表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/28

そして旅は再び始まる

 王都の朝はいつもどこか慌ただしい。


 市場の喧騒、遠くで響く衛兵の声。


 だが今日は――それらの音のすべてが、優しく背中を押してくれるようだった。


「……準備できた?」


 静かな門の前で、セリナが問いかける。


 陽斗は荷物を肩に掛けながら、彼女に微笑み返した。


「うん。そっちは?」


「とっくに……あんたの方が時間かかってたでしょ」


「はは、まあ否定はしないよ」


 そんな日常のやりとりが、今ではすっかり当たり前になった。

 かつて出会ったばかりの頃、ぎこちない空気が流れていたのが嘘みたいだ。


 


====


 


 二人は今日、王都を旅立つ。


 きっかけは、一通の依頼だった。

 北方の村で小さな疫病が広がり、医師も足りない、物資も足りないという。


「雑用係の出番だね」


「ふん、便利な肩書きになったもんだわ」


 軽口を交わしながらも、ふたりの足取りは真剣だ。

 誰かの役に立てることの重みを、もう十分に知っているから。


 


「……ねえ、陽斗」


 街道を歩く途中、セリナがぽつりと口を開いた。


「ん?」


「私ね、たぶん……こうやって誰かのために動いてるときが、一番自分らしいんだと思う」


「うん。わかるよ」


「そんで、あんたと一緒なら……もっと、ちゃんとやれる気がする」


「……俺も、同じ」


 陽斗は足を止めて、少し真面目な顔になる。


「一緒にいてくれてありがとう、セリナ。俺……この世界に来て、本当によかった」


 風が、彼の言葉を運んでいく。

 セリナは目を伏せ、しばらく沈黙したあと――


「……バカ」


 とだけ、小さく言って前を向いた。

 でも、その頬はほんのり紅く染まっていた。


 


====


 


 道中、馬車を待つあいだ、二人は草原の丘で腰を下ろす。

 リリスがひょっこり顔を出したのは、そのときだった。


「やはり旅立ちでしたか。あぁ、実に尊い……恋と成長の記録ですね!」


「……相変わらず覗き見趣味ね、あんた」


「観察と言ってください観察。あ、セリナ様の表情、先ほど非常に良かったですよ」


「うるさい!」


 セリナが本気で怒る前に、陽斗が話題をそらすように聞く。


「ねえリリス、俺たち……これからも、間違ってないかな」


「人は常に未完成です。間違いも、痛みも、時に必要な道標です。

 でも、君たちなら――きっとそのすべてを越えていけます」


「……ありがとう」


「応援しています。ええ、ずっと」


 そう言って、リリスは風のように姿を消した。


 


 ====


 


 夕暮れ。

 丘の上から見下ろす村に、灯りが一つ、また一つとともっていく。


「明日には着くね」


「うん……あんまり、期待されすぎても困るけど」


「それでも行こう」


 陽斗はセリナの手をそっと取った。

 驚いたように見つめられ、でも彼はもう目をそらさない。


「俺は、君と一緒に生きたい。ちゃんと、そう思ってる」


「……言うようになったじゃない」


 セリナはふっと笑った。


 そして――手を握り返した。


 


 特別じゃなくていい。普通でいい。


 でも、二人で選んだ普通なら、それはきっと、誰よりも強くてあたたかい。


 


 陽斗とセリナの旅は、まだ始まったばかりだ。

 幾つもの明日を、これからも並んで選んでいく。


 


 ――風が優しく吹き抜けた。


 


 そして、歩き出す。


 もう、迷うことはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