013 ロールプレイ
結局、猫さんのことでわかったことは、ファーストキングダムの一員、そのマスターのゴウキさんに一目置かれている、スパルタス22位、猫。
ゴウキさんや他のメンバーはかなり多くの伝説を残しているのに、猫さんについてはまったくと言ってない。本当にどんなPHOライフを送っていたんだろう……
ベッドの中で猫さんのことを考えていたら寝落ちしていたらしく、目を開けたら朝だった。
今日も清々しく目覚めた私は、朝食に宿題。お昼を食べてパンゲアヒストリーオンラインにログインしたけど、昨日は強制ログアウトをしたから猫さんと待ち合わせの約束なんてしてなかったんだった!
もしかしたらバグエリアに行けば会えるかもしれないので、私は町を出た。
「そういえば私、ソロであそこまで行かなくちゃいけないのか……」
そこで思い出したのが、私の戦闘履歴。初日はお兄ちゃんがモンスターをほとんど倒して役立たず。2日目も猫さんが1人で倒して歩いていただけ。
「ま、まぁ、昨日見た限り、初心者でも倒せるレベルだったはず。猫さんも刺激しなければ襲いかかってこないとか、逃げるのも楽勝とか言ってたような……」
これなら大丈夫だと自分に言い聞かせて歩き出すと、スライムとエンカウント。とりあえず魔法で火の玉を飛ばすと一発だ。
これで気を良くした私は、出会ったモンスターを片っ端から燃やして歩いていたらMP切れ。走って逃げ回ることになってしまった。
「はぁはぁ……ウルフしつこいのよ!」
やっとバグエリア前に着いたところで振り返ると、ウルフが2匹追いかけていたので、溜まったMPで焼き払ってやった。
「ここからが問題だね……あっ、回復薬買ってくればよかった~」
そう。このバグエリアに入るには、ダメージ必須。初級回復薬は初日に10個買って、その日の内に残り2個となっている。
お兄ちゃんが森の奥まで行くとか言うから! そのおかげで不思議体験してるから、感謝しないといけないのか。
覚悟を決めてドリル飛び込みジャンプしてみたけど、痛い! しかも失敗!? 猫さん、どうやってこんなバグ見付けたの!?
2回目も失敗したので初級回復薬の出番。3回目でなんとか入れたが、やっぱり痛い。
「コサ~ク~は木ィ~を切る~♪ へいへいにゃ~ん♪ へいへいにゃ~ん♪」
猫さんいるみたいだけど、また歌ってるよ……猫さんの名前はネコ、又はネロでしょ? コサクって誰なの??
私はちょっと呆れながら立ち上がると、歌が聞こえる方向に移動する。案の定、そこでは猫さんが斧を振って木を切っていた。
「猫さ~ん。こんにちは~」
「あ、妹ちゃんにゃ。こんにゃちは~」
猫さんに声をかけると、フゥ~と一息ついて右腕で汗を拭って近付いてきた。汗、出てたか?
「昨日は急にいなくなってすみませんでした」
「いや、吾輩もすまなかったにゃ~。愚痴がすぎたにゃ。まさか愚痴で強制ログアウトするにゃんて思ってなかったにゃ~」
「あはは。違いますよ。夕食の時間だったから、ママにログアウトさせられただけなんで」
「あ、そういうことだったんにゃ~。トラウマになってたらどうしようかと思ってたにゃ~。にゃはは」
お互い気遣って笑い合ったら、今日は何をするかだ。
「前にも聞きましたけど、猫さんはどうして木を切っているのですか?」
その前に、これ! 気になるもん!!
「暇潰しじゃ納得できないってことにゃ?」
「はい。コサクって人も……」
「コサクは歌詞の中に登場する人にゃ。若い子は演歌にゃんか聞かないから知らないよにゃ~」
どうやら猫さんが口ずさんでいたのは、演歌というジャンルで百年ぐらい前に大流行した曲らしい。猫さんはそんなに長く生きているのかと驚いたら笑われた。
「にゃはは。演歌がリバイブルだとか見直されたとかで、たまたま聞いて耳に残っていただけにゃ。だから吾輩も、このフレーズしか知らないにゃ」
「せめて全部覚えません? エンドレスコサクは気になって仕方がないんです」
「気が向いたらにゃ~」
うろ覚えにもほどがある。猫さんの言い方だと、覚える気ないな。
「んで、にゃんだったかにゃ……あ、木を切ってる理由にゃ~……あっ、暇潰しに森林浴とかキャンプしてて、木こりってロールプレイはしたことなかったにゃ~と思ってやり始めたんにゃ」
「ロールプレイってなんですか?」
「その役になりきるんにゃ。そうだにゃ~……ここでは武士とか忍者、騎士にゃんかが多いかにゃ? ちょっとイタイ人だにゃ」
「あぁ~……お兄ちゃんも拙者とか言ってた時期がありました。そんなイタイ人がいっぱい居るのですね」
「ここでは流すのが礼儀にゃから、あまり根掘り葉掘り聞いちゃダメだからにゃ~? どんどん顔色が変わるから……」
武士に「どうしてどうして?」と質問攻めにすると、顔が真っ赤になるんだって。だろうね。現実に戻らされると恥ずかしいよね。
「ま、暇潰しにゃんだから、たいして意味はないにゃ。歌も合ってるから歌ってるだけだしにゃ」
「はあ。そんなもんですか……でも、前の場所ではログハウスを建てていませんでした?」
「うんにゃ。丸太がいっぱいあったから、暇潰しに作ってみたにゃ。アレで……五代目だったかにゃ? けっこう自信作だったんだけどにゃ~」
「満喫? してるんですね」
「暇が潰れる程度にはにゃ」
正直、疑問しか浮かばない。ゲームの中にいるんだからゲームしろと……見た目もそうだが、そういうところ超越してるんだろうね、この猫さんは……




