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異世界権利者と世界依頼【後編】

「……もう朝か」

 体感では一瞬で朝になった気がするが、身体が随分軽くなったので自分が思っていた以上に疲れていたのだろう。

 近くにはフィスリムが俺と同じ様に横になって眠っていた。

 フィスリムは俺よりも連戦だった訳だからそりゃ疲れるよな。

 寝起きの気だるく重い身体を動かして、フィスリムを起こさない様にそっと部屋から出る。

 冒険者ギルドは昨日の夜よりも人の顔に赤みが帯びており元気そうだ。

 そして俺に気付いた複数の男女が一斉に口にした。

「救世主様のおかげで今日を迎える事ができました!」

 言うと思った。

 俺は軽い目眩に似た感情を胸に覚えながら微妙な顔をしていたと思う。

 そんな事よりも俺は眠っている間に起こった事を代表に尋ねた。

 すると警戒態勢を引いていた冒険者を中心とした集団は夜明け前に一度だけ戦闘になっただけで、それもどうにか撃退したという。

 俺が何気無く、ほんの一言口にしたローテーション体制も使ったそうだ。

 中々に人の話を聞いている。俺は少々関心した。

 小説なんかでは大抵この手の人々って頭が悪く描写される事が多いけれど、知識が無いだけで頭が悪い訳では無いんだと思われる。

 作戦は思いつかないけど、作戦は遂行できる。といった感じか。

『これだけ士気が高くて、仲間が揃っているなら勝てる、か……?』

 人々の活気は凄いもので昨日の夜は絶望に打ちひしがれていたのに、皆が皆笑みを浮かべる余裕すらある。そういう意味では勇者様と聖女様によって作り上げられた救世主様偶像が凄い事が伺える。

「救世主様、これをどうぞ受け取ってください」

 振り返ると受付嬢っぽいエプロンを付けた女性がトレイに簡易な食事を運んでいる。

 周囲を見回すと食事を取っている者も多い。きっと配っているのだろう。

「もらってもいいの?」

「はい! 救世主様は今日も忙しいと聞きました。ご飯を食べないと始まりません」

「あ、ありがとう」

 よく考えれば昨日から何も食べていない。

 俺はトレイを受け取ると簡単な場所で食事を取る。

 食事内容自体は質素な物だ。

 黒いパン、ライ麦パンという奴か?

 その黒いパンは俺の様な現代人がパンと呼ぶにはカチカチとしていて石の様に硬い。

 小麦粉で作るよりもライ麦のパンは繊維が細かく栄養価が高いと聞いた覚えがある。

 代わりに昔の感性でも味は悪かったと聞いた。まあ保存食としては最高だろう。

 そしてオマケ程度に付属しているスープ。

 これまた具が少ないスープで野菜の硬い所ばかりが細かく入っている。

 まあ贅沢も言っていられない。俺は黒パンをスープに漬けるとふやけて柔らかくなったパンとスープを口にした。

「結構いけるな」

 単純にお腹が空いていたのも理由だが、スープは塩味で野菜の旨味が溶け込んでおり、それを黒パンが吸っていて思いのほか美味しかった。

 そんな食事を終えた頃にミッドがこちらにやって来た。

「おはよう。身体の調子は大丈夫か? 昨日はきつそうだったから」

「一晩眠ったからもう大丈夫。ミッドの方はちゃんと眠った?」

「ああ、実は黙って警備に参加しようと思ったらダメだって言われたよ。だからしっかり眠った」

 おいおい、勇者様らしいといえばらしいが、考えて行動してくれよ。

 勇者ミッド、戦闘は一流だが知性に乏しい。

 下手をすると一般人よりも悪いんじゃなかろうか。

 でもこういうタイプが勇者って言われるイメージあるよな。

 魔王とかドラゴンとかに挑むという無謀な所が。

「あら、ミッド、ユタカちゃん。もう起きて大丈夫なんですの?」

 ミッドの後ろからリーズが声を掛けてきた。

 そういうリーズも昨日の晩より顔色が良い。顔には見せないが疲れていた様だ。

 俺はその言葉に頷くとミッドも同様の返答をした。

 所で一つ気になった事がある。

 当然の様に俺が行動方針を決めているけれど、見た目十歳の子供に街の運命を任せるのは良いのか悪いのか。不満とかあがらないかね。

「今更だけど、私が命令していいの? 一応今日の行動を何個か考えてあるけれど」

「何言っているんだ。もうユタカなしで俺、じゃないな。俺達は動けないぞ」

「そうなの?」

「そうですわ。見てください皆さんを。ユタカちゃんを信頼している顔ですわ。これは何もわたくしやミッドが賞賛したからだけではありませんわ。自分が倒れる位誰かの為に行動したんですもの、信頼されるのは当たり前ですわよ」

