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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第465話 やだぁ……

 99%の確定予想でマザーは動いていた。

 故にカイルとレイモンドを圧倒し、このまま二人を無力化するのにフルスペックを出す必要は無いと判断しただろう。

 そもそも、今のマザーの身体は殴り合いを想定したモデルとしては作られていない。故に、直接的な戦闘は堅実に進めたかったハズだ。

 99%と1%……


1%(そういうの)ばっかり引くヤツは稀に居るぜ、マザー」


 そして合理的に考えるなら、1%の動きは想定しない。


「だっ、らぁ!」


 とカイルの我武者羅タックルがマザーへ組み付きを決めた。横から腰へ食らいつく様に共に倒れテイクダウン。

 マザーとしては、カイルは脳を揺らされ、まともな平衡感覚を持ってないと判断してからのタックル(コレ)である。


 カイルは怖ぇーな。

 生物的な行動確立数値が意味をなさないタイプは、“0と1”に絶対的な信頼を置く『アステス』には天敵な相手だぜ。俺なら戦いたくない。

 『オフィサーナンバー』の面々は――


『……』

「……」

『……』

『……』


 傍観。命令は絶対だとしてもカイルは『霊剣ガラット』を持ってないし、即死的な脅威は無いと判断してもいるだろう。


「貴女はまともに歩けないハズですが?」

「ははは……今もぐるぐるしてるぜ……でも、触ってるってことは当たったんだな!」

「当てずっぽうで私に組み付いて来たと?」

「行けるって感じてさ。後は勘!」

「本当に非合理ですね」


 下からカイルの首へマザーは手を伸ばす。即座に頸動脈を絞める動きは流石だが――


「おっと!」


 当然カイルはその手を取って阻止。上に乗ってる以上、主導権はカイルにあるな。


「……ここからどうするのですか?」

「うーん……」

「何も考えていないのですか?」

「いや……サリアさんはナイフで――ってぇ!?」


 マザーは会話をしつつ悟られない様に『抜重』にてカイルごと身体を浮かせていた。そして隙を見せた瞬間、ぐるん、と身体を横に倒すように回転させ『加重』にてどすん、と入れ替わる。今度はマザーがマウントを取る形となった。


「げげ……」

「随分と優しいのですね。本来であれば上に乗った時点で殴るなり絞めるなりして“決め”に行くべきです」

「いや……何かマザーってすっげー、柔らかいじゃん。思いっきり殴ったら何か悪いと思って」

「……今、私と貴女は戦っているのですよ?」

「おう! でも、俺は俺の勝ち方がある!」


 カイルが腕を振り上げる。マザーは乗ったまま身を引いて避けるが、胸倉を部分を掴まれた。

 カイルに身体強化が乗っている。マザーの体重なら片手でも簡単にひっくり返せるぞ。


「無駄です」


 マザーはソレを察し『加重』。マウントポジションは譲る気が無い様だ。


「おっりゃあ!」

「!」


 しかし、カイルは『加重』をモノともせずに、マザーの服を引っ張ると無理やり横倒しに動かした。再度、ひっくり返す様に上に乗る。


「……これが『共感覚(ユニゾン)』ですか」


 マザーはカイルが『加重』の影響を受けなかった事を明確に記録してるな。

 『共感覚(ユニゾン)』は『アステス』でも観測記録が殆ど無いスキルだ。

 現象への理解が無いと意味は無いと聞くが、カイルの場合は論理的な解釈よりも、本能的に肉体が順応する性質に寄ってるみたいだな。


 記録で見る限り、ゼファー(スケアクロウ)の光線に対しても瞬時に『精霊化』して回避してたし、発動は反射運動に近いのだろう。


「よっしゃ! 上取っ――」


 と、ゴロンとマウントと取った勢いをマザーが助長し、更にゴロンと回転。カイルを自分から投げるように引き離す。


「うわっ!」


 カイルの身体は離れるも、マザーの掴んだ服は頑なに離さなかった為にボタンがブチっと飛ぶ。


「服から手を離してください」

「まだ、ぐるぐるしてるんだ! 離すと攻撃してくるじゃん!」


 膝立ちから起き上がろうとしたマザーの腰にカイルが組み付く。


「貴女とのインファイトはデメリットの方が大きい事が確認されましたので」


 マザーはカイルの顔を押して拒絶する様に離しにかかる。あそこまで密着されてたら、ああやって抵抗するしかねぇわな。


「うぎー、離さねぇぞ……」

「しつこいで――」

「隙ありゃあ!」

「あっ」


 マザーが体勢を変えて引き剥がそうとした瞬間、をカイルは片手で軸足を取って身体を押して再びテイクダウン。しかし、今度は腰では無く太腿を掴んでる。

 キャッチが浅い。マザーは片足を抜いてカイルの引き剥がしにかかる。


「ふぎぎぎ……離すかぁ……」

「スカートから手を離しなさい!」

「やだぁ……」


 顔を足で押されるカイルと、掴まれるスカートが脱がされそうになり、抵抗するマザー。

 マザーは平均的な女性体格による筋力しか無く、『重力』で引き剥がそうにも『共感覚』で適応されて意味がない。


「レイモンドォ……」


 カイルがマザーの足で顔を歪まされながらもレイモンドへ救援要請。そういや、寝技ファイトが面白すぎてレイモンドの存在を忘れてたわ。


「…………」


 見るとレイモンドは二人から目を逸らしてた。

 ? あー、なるほど。カイルとマザーはキャットファイトにて服が乱れて色々と(はだ)けてる。年頃の青年なら中々に直視が難しいレベルか。レイモンドには結構刺さる破廉恥具合だろう。

 特に今、マザーはスカートを脱がされかけている瀬戸際。

 

 レイモンドとしては――

 カイルの味方だけど、ソレに加担するとマザーのスカートを脱がす手伝いをした男子、と言う体裁が貼られる事もあって加勢の判断がつかない様子だ。

 二人は大真面目だが、女と男の境界がはっきり分かれる領域だねぇ。ていうかレイモンドよ、これは『アステス』を賭けた一大勝負なんだぞ? がっと行きなよ。


「……ルドウィックさん。場が拮抗して硬直してます。一度、仕切り直しをお願いします」

「ふっふふ。ああ、解ったよ」


 逃げたな。

 俺は女の姿になると、ストップストップ、と静止をかけて二人の対向意識を緩めさせ、立ち上がらせた。各々少しインターバル。


「ドレッド、服の応急処置をお願いします。ボタンは紛失しました」

「5秒ください」

「レイモンド! 何で加勢してくれないんだよ!」

「あ……うん……ごめん……」

「ホントに頼むぜー!」

「つ、次はちゃんとするよ」


 これはカイルが正しい。

 レイモンド、優柔不断は自分にも相手にも失礼だと学びな。まぁ、観てる分には滅茶苦茶面白いけどな。

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