれない。

 この世界には『暗殺者』という職業と『忍』が同時に存在する。

 要するに日本っぽい国がある。

 今回はその業と剣の国リェーズヴィエ諸島という場所がソレだろう。

 大抵島国で移動に船を、それも大船クラスの物を手に入れないといけない場所にある。

 特徴は刀、太刀、大太刀の三刀や槍系の鎌槍、薙刀、長巻みたいに『斬る』を重点と置いた武器が購入できる。

 基本的には初期からそこにいないと手に入れるのが難しい。代わりに斬るという面での性能が店売りにしては異常に高いので初期スタート地点としては悪くない立地だ。

「え? でもあそこは鎖国しているんじゃ……」

「そう! オレが乗っていた船が難破しちまった際に命からがら流れ着いてなあ!」

 つい喋ってしまったが、特に問題は無く話が進んでいる。

 武器屋の親父は俺が知っているのが嬉しいのか半生を語り始めた。

 なんでも難破して傷付いた武器屋の親父をその国の鍛冶師が助けてくれたそうだ。

 最終的には本土に戻ってきたが、その時餞別にもらった刀と思い出がきっかけで一時は鍛冶師を目指したらしいのだが、才能が無くて挫折、それならと武器屋になったそうだ。

 武器屋は程々に繁盛しているから結果的に満足しているんだとか。

「これがその時の奴だ」

 武器屋の親父の話はとても参考になるので真剣に聞いていると機嫌を良くしたのか大事にカウンターの後ろ、一番見える場所に飾られた刀を見せてくれた。


 武器/アストラルエーテル刀。

 効果/空と星の力を同時に内包している。絶大な切れ味を誇り、敵対者を滅ぼす。

 純度の高いエーテルと強い魔力で強化されたアストラルによって非常に高い『破壊、磨耗、腐食』に耐性を実現させた。まるで身体の一部の様に馴染む完成度の高い業物。

 限界刀身。限界重量。大きさに比べて不思議と軽く、手に馴染む。

 材質/アストラルエーテル。消えない空の輝きと魅惑の星は刀身に揺らめく。


「す、凄いですね……」

 素直に感嘆する。

 おそらくだがミッドの愛剣よりも性能が高い。

 これを作った鍛冶師という人物は魔法と鍛冶を同時にできる稀有な存在だったのだろう。

「なんだ? この剣」

 噂の人物ミッドが横からしゃしゃり出てきた。

 こっちは刀を見て感動しているんだから邪魔をするな。

「武器にはうるさいんじゃなかったの?」

「ああ、うるさいぜ」

「じゃあこの武器の名前は?」

「か、カタナ」

 ギリギリ及第点って所か。

 武器屋の親父、なんかミッドを眺めてニヤニヤしている。

 きっと武器に詳しい自分に酔っているんじゃなかろうか。

 しかし刀身を眺めると本当に綺麗な波が揺れている。

 俺も日本人だから刀は好きなんだが、ここまでの物はテレビでも見た事がない。

 きっと地球には無い未知の物質があるからだろう。

「違うぜミッド。この刀はな――」

 刀に見とれている内に武器屋の親父が調子に乗ってミッドに正解を言いそうになる。

 俺はその言葉を遮る様に言った。

「大太刀ですよね。それとも野太刀ですか?」

「……正解だ。わっはっはっ! 救世主様は博識でいらっしゃる!」

 驚愕の後、笑顔で武器屋の親父は答えた。

 限界刀身限界重量って事はミッドの剣よりも大きいし重い。

 俺が持つにはちょっと無理かな。

「ユタカはなんでも知っているな! なあなあ、これにしないか?」

「いや~……凄い業物だと思うけど、使うのはちょっとダメでしょう」

「なんでだ?」

「刀って使うのに専用の技術が必要なんだよ。当然私はその技術が無いんだ」

 さっき武器屋の親父が鞘から抜く際に口金を押さえてから抜いていたのを見て『ああ俺じゃあ使いこなせないな』と確信した。

