雑用係の彼女と、奇妙な共同生活
雑用係という名のもとに、王城のあらゆる『めんどくさいこと』を押し付けられる生活が始まった。
「そこの書類、片付けといて」
「はい!」
「水桶、まだ半分しかない。やり直し」
「す、すみませんっ!」
朝から晩まで働きづめで、体はクタクタ。なのにセリナの視線は相変わらず刺さるように冷たい。
(俺、嫌われてるよな……)
何をしても褒められないし、たまに目が合ってもすぐにそらされる。
それでも、陽斗はめげなかった。
彼には何の才能もなかったけど、ちゃんと働くことだけはできる。真面目に、地道に、少しずつでも役に立ちたいと願っていた。
ある日の昼下がり。
物置の棚を整理していた陽斗が、背後からか細い声を聞いた。
「……それ、違う」
「え?」
「そこ、食糧の棚。工具と混ぜたらダメ」
振り返ると、セリナが腕を組んで立っていた。
「え、あっ、ごめんなさいっ!」
「べ、別に怒ってないけど……。ちょっと見てらんなかっただけ」
セリナが近づき、ひょいと陽斗の手から箱を奪う。
その仕分けの手際は、相変わらず見事だった。
「……すごいですね。何でも知ってる」
「何年ここで働いてると思ってんの。あんたなんか、まだヒヨコ以下」
「ヒヨコ……」
「ふふ」
小さく笑ったような気がした。陽斗が驚いて振り向くと、セリナはすぐに顔をそらしてしまったけれど。
(……もしかして、ちょっとだけ、距離が縮まった?)
そんな風に思えた瞬間だった。
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その日の夕方、庶務課の担当官が言った。
「風間、明日から寮が空くそうだ。一応、仮住まいとして割り当てる」
「寮……ですか?」
「王城の敷地内。以前は雑用係用だったが、今は使われていない。とはいえ、まだ整備中でな……。一人じゃ心許ないだろうし、案内も必要だ」
そして――。
「というわけで、セリナ。お前も一緒に仮住まいとして入れ。ついでに監督役を頼む」
「……は?」
セリナが目を見開いた。
「いやいや、何で私まで……!」
「文句があるなら俺じゃなく、上に言え」
「くっ……」
セリナはしぶしぶ了承した。こうして、まさかの同居生活が始まることになる。
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「……狭っ」
「ま、まぁ、雑用係用ですし……」
二人が案内されたのは、王城の裏手にある古い平屋建て。部屋は二つに区切られていたが、壁は薄く、キッチンも共有。
生活感のない、埃っぽい室内。
それでも陽斗は嬉しかった。
自分の居場所があることが、なんだかとてもありがたかった。
「……このベッド、ギシギシ言う。寝返りうつたびに音鳴るとか地獄」
「ご、ごめん、俺が直します!」
「別にあんたのせいじゃ……いや、まあいいけど」
会話はまだぎこちない。それでも、二人の距離は、ほんの少しずつだが縮まっていった。
夕食を終えたあと、陽斗が洗い物をしていると、後ろから声が飛んできた。
「……さっき、助かった」
「え?」
「工具の棚、綺麗に直してくれてたでしょ。……あれ、私だけだと時間かかったから」
「……!」
初めて、ちゃんと感謝された気がした。
陽斗の胸に、ふわりとあたたかい何かが宿る。
「い、いえっ……! 俺、セリナさんの足を引っ張らないようにって、思ってて……」
「――そうやって、すぐ遠慮する」
「えっ」
セリナが、すこしだけ顔をしかめる。
「もっと自信持ちなよ。……まあ、あんたにはまだ早いかもだけど」
「……ありがとうございます」
素直に頭を下げると、セリナは目をそらしながら、そっと呟いた。
「ま、最初よりはマシになったかな。……ちょっとだけ」
その一言が、陽斗にとっては何より嬉しかった。
(もしかしたら、この異世界でも……普通に頑張っていれば、誰かに認めてもらえるのかもしれない)
希望のようなものが、小さく胸の奥で灯るのを感じながら――
風間陽斗の、異世界での最初の絆が、ようやく少しだけ芽生え始めた。