表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

異世界権利者と世界依頼【前編】

 ――不神と絶望の都市ブリストール――


 この地に佇むは北西に大教会。南東に冒険者組合。

 教会には清く美しい聖女が、冒険者組合には勇敢な勇者が守護していた。

 二つの組織は互いに力を合わせ、都市を大いに栄えさせた。

 しかし一振りの闇によって都市は滅びの運命を辿る事になるだろう。

 闇の深さに勇者は倒れ、届かぬ祈りは聖女を汚す。

 民の命は無残に毟られ、怨嗟の声は留まる事を知らず。

 彼等の力ではあまりにも儚く、救いの光は未だ足り得ず。

 やがて闇は広がり、全てを巻き込み始めるだろう。


 選択者は……足り得るか……?


   †


 ブリストールには日没前には到着した。

 いや、正確にはブリストールの前に到着したと表記した方がいいか。

 都市の門は完全に締め切られており、その門へ繋がる一本の橋は上げられている。

 橋の繋ぎと思われる地面には商人か何かが逃走の際に捨てていったと思われる商品の残骸などが散見される。一応確認にと調べて見るも流用出来そうな物は無かった。

 単純な言い方をするならば、要するに入り口が無い。

 尚、ワールドクエスト発注から数時間は経過している所為か依頼内容に変化があった。


 世界依頼/教会を救え! 失敗。

 内容/ブリストールの街の教会が魔物に占拠された。詳細は不明。

 達成条件/魔物の殲滅及び、教会の存命者の救出。

 報酬/二つの依頼と混合(達成数に応じて報酬変化)。

 適正レベル/不明。


 大きく×印と失敗の文字が書かれている。

 おそらくブリストール内部の教会は既に魔物によって奪われてしまったのだろう。

 最悪の場合、教会の存命者も殺害された可能性が高い。

 それよりも俺自身が都市内部に進入する方法を考えなければならない。

 実の所何通りか考えてある。

 1、下水道を使用する。

 下水道は複雑な道だが都市内部へと入る事は可能だろう。しかし下水道について知識も地理も無い。魔物と遭遇するかもしれないし光源の類も所持していない。下手をすれば教会の魔物では無く下水道で死ぬ危険すらある。

 2、門を強行突破する。

 現在の俺の小さな体格ならばちょっとした穴があれば突破できる。

 しかしこの案はあまりオススメできない。まず現在の能力では力業での破壊はまず不可能。後、門に損傷の形跡が見られない。壊れていない可能性が極めて高いので徒労に終わるのが予測できる。

 そして最後に――

「よし、誰もいないな?」

 既に日は落ちて辺りに人気は無い。

 もしもここに誰かいるとすれば俺と同じくブリストールへ外部から入ろうと試みている怖い物知らずって所か。

 ともあれ俺は下水道も門も時間が大きく掛かると踏んで多少の危険と安全を天秤に掛けて外壁を羽で飛び越える手段を取る事にした。

 丁度夜という事もある。

 淫魔は夜の種族でもある。

 夜目は一部の亜人種と同等、あるいはそれ以上に高い。

「あっちの十字架の建物が教会で、そっちの大きな建物は、何かの商会か?」

 一応地理の確認を取りながら外壁を越えて地面に着地。

 教会と思しき建物からは黒煙がモクモクと上がっていた。魔物が教会を占拠した、という情報に嘘偽りは無いだろう。

「うっ……なんだこの臭いは……」

 外壁が風の邪魔をして解らなかったのだろう。街内部に入った俺が最初に受けた感覚は不快感だった。

 嗅いだ事の無い臭い。ゴミ捨て場の様な、生ゴミが腐った様な腐臭。

 妙に鼻につく金属質な、率直な表現で血液の臭い。

 嫌な想像が脳裏を過ぎり、首を振る。

 幸い俺が着地した位置に魔物と思わしき生物の姿は確認できない。

 暗くても目が利くのは大分助かる。

「おっと、忘れる所だった」

 人化を使い人間の姿に戻る。便利な能力だ。

 俺は人間の姿に変身するとそのまま都市部へと向かう。

 教会……に向かうのはいくらなんでも自殺行為だ。

 やはり聖女とやらと遭遇するのが無難だろう。

 聖女という位だ。治癒魔法に精通している可能性は十分考えられる。

 まあ俺が状態異常魔法と支援魔法しか使えない事を考えるにバランスは悪いが。


 世界依頼/聖女を守れ!

 内容/ブリストールの街が魔物に占拠された。

 達成条件/指定の人物を保護し、他二つの依頼を達成する。

 あるいは依頼終了期間まで聖女を守りきる。

 情報/現在対象は東部を南下中。身体は満足に機能している。

 報酬/二つの依頼と混合(達成数に応じて報酬変化)。

 適正レベル/不明。


 情報が更新されて、聖女の現在位置が判明した。

 取り敢えずはコレの指示通りに行動するとしよう。

 俺は聖女の進路予想先へ向かって急いで走り出す、そうしようとした矢先。


「助けてええぇぇーー!!」


 大きな声が響く。

 男とも女とも取れない中性的な声。

 必死な叫び声が発声者の危機を強く示している。

 半ば反射的に声の方角へ全力疾走していた。

 俺に届く程度の距離という事もあり、声の主は直に見付かった。

「こ、こないで!」

 対象は俺には気付いておらず、三匹の魔物に囲まれている。

 魔物は二足歩行の豚の怪物だ。

 オークという奴か? だけど、緑色の肌の魔物もオークだった様な?

