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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第500話記念外伝1 ブラッドとタンカン

今話より第500話記念外伝を開始します。

ちょっと回収しきれなかった閑話エピソードを回収する回だと思っていただければ。

全8エピソードほどです。

2日に一話更新していきます。

※この話は本作『第256話 何故、それ程に“支配”を望むのですか?』にあったブラッドとタンカンの話となります。

ブラッドがまだナイト領主で、タンカンとリリィが来た時の話です。


下記を再度拝読なさるとより楽しめるかと思います。

https://ncode.syosetu.com/n2071jf/258







“おほほ! タンカン様! そのだらしない肉! その肉を! このワタクシが徹底的に削ぎ落として差し上げますわ! おーほほほ!!”


「はっ!?」


 ぼきゅは悪夢にうなされて眼を覚ました。

 アリシアたんを賭けた決闘に負けて……父上から勧められた次のお見合い相手はリリィたん。

 首都でも騎士団を統括するヴェンダース家の令嬢で貴族女子達の中でも高飛車なリーダー女子。

 遠目から見ても少し性格はキツそうだと思ってたけど……ソレを除けば可愛いしスタイルも良いから婚姻を受け入れたのだ。

 しかし、その結果が――


“タンカン様! ナイト領へ行きますわよ!”

“ワタクシを前に背を向けるとはいい度胸……調教して差し上げますわ!”

“おーほほほ! ほら! 自分の足で馬車に乗りなさい! 乗れって! ブタぁ!!”


 嬉々として紅潮した顔でぼきゅに鞭を打ってくるイカれた女だった。

 ぼきゅは父上に助けを求めたけど、息子よ……いい経験になるぞ! たっはっは! っていつもの父上の緩い感じが嫌な方向で炸裂してぼきゅの味方は誰もいなくなった。

 そして、イカれた女に首輪をつけられてやって来たのがナイト領……ぼきゅを負かしてアリシアたんを奪った男――ブラッド・ナイトが管理する土地だ。

 心身ともに肩身が狭い……


「…………うう」


 近くのベッドでは妻のリリィが健やかな寝息を立てている。ぼきゅは寝返りで潰される可能性から床に寝かされていた。

 首輪から伸びる鎖がリリィのベッドの端に繋がり、無理に距離を取ろうとしたら気づかれる仕組みとなっている。


「……お腹……空いたお……」


 色々と悲壮感はある。しかし、一番我慢出来ないのは空腹だと言うことだ。首輪には『腹の虫の音』を消す効果が付与されているようで、生理的に空腹を訴える事が出来ない。

 食事は特定の時だけ。それ以外は全てリリィに管理されており、この空腹感は自分が抱えなければならないのだ……


「…………」


 しかし、ぼきゅも黙ってるばっかりじゃない。

 昼間に何度も鞭で打たれながらも、一つだけ希望を見つけていた。

 それは、屋敷の中に生えていた一本の林檎の木!

 そこには美味しそうな実が何個も生えており、一つくらい取ってもバレはしない。


「……ふー……ふー……慎重に……」


 そして、ぼきゅは誰にも言っていないが『金属魔法』をちょこっとだけ使える! これは、偽の金貨を見分ける為に覚えたのだ! それ以外に使い道は殆ど無かったこともあって父上も知らない。

 集中……集中して……鎖の部位の一つにちょっとだけ切れ込みを入れて……『金属魔法』で亀裂を広げる様に破壊――キンッ……と静かに鎖は壊れた。


「ひょっほ――」


 思わず声が出そうになって口を抑える。リリィは……よかった……熟睡だ。


「ふーふー……慎重に行くお……」


 『金属魔法』がバレると今後は本当に自由が無くなる可能性がある。誰にも知られずに外に出て、林檎を食べて部屋に戻る。鎖を元通りにすれば完璧だお!


「…………よし」


 部屋の手鏡で廊下の様子を確認してから、部屋を出る。林檎……林檎……






「――――」


 誰にも会わずに林檎の木の近くまで来たのはよかったんだけど、なんと……木の前にブラッド・ナイトが居たお! 皆休んでる時間帯なのに……何をやってるんだ! さっさと寝てろお!


