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100億円のゲーム買ったら異世界権利書だった

「暇だな……」

 俺事「大聖寺(だいしょうじ)(ゆたか)(22)」はPCの画面を眺めてポツリと呟いた。

 画面には今流行りのブラウザゲームが映っている。

 PCは四台。

 2000年頃から2008年位まで大流行したオンラインゲームに大いにハマッた際に購入した物の残骸だ。

 尚どうでもいい補足だが、内一台は今年購入したばかりの新品で性能的問題は無い。

 巷ではオンラインゲーム――俺達的にはネトゲと簡略して呼ぶのだが、ネトゲを題材にしたライトノベルやwebノベルが売れ筋を伸ばしてきている。

 なんでもネット内で人気の小説が100万部売れただとか、騒がれていたっけ。

 しかしながら、当のネトゲは完全に衰退期を迎えてしまった。

 ネトゲというと遡る事UOやディアブロなどだろうか。

 当時を思い出すとPSOなんかが日本ではネトゲの古参的ポジションな気もする。

 流行って奴は計り知れない。なんていうか、当時は凄かった。

 こう、ゲームに触れた事も無い様な、良く言えば色々な層が、悪く言えばキチガイが多かったが凄い沢山の人がログインしていた。

 俺がやっていた古参ネトゲだと一時期は常時全サーバー合わせて10万人近くログインしている時期があって当時のサーバーが弱かったというものあるが、ラグが頻発した事もあった。その人気と熱さと来たら昨日の様に思い出せる。

 そんなオンラインゲームだが2008年頃から引退者が続出していった。

 単純にゲームをやる様な層では無かったり、社会人になった事で時間が取れなくなったり、運営会社の不正問題や管理問題などで多くの人が辞めて行った。

 そもそも日本人はネトゲ向きの民族性が無いらしい。

 というのもちょっと調べれば解ると思うが海外で莫大な人気を誇るオンラインゲームの殆どはFPS……誤解覚悟で述べると戦争ゲームの人気が圧倒的だ。

 このFPS。プレイヤーの実力が物を言う、ある意味では完全な知的遊戯だ。

 俺の知っている話だと大会優勝賞金一千万出たって話で、当時その話を聞いた時はその内日本にもプロゲーマーが出てくるかな~などと夢想したりもした。

 実際日本でもプロゲーマーはある程度排出された。

 まあ指で数えられる程度だけどな。

 プロゲーマーが出なかった理由は法律の所為なんだが、そこは端折ろう。

 話が脱線したが、実をいうと日本人にこのFPSの人気はかなり悪い。

 元々テレビゲームが主流だったのもそうだが、日本のゲーマーは対人ゲームを好まない傾向が強い。

 それがオンラインゲームの衰退を加速させた。

 今では一部のネトゲ好きだけがやっている程度で日本のオンラインゲームは殆ど終焉を迎えてしまった。

 きっとオンラインゲームが再起するのはマンガや小説に出てくる夢物語……ヴァーチャルリアリティー、ジャンル的にはサイバーパンクの様な体感系のゲームが出るまでは無さそうだ。

 当時本当に熱中していた身としては悲しい気もするが流行なんてこんな物か。

 とか悲しんでいる俺だが結局、最近流行りのブラウザゲームを今はやっている。

 日本人の傾向にあったのか、流行に乗ったのかは解らないが、なんでも中高生の間で流行っているとかネットで聞いた事がある。

 ネトゲが流行した時みたいに、中毒やウェブガチャ事件とか結構騒がれていた。

 だけどさ、何か燃えないんだよな。

 こう、朝から晩までやっていたい感覚って奴が無いんだよ。

 というのも俺は監禁されている。

 まあ自宅であれば自由が許される。どちらかというと軟禁状態って奴だ。

 毎月一千万近く自由に使っていいっていう見る奴がみたら完全ニートって奴だ。

 理由としては『大聖寺』って家柄がとてつもない大金持ちっていうのが理由。

 俺の両親が不幸な事故――調べれば調べる程黒い埃が立つ陰謀に巻き込まれて死んだのが七年前。

 高校に入学した直後の俺も殺される所なんだろうが殺せない諸事情って奴が生まれた。

 無論、抵抗すれば殺される所なんだろうが俺は無抵抗を決め込んだ。

 おそらく親の仇であろう奴等の傀儡になる事で命だけは繋いだのだ。

 そういう訳で俺は高校を中退。以来、東京都の一角、都市部より少々離れた奴等に都合の良いであろうお屋敷とやらで不自由な暮らしをエンジョイしている。

 一千万も使えるなんて、と人によっては羨ましがる奴もいると思うが、友人にも会えず、外も歩けず、高校大学と青春を奪われた俺を同情するか、それともまだ羨ましいといえるかは判断に悩む。

