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異世界権利者と帝国

  ――才能と巨壁の国家スカンブリア帝国――


 この地は古くより栄える巨大国家が存在する。

 世界最大国家としての力は高度な技術力と人々の強い思想にあった。

 この国では何十年にも渡り右側、左側と人々を差別する風習がある。

 何故ならば国土を半分に割る巨大な壁が遮っている。

 そして右側には能力者が、左側には無能力者が暮らしているからだった。

 もしも自身の能力に自信があるならば、帝国に仕官する事を勧めよう。

 皇帝陛下は何代にも渡り高い能力者至上主義を貫いている。

 誠に才能があるならば、その才覚は一月とせずに評価されるであろう。

 やがて人々はこの国をこう呼んだ。


 才能と巨壁の国家スカンブリア帝国、と。


   †


「ふあ……」

 眠りからの目覚めには違和感を伴った。

 まどろみとでもいうのか、夢心地とでもいうのかは解らないが現実感がない。

 というのもブリストールを旅立ってからずっと野宿だった。

 もちろん最初こそ不満はあったが三日もしたら虫が寄ってくる感触にも慣れた。

 要するに今俺はベッドの上で寝ている。しかも凄くふわっとして柔らかい。まるで夢という物質をそのまま持ってきたみたいに柔らかい物だから、まだ夢なのだと思ったのだ。

「ダイ……ショウジ……様?」

 座ってまどろんでいるとそんな声が響いた。

 なんとなく驚きの含まれた声に、その方向へ顔を向けると女の子が一人。

 優しそうな女の子だ。衣服はメイド服に似ている様な気がしないでもないが、メイドというのはイギリスの産業革命後のヴィクトリア朝で発展した文化だったはずだ。この世界は中世を意識した作りだったはずなのでメイドと表記するのは間違っているかもしれない。

 だが、その姿は俺が想像する典型的なメイドだった。

 おそらくはエロRPGという神の見えざる改変の影響だろう。

「ダイショウジ様、意識はあるんですか? 少々失礼させていただきます」

 メイド服の女の子はそう言うと俺の目蓋を人差し指と親指を使って開く。

 痛くはないが、眠い気分が一気に吹っ飛んだ。

 更には口の中にまで指を入れてきて、まるで病人でも扱う様にしている。

「大丈夫、だいじょうぶだから。それで君は? どうして私はここに?」

 一連の行動でどうやらこれが夢ではないという事が結果的に明かされてしまった。

 こんなにはっきりと覚醒した状態の夢がある訳が無いからだ。

「すぐに、直に戻ってくるので少々お待ちください!」

 そのまま女の子が部屋から出て行く。

 忙しない女の子だったな、などと考えつつ周囲を見渡す。

 とても煌びやかな部屋だった。

 桜色のレース掛かった、少女マンガにでも出て来そうなテントみたいな天井にカーテンが付いたベッド。枕の隣に安置される熊のぬいぐるみ……テディベアだったか、が陣取っている。まさに女の子の部屋をビックスケール化したみたいな部屋だ。

 その他、化粧台と鏡。近くには等身大鏡まであった。

 要するにピンクピンクした冗談みたいな女の子の部屋と表記すればいいのか。

 そこで当然ながら疑問が上がる。

 どうしてこんな場所にいるんだ?

 ブリストールにいた頃だってこんな柔らかいベッドで眠った事なんて無い。

 ふと、気付いた。

 少し胸の辺りが苦しい。

 長年ニートをやっていたので知っていたのだが、長い事仰向けのまま眠っていると肺の辺りが苦しくなってくるという記憶がある。

 つまり俺は相応の期間眠っていた事になるのではないだろうか。

 だが、それでも符合しない。

 俺の記憶が正しければ俺が意識を失ったのはフィスリムの背中だ。

 あの決意を俺は忘れていない。

「ん?」

 部屋の外からドタドタと人の走る音が聞こえる。

 なんとなく懐かしい気がする。ブリストールにいた頃はこんな音を聞くのも珍しくなかった。最近はフィスリムとの二人旅だったので静かな暮らしだったが。

「ユタカ様!」

 そこに妖精モードのフィスリムが血相を欠いて入ってきた。

 隣には先程のメイド服の女の子もいる。

 というか。

「フィスリム、姿、姿! ああ……もうダメなのか……」

 妖精モードのフィスリムにそういったのだが、既に遅いと諦める。

 いや、それはおかしくないか?