 それに重量もさることながら刀は『潰し切る』の剣と違って『流し斬る』とか聞いた覚えがある。専門の訓練を受けていない俺が使えるはずがない。

 俺が持っても宝の持ち腐れになるだけだ。

 それなら最初から持たない方が身の丈に合っている。

「だけど凄い業物だと思うよ。使いこなせるなら強力な武器なのは確実だと思う」

「救世主様も刀の良さが解るのかい?」

「はい。もしも使う技術があったら譲ってくれる様頼み込んだくらいには凄い一品だと思います」

「さすが救世主様だ。そこ等の奴等とは訳が違うな。刀は使いこなせずにゴミつって売っちまう奴が多いんだ。なら最初から買うんじゃねーってんだ。救世主様の考えを教えてやりたいってもんさ」

 やっぱり自分の尺にあった武器を選ぶのが一番だよね。

 それにしてもアストラルとエーテルか。

 ゲームでもその名前は聞いた事があるけれど、基本的には性能で選んでいたので具体的な材質としての意味は知らない。

 説明文を見る限りエーテルは耐久性に補正を掛ける物質で、アストラルは防御力かな? でも服以外に刀にも付いていたから違うか。気になるな。

 聞いてみるか。

「そういえばエーテルとアストラルってどういう物質なの?」

「エーテルは第五の元素『空』の輝きを具現化した物ですわ」

 その言葉に振り返るとリーズが立っていた。

 武器屋には興味が無いのか外で待っていたのだが遅いので見に来たのだろう。

「なるほど、空と書いてエーテルなんだ」

 という事はその要領で行くと星でアストラルか。

「そうですわ。空と同じでいつまでもそこにあり続ける姿、強い耐久性がある事から永遠の輝きという意味を込めてそう呼ばれているんですの」

 ふむふむ。要するに壊れない武器の材料って訳か。

 武器に選ぶならエーテル製のがいいかもな。俺は武器の手入れとかできないし。

「アストラルは星の魔力を受けた材質で、宿った物体はとても身体に馴染むんですわ。女の子が着る衣服なら間違いなく付けるべきですわね」

「そうなの?」

「ええ、だからユタカちゃんの買う衣服もアストラル繊維が使われた物を買うと良いですわ」

「わかった。ついでに聞くけど、お値段の程は?」

「お高いですわ」

 キラっと輝く爽やかな笑みでした。

 ま、まあそうだろうよ。

 この性能で誰でも買えるんだったら中古の装備が生まれた時点でゴミだしな。

 つまりエーテル、アストラル繊維の奴は買っていいって事か。

 意外にも良い買い物ができそうじゃないか。

 序盤の装備としてはハッキリ言って破格だ。この街から旅立った後、確実に役立つ。

 それにしてもロマンを抜きにすると武器を何にするのか全然決まらない。

 元々俺がサキュバスという、どちらかと言えば特殊な種族なのも原因だ。

 淫魔の得意能力といえば前述の通り魅了系の状態異常に集約する。

 スライムとの戦闘でも解る通り、やり方しだいではダンジョン何かに潜って魔物を倒さなくても、人間や別種族を魅了して手篭めにした挙句ヤル事ヤレばレベルが上がる。

 むしろ種族値補正の関係で、そっちの方がレベルは早く上がるだろう。

 それが淫魔って種族だしな。

 かと言って『じゃあ男漁りしようぜ!』とはいかないだろう。

 何が悲しくて異世界踏んだりまで来て、野郎に犯されなくちゃいけないんだ。

 選んだ俺が悪いんだし、そこは別に不満は無いが、こうなってくると当然戦う術、最低でも身を守る武器位は欲しくなる。

「う~ん……」

 店内にある比較的高価そうな数々を眺めるも、どれも自分にしっくりしそうな物は無い

 そもそも地球で何年もヌクヌクとニートやっていた俺に合う武器があるとも思えんが。

 あれだよ。こんな感じのないかな。

 武器を振った、相手は死ぬ。エター○ルフォースブリザード!

