ペライ・ストーリー
ほんの僅かですが、時間の無駄です。 本当に。
暇を潰せるわけでもなく、面白いわけでもない。
時間の使い道で、少し後悔したい人にオススメ。
──妙に平べったい奴だ。
初めてソイツと話をしたとき、訳もなくそう思った。
思い返しても不思議な話である。
ソイツと話をして、特に不愉快な思いをしたわけでもない……いや、寧ろ話が弾んだようにさえ思えたのだが。
首を傾げてみても、自身の奇妙な感覚に説明がつかない。
……もう一度、話した時にでも確かめてみよう。
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま私は寝床に就き、どうにか夢の中へ沈んでいった。
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やはり、平べったいのだ。
再び話をしてみた。 やはり会話は以前と同じように弾んだ。
楽しいとさえ感じたのだが、どうにも人間の形をした紙風船か何かと話をしているような不確かな感覚が依然として残っている。
会話や人間性の中に中身が無いから、そのように感じるのか? 彼と話をする前に、そんな風に自分の中で推量していた。 しかし、話と人間性に中身が無いわけではない……と思う。
誰とでも交わすような付き合い方なのだが、私はこんな平べったさを他の人間に感じた事が無かった。 一体、何だと言うのだ。
考えても解らない。 もう、気にせずにしていたい。 しかし、気になってしまう。
何なのだろうか、あの平らな人間は。
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原因がわかった。
しかし、どうしたら良いのか解らない。
いいや。 どうすれば良いのかは解っているが……何が正しいのやらと言うべきか。
アイツは少しずつ、厚みを持ち始めていた。
もう時間は少ないと言う事だろう。
私は……。
もう一度か二度は大丈夫だろう。 もう少しだけ様子を見て、それから決めたい。
今日は眠ろう。 疲れた。
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私とアイツが反転している。
私がベニヤ板くらいに平らになると、紙風船のようだったアイツが黄色い電話帳くらいには厚みが増していた。
もう、あまり時間が無いんだろう。
取れる手段は二つだ。
このまま、私がアイツのように平べったくなる。 これはただ何もしなければ、明日にもそうなるのだろう。
その事に対しては、特に何の感慨も沸いてこない。 ただそれが当たり前なのだと思えるくらいには、私が平たくなった自分に違和感を感じていない。
身体を見下ろしても、見た目では何も変わっていない。 しかし、受ける印象は数日前と全く異なっていた。
「まるで、嘘みたいな話だ」
……嘘、か。 いや嘘みたいだと言うか、嘘に違いないのだが。
平面のような存在だった筈のアイツ。
平面のような存在になっていく私。
もう一つの手段を選べば、私がこのまま平面のような存在になってしまう事はないだろう。
アイツと私がどうなってしまうのかは解らない。
……良く考えれば、私がアイツのように平面のままでいられると言う保障も無い。
平らなままでいられるのなら、それはそれでいい事なのかもしれない。 けれど、そのままフツリと消えてしまうような事になりはしないだろうか?
そんな事になってしまうのであれば、私は自らの結末は自分自身で決めたいと思う。
私は決意をした。
いや、そんな格好の良い物でもない。
ただ、結果が同じなら納得をしたかっただけなのだ。
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屋上には穏かな日差しが降り注いでいた。
暖かな陽気には、誰もが穏かな心持ちにならざるをえないだろう。
しかしながら、私にはそんな気分になる余裕すらも削る落とされていくような気分だった。
言葉を交わすたびに、私が磨耗していく。
それが解っているのかいないのか、アイツは私に話し掛け続けていた。
「もう、良いだろう?」
「うん? 何がだい?」
決して苦痛ではないのだが、これ以上は磨耗していく感覚を味わいたくは無い。
ソイツの言葉を遮って、私は平らになってしまった我が身を振り絞るようにして、何とか言葉を紡いでいく。
「私はこのまま消えてしまうのだろうか」
「……何を言ってるのか、解らないなあ」
ソイツが惚けているのかどうかすらも、私には読み取れないくらいに厚みを持っていた。
ただ、その笑顔には悪意を感じない。
しかしながら、私はその悪意のなさに空恐ろしさを感じていた。
コイツは自身の行いを当たり前の事だと思っているんだろう。
その結果として、私がどうなってしまおうとも。
けれど私は納得が出来ないのだ。
だから、私は消えてしまうのではなく……消える事を選ぶ。
誰の得にもならない、愚かな選択なのかもしれない。
けれど、私は……。
ざあ、と風が吹いた気がする。
アイツは呆けたような顔だ。
そして、私は消える。
私自身の意思で、その結果だけを残して。
何を考えているのか解らないとたまーにいわれるんですが……まあ、割と何も考えてないです。 ええ。
考えてないと言うか……アレですね、目の前の事とは別のことを考えてと言った方が正しいのですかね?
まあ、良いか。