表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/28

君を置いていく未来だけは

 「お前が帰るってんなら、それでも構わない――ただし、その時は、俺が彼女を守る」


 訓練場の脇道で、アッシュが陽斗にそう告げたのは、仕事を終えた帰り道だった。


 涼やかな夜風の中、二人きりの時間。


「……それって、セリナの気持ちは?」


「わかってる。だが、俺の気持ちも言わせてもらっただけだ」


 その言葉に、陽斗は目を伏せた。


(どこかで、覚悟を求められていた気がしてた)


 でも、自分が決断する前に、誰かに先を越されたような気がして――心がざわついた。


 


====


 


 一方その頃、セリナはマリベルに髪をとかしてもらいながら、ぽつりと呟いた。


「……最近、陽斗と話すのが、怖いの」


「怖い? あんたが?」


 マリベルは驚いた顔で手を止めた。


「うん……変なこと言っちゃいそうで。帰らないでって、言いたくなりそうで……」


「言って何が悪いのさ。好きなんでしょ?」


 核心を突かれて、セリナは小さくうつむく。


「……うん。でも、それが重荷になっちゃうのが怖いの。あたしと一緒にいたら、帰れなくなるかもしれない。それって、ずるいよね」


 マリベルはその背に手を当てる。


「恋って、いつだってずるくて、怖くて、だから尊いのよ」


 その言葉に、セリナは目を閉じて、深く息を吐いた。


「……マリベルさん。あたし、どうしたらいい?」


「本音で向き合いな。引き留めるのが怖くて黙ってるなら、それは向き合ってるとは言えないよ」


 


====


 


 翌日。


 王都の市外れにある古い祭壇跡。リリスとエリオットは、帰還の門の手がかりを求めていた。


「ここ……たぶん、何かを封じてる。門じゃなくて鍵のほうだ」


 リリスが指差した先には、崩れかけた円環の石碑。その中央に、陽斗が持っている魔導書と同じ紋章が刻まれていた。


「風間くんがこの前言ってた本……あれ自体が、門の鍵なんだと思います」


「となると――次に必要なのは、代価か」


 リリスは、どこか痛ましげに目を伏せる。


「はい。最も大切なもの。おそらく、それは――絆です」


 


====


 


 その夜。村の宿舎に戻った陽斗のもとに、一枚の手紙が届いた。


 差出人は、セリナ。


 内容は短かった。


「明日、北の林で待ってます。少しだけ、話がしたいです」


 その文字からは、彼女の声が聞こえるようだった。


 翌朝、陽斗は指定された場所へ向かった。


 木々の合間、懐かしい草の香り。少し早い春の気配。


 そこに、セリナは立っていた。


「……来てくれて、ありがとう」


「うん。こっちこそ、手紙くれて」


 しばしの沈黙。


「……陽斗。あんたが、帰るってなったら……あたしは、笑って送り出してあげるつもりだった」


「……だった?」


 セリナは、小さく笑う。少しだけ涙ぐんでいた。


「でも、やっぱ無理だった。あたし、ずるい女だから。言うね――」


 風が吹いた。揺れる木々の合間から、差し込む光が、セリナの瞳を照らす。


「――帰らないで。あたし、あんたにいてほしいの……ずっと一緒にいたいって思ってる」


 陽斗の胸に、何かがあふれた。


 それは迷いでも、責任でもない。


 ただ、想いだった。


「……ありがとう、セリナ」


 ゆっくりと、彼は彼女の手を取った。


 この手を離せば、帰れるのかもしれない。


 でも――


 この手を離したくないと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