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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
序章 ローハンとカイルと『星の探索者』
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第6話 サキュバスナイト

 美女が船内を歩く。

 錨を下ろし、停船の準備を終えた船員達は見回りを行う者以外は早めに就寝していた。


「ん? おい、あんた」


 船員の一人は踊り子の様な服装の美女を視界の端に見て、思わず声をかけた。

 乗船した客に彼女の存在はなかったと記憶しての行動である。


「お休み、坊や」


 美女は振り向かずにそう言うと、船員は強制的に眠らされ、その場に倒れる。


「♪~♪~」


 美女が歌う。その声に乗せられた魔力は聞く者全てを夢の世界へ送る。


 世界には『古代種』と呼ばれる魔物がいる。それは確認されている魔物の中で個体数は100にも満たないと言われていた。それ故に、よほどの事がなければ遭遇する事はない。


 しかし、運良く……いや、運悪く遭遇してしまい、『古代種』の及ぼす事柄に巻き込まれた場合は、なす術もなく取り込まれる。

 『古代種』は街一つを呑み込む程の現象を起こし、時に国を機能停止する個体も存在し、一部の地域では災害の様に認知されている事もある。


「ウフフ……あの子はどうなったかしら?」


 魅了を受けたカイルはギリギリの理性を保ち、何とかローハンの下へ行ったのだった。


 夜は欲を満たす時間。

 昔から肉欲は感情とは切っても切り離せない代物。

 さぁ……私に……それを感じさせて。


 船は完全に沈黙し、誰もが夢の中で己が望む肉欲を貪る。

 それは『古代種』『淫夢魔(サキュバス)』の世界だった。






「マジかよ……完全にやられてやがる」


 オレは船室の扉に念のために魔法陣でロックをかけると、敵の探索を始めた。

 そして、すぐに倒れている者がちらほら確認できる。死んではいない。眠っているだけの様だ。


「眠らせる……魅了……『淫夢魔(サキュバス)』か」


 状況から『古代種』の種類を特定。ほんの数十分で船をまるごと眠らせるなど、ヒトの社会に頻繁に出入りする個体の様だ。


「……」


 正直、どこに居るかは見当がつかない。しかし、隠れている可能性は薄いと思うので、まずは甲板へ行ってみるか。


「……普通に居やがった」


 月明かりの下、ソイツは甲板に座ってオレを見た。


「ウフフ。どうしたの? 坊や。迷子かしら?」

「なめた事言いやがる。そこを動くなよ?」


 踊り子の様に布地が少ない衣装。それであって、グラマラスな体格。いつものオレなら、わーい、とホイホイついて行っただろう。


「ウフフ。不思議ね。貴方……私の歌は聞こえない?」

「ウフフ。聞こえねぇよ」

「そう。なら、何をしてくれるの? この身体を使う? それとも私がしてあげましょうか?」


 オレは『淫夢魔』の前で止まる。オレは手をかざした。


「ここに手があるだろ?」

「? ええ。触る?」

「これを拳にする」

「それで?」


 そのまま『淫夢魔』の顔面にオレの拳を叩き込むと、ほげぇ!? と言う声を上げ『淫夢魔』はきりもみして甲板へ倒れた。

 理解の追い付かない『淫夢魔』は殴られた頬を押さえて、!??? と混乱している。


「結構固いな。顎くらいは吹っ飛ばすつもりだったんだが」

「こ……この人間風情が!! わ、私の……私の顔を! な、殴っ……キイイィ!!」


 絶世の美女の顔に牙が生え、目が充血し、口が裂ける。本気モード。ビリビリとした殺意にオレは鏡を取り出して見せた。


「酷い顔だぜ?」

「ハッ!」


 醜い自分を見て『淫夢魔』は硬直。そこへオレの男女平等パンチが再び炸裂する。


「ギャアアア!!」

「よし、くたばれ」


 再び倒れ込んだ所にオレは、カッ! と雷魔法を叩き込んだ。的を絞った一撃は敵の内部を瞬時に焼く。


「グギィィ!?」

「まだ生きてんのか」


 放電は一瞬だが、巨獣を仕留める威力だった。剣を持ってくれば良かったか。まぁいいや。


「お、おのれ!」


 すると、『淫夢魔』は翼を広げ距離を取るように夜空に舞い上がった。


「この……猿風情が! 私を……誰だと思っている! 夜の支配者だぞ!」

「夜の支配者だぁ?」


