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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
序章 ローハンとカイルと『星の探索者』

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第5話 俺どうしたらいいんだよ!

「最終便になっちまったな」


 港町に着いたオレとカイルは、道中の襲撃の件を警邏隊に伝えたが、事実確認の為に拘束された。


 しかし、乗り合わせていた乗客の証言からも確認が取れて無事に解放。その足で定期船の最終便へと乗り込んだ。


「なんか、1日ドタバタしたなー」

「まぁ、トントンに行ってよかったろ」


 急ぎで乗り込んだので、カイルとは同室しか取れなかった。しかし、寝台は二段なので上と下に別れて寝れば何も問題はない。


「旅ってもっと準備するモンだと思ってたけど」

「本来ならな」


 部屋の隅に荷物を置きながら説明する。


「一度も行った事の無い所を目指すなら、120%の準備が要る。けど今回は道順は解ってるし、到着先にも仲間が構えてる。速度重視で充分だよ」

「ふーん」


 荷物が増えればその分、体力を使うし咄嗟に逃げる事も出来ない。身軽であればあるほど良い場合もある。


「敵ばっかり斬るだけじゃ駄目だぞ?」

「うーん……」


 適材適所ってのはあるが、直感で動くカイルは旅には向いてないな。よく村に帰って来れたものだ。


「そうだ! おっさんと旅すれば全部解決じゃん!」


 おぅ。来たぜ、カイル理論。


「俺が料理とか、その他の事はやるからさ! 先導はおっさんって事で!」

「やれやれ……頼ってくれるのは嬉しいが、一人で出来る事は増やした方がいいぞ」


 それにオレは今回の件が終わったら平穏な村に戻る予定だ。カイルはクランに戻るだろう。


「ちぇ。じゃあ今度、二人でキャプテンの所に行こうぜ! おっさんの事、死んだって言っちゃったし」

「そうだな。それは正さないとな」


 ついでにヤツに拳を一発食らわすか。






 船内では割高ではあるが、食事が振る舞われる。と言っても、塩の肉とライムジュースだけであるが。


「うーむ。やっぱり時間が経っても食事面の改善は中々出来ないか」


 船の足行きは悪くない。三日で目的の港に着くのでその間、今の食事だけでは胸焼けする。明日の昼間は糸を借りて魚でも釣るか……

 ガチャッと船室の扉を空けると女が身体を拭いていた。


「あ! わっ!?」

「わっほう!」


 カイルと目が合ったオレは咄嗟に扉を閉める。こう言う罠もあったか! クソッ、全ての状況をシミュレートしておかなければ!


「悪かった! 何かやるなら前もって言ってくれ!」


 扉越しにそう叫んで、わ、悪ぃ、とカイルの声を受け取る。そのまま廊下で潮風に当たり、夜の海を眺めていると扉が開いた。

 ラフな格好に腰に剣を差したカイルは隣に来ると少し気まずそう。そして、横風に流れる髪を抑える。


「髪は邪魔なら切ってやろうか?」


 オレから話を切り出す。


「……おっさんは髪が長い方が良いんだろ?」

「誰情報だよ」

「クロエさん」


 あのアマ。


「でも……おっさんが切った方がいいって言うなら切るけど」

「まぁ、まだ良いだろ。伸ばすのは大変だっただろ?」


 カイルは銀髪と言う珍しい髪色をしている事もあって切るのは少し勿体ないと感じさせた。


「でも最近はちょっと鬱陶しいんだよなぁ。後ろで纏めてても違和感あるし」

「ちょっと後ろ向け」


 不思議そうにしつつも、カイルは背を向ける。オレはささっと三つ編みに纏めた。


「バラつくのが気になるなら、自分で結んでみると良いぜ。後、髪の長いヤツはどんな髪型にしてるかとか見て参考にすると良い」


 カイルはオレが編んだ三つ編みを物珍しそうに見る。


「おっさん。もしかして、妹とか入るのか?」

「いねーよ」

「じゃあ……恋人とか?」

「なんでそんな話になる?」


 カイルの言葉のチョイスはオレの中でちょっと迷子だ。


「いや……だってさ。普通は長い髪なんて結わないだろ?」

「昔はオレも結構長かったんだよ」


 村に来た頃は短くし、今は肩にかかる程度だが、昔は背中まで髪を伸ばしていたのだ。


「へー」

「戦いでバッサリやられて、以降は面倒で短くしてるんだ」


 今は少し伸びる度に自分で切っているので髪形は年中変わらない様に見えるだろう。

 カイルは納得したのか、今度は自分の三つ編みを触る。


「……えへへ。ありがと、おっさん」

「後で教えてやるよ」


 剣以外で教える事もまだまだあるか。これぞ、人生の師って感じだな。さっきの事故はこれで忘れてくれた様なので上手くリカバリー出来ただろう。






 船を散策すると言ってカイルはローハンと少し別れた。

 万が一にも船内で戦闘が起こった場合に地形を把握しておくのは戦士として最低限の行動である。

 甲板で海を眺めつつもカイルは別の事を考えていた。


「……」


 ヤバイ……ヤバイヤバイ。おっさん、カッコよ過ぎなんだけど! 昔からカッコいいって思ってたけど……もっとかっこよくなってて本当にビビった。

 道中に密着する事が多くて、心臓がバクバクだったけど……なんとかポーカーフェイスで乗り越えられたと思う!