 まあそんな訳で俺は暇な一日を過ごす為、ネトゲを始めたのが随分昔だ。

 最近は暇で暇でしょうがない。

 一時期は金を増やそうと株やFXに手を出して見たんだが残念ながら教育も才能も無かったのか見事にスッた。

 ぶっちゃけ最近はブラウザゲームに大量課金して浪費する毎日だ。

 もちろん奴等は俺を常時監視している。ネットに関しても常に監視されていて、不穏な動きを見せれば酷い眼にあう事間違いなし。

 という事で毎日毎日暇を潰す方法を考えている。

 そんな俺が最近ハマッているのは同人ゲームだ。

 所謂えっちなゲームという奴だ。

 良くは思い出せないが2010年頃だろうか。

 古いゲーム――ファミリーコンピュータを思わせる有名RPGを模ったエロRPGがネットの同人DLショップで販売された。

 暇な俺だ。無論、興味本位でやってみた所……。

 これが中々に面白い。

 当然エロ同人ゲームだけあって所謂そういうシーンがあるのだが、それが無くてもゲームとして成立している。

 難易度が異常に高い物、異常に低い物、バランスが良い物、奇抜なシステムが入った物。

 商業では規模が大きくて出来ない様な、そんなゲームが多数存在した。

 もちろん売る為にえっちなシーンは必須なんだろうが、少なくとも俺は面白いと思った。

 だが、オンラインゲームの様な大ヒットは不可能だろうな。風俗的な意味で。

 そんな風に考えていた。


「はぁ?」

 俺は同人DLサイトのページを眺めて呆れた声を上げた。

 ブラウザゲームは命令タイプの物が多く、本当に暇な時間だったので眺めていたのだが、どう考えたって頭のおかしなゲームが記載されていたのだ。

『⑱禁エロRPG名称未決定(募集中)』

 ここまでは普通だ。いや、普通じゃないか。名称位作者が決めろよ。

 そもそもDLサイトも審査位しっかりやれよと。

 だが、その先が問題だ。二度目だが、どう考えたって頭がおかしいどう考えたって頭がおかしい。三回目だ。それだけおかしいと俺は思っている。

 ジャンルは無難にRPG他、勇者、魔王、触手、妖精、エルフだの複数記載されている普通の画面表示だ。

 問題なのはゲームだ。

 紹介画面には二次元の女の子が裸で映っている所謂ソレな画面。

 その下のファイル容量。

 2terabyte。

 2テラバイト。

 パソコンに触れた事のある奴なら解ると思うがありえない数値だ。

 今売っている奴でも結構な額のするハードディスクが丁度2テラだ。

 もっと解り易く言うとテラはギガの千倍。

 1ギガが千個で1テラ。

 細かく言えば1テラは1024ギガなのだが、そこは端折ろう。

 ぶっちゃけ一般的なゲームは5ギガ行けば結構な容量のゲームだと言える。

 その400倍って……どんな容量だよ。

 きっと記載ミスだろう。

 そう思い込んで俺は何気なく体験版をDLしてみる。

 外部リンク? ウィルス対策プログラムは入っているので行って見るか。

 すると――。


 ――保存しますか? ゲーム(500GB)


「……はぁ?」

 もう一度呆れた声をあげる。

 どうやら体験版でゲーム容量が500GBもするらしい。

 そもそもこんなファイル容量のあるゲームを送信できるんだろうか。

 まあいい。俺のPCは2テラまで入る。

 俺は保存のボタンをクリックして500GBもする頭のおかしいゲームをDLする。

 受信速度は結構速い。

 俺を監禁している奴等だがネットの回線速度を上げてくれと話したら意外にも受け入れてくれた。無論、今俺が何をしているのか、何をDLしているのかは完全に外部からバレているのだが。それはさておき、回線は某大学と殆ど同じ速度の回線が引かれている。

