村娘になりました
半年前、あたしはこの世界にやってきた。
冷酷無比な王様が治めるテノーシャという国に。
王様の冷酷無比ぶりはとても有名らしく、あたしの暮らす村にも噂は聞こえてたけどいくら王様が冷酷無比でもあたしとの接点は欠片もなかった。
あたしはこの村から出たことがない。
明け方、ぽつんと村の広場にいた右も左もわからないあたしを温かく迎え入れてくれた村の人たち。
たまにあるんだよ、と言って村のはずれにある空き家を貸してくれたし、ご飯もわけてくれた。
仲の良い友達もできた中、半年も経てばこの村で生活するのに支障がないくらいには慣れることができた。
今では裏の畑に野菜もたくさん実ってる。
卵とミルクもわけてもらえるし、お礼に農作業を手伝ったり小さな子たちの遊び相手をしたりしてた。
そんなときだった。
王都から使いの人が来たのは――
「王があなたを十八番目の側妃にと望んでおいでだ。」
少し考えて、扉を閉めた。
十八番ってあーた。
いくらなんでもそれはないわぁ。
しっかりと鍵をかけた扉を外から叩く音が聞こえたけど、あたしは帽子をかぶると畑へと続く扉から外へ出た。
初夏のように輝く太陽に手を翳す。
そろそろ水撒きの時間だ。
かめに溜めてある水を手際よく撒くと焦げ茶色の土が水を吸ってさらに濃い色になる。
しばらく撒いていると額に汗を感じてぐいっと袖で汗を拭った。
水を撒き終わって収穫できそうな野菜を見て回り、いくつか目星をつける。
それらを夕飯前に収穫しようと決めて家の中に戻った。
玄関の扉は静かだった。
もう帰った?そう思って窓から外を見ると男が玄関前で倒れていた。
たしかに今日は少し暑いけど、まさか倒れるとは。
しかもひとん家の前で。
はた迷惑な男をそのまま日干しにするのも気が引けて、影に入れてやろうと外開きの扉を開けた。
当然、イイ音がした。