 そもそも安易に他人に見せられる姿ではないはずなのは俺以上にフィスリム本人が一番解っているはずだ。つまりメイド服の子にはフィスリムがフェアリージャイアントである事を知っていても問題ないという事になる。

「フィスリム、どうにも状況がわからな――うわわっ!」

 最後の手段として本人に訊ねようと思ったのだが感極まったフィスリムに抱きつかれた。妖精特有の香りと軽くて柔らかいフィスリムの感触がする。

「泣いているの?」

 抱き付いているフィスリムは今俺が着ている……ネグリジェ? みたいな薄い生地の寝巻きを水滴で湿らせた。それが涙だと気付くのにはそんなに時間は掛からなかった。

 フィスリムがこんな反応をするというのは俺に何かあったという事なんだろうが。

「何かあったの?」

 目元を擦り、鼻を啜った後、フィスリムは比較的に聞き取れる声で話してくれた。

「は、はい……ユタカ様はあの後おかしくなったみたいにぼーっとして、瞳の色も濁って、わたしが話しかけても声にならない小さな声でしか答えてくれなくて……」

 話を要約するとこうだ。

 俺がフィスリムの背中で意識を失ってから、俺の反応がとても弱くなった。

 どこぞの廃人の様に反応が弱く、フィスリムの目からは頭のおかしくなった奴隷……壊れてしまったかの様だったと話す。

 正直そんな事を言われても実感が無い。

 しかし……俺は直前に世界の権利者としての能力を使っている。

 あれが何かしろの副作用を発症させたと考えたらどうだろう。

 魔法による副作用で身体に力が入らず、廃人の様に無気力な状態になった。

 かなり無理がある気もするが、それ位しか思いつかない。

「それでここは?」

 フィスリムの話なので全面的に信じるが、その話と現状が一致しない。

 何日心神を喪失していたかは不明だが、少なくともこんな状況になるのは不自然だ。

「そ、それは……」

 とても言い辛そうにフィスリムが顔を伏せる。

「我が後宮だ」

 その声に扉の方向へ反射的に顔を向けて、警戒態勢を取った。

 一度した失敗は繰り返さない。それが俺、大聖寺優だ。

「そう警戒する事もあるまい」

 そこには……中性的な細身の男とも女とも表現出来ない人物、スカンブリア皇帝が佇んでいた。

「そりゃ、一度殺されかけているんだ。警戒するなって方に無理があるでしょうに」

 ここに来てやっと状況が合致した。

「ここは、スカンブリア城か!」

「うむ、その後宮だ」

 俺は直様フィスリムに顔を向ける。

 状況が全く解らない。何故俺がスカンブリア皇帝の後宮にいるのか。

「あの……宿屋で、困っている所を、助けてもらいました……」

 皇帝陛下は約束通り、俺を手に入れる為に嬉々揚々と俺の居場所を察知して向かったはいいが、そこには変わり果てた俺の姿が。

 話を聞いてみれば自分と戦った後遺症の様に倒れた状況で後宮に招いた。

 そんな話を早口にされた。

「あんた、良い人なのか悪い人なのかどっちなんだよ」

「我は妃に対して当然の処遇を取ったまでよ」

「妃、ねぇ……」

 俺はベッドの上部にある台に置かれた自分の冒険者カードを手に取る。

 認証確認と表示された後。


 種族/淫魔 性別/女 年齢/十

 出身/人間界 容姿/幼い

 社会的地位/ヴィエルジュ、ブリストールの救世主、スカンブリア帝国第一王妃

 称号/世界の権利者、身体を貢がせた女、救世主(×2) レベル/12

 取得能力/人化、淫魔の発現、初級状態異常魔法、初級支援魔法、審美眼、十字の神罰、詠唱速度上昇(少)、カリスマ(少)、影響力(中)、魅力上昇(×2)、淫魔の狂気、紫水晶の瞳、料理技能、魅了耐性(大)、発情耐性(完全)

 身分証明/教会の印、冒険者組合の印、スカンブリア皇帝の印


 はあ……。

 案の定の不安が予想を超えて表示されている。

 スカンブリア第一王妃、スカンブリア皇帝の印。

 なんだろうね、これは……。

「印が入っているのはまだいいよ。あなたに気に入られていたみたいだしね。だけどさ、この第一王妃って何? 私は許可を取った覚えが無いんだけど」

「我は己の物は大事にする主義だ。我は汝を気に入った。妃にすると決めたのだ」

「なんだろう、頭痛がする訳でもないのに頭が痛いよ……」

「それはいかんな、我が国の優秀な医師を呼ぼう」

「そういう意味じゃないから、いらないよ」

「む、そうか?」

 俺は久々に頭に手を当てて大きく溜息を吐いた。

 もしかしたら俺は、サキュバスの少女は、こういう星の元に生まれたのかもしれない。

「フィスリム、この話はどの程度まで広まっているの?」

「え? そ、そそそ、それは……」

「わかったから、もういいよ」

 慌てた様子のフィスリム。この時点で大体状況は把握できた。

 この態度を取るフィスリムは大体、俺が困った顔をするのを理解している時だ。

 それに……当時のフィスリムからすれば、藁にも縋る思いだっただろう。それを利用……一応相手も善意だった様だから悪くは言わないが、どうしてこうなった。

 どうしてこうなった!

「はぁ……助けてもらったみたいだから御礼を言うよ。ありがとうございます。あなたのおかげで助かりました」

「我は妃に当然の行いをしたまでの事。気にする必要はない」

「だけど、妃云々はやり過ぎじゃないかな。私はあなたと結婚するつもりはない」

 そもそもなんで、野郎なんかと……こいつ男か?