 むしろ俺が自分のつまらないギャグで凍え死にそうだ……。

「ミッド、聞きたい事が……」

 参考に自称武器にうるさいミッドに聞いてみようと振り返る。

 すると何か真剣にアストラルエーテル刀を注目しながら武器屋の親父と話し込んでいる。

 大太刀とはなんなのか、剣と刀はどう違うのか。

 刀を使えた方がいいのか等、純粋に訊ねる姿は勇者の顔とでも表現しよう。

 普段の気さくなミッドとは打って変わって真剣な表情が素直にかっこいい。

 ……ありだな。

 いやいやいやいや、ねーよ! 今何を考えた!?

 おいおい、サキュバスさん。程々にしてください。

 フィスリムやリーズならまだしも、ミッドまで淫魔衝動に加えないでくださいよ。

 俺はミッドとそんな関係になったら舌噛んで死ぬぞ。

 BL反対! 俺はノーマル……じゃないけど心は男なんだよ。

 あー……これからまともにミッドの顔を見られないじゃないか。

「どうしたんですの?」

「……なんでもない。服屋行こうか」

「武器はいいんですの? 先程まで真剣に眺めていた様でしたけど」

「うん……今はリーズと一緒にいたい気分なんだ」

「まあまあ、ユタカちゃんったら!」

 男としての沽券の為に。

 俺はTS擬似BLモノの主人公にはならないぞ。

 そう誓いながらリーズに連れられて武器屋を後にした。

 補足だが、ミッドはあまりにも真剣過ぎて俺達が出て行く事に気が付かなかった。


「ここが服屋ですわ!」

 続いて俺がリーズに連れられてやってきたのは服屋だ。

 服屋は武器屋と同じく衣類店! て感じの服のマークの看板があった。

 比較的女の子向けなのか、外装含め武器屋と比べると汗臭い雰囲気は無い。

 むしろ店内には花が飾ってあって良い匂いまでする。

 尚、先程発覚した俺の心に深く突き刺さった問題に関してはフィスリムで解消した。

 トボトボと歩いていた俺をフィスリムが心配そうに『どうしたんですか? 何かあったんですか? 大丈夫ですか?』と質問して来たので何も言わずに手を繋いで歩いた。

 以前俺がフィスリムにやった事だが、他人の体温は心を落ち着かせるという話は本当だったらしい。どうにか、あの悪夢の様な事実を忘れる事ができた。

 丁度吹っ切れた直後にリーズが到着宣言をしたので比較的にテンションは高い。

 無理はしていないぞ?

 さて衣類だ。せっかくかわいいサキュバスなんだから良い服着ようじゃないか。

「服とか選んだ事があまり無いんだけど、どういうのがいいのかな?」

「まあそれは勿体無いですわ。綺麗に産んでもらったのですもの、おめかしを知らないなんて一生分損をしていますわ。店長さんと選んでくるのでユタカちゃんはそこで待っているんですのよ」

 綺麗に産んでもらった、ねぇ。

 この子を作ったのが俺という事は産みの親にして自分自身って事になる。

 激しく微妙な気分だ。まるで遠まわしな自画自賛だ。

 ダメだ、ダメだ。さっきの事が尾を引いてネガティブになっている。

 もっとポジティブに行こう。

 笑顔で振り返り、俺にとってポジティブの象徴であるフィスリムに話しかける。

「フィスリムはおめかしとか詳しい方?」

「いつも自分で作っているので、詳しくはないです」

「自分で作れるんだ。家庭的なんだね」

「いえ、前の旦那様が自分で作れと経費削減をしていたので自然に覚えました」

 フィスリムが俺よりもネガティブだ……。

 というか普通に考えて奴隷だったフィスリムがファッションに詳しい訳ないだろう。

 自分の事で精一杯で周りを見ている余裕が無かった。

 次からはこんな事が無い様にしっかりしないと。

「それにいつものわたしは人よりも大きいので服屋では買えないんです。覚えられたのは凄く便利だと思うんです。ユタカ様のも作りましょうか? あ……わたしの作った奴なんかじゃダメですよね……」