 とは言っても容量が容量だ。十分やそこ等でDL出来るはずも無い。

 俺はメインでやっているブラウザゲームに目を向けて、意識をそっちに戻した。

「あ……ポイントが切れたな。課金するか」

 数時間経ち、ブラウザゲームに熱中していると丁度、切りの良い時間になった。

 課金アイテムを購入する位なら何等問題無いが、俺はそういえばおかしなゲームの体験版をDLしている事を思い出した。

「500GBだからな。今何%位だ?」

 確認してみると意外にも既に完了のメッセージが表示されている。

 問題はDLが完了していてもゲームプログラムを解凍するのに更に時間が掛かる。

 まあちょっと気になるし、待つとするか。


 解凍プログラムで解凍する事、数時間。

 あまりの遅さにちょっとイラっとしたがどうにか解凍に成功し、俺は直にゲームを起動した。

 ゲームは他のPCゲームと同様に四角形のゲーム画面が表示される。

 強制的にフルスクリーンなのかフルスクリーンモードへ移行した。

「奇抜な感じでは無いか」

 中には突然えっちな世界を彷彿させる、突っ込み所満載(コメディ的な意味で)なプロローグが表示される事もある。

 このゲームは特にそういった映像が表示される事も無く、一昔前PS頃の大作を思わせる青い空と流れる雲が王道的なスタート画面を匂わせている。

 『タイトル未決定』と大きく描かれているのがちょっと残念感を醸し出しているのが微妙な所か。

 スタート以外にはロードとオプションという太文字で書かれており、俺は迷わずオプションを押した。

 オプションを弄る場所はこれといってなく、BGM、効果音、システム音量などといった本当に弄る物は一つも無い。

 俺は何も弄らず、一つ前の画面に戻してスタートのボタンを押した。

 まあ500GBとは言ってもきっと殆どは3Dモデリングやムービーの容量だろう。精々30分か1時間位で体験版だから製品版は×月○○日に発売とか出るに違いない。

 そんな考えをしつつ、俺はゲームが始まると無難にマウスを動かしクリックした。


 ……かちかち。


 ……かちかちかちかち。


 ……かちかちかちかちかちかちかち。


 ――三時間経過。


 ……かちかち。


 ……かちかちかちかち。


 ……かちかちかちかちかちかちかち。


 ――六時間経過。


 ……かちかち。


 ……かちかちかちかち。


 ……かちかちかちかちかちかちかち。


 ――十二時間経過。


 ふと時計を見る。

「え? もうこんな時間か!?」

 体験版を始めた俺は直にゲームの内容に魂を鷲掴みにされた。

 時間を忘れてゲームをプレイするなど何年振りだろうか。

 それ位楽しいし面白い。

 何よりも体験版なのに内容量が尋常じゃない。

 有名会社が出すゲームなんかとは比べ物にならない位良く作られたモデリング。

 自由度の高さ。やり込み度。キャラクターの魅力。

 つまらない表現だがどれ一つ取っても★を5つ入れられる。

 キャラクター作成から始まるのだが王道的なファンタジーよろしく勇者やら魔王やら役職が存在する。

 その中には無難な物で戦士、剣士、弓使い、魔法使い、錬金術師、鍛冶師、傭兵、賢者、僧侶、神官、巫女、武士、忍、暗殺者、盗賊、商人、細工師、騎士、聖騎士、娼婦。マイナーな物で貴族青年、貴族娘、田舎青年、田舎娘、都会青年、都会娘、孤児院院長、孤児少年、孤児少女、異世界人男、異世界人女といった具合に多岐に渡るキャラクターを作成できる。

 これは何も人間に限った話では無く種族も多彩だ。

 天使、悪魔、神族、邪神、魔族、吸血鬼、死神、淫魔、獣人族、エルフ、ドワーフ、小人、妖精……以下略、そして動物などなど、その中にはなんとモンスターも含まれていた。

 その欄があまりに豊富で最初は悩んだ。

 魔王がある様に魔族の将軍といった役職を選ぶ事もできる。

 ちなみに選んだ役職によって目的となる物に差が出る。

 例えば勇者なら王道よろしく魔王を倒すという大筋の目的を得る。

 その勇者一つ取っても異世界の勇者、勇者の孫、唯の勇者、最強の勇者、裏切りの勇者、闇の勇者、魔界勇者、勇者(偽)、聖剣に選定されし勇者、勇者(影武者)など多彩だ。

 中には勇者を選びながら魔族の仲間になる、という選択肢がある。

 裏ルート的ポジションなのだろうが、このルートがまた面白い。

 人間族を裏切った勇者が魔王と協力して人間を滅ぼすもよし、途中で更に魔族を裏切るもよし、魔族と人間の架け橋となって平和への道を模索するもよし、人間界、魔界、天界、精霊界、冥界、天上界全てを消滅させる為に戦うもよし、となんでもござれ。

