第498話 グランドブレイカーです
小雨は程なく止み、次に濃霧が『トップリット』を覆っていく。
最初は霧雨だったモノが更に細かくなり、それが煙になった用に濃く……濃く……晴天だった高原を覆い隠していく。
「なんだ……?」
「5メートル先も見えねぇぞ」
「いくらなんでも変じゃねぇか?」
『トップリット』で生活する『魔人』達も違和感を覚え始めた。
環境の移り変わりは激しいが、ここまで一つ現象が深く発生するなど今までは無かったことだ。
すると、ざっ……ざっ……とヒトが歩いてくる足音――
「どうも」
霧の向こうから視認できる距離まで現れたのは鋼鉄の頬面で口元を覆い、その上からマフラーを巻いた男だった。
「グランドブレイカーです。ここに『氷結のオトメ』が居る事は知っている。差し出してもらいたい」
グランドブレイカーに話しかけられた者たちはその強大すぎる存在に思わず硬直し、悟った。
「なっ……こ……コイツ……」
「うっ……あぁ……」
この濃霧はコイツの仕業……しかし、ソレ以上に無造作に放たれる圧に会話すら出来ない程の圧迫感を感じ取る。
まるで、巨大な腕で身体を鷲掴みにされているかのような強大さ。
グランドブレイカーの目が鋭く彼らを見る。
状況は“蛇に睨まれた蛙”状態だった。少しでも変な動きをしようものなら瞬く間に命を奪われる。
『トップリット』の『魔人』達はハンゾーが招集した腕の立つ者たちなのだが……それでもグランドブレイカーとの実力差は蟻と像を遥かに超えるモノであると理解させられた。
「この程度に怯えるなど……やはりシャクラカンさんの言った通りだった」
“反抗? 放っておけグランドブレイカーさん。ハンゾー師範以外はそこらの雑草と変わらん。我々の戦う相手は『世界』だ”
「本気で勝てると思っていたのならお前たちはあまりにも力が無さ過ぎる。生き恥を晒す前にこの場で俺が始末をつけてやろう」
グランドブレイカーの腕にポゥ……とコロイド光が生まれ、“光の傘”に覆われ始める。
「数を減らせば自ずと、差し出す者が現れよう」
その殺戮が始まる時と、緊急避難の角笛が『ハンゾー健康道場』から鳴り響いたのは……ほぼ同時だった。
「うわ……すごい霧……こんなに濃いの始めて」
『氷の精霊』の少女――フローは洗濯物を取り込んでいた所に、『ハンゾー健康道場』からの角笛を聞いた。
「え? 緊急避難? どっちだろ?」
それは過去に一度鳴らされたかどうか、うろ覚えな程に鳴ることはない。何故なら『トップリット』の生活者へ即日避難を要求する事などハンゾーが本気を出すか、手に負えない事態が起こった時に限られるからだ。
「うーむ……」
フローは眉間にシワを寄せて濃霧を何とか見渡そうとするが、そう簡単に見えるワケもない。
すると、ざっ……ざっ……と霧の向こうから人が歩いてくる気配。
「あ、すみませーん! 今の避難警報って誤報――」
「どうも。グランドブレイカーです」
挨拶しながら現れたのは、グランドブレイカーだった。まるで自分が『トップリット』の主であるかのように視界に入った存在を全て消し、ヒトの気配が集中する所へ歩を進めていた所にフローは遭遇したのである。
「うっあ……」
そして、腕の立つ者でさえ縛られる圧に病持ちのフローが耐えられるハズはない。膝から崩れて胸を抑えて呼吸を何とか繋ぐ事で精一杯だった。
「ひゅー……ひゅー……」
「女児か。一つ正直に答えれば見逃そう。『氷結のオトメ』はどこにいる?」
『氷結のオトメ』それは……ラナヤの事であるとフローは掻き消えそうな意識から辛うじて理解した。
ラナヤは病を軽減治療してもらっている事もあり、感謝すると同時に姉の様に慕っている関係性なのだ。
「……あっ……ち……」
フローは項垂れたまま、震えながら何とか腕を持ち上げると『ハンゾー健康道場』とは正反対の方角を指差す。
「勇敢だな、『氷の精霊』の少女よ。そちらにはヒトの気配は無い」
バレてる……
グランドブレイカーの圧が一気に増す。
「庇うと言うことは……よく知る身内か。お前の首を取れば『氷結のオトメ』も自ずと姿を見せよう」
ここまで、多くの戦士を容易く屠ってきたコロイド光を宿す手がフローへと迫る。その時――
「――――ほぅ。珍しい組み合わせだな」
炎がフローを護るように回転すると、グランドブレイカーの歩みが止まる。すると、炎は彼女を護るようにグランドブレイカーの前に立ち塞がり、『魔人』となった。
「レイス……さん……」
『炎の精霊』の青年フレイスは明確な敵意と殺意の視線をグランドブレイカーに送るように睨み見つける。
「どうも。グランドブレイカーです」
「……フレイスだ。テメェ……病人のガキに何をしようとしやがった?」
「戦士と同じ扱いだが?」
「イカれてんな……くたばっとけ!!」
フレイスの拳がグランドブレイカーに叩きつけられ、大爆発を引き起こす。