 一応仮にオークという名称としておく。

 オークはある程度の知性を所持しているのか木の盾と鈍器を所持している。

 鈍器は金属ではなく木製だ。

 しかし先端に巨大な殻物が付いていて、当たれば……少なくとも今の俺なら致死性のダメージを受けるだろう。

「イヤァァっ!」

 そんなオークの一匹を一撃で粉砕した人物がいた。

 ちなみに俺では無い。ここにいない第三者でも無い。

「な!?」

 俺は目を疑った。

 助けを求める本人が、オークを素手で吹っ飛ばした。

 なんちゅー破壊力……。

 助けを求める声の主は巨大な身体をしていた。

 目算で俺の二倍から三倍はあろう大きな身体。

 巨人族。

 首の辺りに青い刺繍の様な紋様があり、付けているボロボロな衣服の程度からも奴隷か、あるいはそれに近い身分階級だと想像に容易くない。

 ゲームの頃は世界の作りはランダム作成されるので地理や物価などが毎回違う。

 しかし巨人族は固有の世界を所持していない種族だったはず。

 繁殖率もそれ程高くない事から驚異的な身体能力を除けば人間よりも世界的地位は高くない。無論、この世界が多種族で運用されているので巨人だからという理由だけで奴隷階級という訳では無いが。

「そんな事考えている場合じゃない!」

 俺は疑問を振り払って、錯乱している巨人に向かって支援魔法を詠唱する。

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ!』

「ファストガード!」

 緑色の光線が巨人に命中して身体を包む。

 名の通り防御力に影響のある支援魔法で、ファストパワー同様肉体補助効果も得られる。

「え?」

 巨人は突然の介入に呆けた声をあげる。

 このままでは危険だ。俺は直に口を開いて叫ぶ。

「落ち着いて聞け! これからお前を支援する。今は目の前にだけ集中しろ!」

「は、はい!」

 体格差だけならば俺の方が圧倒的に劣るが巨人は俺の強気な態度に強く頷く。

 オークはこちらに気付きこそすれど、明らかに体格が貧弱な俺を見て鼻を鳴らすと巨人に再度向き直した。

 むかつく態度だ。見た目で判断するとか三流か。

 俺は内心オークに毒付きながらファストパワーを詠唱する。

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に力を与えよ!』

「ファストパワー!」

 しかし……ファストパワーが決まるとオーク達は既に地面に伏していた。

 あれだ。詠唱中、無防備に集中し過ぎて敵が突然倒れた様に見えて驚いた。

 魔法の難点はこれか。

 もしも詠唱中に殴られたら受身すら取れずに死ぬな。特にあんな鈍器じゃ。

 確か能力に詠唱速度上昇やら意識二分といった感じのがあったはず、そういう能力が個人的に欲しいな。

「ふぅ……ふぅ……」

 魔法を連続で使用したからか、息が上がっている。

 ゲームではMPが存在したが、どうやら魔法も体力勝負な所がある様だ。

 まあ仮にMPがマインド、精神だとするなら100あるMPを半分も使ったら精神疲労は凄いだろうし、実際魔法を使う場合ゲームの様にMP0まで使うなんて事は考えない方がいいな。

「だ、大丈夫ですか?」

 気が付くと共に戦った巨人が話しかけてきた。ぶっちゃけ俺は何もしていないが。

 一応は俺を心配してくれているので何度も呼吸しながら大丈夫と手を上げて表現する。

「あなたは……だいじょ……うぶ……だった?」

 魔法による精神疲労ハンパないな。

 マラソンを完走した直後みたいに身体が酸素を欲している。

 無理矢理捻りあげたみたいな声になってしまった。

「はい! あなた様のおかげです!」

「あはは、支援したつもりだったんだけど、結果だけ見ると必要なかったかもね」

「そんな事ありません!」

「おっと」

 軽い口調で返した言葉を反論された。

 状況が状況だけに俺が介入したのが良い結果になって嬉しい。

「それで何があったのか教えてくれない? おれ……じゃない。私はちょっとこの辺りの事情に疎くて」

「そ、それが、お昼頃突然魔物がい、いっぱい、現れて、魔物が襲って、きて、皆、血がドバって出て、戦えって言われたけど、いくら倒しても全然減らなくて、その内、旦那様も殺されて、それで、それでっ」

 あー……ミスった。

 安易に錯乱状態にあった人物に過去を聞いたのは不味かった。

 巨人は酷く狼狽して、情報とも取れないうわ言を喋っている。

 えっとこういう時どうすれば良いんだ? 生憎と俺は引きこもり暦10年のニートだぞ。

 PTSD発症している奴の心を落ち着けるなんて芸当、普通に無理だ。

 あ、でも、なんか妙にこの子を見ていると抱きしめたくなる。

 いや、エロイ意味じゃないぞ。

「大丈夫、大丈夫だから……」

 俺は巨人の大きな手を取ると両手で抱きしめる。

 どこかで多分ネットだが、他人の暖かさは強い安心感を与えると聞いた事がある。

 あれか、サキュバスの本能なのか? 今まで感じた事の無い欲求だ。

 こう……あれだよ……それが……どれが……いいや、説明できない。

「…………」

 ムズムズと胸の底から。

 あはっ! あはは、あははは……。

 って俺が癒されてどうすんじゃ!