 登場するキャラクターもまるで生きている様に言葉を発する。

 フルボイスだ。多分、このボイス量がこのゲームの容量を上げている理由だろう。

 だが、これは聞いてみると製作者GJと言わざるを得ない。

 なんというのか登場人物の必死感というか生活感というか臨場感が凄いのだ。

 聞いた事の無い声優を起用しているけど、きっとその内頭角を現すに違いない。

 そして世界の全貌が掴めない。

 俺は王道通り勇者、魔王、淫魔と一頻りプレイしてみたが、その全てに置いて世界の行き止まりを見つけていない。

 これは単純に体験版といっても人間界、魔界と複数のマップが存在するのに壁が無いのは素直に凄いと思った。

 更には出来る事が多い事。

 海外の有名な自由度の高いゲームなんか目じゃない。

 先に言う。長くなる。

 例えば商人を選んだ場合、まず売る物を選択出来る。

 なんでも屋、武器屋、防具屋、道具屋、奴隷商、不動産屋、細工屋、商人のフリをした盗賊、商人のフリをした情報員。

 ちなみに何故⑱禁になっているかといえば代表的な物で奴隷商だ。

 奴隷を売ったり、村を盗賊などで襲い攫ったり、奴隷を買ってアレな事をする。

 酷い物だと孤児院経営で孤児を売ったり、虐待したりと人間性を疑う物まである。

 当然、優しい凄腕の孤児院長になる、といった事も可能だろう。

 他に淫魔という種族があるのだが他生物、特に人間から精吸収などがある。

 一つの街の人間全てを襲ってもいいし、一人のお気に入りを手篭めにするもいいし、淫魔でありながら誰一人襲わないという不殺的なプレイをするなど人それぞれだ。

 これは正規には販売出来ない。エロシーンが入っているのもそうだが、下手をすればゲーム自体が騒がれる心配すらある。

 戦闘もまだ初めて12時間程度だが、剣士がある様に剣が武器にある。

 その剣を取っても剣、長剣、短剣、曲剣、大剣、刀、太刀、大太刀、鉈、装飾剣、小剣、仕込み杖などだ。

 無論、これは基本表示だ。

 製作者にベテランのプログラマーがいるのだろう。

 長さや重量を自由に選択できる。

 つまりその世界において同じ剣という物は存在しない。

 攻撃力から耐久性、その他細かな数値まで完全にランダムだ。

 無論、材質や製作者(剣の)によって限界値はある様だが。

 そこから更に流派に派生して、使う武器の使い方にまで差が出る。

 つまり同じ武器でも同じ育成方法でも違う成長を始める。

 能力や魔法、称号、アイテム合成、アイテム効果、まだまだ調べる事は一杯だ。

 これは絶対流行る。

 体験版でこの内容だ。製品版が待ち遠しい。

 取り敢えずしばらくの時間潰しはこのゲームに決定した。

 というか時間がもったいない。

「ああ……時間に追われている様な感覚……凄く久々だ……」

 時間が足りないと感じる。

 それ位面白い。満ち足りた感覚。

 俺はこの日、これからの食事は片手で食べられる物と限定し、お風呂とトイレを我慢した。


   †


 それからの日々は流れ星の如く過ぎる。

 このゲームに出会うまで自分が監禁状態にいるのが不幸だと思っていた。だが、それが幸運だったと思える程に俺はこのゲームにハマッていた。

 それは俺以外も同じ様でネット内ではほんの三日で騒がれ始め、同人DLサイトがサーバーダウンする程になり、外部アップロードでも足りず、噂では体験版入りのハードディスクが十万で売れたとも騒がれていた。

