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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第455話 ワーム・グラビティ

 エネルギーは同質ならば質量が違っても混ざり合う性質を持つ。

 その際に数値の小さい方は大きな方に取り込まれ、糧となり更に大きなエネルギーの一部となる。

 しかし、その枠を一つだけ外れるエネルギーが存在した。

 

 それが“重さ”である。

 物質に対して個々で作用する値が決まっている“重さ”は世界の法則に厳守される。ソレに干渉するのが『重力魔法』であった。

 それでも、出来ることは物質にかかる“重さ”を増やしたり減らしたりが主。中には自分の魔力を混ぜて物理的に知覚できる形状にするヤツもいるが、基本的には一定の数値を越える事はない。


 一般的に知られていない事だが、“重さ”には星に決められた上限が存在する。


 重力に制限の無い空間ならいざ知らず、星には形を成す為に必要な上限値が設けられているのだ。ソレを超える程の“重さ”を個が持つことは不可能。上限を越えた時点で個は自壊する。


「だから危ないんだけどな。星の中に“ブラック・ホール”を作るのは」


 ブラックの生成した『重力』キューブは全て違った“重さ”の塊だ。ソレを己の魔力で強引に繋ぐ事で“巨大な個”に見えているだけの代物。その為、中は複数の“重さ”がネジ曲がり、独特の空間に変貌している。

 その空間全てを把握するのは発生者であるブラックのみ。つまり、『ワーム・グラビティ』はブラックの作り出す世界。俺も前もって『オフィサーナンバー』の記録に目を通して無かったら意味わからんトコだったぜ。


 『ワーム・グラビティ』はその異常なまでの混沌故に外からの干渉や索敵を一切受けない。破るには同質の『重力魔力』でなければ不可能。つまり――


「レイモンド。また1000年近づかなきゃ、そこからは一生出れないぜ」




 

 投げられたのに落ちた(・・・)

 離れたのに離れてない(・・・・・)

 周囲が真っ暗故に、平衡感覚が曖昧だ。今も、かなりの高さから落ちたような衝撃が身体を痺れさせている。


「くっ……」


 何とか肘を立てて起き上がると、ブラックさんはその場から、トンっ、とバックステップで離れた。すると感じたのは妙な浮遊感――


「――」


 これは……落ちている!? 背中が引っ張られる様な感覚は落下のモノ。この空間は、何がどうなって――


『落下死まで待つつもりはない』

「!」


 落ちる僕にブラックさんが踏み込み、拳で殴りつけてくる。反撃する余裕はない。僕は手の平を重ねて受けると、落下とは別方向へ吹き飛ばされた。


「っ……」


 『エアバスター』でなければ『重力付与』もない単純な拳。普通の打撃……違和感を覚える。何故『ライン・グラビティ』を使わないんだ?


「――ぐっ!?」


 横に吹き飛んだと思ったら、何も無い所で止まるように“壁”にぶつかった。そのまま押し付けられる様に“重さ”がのしかかる。


「うぐぅぅ……」


 焦るな……冷静に……さっきの感覚を……適応するん――


「う……わあ!?」


 次は上に落ちる(・・・)。なんだ……僕に何が起こってる!?


『“交わり”に触れるのも時間の問題か』


 ブラックさんの声が四方から聞こえた。

 交わり……? 一体どう言う……


 次の瞬間、僕の身体はピタリと止まった。そして、ギリギリ……と両側から凄い力で引っ張られる。


『嵌ったか。さらばだ、レイモンド・スラッシュ』


 ブラックさんの去るような言葉だけが唯一の情報だった。






 父の事は背中ばかり見ていた。

 母が死んでから父の笑顔は少しずつ消え、より力に取り憑いていく様を感じていた。


 【武神王】の六番弟子――【重王】レイザック・スラッシュ。


 父は僕と(レイミー)に戦う術を教え終えてから、放任に近い形で自分の事に没頭していた。

 別にそれでも構わない。正直言うと、僕は父の事が少し苦手だったから。母にその事を素直に言った事があった。母は……


「レイモンドも大きくなればお父さんの事がわかるわ」


 正直、今でもちっとも分からない。

 『重力魔法』を深める事になってから、話くらいはしてみようかなって思うくらいだ。


「父さん。僕、『ターミナル』で運び屋の仕事をやる事にしたよ」

「そうか」


 生活する為に必要な賃金を稼ぐ手段を告げても、父は相変わらず背を向けて家を出て行く。

 その頃にはレイミーも自分の実力を売りにして、変なグループを作ってるし、家族は食卓を囲う事も無くなった。

 それでも、レイミーが薬に手を出そうとした時、父は無言で妹を捕まえると修練した森に一週間、縛りつけて、僕に世話を頼んだ事があった。

 アレが家族愛と言うなら不器用なんてレベルじゃない。その後、レイミーが手を出そうとした薬を流してた伝手がいつの間にか消えてたのは父が関与したのだろうけど。


「…………父さん。僕、『星の探索者』に誘われたんだ」

「…………」

「レイミーの件はミケさんが取り持ってくれたけど、それでもやっぱり誠意を見せないとでしょ? だから……僕は今日、『ターミナル』を出て行く」


 レイミーには、アニキ生贄じゃんって言われたけど、とにかく僕は『ターミナル』を離れたかった。

 けど、もし……父がソレを止めるなら――


「そうか」

「…………」


 背を向けてそう言う父は何も変わらずに家を出て行く。もう僕とレイミーを見てないんだと感じた。だから……


 父の強さには絶対に憧れないと決めた。

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