第55話 アイヤー!
夕方になって、オレは少しだけ首を動かせる程度には痛みに慣れてきた。
しかし、テントの外では皆でワイワイ、夕飯の支度をしている。うむむ……少し寂しいな。
大声も上げるのが億劫だ。マスターに言って、睡眠薬でも投与してもらおうかなぁ。
「おっさん……いる?」
すると、我が愛弟子カイルがテント入り口から覗く様に入ってくる。
オレは声を出せないので、『音魔法』でカイルの耳元に声を飛ばした
「居るから来たんだろ?」
「うわ!? なんだ!?」
「『音魔法』だ。そんなにビビるな」
「びっくりするなぁ、もう!」
そう言って中まで歩いてくると物珍しげにオレの状態を見て、ベッドの隣の椅子に座った。
「大丈夫?」
「首以外を動かすと激痛がな……」
本来ならダメージなど負う事がない程のステータスアップで暴れまわれるのだが……ソレは理性が全部消えた状態も含めた“強さ”だ。
実際にダメージを受けた要因は“理性”があったからだし……
「……おっさんはさ。怪我が治ったら帰るの?」
「そりゃ、帰るさ。オレの居場所は『星の探索者』じゃなくて、お前の村だからな」
「…………」
カイルのヤツ随分と落ち込むな。やれやれ。
「まだ、オーガが怖いのか?」
オレの言葉にカイルはビクっと反応する。素直な分、分かりやすい反応をしてくれるねぇ。さてさて、何て言い返して来るかな。
「……滅茶苦茶怖い。今でも夢に見ると、剣が近くに無いと眠れない」
「そうか」
「だからさ! おっさん! 俺をもっと鍛えてくれよ! もっともっと……もっともっともっと! 強くなって! 全部全部越えてやる!」
「…………ふふふ。あっははは! 痛てて……」
「ちょっ、大丈夫――てか笑うなよ!」
そのトラウマから避ける道を選ぶことも出来るだろうに、ホントにコイツは。
「分かったよ。お前にオレの奥義を教えてやる」
「! マジ! 奥義!? おっさん、そんなモン持ってたのかよ!」
滅茶苦茶食いついて来た。まぁ、奥義なんてニュアンスは、カイルは好きそうだからな。
「だが、まずは身体を治してからだな。首しか動かせないんじゃ、教える事は出来ねぇ」
「じゃあ……まだ『星の探索者』に居るのか?」
「そう言うことになるだろ」
当然のようにそう答えると、カイルは奥義の時よりも嬉しそうに笑った。コイツの感情の起伏が良くわかんねぇな。
オレも愛弟子の観察がまだまだ足りないか。
「って……何やってるんだい? カイル君」
と、カイルはもぞもぞとオレの寝てるベッドに入り込んできた。
「いや、一人で寂しいと思ってさ。寒いときは身を寄せ合うと良いって聞いたぜ!」
絶対によく考えてない、カイル節が炸裂! 今の会話の流れで、どうしてそうなるんだよ……
「それに、ゼウスさんから頼まれててさ。おっさんが寝るまで安心させてやってくれって」
マスター……いや多分、こう言うことをやるように行ったワケじゃない。カイルがマスターの言葉を独自の理論で解釈し、この状態にたどり着いたのだ。
「いや……カイル。オレは大丈夫だから」
「昔は良くこうやって一緒に寝たじゃん!」
あれはなぁ……お前が男だと思ったからで……
「カイル、ご飯そろそろ出来――」
と、テントの入り口が開いてクロエが呼びに来た。
「ローハン」
「……なんだ?」
「カイルは居ないの? さっきまで声がしてたけど」
眼の見えないクロエは物体を固形で判断している。つまり……今カイルはオレのベッドに入り込んで居るため、オレ+ベッド+カイルで一つの固体としてしかクロエは捉えられないのだ。
「カイルは……」
「俺はここだよ!」
そして、その声がベッドから聞こえたモノだから、クロエは察した。とことこ歩いてくると、
「ローハン。貴方、最低な事をしてるって自覚ある? 動けない事にかっこつけてカイルを引き込むなんて」
「ちょっと待て! オレの状態をマスターから聞いただろ!? 首しか動かせないんだって!」
「本当にそうかしら? 貴方がそう言ってるだけじゃなくて?」
「クロエさん! そう言うのじゃないんだ! 俺とおっさんは昔からこうやって寝てたんだぜ! なぁ! おっさん!」
アイヤー! カイルっ! お前は黙ってなさいっ!
「そうなの。ローハン、ロリコンだったのね」
「断じて違う!!」
ろりこん? とカイルは言葉を理解していない。
すると、どうした? どうした? と他の面子も入ってくる。
「えーっと……これってどういう状況です?」
『カイルがローハンのベッドに入り、ソレをクロエが咎めている構図だな。俗に言う、修羅場、だ』
「ぬぅ! なんとも……破廉恥な! うらやまけしからんぞ! ローハン! 自らの状態につけんで、カイルを己の欲望に引きずり込むとは!」
「……」ジャキ(サリアが銃を抜いてスライドさせる音)
やべぇ。色々と殺られる。
その後、カイルとレイモンドがサリアを何とか宥め、オレからの言葉をボルックが冷静な解釈で皆を説得してくれて、何とか死だけは間逃れた。
「ふふ。みんな、ローが好きね」
ローハンの寝るテントへ皆が入って行った様をゼウスは料理番をしながら微笑ましく眺めていた。
“なぁ! おまえ! 頭いいんだろ?”
「ええ。私は“叡知”」
“母さん、オレやっぱりさ。国に戻るよ。ゴーじぃが護ろうとしたモノを見捨てられない”
「うん。それが貴方の道なのだもの」
“……皆死んだよ。オレだけが生き残って……意味はあったのかな?”
「意味の無い命なんて、この世界には存在しないわ」
すると森の奥から光虫が漂ってくる。しかし、ゼウスは光虫を確認するよりも先にその気配に気づいていた。
「あらあら、どうしたの? 『太古の原森』」
闇に染まる木々の間からネイチャーが現れた。