「でも、子供ですよ?」

「そんなに珍しい事じゃないぜ。俺が行った事ある国では魔術学院を12歳で飛び級卒業した天才もいたしな」

 そんな化け物と一緒にされても困るんだが。

 まあ微弱ながら魔法も使えるし、チート能力も持っているからな。

 とは言ってもチートを自覚した覚えは無い。ささっとレベル上げしたいもんだ。

 だが、ミッドとリーズに言葉通り、俺に対する周りの評価は意外にも高い。

 昨日俺が魔法を掛けた冒険者の男は俺を見かけると話しかけてきたし、俺と同じ位の子供も目をキラキラ輝かせて近づいてきた。親と一緒に。

 なんでも救世主様に頭を撫でられると頭が良くなるとか……どこの神体だ。

「それに、何か作戦があるんだろ?」

「ああ、あるにはあるけれど、作戦と呼ぶには随分とお粗末だよ」

「どんなですの?」

「まず教会を急襲して内部の魔物に畳み掛ける」

「大丈夫か? それなら俺でも思い浮かぶぞ」

「もちろん勇者様か聖女様が指揮をして、時期を見計らって撤退するんだ」

「どういう事だ?」

「教会前は開けているんでしょ? 冒険者でまともに動ける人を何人かより選って敵の親玉を一網打尽にするんだ」

「なるほど、頭良いな」

「良くない。逆にこれ位しか思いつかないんだから悪い位だ」

「ですが状況的にそれしか無さそうですわね」

 二人は希望を見出しているが、俺はそうじゃないと思う。

 一晩明けて冷静になった今だから思うが無理にボスと戦う必要があるのか、と。

 今存命している人達で街から逃げ出した方が結果的に被害も少なくて済むんじゃないか。

 だが、怪我で動けない人もいる。その作戦を取るという事は多くの人を切り捨てる事でもある。

 ここは全員に選ばせるべきか。

 例え喧嘩になっても俺一人で全員の命に責任は持てない。

「いや、他にもある」

「そうなんですの?」

「やっぱり頭良いんじゃないか」

「良くない。それにこれを作戦とは言わない」

「説明していただけますの?」

「云いづらいけど、この都市を放棄して逃げ出すのも一つの手段だ」

「そんな! 尻尾を巻いて逃げ出せというのか!?」

「その通りだ。そして近場の都市に救援を求めて討伐隊を組織してここに戻ってくる。確かに一度は逃げ出す事になるが負けたから逃げ出すんじゃない。確実に勝つ為の撤退だ」

「「…………」」

 二人は沈黙して顔を伏せている。反論の余地が無いんだろう。

 しかしミッドは顔を上げて答える。

「それでも俺は逃げたくない」

「負けるかもしれないのに?」

「やってみなくちゃわからないだろ!」

「やってみなくちゃわからないじゃ困るんだよ!」

「くっ!」

「では、あなたはわたくし達に逃げ出せと言うんですの?」

 無表情に近いリーズの蒼い瞳が俺に突き刺さる。

 リーズもミッドと同じ考えの様だ。気持ちはわかるけど俺をあんまり攻めるなよ。

 これでも設定では十歳児なんだぞ。

 俺は溜息を吐くと当然の様に告げた。

「いや? 戦うべきだと思う」

「「はあ!?」」

 ビックリし過ぎだ。

 ミッドもリーズも三枚目みたいな呆けた顔で俺を見つめている。

 理由としてはワールドクエストを達成できるし、都市を救えれば都市の機能も回復する。

 そうなればしばらくの拠点には困らない。

 それにこの辺りは治安が良いと聞いた。本来であれば序盤の拠点としては最高の立地なんだ。それを簡単に手放すのは惜しい。

 後、単純に士気が現在かなり高い。ミッドやリーズ、フィスリムの様なレベルの高い者も多い。この状況で俺の一存だけで決めろと言ったら決戦を選ぶ。

「理由としては、怪我をしている人や動けない人を見捨てる事になってしまう。そんなの私が嫌だ、というのが最大の理由」

 ちなみに方便では無く本音だ。

 他人とはいえ眠る場所とご飯を無償で提供してくれた人達だ。

 それに思惑があるにしても俺を信じてくれる人を裏切りたくはない。

「ではなんで、そんな事を言ったんですの?」

「意見が偏るのはダメだと思って。少しは冷静になれたでしょ?」

「やっぱり頭が良いんじゃないか」

「良くない。それにミッド」

「なんだ?」

「やってみなくちゃわからない、じゃなくて『やらなくちゃいけないんだ』でしょう?」

「そ、そうだな……」

 ミッドの表情がほんのり赤く染まった。これはサキュバス関係無しに惚れたんじゃね?

 俺自身、ちょっとかっこつけ過ぎた気もして内心恥ずかしいが、間違った事は言っていないと思う。

 マンガやアニメでも良く主人公やその周りが言うじゃないか「やってみなくちゃわからい」って、俺はあれを見る度に白けていたんだよ。だって「やってみなくちゃわからない」ってセリフは現実的に実現できない事を試したい奴の自分勝手な自己満足だろ。

 そういう経緯があって最終的に行き着いた結論が前記の通りだ。

「ん?」

 直前まで活気に溢れていた冒険者ギルドの室内が静まり還っている。

 周囲をキョロキョロと見渡すと、昨日と同じく全員がこちらを見ていた。

 その中に一人、極めて目立つ存在が立っている。フィスリムだ。

 フィスリムはふるふると震えて偉く感動した、とでも言い出しそうな表情をしている。

「ユタカ様……わたしは、フィスリムは貴女様に一生着いて行きます!」

 想像通りの事を言い出した。

 お前一応労働奴隷だろう。

 事件が解決したら元の生活に、は戻れないか、主人が死んだんだからな。

 まあ仲間になってくれるなら嬉しいけど、巨人と少女は絵になるしな。

 だけど俺は淫魔だからな、安易に仲間を作れないんだよ。

「うわわっ!」

 後ろからリーズが不意打ち気味に抱き着いてきた。

 む、胸が……。

 昨日は色々あって気が付かなかったがかなり大きい。

 しかも服がだぼだぼな分解りづらいが、こいつ隠れ巨乳だ。

 淫魔だからさ、こういう事されると、ちょっと……ね。

 体温が心とは無関係に暑くなっていく。

「わたくし、ユタカちゃんに惚れてしまいそうですわ!」

 そしてリーズが小さな声で何かをボソボソと呟いている。なんだ?

『飴と鞭だなんて……』

 しっかり聞こえたぞ。

 何が飴と鞭だ。不安にさせてから甘い言葉なんて吐いてないわ!

 そもそも聖女だろ、あんた。

 この発想はあれか、エロRPGだからなのか?