 男か女か解らないし、未だに性別の欄×だし、本当わからん。

 先に述べておくが俺は結婚なんかする気は無い。

 第一、十歳の女の子を、しかも淫魔の子を妃とかおかしいだろう。未成年だぞ。

「シェフィルのどこがダメだって言うの! ダイショウジ様をこんなに愛してくれているのに!」

 突然、俺の態度にメイド服の子が叫んだ。

 訳が解らん。痴話喧嘩なら別の所でやってほしいよ。まったく。

「シェフィルというのは皇帝陛下の事?」

「うむ、我の名だ」

「これまた男なのか女なのか解らない名前を……」

 シェフィル・スカンブリア。

 それがスカンブリア皇帝陛下の正式名称だそうだ。

 というか、このメイドの子。皇帝陛下を呼び捨てにしたけど、何者?

 先程から……いや、俺の意識が回復したのを確認したのが彼女なのだから当然の義務だとは思うが、メイドという役職的に行動からチグハグな印象を受ける。

 そもそもこの子が何メイドに属すのか解らない。

 ゲームだった頃のメイドを下地に置いた場合、どうしても溝が出てくる。

 メイドという職業は確かにこの世界に存在する。

 だがその姿は、どちらかといえば萌え系よりも、リアル重視だ。

 つまりハウスやパーラー、ナースやランドリー……。

 もうこの際……全部記載する。

 ハウスメイド、パーラーメイド、ナースメイド、ナニー、カヴァネス、ランドリーメイド、スカラリーメイド キッチンメイド、コック、デイリーメイド、スティルルームメイド、レディースメイド、パーソナルメイド、ハウスキーパー、オールワークス。

 と、言った具合に役職が存在する。

 中世世界に対して、少々矛盾がある様な気がしないでもないが、この世界は元々エロRPG……萌え要素は必須と言えた。

 それがエロ同人という物だし、否定もできない。

 余程有名サークルでなければエロの無いDL同人を買う人間は激減するからな。

 故に本来男に仕えるのは男性使用人なんだよ、とかいう現実は多少無視されていた。

 俺も一応、一度メイドという職業が気になってやったのだが、職業の幅とクラスアップの幅が広い、ある種経営系ゲームの様な形相に変化する。

 そもそもメイドと一括りにしているが、役職で行う仕事がガラリと変化するのだから、使用人という職業が良く解らなかった。

 なんでも当時ネット内では、作者メイドオタク! だとか騒がれていたっけ。まああのゲームに限って言えばメイドに限らず職業系は基本マニアックだったが。

 それが社会問題になる程のゲームとしてのクオリティだった。話によれば一部のメイドオタクが絶賛する程だったのだから、相当な出来だったと思う。

 ……思考が脱線した。

 ともかく、この子がメイドだとして、どうしてこんなに口を挟んでくるのかが解らない。

「あなたは誰? 皇帝陛下とはどういう関係なの?」

「あ、あたしはシンジュ。シェフィルとは幼馴染なの!」

 幼馴染……実在したのか……。

 現代日本の王子様と言えなくも無い大金持ちの息子の俺ですら、そんな天然記念物いなかったというのに……この皇帝陛下、リア充か?

 しかも良く見るとシンジュは結構な美女だ。

 パーラーメイド……要するに顔が良くて身長が高い、グラビアアイドルみたいな女性にしかなれない役職にでもなれそうな美女だと表現しよう。

「うむ、シンジュは我とは幼少の頃よりの付き合いがある。そして我が初めて才覚を見定めた相手でもある」

「へぇ……じゃあ凄い能力者なの?」

「うむ、シンジュがいるだけで我が王城は塵一つ積もったりはせぬ」

 そりゃすげぇ!

 あんな無限増殖する、いくら掃除しても沸いて来る電子機器の敵を良くぞそこまで。

 そんなシンジュさんですが、現在俺を敵視して睨んでいます。

 どうにもフィスリムと同じ匂いを感じる。

 こう……皇帝陛下を妄信している様な、そんな匂いだ。

 よし、一つカマを掛けて見るか。

「陛下、シンジュさんとはどの様な関係で?」

「む? 正に述べたばかりであるが」

「もっと具体的に」

「ふむ……唯の幼馴染だ」

「あうっ……」

 俺に怒りを向けていたシンジュさん、突然のテンションダウン。

 大体二人の関係は把握できた。俺は鈍感属性を所持していないからな。

 そういう訳で一言言わせてくれ。


 ――エロゲの主人公かてめぇ!


 幼い頃から自分の身の回りのお世話をしてくれる幼馴染。

 しかもメイド。幼馴染メイドだ。

 なんだよ、そのありえない設定。

 金持ちのニートだって、そんな子いなかったよ。

「もう一回」

「唯の幼馴染だ」

 俺が傷口に塩を塗りこんだ気もしないでもないがシンジュさんは更に『しゅん……』と落ち込んでいる。その姿にまるで気が付かない皇帝陛下。

 なんなんだよ、このリアルエロゲー。

 こんなに周りからみたらエロゲってもどかしい気分になるっていうのか?

