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「閉じこめたいの」について書くよー

ロクロイチ著『閉じこめたいの』(短編集)


#百合 #ハッピーエンド で作品検索する人に知ってほしい、そんな漫画が『閉じこめたいの』だ。

 この短編集に載っている作品は、ざっくりした見方をすれば、どれも同じ展開の話だ。

 女の子に片想いする女の子が、告白できずに苦しむ。でも実は、相手もずっと前から自分のことが好きだと判明する。エッチしてハッピーエンド。こんな感じである。

 全部同じなのに、読んだ後は「主人公が幸せになってくれて本当によかった」という清々しい気持ちになる。最初だけじゃなく、読み返すたびにそうなる。

 これは味岡の頭が悪いせいではない(たぶん)。作者ロクロイチの手腕が優れているからなのだ。

 この漫画家の何がすごいかというと、「なんとなく薄幸そうな主人公」を作り出すのが抜群にうまい。本作『閉じこめたいの』に出てくる主人公達も、みんなそういった感じだ。

 生い立ちが不幸とか、家庭に問題があるとか、そういうことじゃない(むしろ、ロクロイチ作品でそういう設定を見た記憶がない)。ただなんとなくの雰囲気として、ハッピーエンドになるのが難しそうな感じの主人公なのだ。

 もう一歩踏み込んで言うと、彼女らは、いわゆる「せつな百合」系の漫画に出てきそうなキャラクター造形なのである。

 一途で、ピュアで、自分のことがあまり好きではなくて、臆病で、想い人と相対しているときは本音をおくびにも出さない。そういう女の子が、物語の軸になっている。

 上記のキャラがせつな百合に出てきそう、というのはまあ、こちらの思い込みや偏見かもしれない。けれどとにかく、『閉じこめたいの』の主人公達は皆、ビターエンドに突き進んでいきそうな雰囲気がある。そのことを言いたかったのだ。

 やや露悪的な言い方をすれば、彼女らは、不幸が絵になる少女なのだ。


<あれは合図だったんだ


 はじめから あきらめて

 本当に傷付かない様に


 それでも求めてしまうから___>


 ロクロイチは、少女が独りで傷ついてゆく心情を切々と綴り、陰で涙する横顔を美しく描く。そして基本的に、打開策は与えない。読んでいるこちらに嫌な予感がよぎった所で、そこから一気に逆転ハッピーエンドへと持っていく。この振り幅が、なんといっても魅力的なのだ。

 なので毎回「実は、相手もずっと前から自分のことが好きだと判明する」というパターンになるのも、おそらく意味がある。

 能動的な主人公よりも、受動的な主人公の方がビターエンドを想像しやすい。そしてその予感を裏切って、受け身な主人公をハッピーエンドに導くには、「私も前から……」という展開が一番説得力がある。だから、その一つの展開に各話バリエーションをつける、という方針を選択をしたのだろう。たぶん。

 積極的な少女が、いろいろアプローチをして結ばれる達成感。or 手詰まりで動けなくなっている少女が、奇跡のように救われるカタルシス。後者の方に特化したのがロクロイチという漫画家であり、本作『閉じこめたいの』だ。よさそうと思って読んだ漫画がせつな百合で、読後やるせない気持ちになった……そんな経験をした人にお勧めしたい。


 ところでロクロイチ作品には、女性同士の濡れ場がよく出てくる。『閉じこめたいの』も例外じゃない。だけどいやらしいだけでなく、感動的な気持ちにさせてくれる。きっとそれは、相手を求める気持ちの果てとしてセックスを描写しているからだろう。演出効果で花が描かれるベッドシーンは、とても美しい。

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