 ま、まあいい。最近こればっかりな気がしないでもないが、いいんだ。

「さすが救世主様だ!」

 そんな言葉の数々にリーズのアホな言動は掻き消された。


 作戦そのものは直に決まった。

 当初の予定通り、戦闘能力優れる冒険者を中心に構成された人員で教会を急襲するという極めて簡単な内容だ。

 そこにミッド隊、リーズ隊、ユタカ隊と言った具合の三部隊で内部をかく乱する。

 ちなみにフィスリムは俺の部隊だ。単純に戦闘能力が高いのが理由。

 正直この中で俺は支援魔法を使えるという条件を省けば能力的に最下位に属する。

 更に朗報はある。

 教会には屋上に出られる場所があり、俺がその場所から教会前の広場での決戦に備えて突入し、上から指示をするという物だ。補足だが何かの障害で屋上まで行けなかった場合と屋上に行けた場合とで二つのプランを練ってある。

「という感じだけど、何か質問はある? 見落としがあったら危ないからちょっとでも気が付いた事は話して、絶対に」

「敵の親玉に遭遇したらどうするんだ?」

「その場合直に入り口に逃走。追いかけてきたら御の字だけど、追いかけてこなかったら別の手段を考えよう」

「では敵をまんまと誘き寄せられたらどうするんですの?」

「冒険者ギルドが連絡用に使っているという笛を各部隊に何個か配るから、それを吹くの。うまくいけば前と後ろから挟撃できる」

 大体の作戦はこんな感じで出来ている。

 不満の声も無い事から今できる手段としては最善だと信じたい。

 そしてフィスリムが自信無さ気に手をあげる。

 会議室は騒々しく議論しているので声を出せる状態では無いが、気になった。

 だから俺は、周りに静かにと念を押す。

「それでフィスリム、気が付いた事は?」

「あの……もしも、どこかの部隊が倒れた場合は……」

「最悪のケースだね。うん、それは話とかないとダメだ。フィスリム、気が付いてくれてありがとう」

「い、いえ……」

 いつのまにかフィスリムさんからフィスリムに呼び捨てになっている事は置いておいて、確かに死に至った場合の覚悟も必要だ。

 全員が全員、それを想像したのか暗い表情をしている。

「その場合救出には向かわないでください」

「なぜだ!」

「気持ちは解るけど、他の部隊にまで被害を出す訳にはいかないの。私達には冒険者ギルドに残した人も沢山いる。もしも失敗したら別案として都市を脱出しなくちゃいけないんだから」

「そうですわね。皆さん、死んではいけませんが死んでもいい戦いもありますわ。大切な者がいるならばわかりますわよね。死を覚悟して事に当たって下さいまし」

 リーズの宣言を受けて各々が頷く。

 戦うと決めた以上、絶対は無い。

 どんなゲームでもいい。やった事のある奴ならわかるだろうが不測の事態は必ずある。

 敵が予想以上に強かったら、味方の行動順が遅かったら、連続戦闘になったら、逃げられなかったら、回復アイテムが切れてしまったら。

 ゲームならやり直せばいいが、今回は違う。失ったらそこで終わりだ。

 後にも続いて行く。それは何も死んだ奴だけじゃない。生きている奴にも続く。

「では、意見が無い様なら、この案で行きます。作戦決行は一時間後、部隊順はミッド、私、リーズの順番で行きます。部隊の三分の一が機能しなくなったら生きている者はリーズが治癒魔法を使うのでしっかり伝達して撤退を開始してください」

 全員が声をあげて頷いた。

 そして準備の為に会議室から出て行く部隊員。

 俺は自分で考えた作戦に穴が無いか確認をしつつ、心を落ち着かせていた。

 正直言えば、こんな大人数に命令した事など一度も無い。

 父さんは大企業の社長でもあったので多くの人間を雇っていたが、こんな不安を抱えていたんだろうか。

「ユタカちゃん」

「はい?」

 まだ会議室に残っていたのかリーズが話し掛けてきた。

 その表情には疑問符が浮かんでいる。

「わたくし、ユタカちゃんに治癒魔法使えると話しましたかしら?」

「あ。あー……えと、聖女のリーズさんが治癒を使えるという話は聞いた事があったので」

「嘘、ですわね」

 凄いジト目だ。微妙にかわいいとか思ってはいませんよ。

 つい自分の知っている情報を気付かずに使ってしまった。

 俺とリーズが出会ってからリーズは一度も魔法を使っていない。

 それを俺が知っているのは確かに不自然だ。

 審美眼による情報も下手をすると裏目に出る典型だな。どう誤魔化すか。

 下手に嘘を付けば怪しまれる。ましてやリーズは教会側の人間。俺が淫魔だと知れば嫌悪感は酷いはず。嘘で嘘を塗り固めるより真実を口にした方が良いか。

「えと、誰にも言わないと約束してくれますか?」

「内容によりますわ」

 その返答ズルくないか?

 だが、今の俺の発言は自分で何か秘密を持っていると公言した様な物だ。

 俺は諦めに近い溜息を一度吐くと誰もいない事を確認して口を開いた。

「実は私、支援魔法以外に相手の能力を知る力を持っているんです」

「そうなんですの? ですが人物鑑定をわたしくは見た事がありますが、ユタカちゃんが人物鑑定を使っている様には見えませんでしたわ」

「いいえ、単純に目を合わせるだけでいいんです」

「す、すごいですわね……」

「もちろん人物鑑定よりも劣ります。敵対している人の物は解りませんし」

「どこまで解りますの?」

 リーズが妙に食い下がってくる。

 まあ他人の能力を盗み見る能力をあまり良い顔されないのは解るけど。

「えっと、相手との関係にもよりますが、種族、性別、年齢、出身、容姿、社会的地位、称号、レベル、能力までは見た事があります」

「な!?」

「ど、どうしました?」

「それはわたくしが誰なのか解っているという事ですの?」

「……………………あー、なるほど!」

 リーズは伏せ字が何個もあった。

 これは本人が他人に隠している事なのだろう。

 反応からして間違い無い。リーズは種族、年齢、出身、称号を隠している。

 これだけ秘密があるなら多少その手の事に機微になるのも頷ける。

 そう納得してリーズに視線を向けると。


 種族/××××× 性別/× 年齢/××


 どんだけ信頼度落ちているんだよ。性別まで隠すとか嫌われ過ぎだろ。

 だけど、見えたという事は敵対していないって事だよな。

 何か聖女様涙目で超ウルウルしている。これは脅迫とかしたくなる。

 やったら殺されそうだからやらないけどさ。

「えと、本人が隠している情報は見えませんから大丈夫です」

「本当ですの? 嘘付いていませんわよね!? 嘘付いたら殴りますわよ!」

 怖いわ! お前に殴られたらロボットアニメの量産型みたいになるよ!

