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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第一幕 願いを叶える珠

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第54話 ただいま、マスター

「……」


 カイルはサリアと共に自身のテントに入ると疲れた様に椅子に座った。

 メンバーのテントの中には各々、机と椅子と棚が一組ずつ配給され、自由に使う事を言われている。カイルのテントの棚には殆んど何も入っておらず、剣や服を置く棚と化している。


「大丈夫?」


 力無く座るカイルにサリアは声をかけた。いつも元気な様子とはうって変わって弱々しい。


「……怖いんだ」


 カイルはポツリと口を開く。


「昔……村にいた頃に……オーガに襲われた事があって……その時はおっさんに……助けてもらったんだけど……」


 あの、怒り声や見下ろす程の体躯に、自分など一撃で捻り殺せそうな様は今でも忘れられない。


「たまに……襲われる夢を見るんだ……その度に起きては震えてさ……はは……本当に……剣も振れない俺って……ダメなヤツだろ? 皆は……どんな敵にも怯まないのに……俺は……臆病者だ……」


 椅子に座って俯くカイルは自分の情けなさにポロポロと泣き出す。

 弱い所を見られたくなかった。剣しか取り柄のない自分が剣も振れなくなったら……誰からも求められない。特に……師の前では絶対に……こんな自分を見せたら失望されると思っている。


「カイル」


 元気がそのまま人間になったようなカイルの弱音を初めて聞いたサリアは、その手に自らの手を優しく重ねた。


「一人で考えててもダメよ」

「……ぐす……」

「カイルから見て、あたしはカイルの事を笑う様な人に見える?」


 カイルはすぐに首を横に振る。


「他の皆は?」

「……みんなも……笑わない……」

「それなら別に臆病者でも良いのよ」


 サリアの言葉にカイルは顔を上げた。


「マスターも言ってるでしょう? 『星の探索者』は皆、家族だって。家族は助け合って悩みや困ったことを解決するわ。だから、ソレを笑ったりはしない。もし、笑うヤツが居るなら、あたしが脳天をぶち抜くから」

「……ぐす……サリアさん……」


 すると、スメラギの声が外から聞こえる。どうやら残りの遺跡組が帰ってきた様だ。無論、クロエも。


「残りが帰ってきたわね。カイルは――」

「……俺も……行く」


 その言葉にサリアは微笑むと、カイルの手を引いてテントから出た。






『帰った』

「疲れました」

「……少し物が増えてるかしら?」

「むむむ!」


 スメラギは直立不動で腕を組み三人を見る。


「ボルックよ! その身体は!?」

『代用だ。すぐにテント(ラボ)に入り、調整する』

「中々に格好いいではないか! ローハンと良い、お主と良い……まだ知らぬ手札があると見える! 男衆としては実に頼もしいぞ!」

『ワタシを“男性”と見るかどうかは議論が必要ではあるが、褒め言葉として受け取ろう』

「スメラギさん、ローハンさんとカイルは?」

「ローハンは主様のテントだ。カイルに関しては……サリアが対応しているので良くわからん!」


 ドンッ! とスメラギは不動の姿勢を崩さずに告げた。


「そして、クロエよ。よくぞ戻った! 主様(マイマスター)もさぞ喜びになるだろう!」

「……ええ。迷惑をかけたわ。私のテントの位置は変わってない?」

「何も動かしてはおらん! それに……お主は今、下に何も着ていないな!?」


 スメラギは、クロエの着るコートの密着性を見切り、その下が地肌である事を見抜く。


「ええ。良くわかったわね」

「ふっ……何度、顔を合わせていると思っている! メンバーのスリーサイズなど……このスメラギからすれば服の上からでも透視している様なモノ! そのままでは風邪を引くぞ! このスメラギ特性のサラシとフンドシを履くのだ! なに! スタイルに変化は見られない! 相変わらず良い乳房と臀部ぞ!」

「…………」


 カッ! と向けられる視線を不快に感じたクロエは、パチンッ、と指を鳴らすとスメラギの顔に『水玉』を作り出す。


“がぼぼ!!? いきなり何をする!? 頬面で更に息が――”


 などとスメラギの集中力が乱れた隙を突き、首筋に手刀を一閃。カクン……とスメラギは膝から崩れると、クロエと入れ違う様に俯せに倒れた。

 顔の『水玉』はバシャッと散る。


「相変わらず変わらないわね。遠慮しなくて楽よ? スメラギ」


 眼を見開いて、死体のように気を失うスメラギにクロエは言い放つ。


「なに? その忍者、再会一番にセクハラでもした?」


 と、カイルの手を引いたサリアがテントから出てきた。


「サリア」

「クロエ」


 二人はゆっくり近づくと互いに抱き合う。


「ホントに……勘弁してよね。心配したんだから」

「少しだけ……気持ちが走りすぎたわ」

「あんたの気持ちもわかる。でもね……“失う辛さ”は、あんたが一番良くわかってるでしょ?」

「ええ。本当にごめんね」


 友情を感じられる二人のハグを見て、レイモンドは感銘し、ボルックはスメラギを見て、“呼吸は問題ないな。蘇生措置は必要ないか”と、その様子を確認していた。


「クロエさん……」


 カイルに呼ばれてサリアはクロエから離れる。


「カイル、貴女にとても心配をかけ――」


 言葉の途中でカイルはクロエに抱きついた。少し驚くクロエだったが、優しく抱きしめ返す。


「ごめん……クロエさんに……おっさんには言うなって……言われてたのに……俺……どうして良いかわからなくて……」

「良いのよ。貴女は貴女に出来る事をやってくれたの。助けに来てくれて、ありがとうね」

「うん」


 その言葉に少しだけいつもの雰囲気を取り戻したカイルに、クロエは微笑む。


「クロエ」


 と、ゼウスに声をかけられてクロエはカイルから離れる。

 眼は見えないが、ゼウスは腰に手当てて、少し怒っている様を口調から感じ取った。


「マスター……」

「クロエ、屈んで」


 言われた通りにクロエはゼウスへ顔を近づける様に屈むと、その頬をパチンと叩かれた。

 痛みは殆んど無い。しかし、ゼウスに“叩かれる”と言う事実は何よりも忌むべき事だった。


「ローが死にかけたわ」


 その言葉を他の全員(気を失っているスメラギを除く)が神妙に捉える。


「ボルックも二度、身体を失ったし、みんな本当に心配した」

「……」

「これは、貴女が先行して招いたことよ。『遺跡内部』へトライする時は、絶対に(わたくし)の指示に従う事を条件にここに来たハズよね?」


 クロエは単独で『遺跡内部』に入ろうとして、そこへカイルとレイモンドが偶然合流した。ついでに遺跡周辺を軽く調査していたボルックにも見つかり、四人で入る事になったのだ。


「……はい。そうです」


 ゼウスは手を開く。クロエは少し身構えたが、今度はふわりと抱きしめられた。


「大切な“家族”を失う気持ちは(わたくし)にもわかるわ。(わたくし)も三人の“兄”を失った。でもね、クロエ。貴女を失う事で同じ様に悲しむ家族がいる事を忘れないで」


 誰もクロエを責めなかった。それは、クロエが間違いを犯した事以上に彼女の無事を何よりも望んでいたからだ。


「……ごめん……なさい……マスター……ごめん……みんな……」


 弟を失う痛み。それしか見えてなかった自分のせいで、更に家族を失う所だった。

 その事を理解したクロエは謝る言葉と共に涙を流す。その様子にゼウスは離れると、


「お帰りなさい。クロエ」

「……ただいま、マスター」


 笑顔で告げられた言葉に、クロエも笑顔で返した。

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