 本能やばいな……身を任せたら自我が飛びそうだった。

 淫魔が人間を当然の様に襲う理由に納得いったわー。あれは普通に襲う。

「あの、もう落ち着きました、よ? 顔赤いですが大丈夫ですか?」

「ああ、これはよくじょ……なんでもない。ここは危ないから移動しようか」

「はい」

 欲情していたとか口が滑りそうになった気がしないでも無い。

 一応この際に何気なく目を合わせる。

 すると勝手に審美眼が発動した。


 種族/××××××××××× 性別/女 年齢/18

 出身/人間界 容姿/若く美しい 社会的地位/労働奴隷

 称号/不敗、力の証明 レベル/22

 取得能力/××、物理戦闘力、魔力変換(物理)


 おお。かなりのパワーキャラクターだ。

 先程の戦闘でかなり強いと思っていたが取得能力も称号も物理系が多いな。

 社会的地位はやっぱり奴隷なのか。

 ん? 若く、美しい? 美女なのか!

 いや、まあ日本でもオタフクみたいな女が昔は美女として扱われたとか聞いた事がある。つまり彼女も然るべき所に行けば美女なのかもしれん。まあ人間基準だと労働奴隷って事はえっち要員では無いんだな。

 それにしてもこの『××』という伏せ字は何だろうか。

 種族と能力の欄に書かれている。

 審美眼程度の能力では調べられない上位能力とかか?

 まあ良い。今は聖女とやらを見つけなければ。

「わたし、フィスリムって言います」

「……あ、名前か。おれ、じゃない。私はユタカ、支援魔法以外は見た目通りよ。あなたに守ってもらうかもしれないけれど、よろしくね」

「はい! ユタカ様を絶対ぜ~ったい、お守りします!」

 いや、そこまでは……。

 フィスリムは随分とやる気で俺に懐いている様に見える。筋肉の塊みたいな種族&能力構成の人物が現時点で小娘っぽい俺を慕うとは……ある意味凄いな。

 奴隷商人もよくこんなちょっと反撃されて、蹴られでもしたら鮮血の結末みたいになりそうな奴を奴隷にしていられるな。ある意味凄いな。

「フィスリムちゃん……は年上に失礼か、フィスリムさんでいいかな?」

 ちなみに『さん』というのは微妙にヤーサンな人に言う感じが含まれている。

「え!?」

「な、なに?」

 やばい、機嫌でも損ねたか。

 今の俺ならパンチされただけでバラバラ死体の出来上がりだぞ。

 なんて、違うであろう心配をしていると。

「初対面で女の子だって思われた事無いもので」

「フィスリムさんはこんなにかわいらしいのに間違えるはずがないわ」

 なんか咄嗟にお世辞が出たぞ。

 言い訳として述べておくが俺の人生でお世辞などネトゲ位でしか使った事が無い。

 現実でお世辞なんて恥ずかしい以前に言った経験すら無いけど。

 あれか、サキュバスか、淫魔の本能が俺を侵食しているのか?

 俺は大聖寺優、人間だぜ。誰がサキュバスになんかに堕ちるか……はい、ありがとうございました。便利に使わせてもらっています!

 などと脳内でアホな葛藤をしていると巨人がボンっと頬を赤く染めた。

「そ、そんなかわいいだなんて……てれてれ」

 顔を両手で当ててイヤンイヤンと振りながらてれてれ言っている。

 筋肉ウーマンの癖に、ちょっとときめいちまったじゃねーか。

 というか近くで聞くと透き通る美しい系の声だ。訓練すればオペラとか出れそう。

 美女なのか、美女なのか?

 やばい、外面と内面の差異が気になってしょうがない。

 そうですよ。見上げないといけない位自分より大きい奴にでも女性って聞くだけで緊張する程度には恋愛経験無いのさ。ニートで引きこもりだしな。

「とととと、取り敢えず何があったか説明できる? さっきも言ったけど私は少し事情に疎くて、何も考えずに行動するよりはフィスリムさんの意見を聞きたいの」

「はいっ! なんでも答えてしまいます!」

 何か段々テンション上がっていくな、この子。

 まあ自分でもそうなるだけの覚えはあるけど。

「今日の昼頃、突然教会の方角から火があがって、魔物が沢山現れたんです。それでわたし達奴隷も、都市の人も戦ったんですが、この辺りは治安が良くてあまり強い人とか良い武器も無くて、皆、やられてしまって。気が付いたらわたし一人になっていて」

「そうか……大変だったね」

「もしも、ユタカ様がこなかったらわたしも犯されていたと思います」

「……なんだって?」

「はい、男は殺されて、女は犯されるものですから」

「……唖然」

 口に出す位、唖然としていた。

 いやまあ、この世界は一応エロRPGだからね。そういう感じなのは知っているけどさ。現実でもそういう話良く聞くしな。

 というか『も』って言ったか『も』って。

 アレだ。凌辱的なナニかが……俺も倒されたらそうなるんだよな。

 ワクワクなんてしている場合じゃないぞ。

「あ。ユタカ様のお歳では知りませんよね。大丈夫です、ユタカ様の純潔はわたしが守ります。絶対ぜ~ったいですっ!」

 知っているけどさ。

 そういう話ってこの世界では普通にベラベラ言ったりするのか?

『待てよ? ここに入った時、嫌な臭いが……』

 ぶつぶつと自分にしか聞こえない声で呟く。

 パズルを組み立てるかの様に状況と憶測で想像していくと。

 多分、そうなんだろうな~……。

 陥落寸前都市怖過ぎだわ。

「そういえばフィスリムさん。聖女様の外見ってわかる?」

「聖女様は存命なのですか!?」

「多分。でも直接会った訳じゃないから確証は無いかな。その口調だとわかるよね?」

「はい、わかります」

「よかった。なら急ごう」

 少々寄り道したが問題は無いだろう。

 一応聖女の現在位置を確認しておくか。


 世界依頼/聖女を守れ!