 エロゲの主人公、ヒロインの友人に一言言ってやるよ。お前等、本人達の問題だからねーじゃなくて、もっと協力してやろうぜ。

 しかもなんで俺はこんなエロゲの中にヒロインとして落とされているんだよ。

 訳が解らん。

 何よりもこの皇帝陛下に物申したい。

 世界中のマンガ、ラノベ、ゲーム、ギャルゲ、エロゲ好きの皆、俺を許してくれ。

 俺も嫌いだが、この瞬間だけはコレをしなくちゃいけない。

「こんの鈍感野郎の朴念仁がああ!」

 そう叫んで俺は皇帝陛下の頭を全力で殴った。

 無論、あまりにもレベル差があったのでダメージがある様には思えない。

 俺の突然の行動にフィスリムもシンジュさんも驚愕の表情をしている。気持ちは解るよ、解るけどさ。今だけは頭がイカれた奴だと思ってくれも良い。だから言わせてくれ。

 ああ、俺も嫌いだよ。暴力系ヒロイン。

 どんな理由があるにしても他人に暴力を振るうなんていくらキャラクター作りとはいえ、どうかと思っている。

 だけど……だけどこの瞬間だけは許してくれ、世界中の同士よ。

「な、なにをするの! シェフィルが何をしたって言うのよ。あなたの意識が戻らない間、仕事で忙しいのに合間を縫って毎日看病に来ていたシェフィルにあなたって人は!」

「その優しさをもっと別の方向に向けろやあああ!」

 もう一発、今度は腹パンをかましてやった。

 だからなんでお前って奴は、エロゲの主人公みたいに所構わず好感度上げているんだよ。

 俺はエロゲの友人キャラクターの様に他人面出来ない。いや、解ってはいる。彼等は物語の仕様上そうするしかなかったのだろう。だからこそ無視できない。

 何より俺の身体、サキュバス……エロ子も叫んでいる。

 言ってやろうじゃないか。エロゲの友人共がやれない禁忌って奴をな。

「シンジュさん!」

「は、はい!?」

 俺がシンジュさんの両肩を掴むとシンジュさんは直前まで敵対意識を向けていた俺に透き通る声で返事をした。

 今更だが、なんとなくエロゲに出てくる苦労しそうな幼馴染タイプに見えて来た。

「こいつは面と向かって言わないと一生気付かない!」

「ええ!?」

「私には黙って見ている事なんて出来ない。だからあなたの、シンジュさんの気持ちを踏み躙ってしまうかもしれない。けれど、言わせてもらう」

 そのままくるりと回転してスカンブリア皇帝シェフィル・スカンブリアに目を向ける。本人は何事にも冷静に対処できるタイプなのかビクともしていない。

 その姿がちょーっとばかしイラっとする。

「この子は、シンジュさんは、あんたの事が好きなんだよ。愛しているんだよ!」

「……なに?」

 皇帝陛下はとても関心を示した表情で俺を眺めた後、シンジュさんを眺める。

 シンジュさんの方は顔を真っ赤にして、完全に混乱状態だ。

「どうして言うの! どうして言うの!」

 なんて俺を強く非難してくるが気にしない。

「我もシンジュの事は好きであるな」

 やっぱり相思相愛なんじゃないか。

 だが、皇帝陛下はそこから更に言葉を続ける。

「しかし、我は汝の事はもっと好きだ」

「……殺すぞ」

 俺が軽蔑の混じった、出来ているか解らないが殺気を織り交ぜた視線を向ける。

 シンジュさんの方はもう半泣き状態だ。

「この様な場を『修羅場』と呼ぶのであろう? 我の目に入った書物に書かれていた。我は二股などせぬ。誠に好意を寄せる者だけに瞳を向ける」

 こいつはなんで俺をこんなに呆れさせるんだろうな。

 単純に嗜好の違いか?

 無論、優柔不断な主人公は俺だって嫌いだ。

 一人を愛する純粋な恋愛だってとっても大事だと思う。

 だけど皇帝陛下なら、偉い人なら出来る道は一つじゃないだろう。

「あんた皇帝陛下だろう! なら自分を本気で、心から好きって言ってくれる子を全員幸せにしてみせろよ!」

 そりゃ、世の中一人としか結ばれないゲームは多い。

 現実だってそうだ。例外はあれど、少なくとも日本では一人には一人しか結婚できない。

 だが、ハーレムモノだって沢山あるじゃないか。

 何よりもハーレムモノは全員が幸せになれる。

 それを出来る器なら、少なくともレベル240の実力が伴った、世界最大国家スカンブリア帝国の皇帝陛下なら実現できるはずだろう。

「ふむ、面白い……シンジュよ」

「……?」

 シンジュさん状況が解らずよろよろと立ち上がり、皇帝陛下の前にやってくる。

 皇帝陛下はとても感心した表情をしている。丁度、俺が世界の権利者を使って攻撃を避けた時と全く同じ表情だ。


「汝を第二王妃とする。異論は認めん。シンジュ、汝はこの瞬間より我が妻だ」


 例えるならブリストール奪還戦十字架落下事件に近い。

 これによって俺はスカンブリア帝国に深く関わっていく事になる。


   †


「ふあ……」

 何かさっき目が覚めた時も同じ様な事を口走った気がするが、まあいいだろう。

 先程は場の流れに任せて適当な事を言ってしまったが、なんかおかしくないか?

