第548話 【オールデッドワン】の討伐と行きましょう
濁っている……
世界が……濁っている……
綺麗に……キレイにシナイト……
目の前に現れたのは間違いなく【オールデッドワン】だった。
ローハンが成った際に放つ“殺意を含む圧”よりは弱いものの、締め付けるような圧迫感は明らかな上位存在としての“格”を感じさせる。
そして……『絶凍氷獄』に捕まっていたテスラの姿ない。つまり――
「…………」
どう言う事だ? テスラはローハン殿と同じで【オールデッドワン】を持っていたのか?
ラナヤとしては困惑の念が強い。すると、【オールデッドワン】は顔を上げると天を仰ぐ様に『石板』を見る。そして次に、ゆっくり顔をラナヤへ向け――
「――――!」
僅かに揺らいだと感じた瞬間、コマ送りの様に動きラナヤの首を片手で掴んでいた。
「かっ……」
「…………」
【オールデッドワン】の握力によりラナヤの首が握り潰される。
寸前、首を掴む【オールデッドワン】の腕は本体とは繋がっていなかった。
『凍断』。ラナヤは首を掴まれた瞬間に反応。【オールデッドワン】の腕を凍結させ、『氷の忍者刀』で切断したのだ。
「こほっ」
【オールデッドワン】より距離を取りつつ首を掴む腕を外すと捨てる。
なんだ? コイツの動きは……反応が遅れた。
『凍断』された自らの腕先を確認する様に見る【オールデッドワン】。まるで、自分に何が起こったのか分析する様に――――腕を元に生やした。
「欠損しても即再生か。面倒だな」
それよりも問題は【オールデッドワン】の“動き”だった。
コマ送りの様に動くソレは明らかに異質。無駄が多い動きではあるが距離感が掴みづらく、反撃は後手に回る。
何かしらの対策を考える前に――
「チッ!」
再びコマ送りで眼前に来ると振り下ろしてきた拳を大きく動いて何とか回避。【オールデッドワン】は振り抜いた拳を突き出したまま停止していたが、次のコマでこちらを向き、更に次のコマでラナヤへ追い縋っていた。
こちらの一挙動に対して二回は動いてくるか。
更に大きく飛び離れつつ『絶凍クナイ』を投げて牽制。【オールデッドワン】は首と腹部に突き刺さるも、構わずにコマ送りで向かってくる。
「――――発動しないだと?」
ラナヤは『絶凍』の付与が機能していない様子に困惑した。こんな事は今まで一度も無かった。
相殺でも、無力化とも違う。手応えはあるのにそのまま吸い込まれて行った様な――
「…………」
その時、コマ送りの数が減った。接近する【オールデッドワン】は次のコマで不意に横に現れ、ラナヤの胴体へ横蹴りを放っている。
「! チッ!」
かわせない。咄嗟に腕を挟んで何とか防御を差し込む。しかし、その腕をへし折り、更に身体をくの字に曲げるほどの膂力を叩きつけられ、吹き飛ばされた。
「がはっ!?」
『石板』に叩きつけられ、衝撃は全身に響く。
これは……『音界波動』か? プロトワンと同じ――!
顔面を砕く目的で、突き進んでくる【オールデッドワン】の拳をラナヤは身体を下げて、横に転がるように回避。
【オールデッドワン】は『石板』にめり込んだ拳を引き抜くと、項垂れる様にラナヤを向き――
「――」
次のコマ送りで、ラナヤの顔面を掴み地面に叩きつけていた。
「…………」
「くっ――」
ラナヤは【オールデッドワン】の腕を掴むが、片腕が折れている事と胴体へのダメージは深刻で力が入らず、抵抗らしい抵抗はまるで出来ない。
だが、万全の状態でも【オールデッドワン】の純粋なパワーに掴まれれば捕獲された者に成す術は無い。
「か……ぐぅ……」
触れられている事で『絶凍』を付与するも【オールデッドワン】に変化は見られない。ミシミシ、と頭蓋骨が悲鳴を上げる音が聞こえる。
このままでは――死……
『やぁー!!』
その時、【オールデッドワン】の頭部へリースが体当たりを行った。
しかし、コツン、とした音が鳴っただけで【オールデッドワン】は微動だにしない。リースは、うわっ! と弾かれる。
「リース……!」
ラナヤが見ると彼女はノーマル状態。『絶凍』の付与は消えている。すぐに羽ばたいて姿勢を整えると、再び【オールデッドワン】へ突撃する。
『ラナヤさんを離してください!!』
しかし、その再アタックは【オールデッドワン】の開いた手にガシッと掴まれた。
『あっ……』
「リース!!」
ラナヤよりも先に握り潰され――
「プロトワン。GO」
その時、プロトワンが力強く踏み込むと右腕部が【オールデッドワン】へ炸裂。『音界波動』を収束した一撃はその胴体を消し飛ばし、遅れる衝撃波で残った身体をバラバラに吹き飛ばしていく。
「かはっ……こほっ! こほっ!」
【オールデッドワン】による拘束が解けた事でラナヤは呼吸を整える。
『誰かぁ、この腕外してー』
リースには【オールデッドワン】の腕が身体を掴んだ状態で残っており、パタパタと必死に高度を保つが重量から少しずつ降下していた。
そんなリースをストリングドールが丁寧に助けてあげた。
「はい、どうぞ」
『あ……どうも……』
そして、リースはサッとラナヤの側へ。ストリングドールは物珍しげに【オールデッドワン】の腕を見る。
「……なんの真似だ?」
ラナヤは自分を助けた意味をストリングドールへ問う。
「観察と分析の結果よ。アレ、【オールデッドワン】って言うのよね?」
ストリングドールは腕を捨てるとプロトワンを背後に腕を組みながら吹き飛んだ【オールデッドワン】を見る。
【オールデッドワン】はバラバラのパーツがくっつく様に再生を始めていた。
「他人からの呼称はその者をそのまま表現するわ。物騒な名前ほど現実味が強い。だから、アレの標的に私達が含まれないか確認したの。結論は……こっちにとっても不利益ね」
ストリングドールの背後の『石板』には【オールデッドワン】によるヒビが入っている。故に無差別に動いていると判断したのだ。
「ラナヤさん、『石板』を破壊してきた貴女達ならわかるハズだけれど、『石板』を物理的に破壊するのはほぼ不可能。スメラギさんの“炎”と貴女の“氷”によって発生する極度の温度差による原子の分離に亀裂を入れることでようやく砕けるわ」
「……詳しい事はよくわからんが……お前が余裕ぶって静観していたのは、妾一人では『石板』を破壊できないと踏んでいたからか」
「ええ♪ それに首都の『石板』は私が直に調整しているから更に特別なの。それを膂力だけで傷つけるなんてね」
それだけ【オールデッドワン】が規格外という事をストリングドールは分析していた。
「【オールデッドワン】に見境は無いみたいだし、このまま暴れ回られて『石板』を傷つけられるよりは貴女と一緒に対処した方がメリットがあると思ったの♪ 貴女もプロトワンの火力、欲しいでしょ?」
すっ、と差し出されるストリングドールの手。それに対してラナヤは――
今の妾に選択肢は……無いか。
余計な問答をする時間は無い。受け入れるように掴むと起き上がった。
『ラナヤさん……大丈夫ですか?』
「一分で治る」
「ふふ。それじゃ――」
身体の再生を終えた【オールデッドワン】は、音もなく立ち上がり、ラナヤ達へ項垂れていた。
「【オールデッドワン】の討伐と行きましょう」