 内容/ブリストールの街が魔物に占拠された。

 達成条件/指定の人物を保護し、他二つの依頼を達成する。

 あるいは依頼終了期間まで聖女を守りきる。

 情報/現在対象は東部を南下中。身体は満足に機能している。

 報酬/二つの依頼と混合(達成数に応じて報酬変化)。

 適正レベル/不明。


 そんなに時間を経過してはいないので、情報に変化は無い。

 当初の予定通り、聖女が通る道を先回りすればいいな。

「じゃあ、こっちへ」

「はいです!」

 東南というとさっき見た大きな建物か、あれは何の建物だろう。

 教会とは間逆の位置にあるので大きさとしては対照的だ。

 しかし教会ほど特徴的な外見をしていないので何の建物かは解らない。

「ねぇ。あの建物は何をしている場所?」

「あれですか? 冒険者ギルドですよ」

「冒険者ギルドか……」

 冒険者ギルド。

 男なら一度は憧れるファンタジーの王道要素にして大規模組織。

 俺の世界でいう中世の教会並みに浸透していて、職業にしている者が沢山いる。

 個人的には登録しておきたいな。

 まあ都市がこんな事態なのに機能しているとは思えないが。

『待てよ? 聖女が向かっている先が冒険者ギルドの方角?』

 昼に魔物が教会から大量発生して、街は大混乱に陥った。フィスリム達は防衛で善戦するも陥落。そして間逆の位置に冒険者ギルド。

 平和な街とはいっても少なからず暴力を商売にしている集団の溜り場だからな。こんな事態だからこそ活躍の場だ。つまり生きている奴は自然と冒険者ギルドに集まるって事か。

 俺はどこをうろついている聖女よりも冒険者ギルドを目指す。

 前方をフィスリムが小走り気味に進んでいる。根本的に歩幅が違うのが理由だ。

 それに不足の事態にフィスリムの方が対処し易いだろう。

 別に誰がこうだと決めた訳ではないが自然の流れとしてこうなった。

 おそらく会話の前後と行動から冒険者ギルドへ向かっている事を察したのだと思われる。

「それにしても、東南といえばこの辺りだろう。どこブラついて――」

 口にするよりも早く、視界横から発せられる銀色の光に気が付いた。

 きっとサキュバスとしての夜目の良さ、そしてTRPG的表現をするなら6ゾロでも引いたに違いない。それ位奇跡にも近い事をやってのけた。

 まずその光が刃渡りの広い白銀色の刃物である事を見抜いた。そして身体を捻るように貰い物の錆びたハンティングナイフを……フィスリムの身体を引き裂んとしている剣閃に合わせて両手で構えた。

 ガンッ!

 金属と金属がぶつかる音と火花が飛ぶ。

 余程強い力で振りかぶられた刃は錆びたハンティングナイフに半分程めり込んでいて、もう少し相手の力量が高ければ俺の身体まで届いていた。

「きゃっ!」

 喉から反射的に少女の様な声が響く。

 そのまま俺の身体は吹き飛んでフィスリムの腕にぶつかった。

 フィスリムは体格が良い所為かビクともしておらず、何が起こったのか瞬間的には理解出来ていない。

「フィスリム、敵! あなたが斬られ掛けた!」

 そう叫ぶと同時にフィスリムは俺の前に飛び出して敵対者へと飛ぶ。

 事前に掛けてあったファストガード、ファストパワーの効果はまだ残っている。

 ちょっとやちょっとの攻撃では無意味だ。それこそ不意打ちでもしかけなければ物理能力構成の巨人族に勝てるはずも無い。

「巨人族が何故こんな所にいる!」

 腕の関節が外れる様な痛みに堪えていると敵対者が言った。

 青年だ。人間の青年。年齢は目測で10代後半から20代前半。

 金属の胸当てにフード型のマント、そして篭手。旅の剣士風の姿をしている。

 胸当てやフードには大量の血痕が付着している。

 そして青年は大きな両刃の剣をフィスリムに構えていた。

「ユタカ様にまた命を助けられました。今度は絶対ぜ~ったいっ! わたしがお助けするのです!」

「質問に答えろ!」

 直にフィスリムと青年の戦闘は始まった。

 フィスリムは種族も能力も物理構成だ。更に俺の支援魔法も掛かっている。

 単純な攻撃では負けない。

 だが、青年はフィスリムのパンチやキックが肌に触れるミリ単位の距離で間合いを詰めて剣閃を走らせる。

 俊敏値、多ければ多い程敵の攻撃に対して回避補正、この場合自分の動きを早め、敵の動きを見切るステータスと表現しよう。

 その攻撃もフィスリムはパワフルに跳躍やステップで避わす。

 あれは俊敏値では無い。どちらかと言えば腕力値と体力値から来る動きだ。

 腕力で通常では考えられない移動を可能として敵を翻弄する。

 パワー系戦闘の見本の様な動きだ。

 逆に青年は高い俊敏値から来るヒット&アウェイというRPGの主人公タイプの型だ。

「って黙って見てちゃダメだろ」

 あまりに見事な戦闘だった為、呆然としていた俺だがファストスピードを唱えれば勝てない敵じゃない。

 だが先程の会話、何か違和感を覚える。

 もう一度青年へ目を向ける。

 不意打ちをされたのは事実だが、とても快楽や金銭の為に戦っている様には見えない。

 そもそもフィスリムも俺も金持ちに見える格好をしていない。

 もちろん青年の衣服が大量の血を吸っているのは事実だ。

 勘だけで敵を良い奴などとは発言できないが。

「たあっ!」

 青年の身体にフィスリムの豪腕が襲い掛かる。

 また避けるだろう。随分と余裕がある様にも見える。

 と、思ったのだが青年はその攻撃を篭手で受け止めて渋い顔をした。

 あの程度の篭手では相当なダメージを受けたはずだ。

 何故だ? 何故避けなかった。

 あの青年にはそれが出来るだけの力があった。それなのに避けなかった。

 ――何か守る物がある?