 なんで俺は今、スカンブリア皇帝陛下の後宮で第一王妃なんてやっているんだ。

 先日……じゃないんだったか。

 俺が心神喪失してから二週間が経過していたらしい。

 この世界は一週間が6日だから、つまり12日経っている事になる。

 正直、全くもって無自覚だ。

 まあフィスリムが嘘を言うはずも無いし、真実なんだとは思う。

 思考を戻すが、俺とスカンブリア皇帝ってさ、こう……しばらくは敵対関係が続く感じじゃないかな、普通。仮に仲間になるにしてもそれは戦いに戦いを繰り広げてから目覚める、戦友よ! みたいな感じで。

 しかも奴隷紋を付けてでも手に入れてやる、なんて言っていた割には結局意識を失って困っている俺を助けちゃっているし、奴隷紋掛けてないし。

 本当、良い奴なのか悪い奴なのか、どっちなんだよ。

 どうも出鼻を挫かれた感じがするな……。

 今更命の恩人を『俺の敵!』として認識するのは失礼だろう。そもそも不可能だ。

 俺の精神はそこまで極端に出来ていない。

 だが、これだけは譲れない。

 誰が結婚なんかするか。野郎の妻なんかになるか。何が第一王妃だ。

「それにしても風呂なんて久々だな……」

 今、俺は広い宮殿みたいな風呂に入っている。

 丁度良い温度で40度付近だろうか。話によれば温泉ではなく冷泉だそうだ。

 腐ってもスカンブリア帝国、巨大国家の後宮といった所か。どれだけの経費を支払ってお風呂になっているのかは想像も出来ない。

 燃料を使って暖めているのか? 他にもスカンブリア規模の国なら炎系魔法から風呂を暖めているという可能性もあり得る。

 まあ使って良いというなら存分に使わせてもらおう。

 この世界では基本濡れた布で身体を拭くか水浴び程度だ。

 お湯に入るという風習が無いというよりは金銭的に高くなり過ぎて入れない物だと思っているのだが、実際はどうなんだろうな。

 さすがにどこぞの糞尿を窓から投げ捨てるというベルサイユ的な現実が異世界を破壊する事は無かったので、しょうがないと諦めていた。

 お? なんだ?

 俺の身体であるエロ子が何か意思を伝えてくる。

 主に以前女の子は好きな相手になら縛られても良いとか言っていたみたいなアレだ。

 え~っと、水浴びでは体臭は落ちないんだよ?

 そうなのか、ブリストールや長旅で臭いには慣れていたので気にならなかった。

「ユタカ様は湯浴みの経験があるんですか?」

 どさくさに紛れて逃走した俺は、一人で入ったつもりだったのだがフィスリムにそう訊ねられて我に返る。久々のお風呂という事でリラックスし過ぎたな。

 その場には布で必死に素肌と羽を隠している妖精モードのフィスリムの姿が。

 あれだ。アニメなら謎の怪光線と深い煙が胸と股間近くに寄ってくる感じ。

 女の子同士なのだから気にする必要は無い……はずなのだが、フィスリムさんあなたやっぱりでか過ぎです。

 俺の知っているラノベのヒロイン的に。

『お、おっきいです! 大きすぎます、メロンですか!』

 て、レベルだ。さすがにメロン程ではないが、分類でいえば相当大きい。

 そして自分のを眺める。

 年頃の女の子としては……サキュバス的に多分大きい方だ。

 いや、まあ……俺はまだ十歳だし? 18のフィスリムと比べるとか無粋さ。

 という失礼な考えは置いておくとして、質問の答えだな。

 まあ、少なくとも日本で風呂に入った事の無い奴は変態だろう。

 当然俺だって毎日入っていた。

 だが、この世界のステータスとして入浴経験があるというのはどうなのだろう。

 それこそ王侯貴族みたいな連中しか入れないんじゃないか?

 ……フィスリムに嘘を吐くのは嫌だから正直に答えるか。

「以前、ブリストールに来る前は毎日入ってた……かな」

「毎日ですか!? す、凄いです! お姫様だったんですか?」

 予想通りの反応だ。お姫様じゃなくて金持ちの息子&ニートだけどな。

 あ、言い訳を思い付いたぞ。

「そうじゃなくて、穴を掘れば温泉が沸く地域で、一家に一つお風呂があったの」

「そうなんですか、凄い国があるんですね」

 この世界でも温泉が沸いている場所はあったはずだがな。

 大抵回復場所として安くない料金を取られた覚えがあるけどさ。

 さすがにそこまでじゃないが日本は掘れば温泉か冷泉が沸くと聞いた覚えがある。

 だからあながち間違ってもいない。

「それよりフィスリムは羽とか濡れても大丈夫なの?」

 妖精をこう例えるのは失礼かもしれないが虫ってお湯に弱いイメージあるじゃないか。

 何よりも羽が傷んだりしないか心配だ。

「大丈夫ですよ。むしろ定期的に水浴びをしたりした方が良い位です」

「そうなんだ、よかった」

 どうやら勝手な心配だった様だ。

 種族間の問題って繊細だから今一距離感が掴みづらいよな。

 というか当然の様に風呂に入ったけどサキュバスは大丈夫なのか? 今は人間モードだから問題ないだろうけど、種族的な意味で。さすがに女の性の象徴たるサキュバスがお風呂に入れない、なんてアホな事は無いと思うけどさ。