 や、やややや、ヤバイぞ。

 俺はレベル2だぞ。49のリーズに殴られたら普通に死ぬよ。

「だ、大丈夫です。本当に知りませんから」

「本当の本当ですの!?」

「本当の本当です」

「本当の本当の本当の本当ですの!?」

「本当の本当の本当の本当ですから」

「そう……それは良かったですわ」

 ふぅ……どうにか殴られずに済みそうだ。

 それにそんなに慌てなくても知っていたとしても言うつもりは無いんだけどな。

 何か、ちょっと気になるよな。種族。

 ま、まあ殺されたくないから詮索はしないけどさ。

 だけど、こんなに不安になるってのも可哀想だよな。

 俺も淫魔だから人の事言えないけど。いや、淫魔だからこそ理解できるのか。

 というか必死になったリーズに何か変な欲求が……。

 またサキュバスが発する謎の衝動か? 胸に来るんだよな、アレ。

「仮に知っていても誰にも言わないよ」

「口では何とでも言えますわ」

「誰にでも秘密の一つや二つあると思うんだけど」

「まるでまだ自分に秘密があるみたいな言い方ですわね」

「あ」

 またミスった。

 サキュバスの本能やばくないか? ちょっと好意を抱いた相手をモノにしたい衝動に駆られる。その結果信用を得ようと思ってアホな位無防備になってしまう。

「ジー……」

 凄い疑心に囚われた目だ!


 種族/×××××


 ついに種族だけになったぞ。

 それでも俺を味方だと思っているリーズが逆に凄いわ。

「思いっきり嫌われています?」

「その瞳で見てくださいまし」

「まあ見ているんですけどね」

「…………」

 無視された。

 あれだよ。この子供っぽさが逆に……サキュバス効果反対!

「えっとあれですよ。リーズとフィスリムを見ていると何か胸がドキドキするんですよね」

「ふぇ!? それはどういう意味ですの?」

「え? 自分でも解らないかな」

「どうして解らないんですの!」

「そんな事言われても」

「どうして胸がドキドキするのか考えてくださいまし」

 無茶苦茶言うな。

 考えろと言われてもギャップに好感を抱いたとか、かわいいとか異性に抱くソレだろう。

 結論で言えば誰にだってある恋愛感情だ。もしくは淫魔衝動とでも呼ぶか。

 今はサキュバスで女な訳だからちょっとおかしいかもだけどさ。

「こう、慌てている姿が守りたくなるような?」

「…………」

「いや、バカにしているんじゃなくて、単純に悩みを解決してあげたい的な」

 リーズは突然クルっと回転して俺から視線を外した。

 大分嫌われたな。結構仲良かったつもりだったんだが。

 まあ人種差別多いもんな、この世界。種族的考えの差とかあるし、しょうがないと言えばしょうがないのか。例えるなら悪魔と天使とか、竜と竜殺しが一緒にいて仲良し、なんてありえない状況があったら普通におかしいもんな。

