第550話 ラナヤさんが凄く恐いわ
照射は僅か2秒足らずであったが、停止後プロトワンは大量の熱を放出した。
内蔵型の【スペクターキャノン】は内部機構を組み合わせるだけでもかなりのエネルギーを循環する。その際に発生する熱量は凄まじいモノであり、使用後のオーバーヒートは必然だった。
「やっぱり放熱が課題ね。壊れたヴェロニカの一つでも『アステス』から流してもらえないかしら」
プロトワンは動くものの冷却を優先。平時に戻るには十数秒かかる。
『す、凄い……完全にやっつけた』
「ふふ。一分もいらなかったわね。さて、リースさん。これから私達は敵なのだけれど」
『はっ! ラ、ラナヤさんには、て、手を出させません!』
「それは恐いわ♪」
リースは真面目にパタパタするがストリングドールはからかう様に笑った。その時、プロトワンが動き出しストリングドールを護るように前に立つ。
「あら、想像以上にしぶといわね」
【オールデッドワン】が正面に再生する様に姿を成した。
完全に蒸発してからの再生。ストリングドールとしては、存在概念がどこに起因しているのか興味が湧くレベルだ。
すると【オールデッドワン】の周囲に四つの正方形の“影”が浮かぶように現れる。
『箱?』
「『キューブ』よ。テスラが作った4つの武器ね」
『武器……なんですか?』
「完全に再現しているのなら見ていれば解るわ」
『キューブ』の大きさはヒトの頭ほど。すると、回転するように動くと四つとも“砲塔”に変化した。
『え?』
警告【スペクターキャノン】の反応を4基確認――
砲塔内部にエネルギーの滞留光が見え始める。
『アレって……絶対にマズイヤツですよね?!』
「そう言えばプロトワンの【スペクターキャノン】はテスラと共同だったわね。でもおかしいわね……『キューブ』の再現形状に【スペクターキャノン】は含まれて無かったハズ……」
ぶつぶつ考察するストリングドール。そんな事をしている場合ではない、とリースが必死に叫ぶ。
『光が強くなってる?! ス、ストリングドールさん!!』
プロトワンは肘部を立てて後方を護る様にシールドを張るがストリングドールは、コツ、と前に出る。
「プロトワン。排熱を優先しなさい」
『…………』
その指示にシールドを引っ込め、動きを止める。
ストリングドールは袖から1本の“ナイフ”を滑らせる様に握ると【オールデッドワン】へ歩みを進める。
滞熱量より計算――【スペクターキャノン】発射まで10秒……
「小言を言う時間もあるわね」
その“ナイフ”を投げようとした瞬間、
「…………」
【オールデッドワン】がコマ送り移動にて接近。ストリングドールの正面に現れた。
「随分と顔が綺麗になったわね。テスラ」
剃り落とした様にのっぺらな【オールデッドワン】の顔。それが目の前に現れてもストリングドールの笑みは崩れない。
彼女の顔面を【オールデッドワン】の手刀が穿つ――
「――『マスタークラス』は覗き見が趣味なのかしら?」
【オールデッドワン】の手刀はストリングドールの眼前にて止まる――と言うよりも届いていなかった。
地面が軟泥化し、【オールデッドワン】の足は脛ほどまで沈んでいた故に踏み込めなかったのである。
「要らぬ世話でしたか?」
「ええ、とっても」
コツ、と現れたのは帽子をかぶった一人の女だった。
『え? 誰……』
「どうも、『マスタークラス』ノーティムです」
「ふふ。どうも、ストリングドールです♪」
『あ……リースです』
呑気に自己紹介を終えた瞬間、カッ! と【スペクターキャノン】の光がチャージを終えた事を伝え、
『あっ』
リースは素直に死を悟った。しかし、四門の【スペクターキャノン】は斜め上空へずれる様に射線を外していく。
見ると、円柱状に伸びた“土”が【スペクターキャノン】の真下から突き出るように出現。角度を上に変えていた。
「固定しない砲塔の射線は安定しない。兵器を使う際には基本中の基本中よ。【オールデッドワン】に成ると貴方の自慢だった知能も落ちるようね、テスラ」
『ふ、ふぇ……』
上空を通り抜ける【スペクターキャノン】の照射。ストリングドールは目の前の【オールデッドワン】に対して憐れむ目を向ける。
すると、【オールデッドワン】は力技で沈んだ地面から足を引き抜くと、今度こそストリングドールへ届く一撃を見舞――
『…………』
ドッ! とプロトワンによる横からの前蹴りで、【オールデッドワン】は頭部を消失。ストリングドールは、ひょい、と首を傾けて手刀を躱した。
『キューブ』による【スペクターキャノン】は停止し、分解する様に消滅。ノーティムは【オールデッドワン】の身体を胸部まで沈めるように地面を軟泥化させた。
「コレは何ですか?」
「【オールデッドワン】と言うそうよ。頭を潰しても、塵も残さずに蒸発させて死なないわ」
「不死身……と言う事ですか」
ノーティムはこれまでの戦いを観測していたが、最も得体のしれない【オールデッドワン】に対処している様子から姿を現したのだ。
『……不死身じゃありません』
二人の会話に割り込む様にリースが告げる。彼女はローハンより、【オールデッドワン】について少し聞いていた。
『復活には限界があるそうです。その上限は当人の寿命です』
「定義が曖昧ね」
「ストリングドール、『石板』の制限を解除して頂けますか? 万全の私なら【オールデッドワン】を完全に拘束できます」
「具体的には?」
「地面に埋めます。寿命が尽きるその日まで」
『えぐい……』
現在、ノーティムは『石板』による制限で地面の軟泥化と僅かにオブジェを作る程度しか能力を発揮できない。
「却下。忘れないで欲しいんだけど、私と貴女達は敵よ? 自分を刺してくる相手に武器を手渡す科学者がどこにいるのー?」
と、微笑むストリングドール。
「私程度なら解放しても貴女なら対応出来るのでは?」
と、笑顔のノーティム。
機能を回復したプロトワンもノーティムを敵視する様にストリングドールの側に寄る。
一触触発。二人とも笑顔だが、その裏から感じる意図に異様な空気が場に流れる。リースは、はわわ……と羽根をパタパタする事で精一杯だった。
「どう言う状況だ?」
『ラナヤさんっ!』
そこへ、回復を終えたラナヤが現れた。どちらについて良いか分からないリースは彼女の側へ移動する。
「ふふ。一分は大分過ぎてたわよ? ラナヤさん」
「後ろからお前を刺そうと思ってたんだが、中々隙を見せないのでな」
「あら、恐い。プロトワン、ラナヤさんが凄く恐いわ」
『…………』
『ラナヤさん……』
どうにかして皆で仲良く手を取り合えないかなぁ……とリースは至極一般的な意見を心の中で呟いた。