 なんて考えていると、とんでも無い事を抜かす人物が現れた。

「お姉様! 探したわ」

 知ってはいるが、微妙な心境のまま声の主の方角を向くとシンジュさんが白い布、俺の世界でいうタオルで前を隠して立っていた。

「お姉様?」

「はい、お姉様。あたしはお姉様をお慕いする事にしたの」

「……私は、どう見てもシンジュさんより年下なんだけどね……」

「お姉様なんだからシンジュと呼び捨てにして」

「あい……」

 実年齢では解らないけどさ。俺は設定的にも外見的にも十歳だぞ。

 キラキラした、ブリストールで見た様な目をしているシンジュ。

 うっ……つい目を合わせてしまった。


 種族/触手 性別/女 年齢/19

 出身/人間界 容姿/魅力的な容姿

 社会的地位/触手の雌、独立近衛兵、スカンブリア帝国第二王妃

 称号/守りの力、無限流皆伝、守護者、清潔存在 レベル/153

 取得能力/清掃技能(EX)、多手、無痛、再生力(大)、耐久力(大)、無限流、軽装武器技能、両手武器技能、盾技能、乗馬、無双


 ……………………人間じゃねーのかよ!

 百歩譲ってレベルが高いのは問題無い。あの皇帝の幼馴染だしな。

 いや、勝手に勘違いしていたのは俺だけどさ。何、触手の雌って。

 ていうかメイドじゃなくて近衛兵って……しかもレベル153……更には年上。

 ちなみに触手という種族には覚えがある。

 エロRPGという関係、そういった生物も当然いるのだが少々疑問はあった。

 触手という生物は大量に群れる。

 一匹居たら千匹はいると考えた方が無難だ。俺の世界でいうゴキブリに近い。

 なにより触手という生物の特徴はキャラクターが女性だった場合、犯される。

 仮に仲間が触手にやられたとすると早急に救出できなかった場合、心神喪失という可能性もある。とても厄介な敵だ。

 ちなみに淫魔の場合∞レベルアップが可能だ。

 一月も放置しておけば1000レベル位にはなる、非常に経験値がおいしい。

 ……とはいっても経験値の質が低いのか能力はほとんど上昇しない。

 そこから読み取るに、この世界の経験値は何を基準にステータスの上昇を測っているのか体験版の段階で判明していなかった。

 しかし触手の雌か。

 残念ながら俺は触手族の性別女と出会った事は無い。

 そもそも触手に女がいた事すら初耳だ。なんなんだろうか、この人は。

「お姉様?」

「……そのお姉様というのやめない? 私はまだ子供なんだけど」

 戸籍的な意味で!

 結婚も出来なければ、本来であれば冒険者にもなれない未成年だぜ。

「心のお姉様なの!」

「……さいですか」

 ここに、19歳の妹が誕生した。

 凄く微妙な気分だぜ。まさか年上の妹が出来るとはな。

 ……実年齢は25だからいいんだけどさ。

 だけどさ、妹キャラってロリキャラじゃね? 今の俺みたいなグラフィック。

 普通さ、俺がシンジュにお姉ちゃん、お姉様とか言うポジションでしょうに。

 まあいい、時には諦めも肝心だ。そういう物だと思って諦めよう。

「シンジュさんはユタカ様をどうしてお姉さんと慕おうと思ったのですか?」

 フィスリム、ナイスフォローだ。

 俺が微妙な心境を抱いているのを察して質問してくれたのだろう。

 さすがフィスリムだ。俺の信じる仲間。

「あたし……実は触手なの……」

 ええ? 本人からネタバレ?

 種族的な意味で早々他人に言う様な事でもないと思うんだが、良いんだろうか。

 特に触手とか、ゴキブリみたいな扱いを受ける種族だぞ。

 しかも女の子を襲うというゴキブリに+効果まで付けた最悪版。

「そ、そうなんですか……?」

 フィスリムも多少抵抗感を抱いている。もちろん自分も混血という生まれ故に共感する部分を多く持っている。半ば同調に近い心境なのだろうか。

 俺は別に触手だからなんだと思っている。日本人は触手好きだしな。

 ……触手好き云々はノーコメントだ。言及されたら秘書が悪かったという事にしよう。

「あたしが生まれたのはスカンブリア帝国内の山奥にある洞窟――」

 触手の雌。

 触手という種族から万匹に一匹生まれるという言わば虫でいう女王存在だった。

 女王の仕事は子孫を繁栄させて、強い子を産む事に終始する。もちろんシンジュも本来なら生まれた洞窟で生涯を閉じるはずだったのだが大きな問題が上がった。

「あたし、無痛という能力を持っていて……触手は感じないと子供を産めないの」

「へ、へぇ……」

 実に返答に困る話だ。

 要するに子供が産めない触手の雌なんて翼の無い鳥、ポケットの無いドラ○もん、だという事らしく、シンジュはある日捨てられる事になった。

 幸いにも触手の雌は生まれながらにして人間と殆ど同じ姿を取って生まれる。なんでもシンジュ曰く遺伝子レベルで同じなんだとか。人間相手にくんずほぐれつする生物の末路に生み出された遺伝子の完成形か?