「あなたは気味悪がりませんの?」

「え?」

「秘密を抱えているわたくしや巨人族のフィスリムさんを見て、その力で知って、騙されているとは思いませんの?」

「思わないかな。誤解覚悟で言うけどむしろかっこいいと思うよ」

「かっこいい?」

「沢山の種族がいて、沢山の人がいる。得意な事や苦手な事がある。でも、相手の長所って羨ましいじゃない。一緒にいたら安心できるじゃない」

 少なくとも俺は体験版で複数の種族と冒険した。

 もちろんシステムの関係で不和の種族同士の仲間は組めないが、それでも種族の長所を生かした冒険をすると燃えるだろう。何より効率が良い。

 やりこみプレイでも無ければ小人や妖精に前衛近接をやらせたりはしないだろう。

 妖精なら魔法、小人なら中距離武器などが得意だ。

 その種族的特長を生かした戦い方って楽しいじゃないか。

「だってフィスリムに人間のマネなんてできる訳ないじゃない。それと同じでリーズが人間と同じ事をする必要は無い、ていうのが俺の感覚かな」

「変わった考えをお持ちですのね」

「まあ変人か常人かと言われれば変人よりだけど」

 異世界人的な意味で。

「わたくしも、ユタカちゃんの事好きですわ」

「ど、どどど、どこが?」

「人種差別しない所かしら。あの時、フィスリムさんの為に怒ったあなたは本物ですわ」

 あの時か、正直一歩間違えたら今頃淫魔だって事がバレて死んでいるんだけどな。

「作戦、成功させますわよ」

「うん!」


   †


 一時間後作戦が開始された。

 急襲という面から号令などは無く、効率重視で出発した。

 我ながら作戦というにはあまりにお粗末だ

「俺に続けー!」

 最前衛を勤めるミッドが教会を目視すると同時に目にも留まらない速度で突っ込む。

 さすがはレベル57。教会近くをうろついていた敵を一瞬で蹴散らして道を開いている。

 そしてミッドに続く冒険者達は三名で陣形を組んで確実に仕留めていく。

 簡単には負けない陣形だ。

 俺は徐々に見えてくる教会を見上げる。

 昨日は煙が上がっていたが、思いのほか外傷は見られない。

 教会のシンボルである十字架も未だ健在だ。それに康応して周りの表情も暗くは無い。

「ユタカ様、来ます!」

 フィスリムが声を掛けてくる。

 教会から出払っていたであろうオークの部隊が疎らに接近してきているのだ。

 変わりに前方で戦うミッドの方はあまり敵がいない。

 ご都合主義という文字通り敵の配置がこちらにとって都合が良いな。

「落ち着いて対処してください。三人で魔物一体に当たれば負けません!」

「「「「「おお!」」」」」

 声を掛けて士気をあげる。こんな規模戦いですらない。

 敵の部隊は装備が剣、槍、鈍器、斧の差異はあれど昨日と同じオークの部隊だった。

 だった、というのは過去系だからだ。

 接近してきた直後にフィスリムが冒険者ギルドで借りてきた鈍器で吹っ飛ばしたからだ。

 ミッド位の成人でも身体を持っていかれそうな鈍器を軽々と持ち上げるフィスリムはやはりパワーキャラクターといった形相を示している。

 金属の棘々が付いた殻物はオークにぶつけると共に棘以上の穴を穿っていた。

 他の部隊員が味方で良かったとでも思っていそうな顔をしている。

 うん、俺もそう思うよ。

「正門を開けたぞ!」

 ミッドの声が響く。思った以上に侵攻が早い。

 ちなみにファストスピードを事前に掛けていたりする。

 支援魔法を掛けた直後のミッドのテンションの高さが思い出される。

 俺は最強だー! とでも言い出しそうなホクホク顔をしていたのはさすがに引いた。

 調子に乗らなければいいが……。

 ミッド隊全員が教会内を侵入した所で俺だけが反転する。

 フィスリム含む全部隊員には教会へ突入する様に事前に通達してある。

「リーズ隊はこのまま待機! 味方の治癒と周囲の魔物を撃退してください」

「わかりましたわ!」

 その声と共に俺も教会内に侵入する。

 教会内は綺麗な装飾が施されており、とても魔物に奪われた後とは思えない

 しかし似ても似つかない臭いが充満していて、吐き気がする。

「ユタカ様、わたしの背中に!」

 体格的に足の遅い俺を思ったのかフィスリムがそう告げてくる。

 確かに同じ部隊内で距離が開いている。それも俺の足が遅い所為でだ。

 これは言い訳だが俺は、レベル2なんだよ!

「頼みます!」

 そう言って屈んだフィスリムの背中に飛び付く。

 フィスリムの背中は筋肉の塊かと思っていたが思ったよりも柔らかい。

 女の子だからか?

「しっかり掴まっていてくださいね」

「うん!」

 武器を持っているフィスリムの腕を足掛けにする訳にも行かないので通常のおんぶよりもバランスの悪い状態でしがみ付いている。

 しかしフィスリムは俺の体重など物ともせずに凄い跳躍で進む。

 今まで加減していたのか。

 しかしこれは揺れが酷くて酔いそうだ。

 いつのまにか一番後ろを走っていたはずが部隊内で一番前に来ている。

 途中、所々人が倒れていて、それが今日倒れた人じゃないというのが解って目を逸らしたくなる。おそらくは昨日の段階で襲われた人達だ。

 中には女性も含まれていて、とても口にするのは(はばか)られる惨状だ。

 きっと息はしていないだろう。

「くっ!」

 あまりの状態に歯を噛み締めて耐える。

 それよりも俺達の隊は屋上を目指している独立した部隊だ。

 今は目的を果たさなければならない。

「聖女様の話ではこっち!」

 三つに別れる道を指定して進ませる。

 その際に一番前に来ていたのでフィスリムから降りて告げる。

「フィスリム、先に行って邪魔な魔物の排除を頼める? もちろん出来る範囲でね。もしも親玉に遭遇したら絶対に戦闘しないで逃げるんだよ? いい?」

「はい、できます!」

 フィスリムはそう答えると直に力強く前進して見えなくなった。

 後ろからやってくる冒険者を加え、俺は小走りに進む。

「事前に話した通り、屋上に到着したら一人を残して全員撤退、一度リーズ隊と再編成した後に、聖女様の指揮に入って!」

「「「「了解!」」」」

 そのまま俺は全速力に近い行軍速度で侵攻する。

 こうでもしないとフィスリムでなくても大人の行軍には追いつけない。

 そんな感じで息をぜぇぜぇと吐きながら進んでいると魔物の死骸が明らかに増えてきた。魔物の鈍器で歪んだ身体は大きな穴が開いている。フィスリムが善戦しているに違いない。

 本当レベルと能力の逆算の合わない活躍だ。不思議でしょうがない。

 ゲームと現実の明確なる違いという奴だろうか。

「フィスリム!」

 前方に丁度五匹のオークと戦闘中のフィスリムを発見した。

 周りには十体近くの死体がある事から長期戦になったのだろう。

 教会内部の道が広いのも理由だ。オーク程度の大きさでは巨人族のフィスリムを囲む事は容易い。逆に身体が大きいフィスリムには狭い教会内は厳しい。

「包囲戦闘を仕掛けましょう」

 一列に立って、魔物の包囲を狭くして、逆に数の多さでこちらが有利になる。そして単純な攻撃力の高いフィスリムが振り上げた鈍器の破壊力はオーク程度では止められない。

 この程度ならフィスリム一人でも余裕だったかもしれない。

「この、上!」

 一際開けた部屋に到着した。

 大きな螺旋階段で手摺が掛かっている。なんでも大きな鐘が頂上にあるそうだ。

 それを毎日決まった時間に鳴らすのが、ブリストールの慣わしらしい。

「護衛の三名を残して撤退。後は聖女様の指揮に委ねます!」

「了解!」

 全員が各々に大きな声で頷くと来た道を撤退していった。

 しかし護衛隊とフィスリムは残っている。

 フィスリムは撤退組みに含まれる人物だ。

 普通に親玉との戦闘に置いて欠かせない戦力である為だ。

「ユタカ様を上に送ります!」

「ダメだ。親玉が出てきた時に一番重要な戦力はミッドとフィスリム、あなた達なの、だから直に――」


 ――ピーーーーーー!