 理由としては500GBというのも問題だろう。

 相当強い回線を所持していなければ途中でDL失敗してしまう。

 故に体験版有料転売などというゲームの名を汚す輩まで現れている。

 ちなみに俺はというとあれから寝る、ゲーム、寝るの日々を繰り返している。

 正直トイレやお風呂が億劫なのだ。

 もちろん、さすがにペットボトルトイレはしていない。

 ……一度その魅力に屈し掛けたのは秘密だが。

 ともかく俺は早くも中毒になっている。

 なんでもネット内でも中毒になっている奴は多発している様で攻略サイトも全盛期のオンラインゲームの如く存在する。

 だが、その全てが全貌を未だに把握出来ていない。

 この把握出来ていないというのは比喩じゃない。

 例えば鍛冶師wikiを見て見ても武器製作の条件や精度が見付かっていない。

 今現在どこぞの有名プログラマーが解析しているとか噂で聞いているが、解析されれば少しはwikiの情報も参考に出来る程度になるだろう。

 ともかく今現在、どのwikiも信用出来ない。それ位奥が深い。

 それにしても俺はどちらかと言えば運が良い方だ。

 体験版をDLできたのも然ることながら、時間が無限にあるのだから。


 そうした日々が一ヶ月過ぎた頃。

 ゲームの途中で『体験版はここまでです』と表示された。

 凄く中途半端な所で。

「ぽかーん……」

 俺は十分程言葉通り大口を開けてポカンとした。

 体験版が終了し、俺はお気に入り登録している製作者のホームページへと飛ぶ。

 残念ながらゲームはまだ販売されていない。

 製品版には入れたい追加システムなどを入れたいんだとか。

 俺は涙ながら、それならしょうがないと我慢した。

 こう製作者としてのこだわりというか熱意という物に共感を抱いた。

 そしてこれまた毎日顔を出すネット掲示板を眺める。

 既にスレッド300を超えている。

 話によると俺同様体験版が終了した奴等が多数いた。

「ちっ! これでもかなり先に行っていると思っていたんだけどな」

 そんな感じに悔しがっているとスレ内の文字が目に入る。

 ――時間で終了するんじゃないか。

 と。

 よくよくカレンダーを眺めると丁度月替わりの0時過ぎだった。

 確かにその可能性は十分にありうる。

 俺は頼れないwikiや掲示板の奴等よりもゲームを最初から始め直した。

 もちろん、ゲーム分析をする為に前回とは違うキャラクター作成をした。

 そんな日々は過ぎていく。

 次の月になってもプログラム解析はされていないらしい。

 なんでも非常に複雑にプログラムが組まれており、これを全部理解しているのは製作者以外ありえないとプロが匙を投げたらしい。

 今はもっぱらプログラム解析が出来たら日本一のプログラマーだとか、ハッカーだとか冗談みたいなオカルト記事が専門サイトで書かれていた。

 ちなみに多少時間を飛ばすが五ヶ月経ってもwikiは全く機能していなかった。

 単純にランダム性が強いというのもあるが、ゲーム自体に1という行動をしたら2という道順が生まれない為だ。プレイヤーは自分で考え、自分で道を突き進むしか無い。

 これが重度のゲームジャンキーの食指に触れた。

 難点はゲームプログラムのフォルダ容量が尋常じゃない事。

 まあこのゲーム内容じゃ500GB位必須だとも言えるが。


 そして六ヶ月を過ぎた頃、体験版アップデートファイルが公開された。

 製作者は未完成なので現在完成していて満足できる部分を追加したという。

 その容量100GB。

 俺はこの時点でPCをオーダーメイドで新しくしていた。

 最初からヌルヌル動くがゲーマーって奴は性能の高い機械を欲するもんさ。

 ちなみに最初の体験版は一ヶ月で終了する、という話は当たりだった様で月末の0時に必ず終了する。

 その都度ポカンとする程プレイしている俺もどうかと思うが、一月毎に違うキャラクター、違う出自、違う職業をプレイした。

 その都度やる事が違って、まるで別のゲームをやっている錯覚すらした。

 なんでもゲーム業界が、このゲームの所為で縮小の傾向にあるとか、どこぞの偉い人が不満そうに騒いでいたが俺はこう思った。

「お前等がまともなゲーム作れないから客が付かないんだろう……」

 音楽CD違法DL事件の時も思ったがこのゲームが無くなっても客が戻ってくる訳じゃない。