 異世界で遺伝子という言葉を聞く事になるとは思わなかった。

 そして帝国内左側、能力者を分けるという壁の無能力者が集められる左側で、どうにか食い繋いでいるシンジュを救ったのがシェフィル皇帝陛下だそうだ。

 何だよ、その王子様……良く考えたら本物の王子様なのかよ。

「それからは沢山の事を学んだの。掃除、武術、護衛……」

 出会いが出会い故に幼馴染としても、近衛兵士としても皇帝陛下への恋慕が積もるのは必然の結果と言えた。

 しかし自分は卑しい触手、しかも子供を産めない。

 そして才能以外に興味が無く、恋愛に非常に疎いスカンブリア皇帝陛下。

 そんな最中、皇帝陛下が求愛を送る、ぽっと出の訳の解らない雌餓鬼が現れた……要するに俺。まあ……以降は語る必要も無いか。

「この恩は忘れない……敬意を込めてお姉様とお慕いしたい」

 そんな風に言われて断れるか。

 本当俺ってこういう生物を引き寄せるフェロモンでも振り撒いているのだろうか。

 淫魔的な意味で。

「わかった……でも、皇帝陛下の一番にさせてあげられなくてごめんね」

 実はあの後、第一王妃の件に異議を申し立てたのだが、強制的に否決された。しかもシンジュに対して第二王妃である事を強調して話していた辺り、まだ、俺の世界の権利者という称号を気に入っているのだろう。

 可能ならばシンジュみたいに、本気で相手の事を好いている相手がそうなるべき……というか俺は最初から第一王妃になる気なんて微塵も無いんだがね。

「いえ、お姉様の考え方、素晴らしいと思った」

「なんか言ったっけ?」

「ユタカ様、全員を幸せにしろ、ではないでしょうか」

「あー……あれか」

 別に俺の考えという訳ではなく、ハーレムモノの主人公やヒロインの言い訳なんだけどな。この世界が一夫一妻であるという決まりが無い以上、一国を預かる主が多くの妻を抱えていない方が不自然だろう。

 そもそもあいつは何で、皇帝陛下という身分で誰にも手を出さなかったんだろうか。

 レベルや能力に関しては一流、容姿端麗、国土も多ければ、軍隊も強い。

 むしろ奴の弱点を探す方が大変だぞ。……無いわけではないが。

「ところでお姉様」

「なに?」

「お姉様はどうして、人間のマネ事をしているの?」

「……皇帝陛下に聞いた?」

「はい、紫色の瞳をしているそうで、シェフィルすら見た事がないと言ってた」

 皇帝陛下様はどうしてこうも口が軽いんでしょうかね。

 俺が淫魔である事は知られれば知られる程困るんだって。

「あんまり外で風聞しないでね? お願いだから」

「どうして?」

 どうしてってあなたね……。

 触手という種族に生まれたシンジュなら淫魔という種族がどう思われるか解るだろうに。

「お姉様、まさか種族間の差別問題の事?」

「そうだけど」

「なら安心して良い。外国ではどうか知らないけどスカンブリアでは種族差別は無い」

「……そうなの?」

 俺はフィスリムに尋ねる。

 どうにもシンジュは想い人と結ばれた夢心地で抜けている所があると思う。

 今の彼女は失礼ながら信用に欠ける。

「はい、スカンブリアは昔から能力至上主義で、亜人種でも軍属に就ける事で有名です。噂では民間人から王族に入った方も多いという話ですが」

 能力至上主義……どれだけ浸透しているんだよ。

 俺の世界では考えられない思想だ。

 いや、しかしそれだと弱者はどうなるんだよ。

 以前聞いた首都を隔てる様に作られた壁が右側、左側を差別すると聞いた。それはつまり種族差別はしないってだけで差別が無い訳じゃない。

 もちろん人間綺麗事だけで周っていない事は理解している。更にはスカンブリアにはスカンブリアなりの国民性という物もあるはずだ。そこは否定しない。

 だけど、やっぱり弱者を差別して良いという考えは同意できない。

「弱い人は……虐げて良いとでも言うの?」

 俺は心境からかポツリと呟いてしまった。直に訂正しようと口を開いたのだが、シンジュは俺が声を発するよりも先に強い口調で答えた。

「違うわ! 帝国では確かに右側左側と差別するけれど、右側の人は左側の人を決して馬鹿にして差別しているんじゃない!」

「何が違うっていうの? そこが解らないと私は納得できない」

 強い口調で言われたので半ば売り言葉に買い言葉で返してしまった。

 差別なんて感情は大概にして良い物であった試しが無い。

「スカンブリア帝国では左側の人の事を差別する。でもそれは『まだ無能力者』と言っているだけで本当に努力すれば認めてくれる」

 ……なるほど。

 この国スカンブリア帝国という考えが、少しだが見えてきた。

 だがそんな夢みたいな理想が実現できるのか……?