 大きな笛の音が背後から響く。

 早い、早過ぎる。

 ミッド辺りがボスと遭遇して引き寄せているのだろう。

 指揮もそうだが屋上から支援を掛けるには時間が……臨機応変に行く。

「護衛三名は一名を残して挟撃に参加してください。いくら親玉といえど挟み撃ちにすれば勝てない敵ではありません」

「わ、わかりました!」

「それとフィスリム、あなたの意見を採用します。私を可能な限り早く上へ」

「はい! ユタカ様!」

 パアァっと明るい口調で頷いたフィスリムは直に準備する。

 鈍器を腰に付ける鞘の様な物を背中に回すとフィスリムは俺を見てこう言った。

「失礼します」

 お姫様だっこ。

 俺の足と腰を大きな両手で繊細に掴むとお姫様だっこした。

 いやね、悪いとは言わないけどさ。そっちの方が早いのかは疑問だ。

 だが、フィスリムが無駄な動作をする訳は無い、と信じている。

「では行きます!」

 今度は掴まっている必要は無い。

 何せフィスリムが身体全体を掴んでいるんだから。

「うわっ!」

 こう、魔力の様な粒子をフィスリムの身体全体から感じる。

 人間のままだったら味わえない感覚だろう。

 まるで自然に後押しされている様な神秘的な香りがした。

 そして、一気に大砲の如く上へと跳躍していく。

 所々足場を駆使しながらのジャンプはエレベーターよりも早い。

 螺旋階段を稲妻跳びして上に行く光景なんて初めて見た……。

「着きました」

「……凄いね」

 唯その一言に尽きた。

 フィスリムは褒められましたと喜びながら『てれてれ』言っている。

 いいや……今は所定位置に到着した事が重要だ。

 俺は頂上の鐘を鳴らすと直に地面を見た。

 高さは大よそ五階建てのマンションに程近い。

 幸いにも俺は高い所も平気だ。下を眺めると前門の辺りで何やら群がっている。

「報告せよ!」

 大きな声で下へと叫ぶ。すると事前の打ち合わせ通り声が返ってくる。

 特別声の大きい者を選んだのは正解だった。

「前門で魔物、大きい魔物と戦闘中! 親玉だと思われます! ミッドが戦闘中!」

 早いな。笛が鳴ってから三分も経ってないっていうのに。

 撤退させた部隊の挟撃は――間に合わないな。

「作戦を早める! 繰り返す、作戦を早める!」

 直に前門で戦っている部隊の最後尾から後退を始める。

 十歳の身体は損をしてばかりだが、声が高いのは助かる。

 部隊内で珍しい女の子なのもそうだが、特別高い声なのも良く響く要因か。

 俺は次の命令を口にしようとした。

 が。


 ――扉ごと人が吹き飛んだ。


 その中にはミッドも含まれている。

 特徴的な白銀色の大きな剣と胸当てが見えた。

 ミッドは空中で体勢を整えて剣へと飛ぶ。そして剣を掴むと地面に着地した。

 に、人間離れしているな、勇者様。

 そして別の場所では吹き飛んだ、受身を取れなかった怪我人のもとへとリーズは走っている。特徴的な金色の髪が靡いている。

「ユタカ様、わたしに力をください」

「フィスリム、まだいたのか、早く増援に……」

 その表情は今まで見た事無い位決意に燃えている。

 気持ちを察した俺は直に支援魔法を詠唱する。

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に力を与えよ!』

「ファストパワー!」

 赤い色の光線がフィスリムを包む。

 まだだ。

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者の時を早めよ!』

「ファストスピード!」

 くっ……! 連続使用はちょっと厳しい。

 既に下では戦闘が始まっており、一際巨大なオークが佇んでいる。

 通常のオークの五倍はあろうかという巨体だ。

 仮にオークキングとでも名付けよう。

 あれだけデカイ図体しているんだ、自然法則からいって鈍いって決まりが……無いみたいだ。手に持っているこれまた巨大な剣を振るい地面にクレーターが出来た。それなのに単純なスピードでミッドの剣戟にも劣っていない。

 ワールドクエストの適正レベルは何だ……?

 ミッドは57レベルの勇者だぞ。それも戦闘能力に特化した勇者だ。

 そのミッドが俺程度の剣術に詳しくない一般人でも一目で解る位の力量差がある。

「お、おい! フィスリム!?」

 フィスリムは背中に背負っていた鈍器を両手に力強く握ると飛んだ。

 五階建ての建物だぞ、ここ。

 飛んだフィスリムは巨大なオークの真上、脳天にあの棘の殻物が付いた鈍器をクリーンヒットさせた。

 は、ハンパネェ……!

 敵も凄いが味方の発想がもっと凄い。異常って言っても良い位だ。

 少なくとも五階から飛び降りるなんて発想、俺は出てこない。

 さすがの豚の化け物といっても、あの攻撃で死なない訳が……立ち上がって頭を痒そうに掻いた。

 待て待て待て待て、なんじゃそら!?

 ――勝てない。

 そんな胸を犯す絶望が思考を支配する。

 そういえばあの化け物……見覚えがあるぞ。

 体験版の一ヶ月という限られた時間を全て戦闘とレベル上げに費やした効率重視で進めた場合に遭遇できる魔物に似た様な奴を見た覚えが……。

 だけど、その敵って90レベル帯のボスだったはず。

 普通に倒すなら最低でも110レベルは必要なボスだ。

 もしも90レベルで戦うとしたら仲間の死は覚悟した方がいい、そんな敵だ。

 いや、無理だろ。

 て、撤退を――無理だ。オークキングのステータスから言って逃げ切れない。

 仮に逃げられたとしても都市から脱出できない。

 くっ! ……どうする?

 ともかくミッドに支援魔法を、今はそれしか手立てが無い。

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者の時を早めよ!』

「ファストスピード!」

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ!』

「ファストガード!」

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ!』

「ファストガード!」

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に力を与えよ!』

「ファストパワー!」

 連続で四回。フィスリムの防御支援も含めて防御系から順に掛ける。六回の連続魔法使用で身体がフラフラする、頭がガンガンする。世界が廻って前が見えない。

 だが、これで少しでも時間が稼げる。

 まずは状況を整理しよう。

 絶対的な戦力差で『確実』に勝てない。

 それはこの世界がそういうルールで動いているからとしか言えない。

 絶対的なルールだ。2レベルの俺が57レベルの勇者であるミッドと本気で戦って確実に勝てないのと同じと表現する。それでもダメなら1レベル初期装備で隠しボスを倒せるかと尋ねる様な物だ。

 誰もが言う、絶対に無理だと。

 じゃあ諦めるのか? それも無理だ。死ぬ瞬間まで諦めきれない。

 ならば戦いを挑むのか? 勇気と無謀を履き違えるな。

 考えろ、無い知恵を絞れ。出せる手駒は全て使え。


 種族/淫魔 性別/女 年齢/十

 出身/人間界 容姿/幼い 社会的地位/見習い淫魔

 称号/世界の権利者、身体を貢がせた女 レベル/2

 取得能力/人化、淫魔の発現、練習状態異常魔法、練習支援魔法、審美眼、十字の神罰

 世界依頼発生中/『都市を救え!!』『聖女を守れ!』


 くそっ! 貧弱過ぎる。

 使おうにも手段が無さ過ぎる。

 人化を解いて状態異常魔法を掛けるか? ステータスの関係で万が一もありえない。

 90レベルあれば、もしかしたら万が一にも掛かったかもしれないが。

 今いる全員の能力を思い出せ。使える物はなんでも使え。


 種族/××××××××××× 性別/女 年齢/18

 出身/人間界 容姿/若く美しい 社会的地位/労働奴隷

 称号/不敗、力の証明 レベル/22

 取得能力/××、物理戦闘力、魔力変換(物理)