 寝言を言ってやがる。

 すると『淫夢魔』が手を振るう。生まれた風の刃をオレは避けると、次の瞬間に『淫夢魔』は目の前にいた。


「『悪夢(ナイトメア)』」


 至近距離で魔眼を当てられてオレは瞬時に悪夢へと呑み込まれる。


「ウフフ……その悪夢を見ていなさい。地獄に行ってもね!」


 オレが見た悪夢は、平穏な村から追放されて一人寂しく荒野を歩くモノ。しかし、


「ウラァ!」

「ギャア!?」


 目の前に居る化物の顔を殴りつける。『淫夢魔』は短い悲鳴を上げながら伸びた牙が砕けて地に落ちる。


「馬鹿な……あ、ありえない! 私の『魅了(チャーム)』も『悪夢(ナイトメア)』も効かない猿が居るなんて」

「うっせ!」


 猿猿うるさいので、また雷魔法を叩き込む。『淫夢魔』は、ギビビッ!? と短い悲鳴を上げてダウン。翼は焦げて飛行は望めず身体から煙を上げていた。


「生半可な信頼じゃねぇんだよ。オレの積み上げた平穏はな!」


 今も距離の近い弟子とのスキンシップに葛藤してんだ。それを助長する奴は殺しておかないとなぁ。


「ま、待って!」


 トドメを刺すオレの様子を察したのか、『淫夢魔』は手をかざして制する。


「こ、こんな形になっちゃったけど! わ、私は何も悪いことはしてないわ! 寧ろ、人々の欲を解放してあげてるのよ! 迷惑にならない範囲で! ヒトが捨てられない欲求の一つを知ってるでしょ!? もう消えるから! なんなら、私自身で最高の快楽を貴方に提供するわ! この身体を好きにして……いや! させて下さい! ご主人様ぁ!」

「いらん!」

「くっ……ちくしょぉお!!」


 最後の抵抗で掴みかかる『淫夢魔』にオレはカウンターで拳を身体に叩き込む。


「ごぼぉ!?」


 その拳は殴り付けるモノではなく熱を纏って相手を焼き貫くモノ。心臓をぶち抜く。


「輪廻に刻んどけ。オレに勝てると思ったマヌケな今世の記憶をな!」


 貫いた状態でカッ! と雷魔法を発動。心臓を中心に『淫夢魔』は上半身と下半身が分かれて吹き飛んだ。


「おっぼぉ……」


 最後にそんな声を出して『淫夢魔』は死亡。

 基本はどんな生物でも心臓がウィークポイントである。しかし、『古代種』によってはそれでも生きてる事があるのだが、その時は細切れにしてやるまでだ。


「ったくよ。お前みたいな女は執念深いって相場が決まってんだよ」


 何よりオレは、カイルを苦しめた事を許せなかったのだ。可愛い愛弟子に手を出す奴に慈悲はない。もれなく皆殺しだ。






「……」


 カイルは目を覚ますと朝になっていた。

 身体を起こしてぼーっとする頭は、昨晩の記憶が混濁している。

 そして、徐々に思い出して来ると――


「うわ……俺本当に何やってんだよ……」


 ローハンに詰めよった時の心情が再び顔を赤くする。


 自分でもおかしな状態だったと思いつつも、自制の効かない感情にどうしようもなかったのだ。しかも、その後の記憶がない。


「……ん?」


 なんか服に違和感がある。

 一体どうなったのか……。アレが夢じゃないと言うのなら……その後にナニをしたのだろう……


「ん? 起きたか、カイル」

「お、おっさん!」


 船室の扉が、ガチャリと開き、入ってきたローハンに慌てる。


「お、おはよう!」

「ああ、おはよう。大丈夫か?」

「だ、大丈夫! もう元気! 元気だから!」


 ベッドから起き上がったタイミングで、船が波に揺れた。寝起きでバランスを上手く保てないカイルは、ローハンによろけ込む。


「あ、ご、ごめん!」

「ワハハ。気を付けろい」


 支えてくれる師はいつも通り頼もしい。思いっきり胸を押し当ててしまったが、大人の余裕で笑っている。


「魚を釣ったから朝飯にしようぜ。パッと着替えてこい」

「う、うん……」


 しかし、いつもと変わらない様子に、やっぱり意識をされて無いんだと、少しがっかりしつつ離れる。


「……あれ?」


 着替えようとした時に服のボタンが、かけ違っている事に気がついた。


「……おっさん。俺の服さ」

「な、何もしてないからな! 服を直しただけだから! 神に誓って何もしてません!」


 ローハンはそう言うと、逃げる様に扉を後ろ手で閉めた。






 その後、定期船は三日の船旅を終えて、遺跡都市へのアクセスがある港町へ着港する。

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