 いや、俺の目の前の女の子がその事実を遠回しに実現出来ている事を示している。

 端的に述べればシンジュは卑しい種族の無能な女だ。

 もちろんそれはある一面から見た結果であり、シンジュは確かに誰にも持っていない才覚を持っていた。それは清掃技術(EX)に限らず、取得能力などからも想像できる。

 いくら皇帝陛下の幼馴染だったとしても19歳にしてレベル153だという事実が、どれだけ厳しい毎日だったのか、ちょっと考えれば解る事じゃないか。

 もしも平々凡々に目的も無く生きていたらこうはならなかったはずだ。

 つまり、これがスカンブリア帝国を巨大国家であるとしている理由。

『弱者の顔をして喚いているだけの無能者を差別する壁、か……』

 面白いじゃないか、スカンブリア。

 ふと……ミッドがあの戦いの最中にポツリと当然の様に言った言葉を思い出した。

 何気なく『この中で一番ミッドが強いんだよね?』と聞いた時の事だ。

 あの時、ミッドはこう言った。

『そ、そうだが……』

 そうか……あれは過剰な自信なんかじゃなかったんだ。

 自身の経験、信頼、評価。それぞれのモノから、自分を認めてくれた人々を、今までの自分を否定しない為の言葉だったんだ。

 現実世界とは違う、異世界の価値観。

 うん、ここは異世界なんだ。

 俺はこの世界で生きている。そう思うだけで胸が高鳴る。

「シンジュ、ありがとう。その言葉、心に届いた。負けた気がした。悔しいと思った」

 俺はシンジュみたいに、ミッドみたいに、リーズみたいに、フィスリムの様になりたい。

 そうなる為に、今できる事をしたい。

 それは――。

「私は淫魔にして紫水晶の瞳を持つ矛盾した存在。同属には嫌われて、他種族にも嫌われる卑しい種族。それでも私は自分が好き」

 現実世界では生憎とこうもハッキリ自分を好きだなんて言えなかった。

 もちろん言えない理由だってあった。諦めなければいけない事だってあった。

 嫌いな部分の方が多いが、自分の好きな部分だってあった。

 今だって淫魔という自分の嫌いな部分は沢山ある。

 それでも、好きになれる。フィスリムが、シンジュが……癪だが皇帝陛下が好きだと言ってくれる自分を卑下して俺の好きな人達まで汚したくない。

 俺は人化を解いて本当の姿を現す。

 そこには淫魔という種族的特長で肌が常人よりも遥かに良く、年頃にしては凹凸のある肢体、紫水晶の様に輝く瞳に紫の粒子を発する背中の羽、そして尻尾が映った。

 それが、今ここにいる大聖寺優という存在だ。


 ――人化における能力値の限界に到達しました。


 種族/淫魔 性別/女 年齢/十

 出身/人間界 容姿/幼い

 社会的地位/ヴィエルジュ、ブリストールの救世主、スカンブリア帝国第一王妃

 称号/世界の権利者、身体を貢がせた女、救世主(×2) レベル/12

 取得能力/人化、淫魔の発現、初級状態異常魔法、初級支援魔法、審美眼、十字の神罰、詠唱速度上昇(少)、カリスマ(少)、影響力(中)、魅力上昇(×2)、淫魔の狂気、紫水晶の瞳、料理技能、魅了耐性(大)、発情耐性(完全)、淫魔覚醒


 淫魔固有能力/淫魔覚醒。

 効果/全能力値上昇(少)。

 ただし人化中はこの効果は発動しない。

 効果時間/淫魔状態中に限り常時。

 概要/人間以上の力を手に入れた淫魔の力。


 淫魔固有能力/人化。

 効果/人間に擬態する事が可能。

 ただし人化中は自身の魅力値に三分の一の減少補正が発生します。

 追加効果/人化における成長限界に到達。以降人化中、能力値が固定されます。

 効果時間/常時。

 ON/OFF切り替え可能。

 ONにしますか?


 まさかこのタイミングに来るとは思わなかった。

 これは一般的なゲームでいう『正体を現した』という奴だ。

 一定レベル以上能力が上昇すると人間としての身体が成長しなくなり、以降は全能力値及びに能力効果が影響を受けなくなる。

 無論、効果は発動しているので淫魔状態の時は今まで通り成長するが、これから先人化している場合はこれ以上強くなれない。

 要するに人化という能力が正しく『人間に変身する』という効果になったという事だ。

 知ってはいたが、まさか12レベルでこうなるとは。まあ能力値上昇系の称号とか世界の権利者があるからしょうがないといえばしょうがないのか。

「お姉様……吸い込まれそう……綺麗……」

 褒められて嬉しいと感じるのは人の性か。

 この姿を自分だと認めてしまった以上、それが尚の事反応してしまう。

「ユタカ様。やはりユタカ様はそちらの姿の方が似合っているとわたしは思います」

「そういうフィスリムはどっちもかっこいいけどね」

「そ、そんな……てれてれ」

 なんて相変わらず口で『てれてれ』言いながら照れるフィスリムの顔は真っ赤だった。

 さてブリストールからの旅路、色々な事があったが最後に一言申したい。


「取り敢えず、お風呂から上がらない?」



二話分ボツったとか、

ノクターン向けを書いていたとか、

別の話を書いていたとか、

が、原因で更新が遅れた訳ではないですよ(汗)

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