 そんな世間的事件もあったが、残念な事に年内にゲームが発売される事は無かった。

 翌年になってもそれは変わらず、定期的に100GBを超える、時に200GBクラスのアップデートファイルがアップロードされるだけでゲームの販売はされていない。

 もはやフリーゲーム状態だ。

 この頃には体験版のゲームでオンリー同人誌即売会が開かれる程で、俺も死ぬ程行きたかったが監禁状態だったので血涙を流して我慢した。

 そしてその年もゲームは発売されなかった。

 それでも俺を始め、飽きたという話はまるで聞かない。

 前記にも述べたがプレイヤーが製作したキャラクターしだいでできる事がまるで変わる。

 王様を選べば、王としてどうすれば国が繁栄するのか。

 将軍を選べば、軍隊としてどうすれば敵国を倒せるか。

 農家を選べば、自分を、そして家族をどうやって養っていくか。

 剣士を選べば、己を鍛え、敵をどうやって倒していくか。

 エルフを選べば、どうすれば世界樹を守り通せるか。

 死神を選べば、如何にして死者の魂を回収できるのか。

 神であるなら、如何にして世界をより良くしていくか。

 そんな感じで同じゲームでありながら全くもって比喩表現も無く、まるで違うゲームに様変わりする。

 そういう経緯もあって俺は一年と数ヶ月、ポツポツと新型のPCを購入する以外は全然お金を使わなかった。いや、むしろブラウザゲームをやっていた時よりも低出費といっても良い。


 こうしてチビチビと順次アップデートされるゲームが発売されたのは2年後。

 期しても体験版が始めて公開された三年後の同じ日だった。

 最終データ容量10テラ。

 いくらPCスペックの上昇が半年を目途といっても超最新機種を買ってもギリギリの容量だった。多くの人は怪訝な目を向けただろうが重度のファンであった俺はむしろソレ位の量はやってくれると思っていたので、むしろ予想通りだ。

 そして発売日、態々夏戦争にでも登場しそうなスーパーコンピュータモドキを屋敷に設置して俺は販売開始を待った。

 まあさすがに俺程では無いにしても今日を楽しみにしていた奴は多いと思う。

 しかし。

 日付変更丁度0時販売開始、その時間。

 そのゲームを見たユーザーは狂気した。


 ――価格100億円。


 明けて翌日。

 ネット内を始め、テレビですらニュースになっていた。

 大作ゲームの制作費に数億なんて話、最近では良くある話だが……いや、この大容量ならばそれ位の価値があるとも俺も思う。

「だけど、これは……」

 誰が買うんだ?

 というか誰も買えないだろう。

 家も結構な金持ちだが俺個人の資産ではまず無理だ。買える訳が無い。

 俺は眠る事も無く、世間の……ゲームの動向を追った。

 そして正午……12時に作者は自身のホームページでこう宣言した。


『ここに異世界を創造した。

 大地に芽吹きを与え。

 全ての生命に役割を与えた。

 力ある者よ。

 世界を手にせよ。

 下の世界は汝の物である。

 手にした汝に全てを委ねよう。

 故に我は眠る。

 可能であるならば、

 下の世界を崇拝する神で有らん事を……』


 まるで古いRPGのオープニング画面の様だった。

 この記事がアップされた直後、ネットの流れは凄かった。

 要するにこの文から察するには、購入者にゲームの全権利権を明け渡すという物だ。

 転売すれば、もしかしたら成功するだろうし、しかるべきアップロードサイトでアップするのも良い。

 俺は欲しいが買える訳が無いと手を拱いている間にネット内では早くも行動を開始していた。

 ――購入募金。

 なんでも全ゲーマーで募金した100億円で購入したゲームを無料アップロードしようという計画だ。

 持ち逃げするに決まっていると騒がれていたが、逆に力無い一般人じゃそれが限界だった。

 他にも有名なゲーム会社が買い取ると宣言したとか、あくまで噂だが海外では今現在金策に走っていて利権購入を急いでいるらしい。

「くそっ!」

 言っては難だが俺はこのゲームが好きだ。愛している。

 体験版DLしたその日から、やらなかった日が無い位だ。

 俺以上にこのゲームを好きな奴はこの世界にいない。

 そう思える位はやり込んだ。

 無論、未だ全容を掴めてこそいないが、ある程度の法則は見つけている。

 どうする? どうすればいい? 時間は無いぞ?