「ん? そこに居るのはタンカン殿か?」

「んげ!?」


 速攻でバレたお……

 仕方ないから……下手に逃げるよりもリリィには黙ってもらうように交渉するお……


「リリィ殿の眼を盗んで抜け出して来たのですか?」

「そ、そんな所だお……この事は……リリィには……」

「ええ。黙っておきますよ。私としては貴方とリリィ殿の関係に口を出す事は致しませんので」

「…………」


 ブラッド・ナイト。王城でのパーティーに比べて随分と優男な感じだお。すると、ぽとっ、と林檎が一つ落ちてきた。

 ブラッド・ナイトはソレを拾い上げると、軽く拭いてから、ぼきゅに差し出す。


「どうぞ」

「え? い、いいの?」

「ええ。きっとエマも貴方に食べて欲しいそうなので」

「エマ?」


 ぼきゅは林檎を受け取りながら聞き返した。


「私の妹です。今は故人ですが」

「あ……」


 そう言えば、ナイト領は一度『太陽の民』の襲撃を受けて前の領主が殺されてるんだった……


「お気になさらず。この木は生前、妹が植えたものでして。当時は小さな苗だったこともあり奇跡的に破壊される事はなかったのです」

「でも……いいの?」

「その林檎は妹がタンカン殿へ贈ったのでしょう。遠慮なさらないでください」


 しかし……いくらお腹が減っているとは言え、流石に彼の目の前で齧り付く様な真似は出来ない。

 それに……なんだか帰るタイミングを逃して妙な沈黙……


「ブラッド領主は……立派ですよね」


 思わずそんな言葉が出た。


「立派……ですか。タンカン殿、私は自分ほど愚かな領主は居ないと思っています」

「え?」

「知っていると思いますが、このナイト領は一度『太陽の民』により先代領主を殺されました。本来なら決して起こってはならない事……そして国を想うなら、その後も徹底的に『太陽の民』に対する攻勢を始める必要がありましょう」


 少なくとも国境を攻撃され、更にそこを護る領主を殺されたとなれば……『太陽の民』とは戦争になってもおかしくない。しかし、今の国内にはそんな動きは一切無かった。


「しかし……私は臆病でして。どうしても『太陽の民』へ剣を向ける選択肢を取れなかった」

「…………」


 ブラッド・ナイトは林檎の木に触れると見上げるように呟く。


「その結果、領民は私を見放し、何組もの一族が出て行っています。しかし、それは私の判断が招いたことであり生涯をかけて受け入れる事柄です」

「……で、でも……ちゃんと……やってると思うよ……」


 確かにナイト領に領民は少ないが、それでも残った者たちは誰もがブラッド・ナイトの事を慕っていた。

 彼も屋敷で政務をするのが当然と言える領主とは思えないくらい慣れた様子で馬に乗り、領地を見て回っている。


「……そうですか。タンカン殿の目にそう映っていただけているのであれば、今後もこれで良さそうですね」


 彼は嬉しそうに笑った。そして、


「もし、また『太陽の民』が攻めてきた時は貴方達に指一本も触れさせぬと約束します。その時は、タンカン殿はリリィ殿とアリシアを連れて逃げてください」

「ブ、ブラッド殿は?」

「私は御三方が無事に離れた様を確認しましたら、領民達と共に逃げますよ。この『昼夜の国境』は『太陽の民』にとっても長居はし難い場所ですから」

「そ、そう……」


 おやすみなさい。

 そう言われて話を切り上げられると、ぼきゅは林檎を手に部屋に戻った。






 部屋に戻る道中……彼の話と目がどうしても気になった。そして、渡された林檎はどうしても食べる事が出来ず……


「やっぱり返そう……」


 誰かの目を盗んで食べるのではなく、堂々と食べる事が彼にもその妹さんに対する敬意だと思った。

 そして、林檎の木まで引き返すと、彼はまだそこにいた。背を向けて林檎の木を見ている。

 ぼきゅは声をかけようとして――


「……エマ。今の俺を見て……兄上はどう思っている?」


 そう、彼が木に語りかけている様子に思わず隠れる。


「誇らしいと……見てくれるのか? だが……ナイト領はもう限界だ。俺では出て行く民達を止められない……。『太陽の民』……いくら考えても答えが出ないんだ……」


 それはきっと……誰にも言えない彼の本心……


「家族を奪われた……領民が去る……俺はナイト家が……この世界の果てに誰からも覚えられず消えていく事が……二人の悲劇が……無かった事になるのが……何よりも怖い……」


 ぼきゅは隠れて聞いている事しか出来ない。


「繋がりを……求めようと来てくれた者たちが居た……だからこれで最期にしようと思う……次に『太陽の民』が攻めてきた時……二人の元へ行く……だから……待っててくれ」


 辛くないハズなんて無い。

 だって家族を失って……いつまた『太陽の民』がここを脅かすのかわからないのだ。

 彼は……ずっとずっと一人で戦ってる。そんな中、ぼきゅ達でさえも護ろうとしてくれている。


 なのに……ぼきゅは……僕は――自分の事ばかりで情けない……






「タンカン様! 朝食は大人しく食べましたわね!? 少しは己がブタである自覚が芽生えた様で何よりですわ! 今日は、ワタクシ達の畑を作りますわよ! 木は先日、領民の方が伐採してくれたそうですが、今日は木の根を引っこ抜きますわよ!」

「うん! やろう!」

「そ、即答……逃げもしないなんて……昨日は説明の途中で座り込んでいたのに……」


 すると、ブラッド殿が何人かの農民を手伝いに連れてきてくれて、使う道具とやり方の説明をしてくれた。


「タンカン殿。あまり無茶はなさらぬ様……」

「大丈夫。こっちは僕たちがやるよ」

「――そうですか。何かありましたら、すぐに連絡を」

「ありがとう」


 別れ際に彼が作ってくれた笑みは、昨晩の時に向けてきたモノよりも、良い意味を含んでくれている様に僕は願い、地面に鍬を振り下ろす。






「ブラッド様、タンカン様と何かお話をしたのですか?」

「いいや。俺は何も言ってない」

「本当ですか?」

「ああ。それよりも、今日は魔物の被害を確認しに行く。君は本当についてくる気か?」

「勿論です! ブラッド様が乗馬する後部席は今後、私の指定席になるのですから!」

「……君も物好きだな。アリシア」

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