第474話 対応レベルは最大
それは間に合ったと見て良いのか、それとも手遅れだと見るべきなのか?
「マザーが防いでいる間に急いで!」
「最短ルートでY43のゲートへ!」
ゼファーの“光線”は途切れない。それどころか、更に出力を増し、それに比例して光が周囲を飲み込む様に膨れ上がっていく。
「…………」
地面は溶け始め、エネルギー耐性のある周囲の建物も熱で変色を始める。
それでも『スフィア』八機によるエネルギーシールドは破れず。マザーは後ろへは僅かにも“光線”を通さない。それどころか、
ザッ、と一歩。また一歩と前進を始めた。
光線出力40%――
排除対象『マザー』確認――
エアレイドが上空からマザーへ攻撃を仕掛けようとロックオンするが、
『させると思うか?』
『ヴェロニカ』を装備したブラックが、黒い彗星の様に『重力』を纏いエアレイドへ蹴打を見舞う。
鳥型である故に飛行の法則に縛られるエアレイドの動きは予測範囲に収まっていた。ブラックはそのまま、『セントラル』から遠ざける様に押して行く。
『オフィサーナンバーⅢ』による妨害を確認――
エアレイドは姿勢を回転させ、ブラックの突貫から逃れると、一度機翼を羽ばたかせて高く飛翔――出来ない。
『加重』。飛翔の為に必要なの運動エネルギーは完璧に相殺されていた。
『このまま、地に落ちてもらう』
ブラックは切り返しつつエアレイドからロックを外さない。更なる『加重』を加えたその時、
『!』
回避機動。エアレイドの翼の一部が分離し、ブラックを囲う様に“光線”を放ってきたのだ。
『加重』と『抜重』による直角機動を混ぜつつ、攻撃を回避して行く。
『『フェザーピース』か。厄介だな』
“光線”の出力はゼファー程ではない。狙いは飛行装備である背部の『ヴェロニカ』だ。ここで三次元機動を失えば一気に制空権を持っていかれる。
ピリリ――
付与されている『加重』に対して適応したエアレイドは先にブラックを落とすべく『フェザーピース』と共に飛翔する。
どんなモノにも限界値はある。
30秒近いレザー照射を続けたゼファーであったが、口部溶解の危険から一度、出力を停止。
周辺は景色が歪むほどの高温になっており、マザーはその手前で足を止める。
「『アステス』は前に進みたいのです」
止めて欲しいと告げるも自我の無い【スケアクロウ】には届かない。故に、この命令は母の意思だった。
内部のプログラムは『アステス』を完全に滅ぼすまで停止する事はない。
ゼファーは一度、装甲の隙間から排熱を行うと、次の瞬間――
『ピリリ――』
丸太のようなアームを振り返る様に振り抜くと、後方に迫っていた『WBK-87』を破壊する。その時間差で、
「――――」
弾丸のように飛んできたドレッドの跳び蹴りが胸部に炸裂。その反動でドレッドは弧を描いて姿勢を整えて着地すると、ゼファーは――
『…………』
不動。僅かに位置が後方にズレただけだった。
「未だマザーが再現出来ない『衝撃緩和』と『姿勢耐久』ですね」
ドレッドが駆け、ゼファーはその接近に合わせてアームを振り上げる。ドレッドは更に加速すると、ゼファーの股下を抜け、振り下ろされたアームは空振りに地面を叩く。刹那――
ドォン! 爆発と大差ない衝撃に地面が吹き飛んだ。マザーとドレッドが威力の推定を行うと、ミサイルの衝撃に相当する事が判明する。
「ドレッド、ここは任せます」
「はい」
『スフィア』を使い、マザーは再び浮遊するとエアレイドへ向かって、フォン、と飛行する。
そのマザーへゼファーはロックオンすると、口部を開き――
「【スペクターキャノン】発射」
放つ前にドレッドによる【スペクターキャノン】を防御する様にアームをクロスして耐え受ける。
その間にドレッドは今現在、発揮されているゼファーのスペックを『オフィサーナンバー』へ共有する。
“光線”の出力は40%まで確認――
腕部に付与されている『音界波動』は巡航ミサイルと同出力――
他武装の向上性は未だ不明。近接戦闘時は注意。
「リーダー! わっち達は行きますからねー!」
時間を稼いだ事で通りの避難は終わっていた。
避難状況は45%――もうしばらく時間稼ぎが必要ですね。
『早く行きなさい。私たちに援護は不要です』
ドレッドは『Tタイプ』全てに、患者の為だけに行動するように通信を入れた。
【スペクターキャノン】出力限界――
照射を停止。同時にドレッドは踏み出し接近すると1秒でもかからずにゼファーの間合いへ。
『ピリリ――』
カシュ、とゼファーの肩部装甲がズレると、そこから覗く銃口から“光線”が放たれる。
ドレッドはゼファーの身体の角度から“光線”の角度を算出。横へ身体を倒すように回避行動を取る。
「対応レベルは最大と言う事でしょうか」
ゼファーが弾薬を消費する武装を使わないと言う事は、永続的な戦闘行為を行う証だ。
ソレを『アステス』に対する“敬意”と見るか、“脅威”と見るかは相対する者次第だろう。
「カイル様ならきっと笑うのでしょうね」
ドレッドは踊るように身体を揺らしながら肩部レザーを回避。ゼファーは装甲を閉じると腕部を振り回すように横薙ぎでドレッドへ――
「『エアバスター』」
その腕部を足場に踏み上がったドレッドの膝蹴りがゼファーの頭部を打ち抜く――