「……」


 けど……何か相手にされてない感じがするんだよなぁ。やっぱり、デカイ胸よりもスレンダーな方が良いのかなぁ……


 カイルは無駄に育ってしまった胸を見る。これ以上大きくなることは無いと思うが……


「やっぱり、おっさんは他のヤツとは違うな」


 男は何かと、この胸に視線を向けてくる。まるでそれしか見られていないようで嫌いな視線だった。

 しかし、師は昔と変わらずに弟子として自分を見てくれる。それがとても嬉しかった。


「こんばんは」

「あ、ども」


 すると、いつの間にか横に一人の女性がいたので軽く挨拶する。

 踊り子でもしていそうなきわどい衣装に、見せつけるようなプロポーションはとてもグラマラスな美女だった。


「綺麗な髪色ね」

「ども……」


 女でも見惚れる様な美貌を持つ美女にカイルは思わずたじろぐ。すると、美女はカイルの三つ編みを触った。


「とても……上手。大切な人に結ってもらったの?」

「え? はぁ……まぁ……」


 不快感は感じないが、彼女と眼を合わせると何か心がふわふわする感覚を覚える。


「貴女、イイわ。とてもイイ。まだ生娘でしょう? ふふ。その初夜を私にも感じさせて?」






「“願いを叶える珠”か」


 オレは部屋の前の廊下で遺跡都市に着いた時の事を考えていた。

 『全知全能になる本』『死者が甦る魔法』『未来を見る魔眼』など、昔からその手の噂は世界中にある。その中でも、最も現実的で代表核となるのが、『願いを叶える珠』なのだ。


“ローハン。私はクロウを生き返らせるわ。例え、どんな手段を使ってでも”


「クランマスターも止めとけって言ったのによ」


 クラン全体で取りかかる程の事であるのなら、本当に願いを叶えられるとマスターが判断したのだろう。


「しかし……遺跡はアイツが持っていかれるレベルだったか」


 昔は浅く触れた程度だったが……評価を見直さなければならない。

 何にせよ、今日はもう寝るか。眠気も程よいし。


「……おっさん」


 するとカイルが帰ってきた。少し疲れた感じだ。


「明日に響くからもう寝るぞ。船で疲れると酔いやすくなるからな。一応、扉には防護の魔法かけとくから出るときは――」


 扉の内側に魔法陣を簡単に書いていると、カイルがふらふらとしてきたので咄嗟に支えた。


「おいおい、どうした? 大丈夫か?」


 するとカイルは、部屋の中に押し込む様にオレをドンっと押す。不意な行動に足を引っ掻けたオレは、あぅっ、と情けない声を出して船室に倒れた。


「痛ってぇな……何すんだ!」


 師匠を雑に扱うとは許せんぞ! ちょっと説教を――


「はぁ……はぁ……」


 しかし、カイルは呼吸を荒くオレに馬乗りしてきた。顔も火照り、余裕がない様子でオレを見る。


「お、おっさん! な、なんか俺おかしい! おっさんの事考えるとどんどん心臓が早くなるんだ!」

「お、おおう!? どうした!?」


 何があったのか知らないがカイルの様子は明らかに異常だ。しかも、暑いとか言って胸元を空け出し始める。谷間が至近距離に見え、更に脱ごうとしたので、ヤメロォ! と腕を抑える。


「こ、こうしてる間にも! どんどん暑くなって! なんか抑えられない! 腹の下の所がどんどん切なくなって行くんだ! お、おっさん! 俺どうしたらいいんだよ!」

「ハァーッ!」


 バチバチバチィ!

 オレはカイルを抱き寄せると、雷魔法を使って気を失わせた。

 糸の切れた人形のように動きを停止するカイルを抱えるとベッドへ移動させる。


「クソが……誰だ! カイルに魅了なんてかけやがった奴は!」


 思わず一線を越える所だったわ! ホントに勘弁してよ……


「……おっさん」


 安らかなカイルの寝言。何とか落ち着いたようだ。

 しかし、カイルも相当の実力者。獣並みの直感を持つコイツの前で怪しい動きをすれば、魅了される前に切り捨てられるだろう。


「狙われる理由はねぇな」


 カイルもオレもこの辺りでは通りすがりレベルの知名度だ。となれば、


「狙いはランダムか。しかし……」


 少し理由を考えて一つの結論に至る。コレを自らの欲とする魔物を知っていた。


「『古代種』か。クソ、船の上だぞ? どっから紛れ込んだんだ?」


 取りあえず愛弟子にこんな事させ、オレの平穏を脅かそうとしたソイツは殺すか。

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― 新着の感想 ―
テンポも文脈も良くて読み易いんだけど色々引っ掛かって勿体ない無いなあ…と思いつつも読み進めたい
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