 俺は反射的にその結論に至った。そうでも無ければ説明出来ない。

 というか人間の青年がこの条件化で守る物といえば何個も無い。

「やめろ!」

 フィスリムは一瞬、俺の叫びに耳を傾けた。

 が、青年の動きが止まらない為フィスリムも止まれない。

「そっちもだ! 今がどういう状況なのかわかってるだろ!」

「こんな時間にうろついている巨人族が味方の訳が無い!」

 こ、こんな時に人種差別かよ。

 フィスリムが一瞬悲しそうな表情をした気もするが直に青年へと意識を戻す。

 あーもう! あんな顔みたら黙っていられないじゃないかよ。

「何が巨人族だ! この状況に人間も巨人族も関係あるか! それともお前は人間界だからって人間以外が住んじゃいけないとでも言うのか! 自分の世界を持たない種族だって沢山いるんだぞ! ふざけんな!」

 このゲームは……世界は、良くも悪くも種族間の認識差異が大きい。それは作者の趣味なのかどうかはわからない。魔族と天使は仲が悪いし、エルフは人間を嫌う。そして人間は多くの種族を敵として奴隷としたり差別の対象としたりしている。

 それが悪いとは思わない。多くの知的生命がいるんだ。そうなっていない方が不自然だし、沢山の種族が混沌としている世界観が構成されている。

 だが、巨人族という理由だけで敵っていうのは異世界人である俺の感性から許せない。

 それは俺みたいな淫魔に向けられる目だろう。

 腹が立つ。ワールドクエストだから正義よりって事で人間の味方になるつもりだったが、そうか、俺はサキュバスだったな。こんな奴等が人間だって言うんなら敵対してやろうじゃないか。

 俺は半ば怒りに任せて人化を解こうと動くが。

「その少女の言う通りですわ! ミッド、剣を引きなさい!」

 人化をOFFにする直前、女性の高い声が響いた。

 そしてミッドと呼ばれた青年の後ろからスタスタやってくる。

 金色の髪、蒼い瞳、紫色の正装、典型的な外国系美女。

 簡略して表現するとやってきた女性は教会っぽい格好をした美女だった。

「リーズ!? しかし!」

「引きなさいと申しているのですわ!」

「は、はい!」

 俺はビックリして半ば呆然とリーズとやらに見とれていた。

 魅力値が高いのかもしれない。

 リーズはこちらに歩いてくるとフィスリムに一度頭を下げた後、俺の所にやってくる。

「ミッドが先走ってしまってすいません。気を悪くしたのならわたくしがいくらでも謝罪しますわ。ですから怒りを静めてくださいまし」

「い、いえ」

「手が震えているわ。お優しいんですのね。自分では無い誰かの為に怒れるんですもの」

 言われて気が付く。俺の両手は強く握られていて力で震えている。力を緩めると筋がちょっと痛んだ。自分でも気が付かない内に気が立っていた様だ。

「優しいとかじゃないです。当たり前の事です」

「そうですわね……」

 リーズは振り返るとミッドを睨みこう言った。

「ミッド、民を守るべく使命を受けたあなたが民に剣を向けるとはどういう事ですの! それでも勇者と胸を張れるんですの?」

「す、すみません……」

「勇者?」

 俺はリーズが口にした言葉をそのまま反芻する。

 そうか、確かに彼の行動原理は王道的な勇者のソレだ。

「ええ、彼は勇者なのですわ」

「見習いです」

「見習いでも勇者は勇者ですわ。魔物に襲われた教会を単身で乗り込み、わたくしを救ったその行いはまさに勇者と言わずしてなんと申しますの?」

「完全に勇者だな」

 ポツリと呟く。ほとんど反射的にだ。

 状況は理解出来た。

 彼がこの街に最初からいた事から聖女リーズが生存しているんだな。


 世界依頼/聖女を守れ! ○ 第一段階達成!

 内容/ブリストールの街が魔物に占拠された。

 達成条件/聖女リーズを保護し、他二つの依頼を達成する。

 あるいは依頼終了期間まで聖女を守りきる。

 情報/対象と遭遇。

 報酬/二つの依頼と混合(達成数に応じて報酬変化)。

 中間報酬/能力十字の神罰取得。

 適正レベル/不明。


 銀色の光を放って視界に映る。

 第一段階か、つまりこれからリーズを守るか、街を救わないといけない訳だ。

 そして表示された文字に目を追うと気になる文がある。

 中間報酬。

 今回は十字の神罰。

 確か斧系統の上位技だった気がする。

 斧、しかも特定の武器じゃないと発生しない能力だ。

 一応確認してみよう。


 種族/淫魔 性別/女 年齢/十

 出身/人間界 容姿/幼い 社会的地位/見習い淫魔

 称号/世界の権利者、身体を貢がせた女 レベル/2

 取得能力/人化、淫魔の発現、練習状態異常魔法、練習支援魔法、審美眼、十字の神罰

 世界依頼発生中/『都市を救え!!』『聖女を守れ!』


 特殊系統/十字の神罰。

 効果/十字斧を使用する際に使用可能な能力。

 敵対者に攻撃した際武器の総重量に応じて固定追加ダメージ(大)を発生させる。

 条件/使用者は一拍で十ホッグを跳躍して攻撃を命中させる。


 ちなみに何気なく表示されたが1ホッグは微妙な差異を省くと1メートルだ。

 俺の感想はお約束通り。

 できるか!

