居着かれました
使いの男は王都に帰らなかった。
頭のたんこぶを介抱したのがいけなかったのか、あれから三日、男はあたしの家に居座っている。きっと、あなたを連れて行かないと自分も帰れないとか言い出す気だ。
ちっちっち、それは困るのだよワトソン君。
王様がどうしてあたしのことを知ってるのかは不思議だけど、十八番目の側妃ということはその上に正妃さまがいるはずだから実のところは十九番目。
顔も知らない冷酷無比男の十九番目の奥さんなんて愛も無くて誰がなりたいと思うのよ?地位とかお金とか?それに後宮といえば愛憎が渦巻いてて派閥とかあってドロッドロでイジメとかすごいんだから。
そんなのあたしはお断りだ。
ふん、と意気込み洗濯物を畳む作業を再開する。
背中にはこちらを窺う男の視線をずーっと感じてた。
逃げやしないってば。
あたしにはここしかないんだから。
それにしてもあまりにも視線があからさますぎる。
本人は気づかれてないつもりか、気づかれてもかまわないと思っているのか。
ぱっと振り返ると男がさっと顔を逸らす。
・・・え、これはまさか、本気で気づかれてないと思ってる?
このあと何度か繰り返して確信した。
なんて不器用な男だ。
洗濯物を畳み終えて棚に入れていると、持ち方が悪かったのか最後の一枚がひらりと落ちる。
目で追えばそれは白い下着だった。
床に落ちたんじゃなくて良かった、そう思ってイスから拾い上げて目の前で広げる。
うん、どこも汚れてない。
畳んで下着用の引き出しに入れ、ふと顔を上げて気がついた。
凍りついたように微動だにしない男に。
そこはせめて見ないふりをしてほしかったよ。
まぁ洗濯した後のでよかったけど。
洗濯前だった場合は・・・
一瞬で熱くなった顔のまま、慌てて回れ右して裏庭へ駆け込んだ。
大きくため息を吐くと、気分転換もかねて畑に水を撒いていく。
しばらくすると夕方でもまだ少し暑くて、ワンピースが張り付いてきた。
じとっとした感触にすぐにでも水浴びに行ってさっぱりしたくなった。
水撒きを終え、着替えとタオルを持って村の裏手にある湖に向かう。
村のみんなはこれから夕食の時間だから誰もいないよね、と軽くあたりを見回して、湖の縁にいくつかある岩の上に着替えを置く。
この村にお風呂という習慣がないので、湖での水浴びはあたしにとってほぼ日課だった。
誰もいないのを確認すると、靴と靴下を脱いでから服を脱ぎ始める。
前に一度だけ服を着たまま湖に入ったことがあるけど、そのとき帰ってから脱ぐのに苦労したせいで服を着たまま入らないという教訓を得たのだ。
慣れた動作で綿100%のワンピースとブラがわりのハーフトップとパンツを脱ぐと、汗を吸って重くなってる3枚を持って湖に入る。
底まで見通せるくらい透き通った湖の少し深いところまで入ると、それらを濯ぐように上下に動かした。
ちゃんと洗うのは明日になるけど、これで今晩は臭くない。
軽く絞ってから広げると近くの岩の上に並べておく。
もう一度湖に入って今度は体を水洗いする。
最後に頭まで潜るとぷはっと水面に顔を出した。
ええ、びっくりしましたとも。
そこに熊がいれば。