 種族/人間 性別/男 年齢/21

 出身/人間界 容姿/中の上 社会的地位/見習い勇者

 称号/守りの刃、勇者叙任 レベル/57

 取得能力/剣術才能、見切り、乗馬、完成された剣技、両手剣技能、下級光魔法、俊敏上昇(中)、全能力上昇(微)、状態異常体性(小)不屈の刃、勇気の証明


 種族/××××× 性別/女 年齢/××

 出身/××× 容姿/神聖な姿 社会的地位/××××、ブリストールの聖女

 称号/祈りの聖女、宴の聖女、豊作の聖女、××××× レベル/49

 取得能力/中級治癒魔法、MP消費量減少(大)、魔法学習力(超)、酔体性(完全)祈りの言葉、蒼い瞳


 全員強いと思う。だけど、オークキングの能力と比べると全てが足りない。

 三人に頼るのは廃案だ。使えない。使ったらそいつが死ぬ。

 はは……手立てが無い。

 これが八方手塞がりって奴か。

 デバックの足りないゲームに良くある、戻れないセーブポイントみたいだ。

 こんな時にチート能力が覚醒してくれればいいのに。

 さっきから称号の欄を何度も動かしているがウンともスンとも言わない。

 いざって時に役に立たないチート能力に何の価値があるって言うんだ!

「うっ……」

 目眩が少し回復したのか視界が映り始める。

 下では丁度フィスリムがオークキングの巨大な剣を受けて吹っ飛んだ所だ。

 正直言えば善戦だ。よく22レベルでこれだけ耐えた。

 天才と言ってもいい、戦士として最強になる逸材だと断言する。

 だが、敵が悪すぎる。あまりにも……レベルが足りない……。


 そして

     ミッドに攻撃が当たり

                リーズが駆け寄って治癒魔法を。


 二人にゆっくりと

          ………………

                ……………………………………。


 咄嗟に顔を逸らす。

「救世主様! やっと追いつきましたぞ」


 種族/人間 性別/男 年齢/32

 出身/人間界 容姿/中年気味 社会的地位/冒険者

 称号/なし レベル/13

 取得能力/斧技能、両手斧技能


 冒険者。一人だけ残した護衛だ。

 斧を持っている。

 安っぽい質素な斧だ。

 斧……フィスリム……教会……十字架……。


「それだ!」


『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に力を与えよ!』

「ファストパワー!」

 やってきた息を上げている冒険者に支援魔法を掛ける。

 その詠唱は今までとは比べ物にならない位早い。

 魔法にもあるのかは解らないが火事場の馬鹿力って奴だろう。

「直にあの十字架を伐って!」

 俺は教会の頂上にある大きな十字架を指差して言った。

「そ、そんな罰当たりな事できるわけがありま」

「ファストチャーム!」

 俺は無詠唱で魅了魔法を使う。

「黙って伐れ!」

 人化を解いてはいないが魅了には成功した。冒険者は言う事を聞き始める。

 俺はその間にも支援魔法を唱える。

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者の時を早めよ!』

「ファストスピード!」

 速度支援を掛け、教会の本当の頂上、一際目立つ十字にそびえる物体。

 そこに冒険者と共に素早く上る。

「責任は全て俺が持つ! だからやってくれ! この街の全ての命が掛かってるんだ!」

「わ、わかりました」

 俺は必死過ぎて、鬼の様な形相をしていたと思う。

 それ位焦っていた。

 冒険者の振りかぶった斧が十字架の付け根に当たる。当たる。当たる。当たる。

 伐る速度が足りないっ。

 それなら!

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に力を与えよ!』

「ファストパワー!」

 重ね掛けは適応する様だ。

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に力を与えよ!』

「ファストパワー!」

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に力を与えよ!』

「ファストパワー!」

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に力を与えよ!』

「ファストパワー!」

 伐っている冒険者にファストパワーを重ね掛けする。頭にヒビが入るみたいに痛い。

 そして考えられない速度でみるみる内に伐採が進み、丁度半分程木線が入った所でオークキングのいる方向へと蹴った。

 するとゆっくりと、バキバキと音を立てる。

 俺は小さな手を全て使って掴めない柄を掴む。

 そして教会の天井を半壊させながら倒れていく。

 十字架が地面へと落下し、柄が浮いて、俺も一緒に浮くが、この手だけは離さない。

 地面にはオークキングが佇んでいて、こちらには気付いていない。


「上を見ろおおおおぉぉぉぉぉ!」


 悲鳴にも近い人生最大の咆哮を捻りあげて、落下していく。

 俺は今、口元が不気味な位笑っている。頬が力んでいるから解る。

 オークキングが空を見上げる。


 ――十字の神罰!


 ズバンッ!

 あるはずの無い感触が手元にやってくる。

 だって、あんな巨大な物体から振動が伝わってくるはずないだろう?

 能力が発動したからか周囲に巨大な十字架が落ちた様な被害は無い。

 何故か俺は十字架の上に佇んでいる。

 視線の先にオークキングが映る。

 フィスリムの倍はあろうかという巨体だ。

 ああ、こいつってこんなに大きいんだ……。

 フィスリムもミッドもよくこんな化け物と戦えたもんだ。

 俺だったら足が震えて動けなくなるよ。

 本当、あいつ等凄すぎだ。

「これで勝てないなら、打つ手ないんだよな……」

 まだオークキングは立っている。

 俺はフラフラと十字架の上を歩いてオークキングへと近づく。

 その先にいる、ミッド、リーズ、フィスリム。

 俺を信じてしまった奴を一人でも救う為に。

 手を伸ばす。手を伸ばす。

 なんで、こんなに頭痛いんだっけ……そうか連続で魔法使ったからか。

 MP0だろうな。逆算するとマイナスか。

「んっ……」

 不自然に身体が軽くなって、頭がスーっと涼しくなり、視界が開けていく。

 やはりオークキングが佇んでいる。

 序盤からいきなり90レベル帯のボスは無いよな。

 俺は2レベルだっての。


 ――オークキングの頭の中心から一本の線が入る


 そして、半分に割れた。

 血がドバーッと噴出して赤い雨が降り注ぐ。

 グロッ!