 10メートルも飛べるか! そもそも十字斧なんて持ってないわ!

 もしかすればレベルが上がってくればそれ位余裕なのかもしれないが、今の俺は普通の人間に羽と尻尾が生えた程度の、まさしく唯の見習い淫魔だっての。

 残念ながらまとも使える能力では無さそうだ。

 まあこういう事もある。

 後々この能力は売って、能力ポイントにでも変換しとくよ。能力レベルは高いから結構な量になるだろうしな。

 ちなみに能力ポイントは大きな都市で使える、能力を買ったり売ったりする事が出来るポイントの事だ。そんなに使う機会は無いが、これでいらない系統能力を補完する事は可能だ。

「すまない。冷静さを欠いていた」

「はい?」

 思考が別の方向に行っていて聞いてなかった。

「いや、全く持って君の言う通りだ。巨人だから人間だからといがみ合っていては守る物も守れない」

「そうですね。でもそれを言うのは私ではなく、彼女にです」

「そうだった。すまない」

 そう告げると勇者ミッドはフィスリムの方へ歩き、頭を下げていた。

 フィスリムの方は気後れしているのか恥ずかしそうにしながらも許している。

 勇者に聖女、そして巨人族か。

 もしかしたら街を救うのも不可能ではないかもな。

「それで聖女様と勇者様は何をしていらしたんですか?」

 今更遅い様な気がするけど口調を敬語に直して尋ねる。

「ああ、それがな、生存者のほとんどは冒険者ギルドに避難しているんだが、人手が足りなくて困っているんだ。街は未だ魔物だらけで誰かがこの辺りだけでも守らなければ朝を迎えられない」

「なるほど、それで勇者様が名乗りをあげて、それに聖女様が付いて来たって感じですか」

「「「…………」」」

 当然の事を当然の様に反芻しただけなのに俺を除く三人が驚いている。

 俺は怪訝な表情を三人に向けながら告げた。

「ど、どうしました?」

「すごいですわ。まるで見て来たみたいに当ててしまうんですもの」

「ああ、君は神童かい? だがこれ程頭の良い君位の子がいるって話は聞いた事がないが」

「さすがユタカ様です」

 などと賞賛の声が上がる。

 初対面の奴等に褒められるのって凄い照れるな。

 とは言っても別段それ程凄い事を言った訳でも無いんだけど。

「いえ、勇者様は先程も何かを守っている様に戦っていらっしゃったので予測の範囲です。逆に聖女様は少し会話しましたが他人に任せて自分は楽をする人柄で無さそうでしたから」

「なるほど。わからん」

 勇者はかしこさが足りなかった。

 世界観的にあんまり頭良い奴いないのか?

 まあそうなれば知略の面で多少は助言できるけど。

「それにそれに、ユタカ様は支援魔法も使えるんですよ!」

 自慢気に語るフィスリム。

 あんまりそういう事自慢するなよ。誰が聞いているのか解らないんだぞ。

「本当ですの!? 何を使えるんですの?」

「ファスト系のパワー、ガード、スピード、マインドなら一通り。ですが体力的に使用回数はあまり高くありません。今日だけで既に五回使っているので」

 状態異常魔法の方の分も含めた。

 あっちは消費量低そうだけどな。何せ全然疲れなかったし。

 種族が種族だからMP消費量に補正が付いているんだけどさ。

「四つも……それに五回もですの?」

「もちろん休憩を挟んでです。夜になってからは2回しか使っていません」

 何か不穏な空気が流れたので補足を付け足す。

 基準がわからん。

 取り敢えず支援魔法しか使えない設定で行こう。

「えと、聖女様、お聞きしたいのですが。魔法を使えるのは珍しい事なんですか?」

「とても珍しい事ですのよ。特にあなた位の年齢ではまず使えませんわね。わたくしの知る限りでは名のある師に十年仕えて始めて使える様になると聞いた事がありますわ。わたくしも物心付く前から……母の教育で四歳から先生に習いましたわ」

 そりゃ酷い。

 安易に魔法が使える設定は不味かったな。道理でおじ様おば様が目を輝かせていた訳だ。

 それに加えて状態異常魔法まで使えたら疑われるな、きっと。

 魔法の浸透率はどうやらかなり低いらしい。

 ゲームでは体験版でも仲間になるキャラが普通に所持していたので勘違いしていた。

 考えても見れば人間で魔法を使えるのは勇者や聖女といった具合に名のある役職に就いている人物が多い。

 となると魔法が使えて名前が知れ渡っていない俺はおかしな存在って訳だ。

「ともかくここでは危ない。一度冒険者ギルドに戻ろう」

「はいですわ」

 俺とフィスリムは頷くと勇者ミッドに続いて歩き出した。


 冒険者ギルドはその場から程なくして到着した。

 普段なら職員が応答しているのであろうカウンターは現在開店休業中で人はいない。

 広いホールにはテーブルやイスが端に寄せられて、沢山の人が胡坐をかいている。

 中には明かりが点灯しており、怪我をしている者、横になって眠っている者、無気力に座っている者など様々な人々でごった返している。年齢もまちまちで親に連れそられた子供やその両親、肌を露出させないアラヴの宗教服みたいなマントを付けた女性、冒険者の様な厳ついおっさんなど避難所と例えるのが適切か。

