「悪いが私は百合じゃない」について書くよー
(前話からの続きとなります)
もちオーレ著『悪いが私は百合じゃない』(2024年現在、七巻まで刊行)
好きな男性教師にほれ薬をのませようとするが、失敗し、同級生の女の子にメチャクチャにされてしまう(でも不思議とやじゃない)。それが『悪いが私は百合じゃない』の基本ストーリーだ。
この漫画が始まったとき、味岡は小躍りした。もちオーレのいいところが全部詰まっていたからだ。
絵柄は元通りシンプルでキュート。設定はぶっとんでて倫理的にアウト、なのに明るく楽しくコミカルで、それでいて高濃度百合。これを待っていたのですよ。
主人公、藤堂いつみの設定も良い。
小生意気でエゴイスト、なのにどこか抜けているので、いつも望んでいない百合に巻き込まれる(でも嬉しい)。もちオーレらしい、かわいげたっぷりのキャラクターだ。
こっちの求めていたものを、これでもかと出してくれた作品だった。
だった、のだけれど……。
巻数が進むにつれて、近ごろどうも、こちらも雲行きがあやしくなってきた。
唐突に始まるバトル、唐突に始まるスポーツ、少なくなっていくギャグ、百合と無関係な深刻めの盗難話、百合と無関係な主人公上げエピソード……。
作者の「もう百合コメディなんて飽きちまったんだよ!」という心の叫びが聞こえる感じなのだ。
主人公いつみの立ち振る舞いも、最初とすっかり変わってしまった。まともなことしか言わない真人間になってしまった。
もちろん、まともなことは大切なことだ。「まとも」を軽視しているわけじゃない。だけど、この漫画にはそぐわないというか……。
はっきり言えば、同級生に説教かますいっちゃんなんて見たくなかったのですよ。もう別人じゃん。あなた誰ですか。
それでも、まだ希望はある。まだ基本的には、女×女の恋愛関係を基軸として、ストーリーが動いているからだ。それすらなくなったときは、もう……。
読者の求めるものと、作者のできることが合致しているのに、作者のやりたいことは(たぶん)別。そんなスリリングな漫画が、『悪いが私は百合じゃない』、だ。
思えば意味深なタイトルだ。タイトル通りに百合じゃなくなってしまうのか、しまわないのか。いろんな意味で目が離せない。ファンにとっては、心臓に悪い漫画です。