 俺よりも遥かにネガティブ思考に堕ちていっている。

「わ、私はフィスリムの服着てみたいな! それに裁縫ができる女の子、私は好きだよ?」

「本当ですか?」

「うんうん。これで料理も作れたら立派なお嫁さんだね」

 茸でも生えていそうな雰囲気が一気にお花畑に変化した。

 フィスリムは小さい事でコロコロと表情が変わってかわいいな。

 これだよコレ。俺が求めているのはこういう普通の恋愛なんだよ。

 間違ってもミッド……じゃない。アブノーマルなのとは違うんだ。

 女同士の恋愛をノーマルかと言われれば、かなり微妙だが。

「……お嫁さん。わたし、料理作れます!」

「本当? フィスリムは凄いね。私なんか何にもできないよ」

 十年間ニート監禁生活だったもので。それ以前も似たような物だが。

 実を言えば包丁すら、まともに握った事が無い。

 精々小中と通った金持ち学校の授業位なものだ。

 カレー位ならがんばれば作れるかもしれないが、自然教室でやる誰でも作れるメニューを料理と呼ぶのは俺の理想から外れる。

「奴隷仲間の中でわたしだけで作っていたので」

「…………」

 やばいわー、この子が不憫で泣けてくる。

 この子はそういう不幸な要素を引き寄せる成分でも身体が発しているんだろうか。

 何が可哀想かって? 笑顔で言うんだぜ?

