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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第二幕 殿の兵士

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第66話 ウチは一撃ぶちかましたッスよ、水月くん

 (わたくし)はアレストの所に行くよりも先に足を運んだ場所があった。


「…………」


 それはベルファスト。(わたくし)の兄と息子の故郷だったのだけれど、総統府のある『中枢街』以外は開発が止まったかのように貧富の差が明確に見てとれる国だった。


 中でも最下層と言われているヴェルグ街は、水は汲んで濾過しなければ飲めず、灯りは松明を使わなければならない。

 その燃料を確保する為に、ゴミを漁り、一度病気になれば決して治ることは無かった。何より、それらを何とか出来る“知識”を持つ存在が居なかった事も大きな起因だった。

 前に訪れた(わたくし)は一度、ヴェルグ街の皆に教養を与えようと兄に告げた事があったけれど、


“止メトケ、ゼウス。ココニ流レテ来ル奴ラハ這イ上ガレナインダ。皆疲レテルンダヨ”


 だから兄はヴェルグ街の人たちに役割と簡単な仕事を与えていた。

 それをこなせば一日を安定して生きられる。この街の人々は立ち上がろうと思ったら勝手に街から出て行く。だから、それまで支えてやるのが、自分の役目だと兄は言う。


“マァ、タマニ変ナ奴モ居ルケドナ”


 兄はそう楽しそうに笑う。けれど高齢の波には逆らえなかった。薬で寿命を伸ばしていたけれど、床に伏せる様子はそれも限界だと(わたくし)は悟った。


“ゼウス。オレガ死ンデモ、ヴェルグ街ニハ手ヲ加エルナヨ? ココニ知識ハ要ラネェンダ”


 兄はヴェルグ街を知識も心も休める街として残したかったと言っていた。(わたくし)にも疲れたらいつでも来て良いと。


 どん底のどん底まで来た人たちが最後に辿り着いて、立ち上がるまで心を休める最後の受け皿。それが兄が考えた故郷の有り様だったのだ。

 だから、(わたくし)はソレを尊重してヴェルグ街には手をかけなかった。


「……悪運はやっぱり強いのね。貴方は昔からそうだったから」


 火がかけられたヴェルグ街は灰屋ばかりで、もはや街として形すら無くなっていた。

 そんな中、木の十字架を墓標にした兄のお墓だけは焼かれずに残っている。生前も運だけで生き延びていた様な人生を送った兄は、死後もその悪運は尽きないらしい。


「……総統府に行ったけれど、資料は何も無かったの。ロルマに攻め込まれて機密資料は全部持っていかれたそうよ。ローが従軍した事は解ったけど……今、そっちにいる?」


 兄の墓前に(わたくし)は問う。

 息子が(わたくし)の元を離れると言ってヴェルグ街を兄の時の様に取りまとめると決めた時はとても嬉しかった。

 そうやって、知識だけでは繋がらない人の想いはずっと失われないって思えたから。でも、


「今はちょっと後悔してるかな」


 (わたくし)は困った様に笑いながら花を墓前に置く。ローがどこに居るのか。生きているのか死んでいるのか。それだけでも確かめなきゃいけない。

 風が通り抜け、花束の花びらが散る。色褪せた廃墟のヴェルグ街には明るい色が舞った。そして、その風はロルマの方角へ花びらを運んだ。


「――そう。ありがとう、ゴーマ」


 息子(ロー)の手がかりはロルマにあると兄が教えてくれた。






 アレストから今の情勢を聞いた所によると、ロルマはベルファスト侵攻作戦において、その陣頭に立つ変わりに1ヶ月の間、『グリーズアッシュ』での行動は他国より制限されない盟約を結んでいたそうよ。

 だから、今の『グリーズアッシュ』ではロルマの旗を掲げるだけでフリーパスで動けるらしいわ。


「皆は【オールデットワン】と戦ったのかしら?」


 日が落ちると言う事もあり、(わたくし)達は一度夜営を挟んでから明日の朝に『グリーズアッシュ砦』に入る事を決めた。準備は万全にしておかないとね。


「戦ったッスよ? でも、なんかヘンなんスよ。アレ」

「そもそも攻撃が当たらないだろ。エクレアさん以外じゃ奴の速度について行けない」

「ウチは一撃ぶちかましたッスよ、水月くん」

「マジ? どうやって当てた?」

「マリ姉の『唄』とソイ姉の『縫い』っスね。基本的にウチがアタッカーなんで」


 【トライシスター】の動きは『骨』を持つセルギをサポートするのが主な戦い方の様ね。


「噂に名高い、【聖女】マリアの『聖歌(ホーリーソング)』ですね」


 『聖歌』は有名な『光魔法』。澄んだ心で歌う事で様々な恩恵をもたらすの。エクレアも知ってるみたいね。


「そうッス! マリ姉が認めた人全員が受けられるッスよ! 今回は【エレメントフォース】も居るんで【オールデットワン】とれると思うッス!」

「そんなに凄いの? あたし、期待しちゃうよん」


 フレイはセルギと思考が似てるからすぐに仲良くなったわ。


「しかしよく拘束出来たなぁ、嬢ちゃん」

「大雑把に全部覆う必要は無いのよ。人体は力のかかる起点があってその要所を止めるだけで動けなくなる」


 グループでの役目が似ているグランとソイフォンは意見交換をしているわね。


「皆さん、私の『聖歌』は万能ではありません。本来ならば『解放歌』にてあらゆる戦闘行為は不可能になるハズでした」


 『解放歌』は『聖歌』の旋律の一つ。歌声が届く範囲において、あらゆる殺傷武器が朽ちて使い物にならなくなる歌よ。


「しかし、【オールデットワン】には『解放歌』は効きませんでした。こんな事は初めてです」

「そう。やっぱり……」


 この世の概念を否定する術。それは“禁術”と呼ばれ、生み出されるべきではない術の事だ。放っておけば禁術は“禁忌”となり、世界を崩壊させてしまう。

 禁忌になる前にソレを止める事が(わたくし)の目的だった。そして、もう一つは――


「…………」


 アレストから閲覧させて貰ったベルファストより押収した機密資料には【オールデットワン】の被験者の中にローの名前が記されていた。


“オレがゴー爺の跡を継ぐよ。でも流石に衛生面は何とかするかな。良い感じの田舎街にでもするからさ。母さんも遊びに来てよ”


「……貴方は聡い子よ、ロー」

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