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普通の僕らに、やっと訪れた特別

 王都の朝は、少しだけ柔らかくなった気がした。


 雑用係の詰所。いつもと変わらない日常の始まり――けれど、そこに立つふたりの関係は、もういつも通りではなかった。


「……今日の洗濯は、私がやるから。あんたは倉庫の整理、頼める?」


「うん、了解」


 やりとりは、いつもと同じようでいて、どこかぎこちない。でも、それが少しずつ、特別なものへ変わっていくのを、陽斗は感じていた。


 セリナが、照れ隠しのように視線を逸らすたびに。


 名前を呼ぶ声が、ほんの少しだけ優しくなるたびに。


(……これが、俺たちの特別なんだ)


 


====


 


 昼休み、ミーナがいつものように詰所に現れた。


「ふ~ん……あんたたち、最近なんか雰囲気変わったよねぇ~?」


 陽斗とセリナ、同時に目を逸らす。


「な、何もないわよ……たぶん」


「へえ? じゃあ、昨日の夜、セリナちゃんが、泣きながら陽斗くんに抱きついてたのも何もないんだ?」


「み、ミーナ!!」


 セリナが赤面しながら怒鳴る。


「……見てたのか……」


 陽斗もまた、耳まで真っ赤だ。


 ミーナはにやにや笑いながら、パンの包みを机に置いた。


「まあ、ふたりともお幸せにってことで。パンの差し入れ~!」


 


====


 


 その日の夕方、陽斗はアッシュに呼び出される。


 静かな中庭で向かい合うふたりの間に、もう敵意はなかった。


「お前が戻ってきてくれて、正直、ほっとしたよ」


 アッシュは剣を背負ったまま、陽斗の目を見据える。


「セリナのこと、頼んだ……あいつ、不器用だから、後悔させるなよ」


「……ありがとう、アッシュさん」


 陽斗は、自然と頭を下げていた。


 自分にはまだ、騎士団のような力もない。けれど、彼女を思う気持ちだけは、誰にも負けたくなかった。


 


====


 


 夜。セリナと陽斗は、並んで屋根裏の掃除をしていた。


 埃まみれの中、ふと手が触れる。目が合う。どちらからともなく、微笑がこぼれる。


「……変だね、こういうの」


「うん。でも、嫌じゃない」


 言葉を交わすたび、距離が縮まっていく。


 好きだと伝えたあの日から、少しずつ、ふたりの世界は変わっていた。


 やがて、陽斗は勇気を出して言った。


「セリナ。俺たち、これからも――一緒にいていい?」


 セリナは一瞬驚いたように目を見開き、でもすぐ、ぽつりと呟いた。


「……バカ。聞くまでもないでしょ」


 そっと指先が重なった。


 そこには、特別な魔法も、運命の奇跡もなかった。ただ、ふたりが選んだ答えが、確かにあった。


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