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それでも君といたいと思ってしまった

 その日、王都の東にある林道で、小規模な異変が報告された。


 とある貴族の別邸へ向かう荷馬車が何度も立ち往生するという。道が隆起し、車輪が壊れる。原因は不明。騎士団の主力は他任務に出払っており、残った雑用係が調査を命じられることになった。


「……ってことで、お前ら行ってこい」


 命じたのは、侍女頭のマリベルだった。陽斗とセリナ、ふたりだけの任務だ。


「えっ、二人で……?」


「うん。たまには外で空気入れ替えてきな。ついでに、仲直りもしてきなさい」


 マリベルは茶目っ気たっぷりに笑っていたが、セリナの目は伏し目がちだった。


「行こ。仕事でしょ」


 その一言に、陽斗はただ小さく頷いた。


 


 ====


 


 林道へ向かう馬車の中。木々が連なる一本道。揺れと沈黙が続く。


 陽斗は何度も、何かを言おうとしては飲み込み、セリナもそれに気づいているのに、視線を合わせない。


 ようやく口を開いたのは、セリナの方だった。


「……逃げたかった?」


「……え?」


「私と話すのが、怖かったんでしょ?」


 陽斗は視線を落としたまま答える。


「うん。怖かった……自分が、邪魔な存在なんじゃないかって、思ったから」


 セリナの眉が少し動いた。


「……アッシュのこと、気にしてるの?」


「してないって言ったら嘘になる。でも……一番怖かったのは、セリナが、もう俺といたくないって思ってるかもしれないこと」


 馬車が止まり、ふたりは林道に降り立つ。


 自然の中で、かすかに風が揺れる音だけが聞こえる。


「バカ」


 セリナが、ぽつりと呟いた。


「最初から言えよ。何で黙って勝手に距離取るの。こっちは……どれだけ、分かんないなりに考えたと思ってるの」


「ごめん。でも……」


 陽斗が顔を上げる。


「でも、怖くても、セリナのそばにいたいって思った。ちゃんと話さなきゃいけないって、今は思ってる」


 セリナはゆっくりと、陽斗の正面に立った。


 その目に、戸惑いと――ほんの少しの期待が見えた。


「私も、どうすればよかったのか、分かんなかった……でも、嫌いになったわけじゃないよ」


 その言葉は、柔らかくて、陽斗の胸を打った。


 何もかも解決したわけじゃない。それでも、すれ違いの迷路に一筋の光が差し込んだような気がした。


「じゃあ、さっさと仕事終わらせよ。荷馬車の原因、調べなきゃでしょ」


「うん。頼りにしてるよ、セリナ」


「……は?」


「え、いや、その、言ってみただけで」


「……バカ。そんなんじゃ、まだ許してないから」


 けれどその頬は、少しだけ紅く染まっていた。


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