 刻一刻とゲームの権利書が俺の掌から砂の様に零れ落ちていく。

「あ……」

 一つ、一つだけ手段がある。

 だが、それは大聖寺優という人間を示す要素。

 それがなければ俺なんて何の力も無い唯のボンピー。

「はは……何を躊躇ってやがるんだ俺は……」

 単純に言えば俺には少なからず権力って物がある。

 この権力って奴は俺をここに監禁する奴からしてみれば喉から手が出る程欲しい代物だ。

 100億なんてはした金だと思える程に。

 直様、俺を監禁する書類上の保護責任者へと電話した。

「久しぶりですね」

「なんだね? 君はそこで引きこもっていればそれでいいんだ」

 あまり歓迎されたムードじゃない。別にこれが普段通りなのでどうとも思わないが。

「いえ、商談ですよ」

「商談、だと? 君が? 面白いジョークだ! ハハハッ!」

「俺の全権――大聖寺をあなたに売ります」

「ハハハハ……………………………………は?」

 笑いが途切れ、そんな呆けた声が電話越しに聞こえてきた。

 そりゃそうだ。奴等からしてみれば、この権利を法的に奪えないからこそ俺が今ここで生きている。この権利が手に入れば俺なんてゴミクズ程度の価値しか奴等には存在しない。

「いくらだ……」

「はい?」

「いくらだと聞いている!」

 耳がキーンとなる位尋常じゃない声で叫んできた。

「ひゃ――」

「100億だな。君が世間を騒がせるゴミにご熱中という報告は受けていたが、まさか事実とはね……」

 んだと!?

 俺はあまりにも強い怒りを抑えるので必死だった。

 まるで自分を、もっと大事な者を馬鹿にされた様な……いや、きっと大事な者なんだ。

 数多に作ったキャラクター、共に戦ったNPC達、過ごした数奇な日々。

 どれ一つ取っても大切な物だ。

 それを馬鹿にされたんだ。怒らずにいられるか。

 だが、俺は怒りに身を任せなかった。

「いいだろう。直に用意させよう。そちらに車を送る。権利書にサインを書いてくれたまえ」

 やがてやって来た高級車に乗り、俺は久しぶりの街並みを眺めた。

 違和感。

 まるで自分が住んでいる場所が自分の居場所では無い様な感覚。

 重度のネトゲ廃人と同じ様な気分なんだろうか。

 なんせ俺は今、俺が俺である権利を売ってゲームを買おうとしている。

 客観的なもう一つの自分が言う。

 異常者、と。

 だけど、不思議と拒絶感は無い。

 むしろゲームをやっていない自分が想像できない。

「110億? 10億多いぞ?」

「私からのささやかな贈り物さ。一生分の生活費だ。あの屋敷もやろう。これで一生引きこもっていたまえ」

 何かに付けて勘に触る奴だが、まあいい。

 確かにゲームをやるにしたって住居環境は必要だからな。

 こうして俺は自分を売って、見事即日購入費を捻出した。


 用済みと言わんばかりに黒いクレジットカードを手渡された俺は光速でトンボ帰りして直にゲームの購入画面を押した。

 100億。

 あまりにも多くを失ったが、それでも見返りは大きい。

 様々な、それこそ手軽が売りの同人DLサイトにしては大き過ぎる手続きが介入して、結局ゲームのDLが始まったのは翌々日の事だった。

 というよりも厳重な施錠を施されたハードディスクが直接送られてきた。

 さすがに10テラをDLは無理があったのだろう。

 俺は直にアダプターをPCに接続し、中身を確認した。

 ハードディスク内には一つしかフォルダが存在せず、ゲームと簡素に書かれている。

 その容量は証言通りの10テラ。

 セットアップファイルを起動させると、ありふれたセットアップ画面が表示される。

 容量が容量だ。いくら高性能PCとはいえど画面に接着剤の様に張り付いた所で完了とはならない――が、俺は時間を惜しむ様に画面を睨み続けた。

 そしてセットアップ完了と表示された直後に起動プログラムをダブルクリック。

 見慣れた初期画面が映る。

 一応俺は体験版を始めてDLした日と同じ動作を取り、変更が無いかを入念に確認する。

 すると言語の欄が追加されていた。

 俺は標準設定になっている、どこの国の名前か解らない言語欄を『Japan』に変更した。

 それ以外はこれといった変更点は無い。言語変更があったという事は海外でも人気あるんだな。そういえば海外で資金調達云々とか騒いでいたっけ。

 俺はスタートのボタンを押すとキャラクター作成画面に移行した。

 追加項目が増えていないか確認する。それらしい物は追加されていない。

「さて、どのキャラで始めるかな」

 などと口にはするが実を言えば事前に作るキャラクターは決めてある。

 というのもこのゲームのジャンルはこの三年で一括してエロRPGだ。

 これはおそらく、作者なりのこだわりなのだと俺は考えている。

 つまり俺としては最初のキャラクターは作者の気持ちを汲んでエロRPGに適したキャラクターを作りたいと半ば自己満足に近い心境を抱いていた。

 故に俺の作るキャラクターは淫魔――サキュバスだ。

 なんで男のインキュバスじゃないかって?