 満面の笑みで俺に料理について話すフィスリムは非常に家庭的だ。

 家事は、特に洗濯機も掃除機も無いこの世界では相当大変だろう。

 だがフィスリムはフェアリージャイアント、家事程度の労働では疲労を感じない。

 この他にもフィスリムが得意とする分野は基本的に不幸話に直結する。

 本人は自分のできる事として誇らしげにしているので否定もできない。

 こ、これから幸せになろうね。

 俺はひっそりと心の中で呟いた。

「ユタカちゃ~ん!」

 なんて考えているとリーズが店長と一緒に戻ってきた。

 手には沢山の衣服が握られている。

 いつの時代、どこの世界も女の子って奴は男の知らない逞しさを持っている。

「って大人物ばっかりだけど、着られないよ?」

 リーズが持ってきた衣服の大半は大人物だった。

 この世界のファッションセンスについて知っているはずもないがファンタジーって感じの衣服が多い。

 中には冒険者としては除外するドレスなんかもある。頭では冒険者的にこれはないだろうと否定するのだが、身体が妙に落ち着いている。

 サキュバスとしての本能か。

 よくよく周囲を眺めてみれば武器屋の時よりも安心できる。

 単純に武器屋が男のロマンだというのもあるが、こっちはいるのが当たり前の様な。

 まあ、いいか。

「昨日今日では子供服はそんなに準備できなかったそうですわ。ですがここは仕立屋もしておりますの。服を実際に見て、自分が好みの物を選ぶのがいいと思いますわ」

「自分の好みか、あんまりそういうの詳しくないから選んでもらおうと思ったんだけど」

「まだまだユタカちゃんも歳相応ですわね。おめかしは誰かに与えられる物ではなく自分でする物、ですわよ」

「なるほど……」

 おめかしは自分でする物、か。

 さすがは聖女様ってだけはあるな。凄く納得できる言葉だ。

 もしもここで着せ替え人形にでもさせられたら、当然おめかしなんか嫌いになるだろう。

 衣類はリーズかフィスリムに全部任せようかと思っていたが反省した。

 自分の事は自分でする。当たり前の事を当たり前の様にする。それが一番難しいんだな。

「えっと、私はおめかしとか全然詳しくないから、色々聞くけどいい?」

「ええ、もちろんですわ。それがわたくしの仕事ですもの」

 俺はハッキリ言ってファッションという物から縁の無い暮らしをして来た。

 それは何も監禁生活だけが原因では無い。小さい頃から着る服は基本的に誰かに命令されて着ていた。考えてもみれば自分で服なんか選んだ事もない。

 多分、今回も誰かに選んでもらおうと思ったのはそういった経験からだろう。

 だから、自分を着飾るというのは感じた事の無い感覚だ。

 これがサキュバスの本能なのだとしたら、随分と楽しい趣味があるじゃないか。

「アストラル繊維というのはどういった物なの? 身体に馴染むとか言っていたけど」

「身体と密接な関係のある物質ですわ。特に衣類では着易さに人気ありますし、アストラル特有の柄は女性を魅力的にするとも言われていますの」

 リーズの説明はとても繊細だ。

 これを俺が説明しろと言われれば、もっと粗雑になるだろう。

 男としてはそれでいいとも思うんだが、女の子である身体が嫉妬を燃やしている。

 羨ましい、とでも表現するのが正しいんだろうか。

 そういう風な、普段とは違う視点で物事を見られたからだろうか。

 俺はサキュバス効果だとか、淫魔だから口が旨いだとか考えていたけれど、違うんだと今は確信している。

 粗雑な行動にサキュバス――女の性の象徴が拒絶反応を示していたんだ。

 男と女は生物としても精神としても違う生き物だ。

 それは知性を有したヒトであっても同じで、生まれた時から男として育った人は例え女性と同じ心を持っていたとしても男の気持ちを理解できるだろう。また、逆も然りだ。

 どうにも不思議な感覚だ。何か一つ垢抜けた気がする。

 今まで見えなかった視線……例えば歩き方だ。

 リーズの歩き方は基本やや内股だ。それが女性特有の雰囲気を醸し出している。

 あの歩き方は生まれた時から男である俺には決してマネできないものだ。

 おそらくリーズ本人は特別意識している訳ではないと思う。

 それが俺とリーズの明確な違いだろう。

 TSと一言に述べるが、ある日突然女になった俺は、確かに外見は女の子なんだと思う。

 でも、そういった些細な部分で大きな違いが見えてくる。

 巨人モードのフィスリムですら『女性らしさ』というものがある。

 外見という物が邪魔しているのでそう思わない奴もいると思うが、こと妖精モードになって外を歩いたら周りは確実に女の子として見るだろう。

 そういった部分に男は惹かれるのだろうし、俺も惹かれたに違いない。

 男である心と身体が女であるという矛盾。

 トランスセクシャルというジャンルでは使い古されたネタだが実際に体験してみて、男女の差を酷く実感した。

 俺は気が付かない内にこの子を傷付けていたんだな。

 そこは反省しなくちゃダメだ。

 どんな理由があるにしても、この子を作ったのは俺なんだから。

 取り敢えずは気に入った服を一着選ばないと。

「どうしたんですの? 少し雰囲気変わった様に見えますけれど」

「ううん、なんでもない。もう一つ質問するけれどエーテルとは、どこが違うの?」

「エーテルは浮き上がる神秘的な柄が売りですわ。けれど、やはり最大の特徴は汚れが付かない事ですの」

「汚れが付かないんだ。それは凄いね」

「エーテルは不変の輝きが売りですもの。汚れもですけれど臭い移りもしませんし、長期間の着用にも耐えますの。忙しい人や動き回る必要がある方に勧めたい品ですわ」

 つまり冒険者になろうという俺に向いている衣服という事か。

 冒険者。

 男の俺としての意見は今更だから省くが、女として見るならば冒険者というのは職業柄乱暴という面が前面に出ている。

 それが仕事だし、今更意見を変えるつもりも無い。けれど、サキュバスの俺が冒険者になるのなら、どうすればその矛盾を解決できるだろうか。

 格好から入るというが、冒険者でありながら女の子でもある衣装がいいだろう。

 これからこの身体とは、ずっと一緒に生きていかなきゃいけないんだから。

「ねえリーズ。相談なんだけど、女の子らしくて耐久性もある服って作れるかな?」

「ええ、可能だと思いますわよ。その道の専門家がいるんですもの。大昔から、お客は無理を言うものですわ。ユタカちゃんが欲しい服を作ってもらいましょう」

 男である自分を否定するつもりはない。

 けれど。

 女である自分を否定するつもりもない。

 うん、これが一番良い答えなんだと思う。

 どちらか一つだと心と身体が喧嘩をする。ならば共存すれば良い。

 幸い、この子はまだ幼い子供だ。一緒に歩んでいけば良い。

 知らない事を学んでいく、それはとても楽しい事なんだから。

 ……男の娘、とか微妙な思考が浮かんだのは、あえて無視しておこう。

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