 それ等の人々が勇者ミッドと聖女リーズを目に入れた瞬間パアァっと明るくなった。

 カリスマ、ハンパないな。

「ミッド、外はどうだった!」

「大丈夫だ。この辺りの魔物はあらかた片付けた」

「おお……」

「聖女様、お怪我はありませんか?」

「ええ、皆さんの祈りが届いたのでしょう。わたくしもミッドも傷一つありませんわ。それよりもブレトさんのお怪我は大丈夫ですの?」

「はい、先程一命を取り留めました。これも聖女様のおかげです」

 各々が勇者と聖女に語りかけて喜びを分かち合っている。

 なるほど、勇者聖女と呼ばれるだけの事はあるな。

 なんとなく心が安心した気分になる。

 ドッと疲労感が身体を襲う。

 良く考えれば目覚めてから歩いて、馬車に乗って、歩いての連続だからな。それに加えて魔物との戦闘、魔法の使用、疲れて当たり前か。

「それでリーズ様、そちらの方は?」

 そして大衆の一人が俺とフィスリムを指差して尋ねた。

 リーズは俺の手を掴むと優しく手をあげて答える。

「この子はユタカちゃん。この街『ブリストール』を救う為に神が送ってくれた救世主ですわ!」

「……はあ!?」

 思わず俺は声を荒げた。

 何を言っているんだ、この人。というかまだ名前教えて――さっきフィスリムが言っていたっけ……だとしても本人の許可位取れよ。

 俺はミッドに困った表情を向ける。

 すると俺の意見を汲んでくれたのか。

「ああ、俺の剣を一発耐えたんだぜ! 何より魔法が使えるんだ!」

 ブルータスーお前もかー! ミッドだけどー。

 人々は希望の眼差しで俺を見つめてくる。

 え? 信じちゃうの?

 勇者聖女が総じて賞賛するもんだから信用されているんだろうけどさ。

「何より俺とタメを張れる巨人族の仲間も連れてきてくれた」

 今度はミッドがフィスリムを前に押して大衆の前に紹介する。

 フィスリムも「え? え?」みたいな驚いた顔をして慌てている。

 こりゃダシにされたな。さすが勇者聖女って言われるだけはある。悪い意味で。

「おお、救世主様!」

「我等に救いを与えたまえ、救世主様……」

「神よ……」

 などと思い思いに口にする人々。

 どんだけー。大衆との温度差に凍えそうだ。

「救世主様、魔法を皆さんにお見せになってくださいまし」

 聖女様大興奮!

 なんだろうね、この人。

 しかも辺りはシーンと静まり還って俺をキラキラした表情で見る目、目、目。

 これは裏切れない……詐欺に遭っている気分だぜ。

「えっと、この後警備に就く方は……」

「俺だぜ」

「ミッド? まだ警備を続けるの?」

「もちろんだ。じゃないといつ襲われてもおかしくないからな」

「…………」

 俺は辺りを見渡す。

 避難民の数と被害状況から数日はもたない。

 もって明日、か。

 何よりミッドとリーズに負担を掛け過ぎている。仮に明日、敵の親玉に決戦を挑むとするならミッドとリーズ、そしてフィスリムは状況的に必須だ。

 その三人に疲労が残っている場合、街を救うのが不可能になる。

「ミッドじゃダメだ」

「俺は大丈夫だ。これでも鍛えている」

「そうじゃない。明日、敵を殲滅するなら勇者様には身体を休めてもらわないとダメって言いたいの。この中で一番強いのはあなたでしょう?」

「そ、そうだが……」

 凄いな、勇者様。「そ、そうだが」とか当然の様に口にしたぞ。

 自信も凄いが、なによりもそれが事実なのが一番凄い。

「できれば、そう……ここは冒険者ギルドでしょ。何人かで徒党を組んで2時間単位でここを守るって状態にできない?」

「だが、皆疲れきっているんだ」

「そっか……」

 となると橋を降ろして逃走という作戦に乗り換えるか。

 そうすればミッド個人の力量ではなくなる。

「俺達が行こう!」

 別の算段をしていると避難民の一人、装備から冒険者と思わしき男性が声をあげる。

 後ろに二人立っていて全員、簡単な武器を携帯している。全員が全員体格は平均よりも良く、冒険者なのだと一目で解った。

「本当ですか?」

 俺が質問すると男達は「おう!」と大きく頷いてみせた。

 元気はありそうだ。もちろん、空元気という可能性もあるが。

 そして声高々に自分もと挙手する人々。中には戦闘能力に乏しそうな者までいた。

 無理はさせられないが、これだけの人間が協力すれば朝までは持つ、はず。

 何分経験が無い。というかある訳が無いから感情で決めてしまう。

「じゃあ魔法を掛けます。ただし無理だけはしないでください。皆さんは敵を倒す為にいるのではなく、家族を、隣の人を守る為に行動するんです。そして絶対に生き残ってください」

