第71話 消し飛べ! クソ野郎!!
それは最も原始的な方法だった。
太古の昔から知能を持つ者達が幾度と繰り返してきた、とても単純な方法。
逃げ場の無い空間と、タイムリミットを迫られた事でソレは更に加速する。
「全員【オールデットワン】に総攻撃! 『鳴神の雷鼓』の発動を阻止します!」
勝った方が生き延びる。
【オールデットワン】は一方的に彼らを自分の場に引き込んでいた。
【オールデットワン】フェーズ2――
ドンッ! と【オールデットワン】の背から延びる長腕が、強く地面を打ち付けると、地に刺さっていた武器が浮かび上がった。
「妨害……」
四方から接近するエクレア達に対して【オールデットワン】は武器を空間に散らせる事で動きを阻害する。そして、地面を蹴ると逆に接近してくる。
待ちや防御に徹すればほぼ確実に勝てると言うのに、この【オールデットワン】は――
「あたしらを嘗めてるのか!」
フレイは炎を腕に巻きつつ、最大火力の『炸裂拳』を突き出す。それに合わせる様に【オールデットワン】は長腕で同じ様に殴り合わせた。
炸裂。爆発と振動で宙に散った武器が周囲の石壁に刺さる。
「ぐっ……あぁぁぁ!?」
フレイが激痛に叫ぶ。
【オールデットワン】の長腕とフレイの肘から先は相殺する様に消失していた。しかし、この結果は明らかにおかしい。
「フレイ!」
エクレアは腕を抑えるフレイのカバーに入る。
フレイは自分の『炸裂拳』に耐えられるからだ。欠損する程のダメージを負うなど考えられない。
「――この状況でもデバフを押し付けてくるっスか!?」
『鳴神の雷鼓』の発動と『闇魔法』を併用している……?
フレイは、【オールデットワン】の『闇魔法』で耐久値を下げられたのだ。結果として自分の魔法に耐えられなかった。
属性が全く異なる二つの魔法を同時に操る者は居る。しかし、ソレは理性があるからこそ成立するのだ。
【オールデットワン】の行動に理性存在しない。あるのはただ、敵を殲滅する、と言う命令だけ。
それだけだと言うのに、この【オールデットワン】は自分達を罠に嵌め、今も尚、複雑に戦局を絡め取っている。
「最悪です……」
この【オールデットワン】は常に選択を自分達に押し付けてくる。まるで、こちらに手段を一つ一つ丁寧に潰すように――
「フレイ! 足を止めんな! 殺られるぞ!」
水月が横から【オールデットワン】へ瓶を投げる。長腕がソレを弾き割ると中の液体――水銀が巻き付き、長腕を断裂する。
「今の内に距離を――」
「…………」
すると【オールデットワン】は水月を見ていた。顔はない。ただ、彼に意識を向けているコトだけは解る。その場から動かず、ゆっくり手をかざすと、
「――――は?」
胸から剣が槍の切っ先が伸びていた。
『磁界制御』。【オールデットワン】は土壁に刺さった槍を磁力で引き戻すと背後から水月を貫いたのだ。
咄嗟の刺殺に対応できなかった水月は膝を着くと周囲から流動する様に巻き付く『土魔法』に呑み込まれ、圧殺された。
「っ! 水月!」
【オールデットワン】は一歩も動かず水月を殺して見せたのだ。
これは油断でも侮りでもない。水月の水銀は接近すると危険であると判断しての行動だった。
「テメェ……俺の目の前でよ! 『土魔法』で仲間を殺るんじゃねぇよ!」
グランが吼える。退路の確保を言い渡されて居たが、彼は『土魔法』で仲間を殺されて黙っていられるほど穏やかでも、冷徹でもない。土と鉄に誇りを持つ『炭鉱族』だった。
「……っ」
エクレアは、水月に対しての感情も、グランを冷静にさせる説得も、時間の無い今では省略せざる得なかった。
故に【オールデットワン】の次の狙いはマリアだった。
主を失った水月の水銀を操るとマリアへ向けて礫の様に分散して放つ。
「テメェ! いい加減にしろよ!」
ドンッ! とグランは地面に拳を打ち付けると、マリアを護る様に『土壁』を出現させる。
場の『土魔法』の支配権は己の魔力を混ぜている【オールデットワン】にあるのだが、この瞬間だけはグランが上回った。
「ハァ……ハァ……」
グランは『土壁』一つ出すだけでも魔力を殆んど使ってしまった。肩で息をしていると、
「…………」
【オールデットワン】が指を差すと水銀がグランの胸を貫く。くそったれ……と彼は悪態をつくと、うつ伏せに倒れた。
「ホントにさ……」
その【オールデットワン】の眼前に全力の魔力を残った片腕に溜めるフレイが居た。
「ふざけんじゃ無いわよっっ! お前ぇ!!」
もう片腕も無くなってもいい! ここであたしの魔力を全部使って、コイツを――
しかし、【オールデットワン】はフレイの間合いから外れる様に後ろへ下がった。
「自由に動けると思った?」
下がれなかった。身体の間接部に無数の『杭針』がソイフォンより打ち込まれ動きが停止する。
【オールデットワン】が常に歌うマリアを狙わなかったのは、彼女の護衛で人員を割かなければならないと判断していたからだ。更に、
『二重聖歌』――『戦いの謳歌』×『安らぎの詩』。
『安らぎの詩』。それは、マリアが『戦いの謳歌』を受けていない者に対して休止状態を強制する詩である。
理性が無くとも運動エネルギーを持つ存在であれば、それらの命令は全て休眠へと書き換えられるのだ。基本的には即座に眠りにつくのだが……
「…………」
【オールデットワン】は僅かにフラつく程度に留まった。しかし、その一瞬があれば――
「消し飛べ! クソ野郎!!」
常人の数十倍の魔力を持つとされる『竜人』。その残りの魔力全てを腕に纏ったフレイの『炸裂拳』が【オールデットワン】の身体へ叩き込まれた。
爆熱と衝撃波にフレイと【オールデットワン】の影が消え、皆が吹き飛ぶ。




