001 新人兄妹プレイヤー
パンゲアヒストリーオンライン、通称PHO……
それは発売当初から半世紀近くも世界ナンバー1ゲームとして君臨する神ゲームの名称だ。
ゲームの種類はフルダイブ型MMORPG。ユーザーの脳波を読み取り、ゲーム内のアバターを動かすタイプで、その当時の他ゲームを置き去りにした画期的なゲームであった。
もちろん他社もVR技術を高めて追いかけたが、パンゲアヒストリーオンラインには追い付けなかった。
多様なスキルをスロットに入れ、戦闘スタイルが変わる画期的なシステムもさることながら、年に一度更新されるストーリーがやり応えがあるとプレイヤーを虜にしたのだ。
舞台は、惑星にただひとつだけ浮かぶ巨大な超大陸。
その大陸には中世ヨーロッパ風のフィールド。森や湖だらけのフィールド。もっと原始的なフィールド。江戸、平安時代のフィールド。現代、未来のフィールドが詰め込まれている。
多種多様のフィールドでは、悪魔と戦ったり、獣の大群と戦ったり、未知の生物と戦ったり、宇宙からの侵略者と戦ったり、ロボットと戦ったり、謎解きしたり……
この重厚なストーリーがあるからプレイヤーは飽きることもなく、途中から参加しても楽しめて、いつまで経っても遊べてしまうからプレイヤーは増えに増えて二十億人。
パンゲアヒストリーオンラインは全世界ナンバー1ゲームに君臨しているのだ。
20XX年、夏……
中世ヨーロッパ風の町から離れる若い男女の姿があった。
「お兄ちゃん、ちょっと待って」
魔法使い風の装備のセミロング女性は、田村花乃16歳。プレイヤーネーム、カノ。足がやや不自由なのか引き摺っているので、兄から遅れている。
「あっ! わ、悪い……」
剣士風の装備で髪の毛が茶色がかっている男性は、兄の田村晴信20歳。プレイヤーネーム、ハル。パンゲアヒストリーが楽しみすぎて、早足になってしまったのだ。
「ううん。私がしっかり歩けないのが悪いし……」
「そんなことない。カノのせいじゃないよ。リハビリギルドが受け入れてくれなかったのが悪いんだ」
「リハビリギルドも悪くないよ。定員オーバーなだけじゃん」
「そうか~? 要介護2からってのは酷いだろ」
「今の時期はって言ってたでしょ。間が悪かっただけだよ」
どうやらこの兄妹、パンゲアヒストリーは初プレイで、今日のところは体が不自由な人が加入できるギルドに体験入団しようとしていたらしい。
それが断られたから、どうしようかと話し合って町の外に出た。モンスターを倒してスキルレベルを上げようという算段みたいだ。
「おっ! スライムだ!!」
「もう……」
ただ、ハルは戦いたすぎてウズウズ。モンスターを見付けたら、妹そっちのけで走って行ってしまった。
何度か戦闘を続ければ、ハルも落ち着いてきて、カノを置き去りにしていたことに気付く。
ハルは謝罪してカノにも戦わせるのだが、カノは攻撃魔法を外す度に、必要以上に励まされるから申し訳ないようなうんざりしたような気持ちになる。
それはASLが発覚してからいつもカノが感じていること。ただ、カノはこの気持ちを隠すように、いつも作り笑いでやりすごしていた。
「あ、森だ。ちょっと敵が強くなるみたいだけど入ってみないか? 森林浴できるかも??」
「う、うん。いいね……」
カノが戦闘に参加すること数回、ハルが気遣って提案したが、カノはこの返事しかできない。ハルは最初から森を目指していたし、森林浴よりもモンスターの強さを強調したんだもん。
「ちょっと奥に入りすぎじゃない?」
森での戦闘は、2人ではしんどいレベル。回復アイテム等も心許ないので、カノはやんわりと止めた。
「まだ大丈夫だって。それに歩いて帰るのも面倒だろ? ログアウトしたら始まりの町の開始位置に戻れるんだから、よっぽど効率的だ」
「そうかも……」
「よし! 回復アイテムがなくなるまで頑張るぞ~」
カノは納得いかない顔で頷いているのに、ハルは見えていないのか先々進む。歩く速度も速くなっているが、モンスターが道を塞ぐからカノも離されずついて行けた。
そうして回復アイテムが残り2個ずつとなった頃、カノは首を傾げた。
「なんか歌が聞こえない?」
「歌? そんなの聞こえな……いや、コンコン何か叩いてる?? あっちから聞こえるな」
森の奥から歌と、コーンコーンと木を叩いている音が聞こえてきたからだ。
「プレイヤーかな? それともイベント? ちょっと見に行ってみようぜ」
「お兄ちゃん、なんでちょっと楽しそうなの?」
「イベントだったらクエストが開始するかもしれないし。ま、始まりの町の近くだから、小ネタかな~? 何かいいアイテムが手に入るかもしれないぞ」
「はぁ~……アイテム欲しいだけじゃん」
ハルはワクワクしていて、カノの小言は聞こえない。また先々歩いて行ってしまった。
しばらく歩くと歌の音量が大きくなってくる……
「ずっと同じフレーズだね……」
「それしかインプットされてないんじゃないか?」
はっきりと歌詞が聞き取れる距離までくると、無限ループ。ハルはますますクエストの期待が高まった。
そうして少し開けた場所に出た2人の目に、二階建てのログハウスが飛び込んできた。
『コサァ~クは木ぃ~を切る~♪ へいへいにゃ~ん♪ へいへいにゃ~ん♪』
それと同時に、ログハウスの近くで斧を振る黒い毛皮で背の低い生き物……歌の主だ。
「獣?」
「獣人かな? ……おかしいな。PHOでは獣人のアバターなんて選べないのに……」
「え? アレ、プレイヤーなの??」
「たぶん……名前はまだ見えないけど、頭の上に黄色の文字みたいな物があるし……」
どうやらプレイヤーなのは確定みたいだが、謎が残る模様。2人は話し合ってというか、ハルは興味本位で近付いて行った。
『コサァ~クは木ぃ~を切る~♪ へいへいにゃ~ん♪ へいへ……』
およそ5メートルを残したところで、謎のプレイヤーは物音に気付いて振り向いた。
「「……」」
「……」
その見た目は、水玉模様の着物を腰まではだけるように着た猫。晴信たちはなんと声を掛けようかと悩み、黒地に顔の下半分が白い猫は目を真ん丸にして固まった。
その猫は照れたように頭を掻いたあと、ゆっくりと膝を折って地面に丸まり、左手で顔を撫でる。
「に……」
「「……に??」」
「にゃ~~~ん♪」
そして猫撫で声を出す。まるで自分はそこら辺にいる猫だと言いたげに……
「「いやいやいやいや。ムリムリムリムリ……」」
もちろんハルとカノには通じないのであったとさ。
しばらく毎日複数更新します。
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