第63話 変な大人に引っ掛かるんじゃないぞ!
「私がサリアの事に気がついたのは、ボルックに声をかけられたからなの」
『ワタシはローハンから、スメラギとサリアに注意する様に頼まれただけだ』
夕飯の席でジャンヌ大佐との会談時にて、クロエとボルックの的確すぎる動きの答え合わせが行われていた。
「ジャンヌ大佐とは一回戦りあってたからな。あの女ならマスターに対して何らかのアクションを起こす可能性は高かった。お前らはオレよりも遺跡都市にいたから、より知ってると踏んでな」
ジャンヌがマスターに手を出そうとすれば、サリアとスメラギは間違いなく動くだろう。
「……お見通しだったのね」
「……ぬぅ……」
サリアとスメラギは図星故に複雑そうだ。
「まぁ、お前らのマスターに対する敬意はわかるけどな」
サリアとスメラギはクランに加入した経緯からも特にマスターに対して敬愛の念が深い。その事情を知ってたからこそ、行動すると言う読みが当たったワケなのだが。問題は――
「コレを逆手に取られて『星の探索者』全体が危機に陥るかもしれん。マジで気をつけろよ、お前ら」
「……分かったわよ」
「……その言葉、心に刻んで置こう」
やれやれ。『星の探索者』は色々な場所へ行く以上、マスターの事を知らない輩との接触も多々ある。その都度、このような殺意を纏うのは『星の探索者』の成り立ちではない。
「はーい、ローのお説教もそこまで。サリア、スメラギ」
「はい」
「主様……」
「二人が私の事を想って行動してくれる事はとても嬉しいわ。でも貴方達の“銃”と“術”は、大きな力と責任を伴うの。それを行使する前に一歩止まって考えてみてね」
コロン、と笑うマスターにサリアとスメラギは改めて反省した様子だ。
過去にメンバーの一人である、クロウが死んだ事も今回過剰に動いた原因なのだろう。クロエもメンタルをやられてた事もあって、クラン内の自制心が少し弱くなってたか。
「それじゃ、今日は皆にローと私の事を話しましょうか」
マスターが告げると、カイルとレイモンドも反応する。
「ゼウスさんとおっさんの?」
「二人が以前から知り合いみたいな感じは察していますが」
クランに入って歳月の浅い二人にはマスターとオレの関係を深くまで読みきれんか。
「【オールデットワン】」
クロエが今まで知らなかったオレの能力を口にする。
まぁ、オレもマスターが側に居たときは使う必要がなかったからな。
「それについても話してくれるのですか?」
「ええ。そうねー、どこから話しましょうか?」
「別にオレを迎えに来た所からでいいんじゃないですか?」
『迎えに? マスターとローハンは常に一緒ではなかったのですか?』
ボルックはオレとマスターはずっと共に合ったと思ってるらしい。
「そんなワケねぇだろ。オレもいつまでもガキじゃねぇんだから。さっさと親離れしたんだ」
「ふふ。そうね。ローは誰よりも早く自分の道を見つけたわね」
マスターは懐かしく思い出す様に、割れた月を見上げる。
「あれは第三次千年戦争が始まって、二年くらい経った頃だったかしら――」
「金目のモノを出しなぁ!」
「ひぃ!」
町へ向かう馬車に乗って道中の時間潰しに本を読んでいたゼウスは強盗の場面に遭遇した。
「荷台から全員出ろ! 下手な真似をするなよ? 遠距離から魔術師も狙ってるからな!」
事態は林道で起こった。この森を拠点に活動する山賊達による襲撃は実に鮮やかで、手慣れている感じが見て取れた。
「五、六、七……これで全員か。全員! 金目の物を出せ! それでお前らの命を売ってやるぜ!」
震える乗客たちは各々が持っている金品を差し出す。山賊達は、良い買い物だろ~? と押収していった。
「おい、ガキ! お前は――」
「このブレスレットで良いかしら? 後は……お菓子くらいしか……」
「馬鹿言うな! 子供はタダで売ってやる! 変な大人に引っ掛かるんじゃないぞ!」
「あら、ありがとう」
「いいって事よ。オラ! 隣のヤツ! 良いネックレスを着けてやがるな! それでお前の命を売ってやるぜ!」
そんなこんなで、山賊達は乗客から金品を巻き上げると森の奥へ帰って行った。
「…………え? 撃退した話しじゃないの?」
「そんな事はしないわ。いい? カイル。彼らにも生活があるのよ。生きている限りね」
「いや……問題はそこじゃねぇ」
マスターは博愛主義ではあるが、色んな観点から物事を見るため、実害が及ばない限りは静観を決め込むのだ。
その山賊も“子供に優しい”おかげで、年齢詐称のロリロリ婆さんを奇跡的にかわせたのだろう。
怖ぇ世の中だぜ。こんなのが馬車に乗って移動してんだからよ。
「それで? その話し始めから、マスターとローハンの再会までの前後が全く繋がらないんだけど……」
「焦っちゃ駄目よ、サリア。ちゃ~んと繋がってるから」
馬車は残してやるよ! さっさと町に行きな! いつでも、命の買い取りをやってるからよ! 今後ともこのレグレス山賊団をよろしくぅ!
と、山賊に解放された馬車はガラガラと進むも、荷台はお通夜ムードだった。
「お母さんの遺品が……」
「くそ! アレを元手に一発儲ける予定だったのに!」
「もうお仕舞いだぁ……お金返せない……」
「うぅ……」
「皆、大変ね」
ゼウスは殆んど被害が無かった事もあって少し居たたまれなくなった。街に着いたらそこの兵士にレグレス山賊団の被害を相談しておこう。
「クソ……奴ら剣まで持って行きやがって……何とか隠したヘソクリで新しいのを買うしかないか……」
と、一人の男が着ている服の紋章が気になった。
「ちょっと良いかしら?」
「ん? なんだ?」
不機嫌な男はゼウスに対してぶっきらぼうに答える。
「貴方、ベルファストの人?」
「ああ、そうだが?」
男の服の紋章は少し煤けているが、息子の故郷――ベルファストの物だ。ここから北東へ二日の馬車を使った先にある小国である。
「私もベルファストに身内が居るの。今、あの国はどんな状況? ヴェルグ街はどうなってるの?」
「ヴェルグ街? あんなゴミ溜めは吹き飛ばされたよ。【オールデットワン】を量産されない様にロルマの大部隊がベルファストに攻め込んだんだ」
「――え?」
「知らないのか? 第三次千年戦争が数年前から始まってる。あんた、相当に遠くの地域から来たんだな」