 ふ、服が赤く染まっていく! き、気持ち悪い!

 デーンッ! と二つに割れたオークキングの身体が地に着く。

 大きな十字架。

 静まり還る広場。

 その視線の中心にいる、俺。


「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」」


 ふっと沸いた様にあがる歓声。

 その場にいた全ての人が叫んでいる。

 いや、よく見ると目元には涙が浮かんでおり、嗚咽を漏らしている者もいる。

「よかった……よかったっ……生きてる……ううっ……」

「何泣いてんだ。ここは笑う所だろ!」

 そこ彼処から聞こえてくるのは、そんな安心感に満ちた明るい声だけだ。


 世界依頼/都市を救え!! 『達成!』

 内容/ブリストールの街が魔物に占拠された。

 達成条件/魔物の殲滅及び、魔物の親玉の討伐、あるいは撃退。

 報酬/依頼達成者手動選択。

 適正レベル/100。


 世界依頼/聖女を守れ! 『達成!』

 内容/ブリストールの街が魔物に占拠された。

 達成条件/聖女リーズを保護し、他二つの依頼を達成する。

 あるいは依頼終了期間まで聖女リーズを守りきる。

 報酬/上級身分証明書。

 適正レベル/80。


 視界には金色に光る二つのワールドクエスト『達成』という文字。

 虹色の表現や紙吹雪まで飛んでいる始末。

 相当難しいクエストという表現だろうか。

 ハハハ……適正レベル100ってなんだよ。

「おおっと」

 ワールドクエスト達成を眺めて安心したのか、腰に力が入らず、何歩も後ろに後退しながら転んだ。

 石畳の固い感触がお尻を打って痛かった。

 と、思ったがそれ程痛くない。

 ……あー、なるほど。レベルが上がったんだ。

 オークキングは90レベルで俺は2レベルだからな、上がって当たり前か。

 それでも……腰が抜けて力が出ない。

 十字架とアイキャンフライしたのが原因か、90レベルの化け物と戦ったのが原因かは解らないけどな。

 だけど、俺凄くね? 自分で自分を褒めたい時って、普通恥ずかしくってそうそう無いけど、今この瞬間は俺凄い天才だ救世主様って自慢して廻りたい。

 多分、それ位勝利の高揚感に酔っているんだと思う。

 だって未だに身体中の血液が沸騰しているみたいに熱くて、火照っているんだ。

 2レベルで90レベル倒したんだぜ? どんなやり込みプレイだ。俺達凄過ぎだろ。

「ユタカ様! 聖女様、早く来てください!」

 勝利の余韻を味わっていると慌てた表情でフィスリムが俺の方へ近寄ってきた。

 吹き飛ばされた際に出来たと思わしき怪我が青く腫れていて痛々しい。

 あんな化け物と戦って良く生きているよな。

 今直ぐ笑って言ってやりたい。

 良くやった! お前は最高だ! って。

「お怪我は無いですか!?」

「ああ、完全に無傷だ。恥ずかしいけど腰が抜けている」

「ユタカちゃん! 大丈夫ですの!?」

「い、以下同文!」

「腰に力が入らない怪我をしているじゃありませんの!」

「そんな無茶な……」

「直に治癒魔法を使いますわ」

「いやいや、もっと掛けなくちゃいけない相手が沢山いるでしょう」

 フィスリムとかミッドとか、他にも沢山。

 ほら、ちょっと周囲を見渡せば怪我で転がっている人が沢山いる。

 でも、その表情は安堵に包まれている。怪我をしているのに笑えるって凄いな。

「ユタカ様以上に治癒を必要としている方はいません。ですから大人しく腰に力が入らない怪我を治す為に安静にしてください!」

「ユタカちゃんを万が一にでも怪我させたとなったら、わたくしは皆さんから淫乱聖女豚性奴隷にされてしまいますわ!」

「あんたは今、言ってはいけない事を言った!」

 女の子が性奴隷とか言うな。

 それにしてもフィスリムもリーズも異様にテンションが高い。

 言葉の端々から笑みが零れている。

 もちろん俺もそうなんだけど、人間ここまで明るくなれるんだな。

 今なら笛を吹きながら裸踊りしてやってもいい。

 いや……それは調子乗りすぎだ。酒呑み過ぎた泥酔親父か。

「いいや、リーズ、お前は間違ってないぞ。ブリストールの救世主様を傷物にしたら皆で犯すからな! 何が何でも腰に力が入らない怪我を治すんだ!」

 ミッドも笑顔でそんな事を言ってのけた。

 おい、勇者。お前はなんちゅー事を……。

「ええ! 傷を一つでも残したらヤっちゃいますわ!」

 なんなんだ。このバカさ丸出しのエロトークは。

 年寄りの下品なセクハラかって位ナチュラルに出てくる。

 人はこんなにもエロくなれるというのか。現在の高揚だから出てくるんだろうけどさ。

 だから、だろうか。

 サキュバスの悪い癖が出たんだと思う。

 というかエロい事は淫魔である俺の専売特許だろう。

 こんな心も身体も高揚した、本能まるだしの状態で黙っていられる訳が無い。


「ダメだダメだ! フィスリムもリーズも俺の物だ! 絶対、誰にも渡さないからなー!」

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


ここで一つネタを。

今日一日ランキングを見ていると自分のとそっくりなタイトルを発見。

ああ、似たような話が投稿されている!

パクリって言われたらどうしよう!? おろおろ。

とか慌てていたら良く見たら自分のでした。


予想以上に沢山の人が読んでくださった様で、

感謝してもしきれません。

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