第486話 最後の安全装置
ソレは最後の“安全装置”だった。
【スケアクロウ】にその役目をまっとうさせる為にエデン・ノーレッジは確実な手を用意していた。
『永遠の国』の技術力がどれ程のモノになるか解らない。もし、【スケアクロウ】を破壊されるなどと言う事態に陥った場合、最後の手段としてゼファーとエアレイドは“コア”をぶつけ合い『超新星爆発』を引き起こす。
それが“EXプロトコル”の最終段階だったのだ。
【スケアクロウ】の動力は“恒星”。
この戦いで異常なほどの出力を発揮しつつも、消費したエネルギーは全体の1%にも満たない。本来であれば特殊なブラックボックスに守られた“恒星”は身体がどれ程損傷しようとも破損することは決して無い。
エネルギーを解放する“EXプロトコル”時以外では――
「――――」
ゼファーより放たれた“赤い光線”は、エアレイドの“動力”に直撃し、そのブラックボックスを分解。
エアレイドの光が消え、身体が落下するとオレンジと赤い光の“恒星”だけが目の前に浮かび残る。
氷が溶け合う様に二つの“恒星”が融合し、急速に収縮を始めた。最初は拳大であったが、ビー玉のサイズまで爆縮して行き、マザーの瞳にはその内部で猛烈な速度で増えていく衝撃波のエネルギーが映る。
爆発の推定被害範囲……『世界』の消滅――
「――」
マザーはビー玉サイズの“爆縮”を『スフィア』にてクリスタル状に囲い、更に『重力』でその上から抑え込む。
こんな事をして何の意味がある?
もはや、物理的に止める事など不可能だった。どう合理的に考えても生き延びる答えは出てこない。
全て終わり。それでも――
「私はマザーです」
『機人』と地下シェルター以外の、『永遠の国』中のタキシオン合金へ命令。本来の形を崩し粒子となって“爆縮”を覆っていく。
「どの様な問題を前にしても私が背を向ける事は決してあり得ません」
『永遠の国』全てのタキシオン合金で外殻を――
『アステス』中の建物が粒子となって分解され行く。マザーによる支配の元、天へと昇り、“爆縮”を中心に球状へと覆って行く。
「なんだ? 建物が無くなってる?」
「ホワイトさん、何が起こってるんですか?」
カイルとレイモンドは出来上がる球体を見上げるホワイトへ説明を求めた。
『マザーは星を作るつもりだ』
「星ぃ!?」
「突拍子が無さ過ぎるんですけど……」
ホワイトは上空の現象を分析しつつ二人への説明を続ける。
『ゼファーとエアレイドが遺した光は『世界』を消滅させる程の爆弾だ。マザーはソレを抑え込む為に周囲を『重力』で覆い、物理的に蓋をする為に『アステス』中のタキシオン合金を集めている』
「えっと、つまり……なんかやばい爆発を覆って止めるってこと?」
『その解釈で問題ない。その際に“星の強度”が必要となる』
「……ホワイトさん、爆発するまでの時間は?」
それが問題だった。爆発する前に完全に囲い込む事が出来るのか。
『20分もない』
「え? じゃあ、星はそれまでにできんの?」
『推定完成は876000時間後だ』
「全然足りないじゃん!」
『私達はマザーの意に従うまでだ』
ホワイトは『オフィサーナンバー』全機に通達する。
『総員、マザーを補佐せよ』
国中のタキシオン合金が集まる。しかし、その速度はさほど速くは無かった。
『ツリー』の停止により、分解命令が届かない地点もある。首都のタキシオン合金は全て寄せられるだろう。しかし、それだけでは圧倒的に足りない。いや……
安定した外殻形成における推定質量……2,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000t以上――
超新星爆発まで19分08秒――
時間も質量も……何もかも圧倒的に足りない……
すると、形成中の外殻にひび割れる様に亀裂が入り、内側からの盛り上がりはじめた。
「っ……」
マザーは『風魔法』で外殻に近づくと直接触れ、タキシオン合金を操作する事でその亀裂を何とか押し留める。
非効率です。
母の定めた道を踏み外したのですよ?
私は間違えたのです。
結末を受け入れるべきです。
そう、過去の自分に言われた気がした。合理的に考ればその通りだ。
星を作るなど知識があってもソレに伴う技術も物資も足りなさ過ぎる。無駄な事をしている……私自身もおかしくなったのかもしれない。
“爆縮”のエネルギーによって外殻が熱を帯び、手の平が焼けていく。
「否定は……させません」
ここで私が全てを母の結末を委ねると言う事は、私が始めた事を……息子の最期を無責任に投げ出すと言う事だ。
0と1の結末。“ある”か“ない”か。その様な結末を迎える事を……今の『アステス』は絶対に望まない。
全てを――
『ツリー』のタキシオン合金も全て分解し外殻の形成にあてる。終わりには出来ない。
超新星爆発まで14分21秒――
しかし、現実はその様な希望的観測など無意味と告げるように外殻に無数の亀裂が走り始める。すると、亀裂が停止を始めた。
外殻を更に囲う様に重力の膜が押し固めるように展開され、それは――
地上より、ブラックによる“大地の重さ”だった。
『『重力』は俺の“存在意義”です、マザー』
更に、浮き上がり始めた大きな亀裂を『ヴェロニカ』装備のドレッドが『重力膜』を纏いながら取り付くと推進力を全開にして押し返す。
「貴女のやろうとしてる事を補佐するのが事が私の“存在意義”です、マザー」
その時、マザーの近くに亀裂が入ると“爆縮”のエネルギーが横から襲いかかる。
防御に割く余裕はない――
『私は貴女の側にて任務を遂行する為に存在します』
ホワイトが『ハイエンド』で“爆縮”エネルギーを纏うと、自分を経由してそのエネルギーを外殻へ通して膜を作る様に強度を上げていく。
「ワン……セカンダリー……サード……」
その時、
「うおわぁぁぁ!! でぇふ……熱っちぃ!?」
「きちんと着地を決めなよ」
『『重力膜』はによる保護は必須だ』
『重力操作』にてカイルとレイモンドは外殻に着地する様に張り付いた。カイルに至っては着地の失敗から、ジリジリ焼かれる熱で即座に起き上がった形である。その二人の近くにボルックが着地する。
「何故……貴方達も……」
『まだ盤面は裏返せる』
ボルックは状況を打開するプランをマザーと『オフィサーナンバー』に通達した。
『ワタシの『ケミカルフィーバー』ならば、理論上は“超新星爆発”を抑えきれるハズだ』