 折角かわいくキャラクターを作れるならプレイキャラクターにしたいじゃないか。

 まあ次は厳つい野郎キャラクターを作るつもりなんだけどさ。


 種族/淫魔 性別/女 年齢/十

 出身/人間界 容姿/幼い 社会的地位/見習い淫魔

 称号/なし 初期レベル/1


 初期設定はこんなものか。

 ちなみに年齢が低い様に見えるがこの世界の成人は十三だ(人間界の場合)。

 外見は美女というより美幼女といった印象だ。

 勘違いされそうだが時間経過による成長を意識したいのと、このゲームは初期の能力が低ければ低い程上昇値に補正が掛かる。

 最初から天才的な能力にしても良いが俺はやっぱり最後の最後に最強になるタイプの育成方法が好きだ。

 なので天才型大器晩成タイプを選択した。

 このタイプは始めこそスロースタートだが1レベル毎の能力値上昇の重みが違う。しかも後半になるにつれて上昇量が増えていくという正しく大器晩成。

 大器晩成最高!

 こいつはきっと大物になる。文字通りな。

 やばい、ニヤケ顔が止まらない。

 ゲームを始める前からこんなんじゃプレイ中はどんだけテンション上がるんだって話だ。

 補足だがサキュバスである彼女には、これといった明確な目的は選択していない。

 この手のタイプはプレイしていく内に目的が固まっていって最終的にプレイヤーである俺がこうしたいと思った行動をする。

 それが魔王討伐だったり、勇者退治だったり、都市を淫魔の恐怖に落とすなど、秩序よりか混沌よりかは追々決めるとしよう。


 キャラクター作成完了――コンバート画面に移ります。

 体験版の蓄積データをコンバートしますか?

 はい/いいえ。


「お?」

 見た事の無い画面が表示される。

「ああ、そういう事か。だけどPCが違うんだよな……どうするか」

 一応接続端子を歴代の体験版の入ったPCに複数繋ぐ、すると接続中と表示されてコンバートデータの総量が表示される。

 さすがだ。粋なことをしてくれる。

 俺は迷う必要も無いと『はい』を入力する。

 するとコンバート中、コンバート中と表示されて二十秒程で完了の文字が流れた。


 コンバード完了――マスター権限についての説明を開始します。

 * この説明は強制表示されます。しっかりとお読みください。


 マスター権限はオリジナルデータが始めて起動された際に発動する異世界の権利書です。

 この権限は異世界におけるどの様な状況下に置かれましても貴方様に付属される、通常外の権限を事です。

 マスター権限入力の際にはお手数お掛けしますが氏名を入力しプロダクトキーを発動させてください。

 尚、このメッセージ及びマスター権限プロダクトキー、マスター権限プログラムはマスター権限付加と共に完全消去されます。

 補足ではありますがプロダクトキーの使用回数は保険として一度と制限させていだいております。これにより貴方以外の方が不正入力したとしても複数権限は取得できません。


 ――氏名/大聖寺優

 ――プロダクトキー/************


 俺は氏名の欄に大聖寺優とフルネームを入力した。

 幸い住所やクレジットカード入力などは無かったので詐欺などでは無いだろう。

 参照中というメッセージが表示されて数分、今までで一番長いローディング画面の後。


 認証完了――これより異世界は完全に貴方の物となりました。

 尽きましてはマスターキーに関するオリジナルデータを削除させていただきます。


 一応データ容量を確認すると200GB近くが削除されている。

 これはセットアップファイルの方のデータもだ。

 随分と徹底しているな。所謂購入特典という奴だろうか。

 まあ後々無料アップロードする予定なのだが、奴等には付属しない特典という奴だろう。

 何かちょっとした優越感。


 全ての準備が完了しました。

 これより異世界への転移を開始します。

 はい/いいえ


 『はい』を押す。


 注意! 三度目はありません。

 これより異世界への転移を開始します。

 はい/いいえ


 随分と厳重にしているな。まるで警告文の様だ。

 俺は不思議に思いながらも『はい』を押した。


 では、これより異世界への転移を始めます。


 ――Ready?


 カチっとOKを押した。

「う……」

 始まるぞ。胸をわくわくさせていると急に目眩がして意識が遠くなる。

 数ヶ月の蓄積した疲労か、数日の睡眠不足かは解らない。

 唯、頭の中身がぐるぐると混ぜられる様な感覚と共に蕩けていった。


はじめに読んでくださりありがとうございます。


神様を選択するとアクトレイザーなんじゃ……。

とか書いていて思ったのは秘密です。

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