 どこかで聞いた様な言葉を吐きつつ。俺は冒険者の男に支援魔法を唱えた。

 今までは気が付かなかったが足元に幾何学模様、魔法陣という奴が展開されている。

『力の根源足る主が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ!』

「ファストガード!」

 一分程の詠唱が完了してファストガードを使うとワッ歓声が上がった。

 救世主様救世主様と口にしている。

 大勢の、これだけの人間に感謝されるのは恥ずかしさを通り越して嬉しかった。

 そして他二人、計三人にファストガードを使った所で頭痛が襲ってきた。

 呼吸は荒く、立っているのもやっと、という状態だ。

 MPを100だと例えるなら70は使って残り30といった所だろう。

 さすがにこれ以上使うのは危険だ。

 リーズやミッドもそこは理解してくれたのか、休む場所へ俺を運んでくれた。

 直接運んだのはフィスリムだけどな。

「先程はすみませんわ。皆さんを元気付けるにはユタカちゃんを凄い人と思わせるのが一番だと思って……」

「だけど、あそこまでうまくいくとは思わなかった」

「さすがユタカ様です!」

 三人は各々に俺を賞賛する。

 まあそんな所だろうとは見当が付いていたけどさ。

 ちなみにフィスリムは素で言っている気がする。

 ともあれワールドクエストの達成に近づいている。

 後は敵の親玉、ボスモンスターをどうやって倒すかだ。

 勇者ミッドと聖女リーズ、巨人族のフィスリムがいれば支援魔法を使えば勝率は悪くないと目算しているが予断は許さない状況だろうな。

「えっと地図は無い?」

 横になったまま尋ねる。

 敵が教会を占拠しているという情報だけではどうにも足りない。

 どこで、どうやって、どの様に、倒すか考えないと。

 負ければ死んで……犯されるんだっけか? どっちも変わらない。

「ありますわ。地図を見てどうするんですの?」

「単純に私はこの街の地理に疎いので」

 そう答えて、地図を眺める。

 ……出来の悪い地図だ。

 大体こんな感じといった具合の地形が描かれているだけだ。

 紙の質は地球基準では悪い方ではあるがそこまで悪い物でもない。

 魔法か何かで製紙技術があるのだろう。

 だが、この地図ではどうとも言えない。

 となるとやはり決戦を仕掛ける場所は教会の前、ボスが出てくるタイミングで仕掛けるのが無難か。

 ボスの存在云々も考えたが確実にいると踏んでいいだろう。何故ならミッドやフィスリムの話を聞く限り敵は統率が取れている。

 でなければミッド程の人物がいる都市が簡単に陥落するはずが無い。

 後、ミッドとリーズの能力を確認しておきたい。

 信頼値がある程度あれば能力まで見えるが、内心なんて解らないからな。

 俺はベッドからミッドを見ると目があった。


 種族/人間 性別/男 年齢/21

 出身/人間界 容姿/中の上 社会的地位/見習い勇者

 称号/守りの刃、勇者叙任 レベル/57

 取得能力/剣術才能、見切り、乗馬、完成された剣技、両手剣技能、下級光魔法、俊敏上昇(中)、全能力上昇(微)、全状態異常耐性(小)不屈の刃、勇気の証明


 さすが勇者と言った所か。

 全てに置いて戦闘的な強さを発揮している。特に剣を持たせればかなりの強さだ。

 それにしてもレベル57ね、随分と高いな。

 となると今回のワールドクエストは50レベル帯といった所だな。

 正直、レベル2の俺にさせるにはちょっと厳しいクエストだ。


 種族/××××× 性別/女 年齢/××

 出身/××× 容姿/神聖な姿 社会的地位/ブリストールの聖女、××××

 称号/祈りの聖女、宴の聖女、豊作の聖女、××××× レベル/49

 取得能力/中級治癒魔法、MP消費量減少(大)、魔法学習力(超)、酔耐性(完全)、祈りの言葉、蒼い瞳


 リーズは典型的な回復キャラといった感じだ。

 便利な能力を複数所持しているのでレベル以上の活躍は確実だ。

 何よりMPの消費量が低いのは素直に羨ましい。俺も欲しいよ。

 気になるのは酔耐性(完全)だ。ザルか、酒をザルの様に飲めるのか?

 今度聞いてみよう。

 複数伏せ字になっているのがあるけれど人によって変えられるのか? フィスリムも何個かあったはずだ。

 人間じゃないのか? 他にも人間界出身じゃないのか?

 年齢については聞くなって事か。どこの世界も女の子は大変だな。

 ていうか、こいつ等なんなの。俺よりも40レベル以上高いとか、どんだけ強いんだよ。多分、こいつ等が俺に本気でパンチしたら死ぬぞ。

 こりゃサキュバスだって事バレたら即死だな。

 絶対に人化は解かない方が良さそうだ。

 唯一つ意外だったのはレベルが倍以上も差があるフィスリムが支援魔法を受けていたとはいえ、ミッドと同等に戦った事だ。

 魔力変換(物理)だったか。

 確か、魔力の数値の高さとMPを消費する事で攻撃力を上昇させる能力だったはず。

 だけど巨人族はそんなに魔力的に秀でる種族じゃない。

 むしろ巨大な身体を長所とした物理系だ。

 だからフィスリムにとって魔力変換(物理)はオマケ程度の能力だろう。

 他にも伏せ字で見えなかった能力があったけど、そっちの可能性もあるな。

 まあ、あんまり干渉するのも面倒だ。

 隠しパラメータか審美眼では見えない能力があるのかもしれない。

 そもそも審美眼に頼り過ぎるのも危険だ。

 信頼度や能力を見られるから便利だったのでついつい使っていた。

 これの所為で相手の人間性を見誤ったら大変だ。

 ある程度は自分でも考えないとな。

 そんな事を考えている内に重度の疲労感からくる睡魔が襲ってきた。

 最初は耐えていた俺だがこくりこくりとしている内に深い眠りの世界へと旅立っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