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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第一幕 願いを叶える珠

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第49話 カイルの弱点

 正直な所、オレのカイルへ見立ては間違っていた。


「もー!」


 “黒ゼウス”が『鎖』をロープみたいに振り回す。当たったら即死の威力と速度が乱雑に襲って来る。

 オレは避けながら大技の準備の為に“黒ゼウス”の周囲を回るように移動。足を踏んだ箇所を魔法陣の要点して刻む。

 対してカイルは――


「ふっ……ふっ……ふっは! はっはっはっは!!」


 “死”を側面に起きつつも笑っていた。しかも、避けつつ徐々に前進している。

 そう、前進(・・)しているのだ。近づけば近づくだけ死地となると言うのに、それを恐れる所か、どれだけ自分が前に行けるかしか考えていない。

 その接近を阻止する様に“黒ゼウス”の攻撃はカイルに集中する。


「ヤバかったら割り込もうと思ったけどな」


 オレの見立ては間違っていた。カイルは敵が強ければ強いほど、己を高めていく。その素質は未だに底が見えん。

 今も当たりそうな『鎖』を剣の側面で反らして、わずかに額を掠めるに止めた。

 今も加速度的に、どんどん強くなってやがる。師として見ているだけで面白いと感じる程に。


「アインの婆さんは弟子に引き込みたがるだろうな、こりゃ」


 カイルなら『武神王』の前に気を失わず(・・・・・)立てるだろう。


「ここだぁ!」


 下段を払う『鎖』の足払いを前に飛んで避けつつ、横に寝かせた剣の間合いに“黒ゼウス”を捉えた。

 遂に内側に入りやがったよ。末恐ろしい。


「ぶー!」


 “黒ゼウス”が『鎖』を引き戻す。しかし、腕だけを『加速』したカイルの剣が先に“黒ゼウス”を凪いだ。


「あら?」


 “黒ゼウス”の視界は斜めに傾いただろう。胴体を斜め下から肩までバッサリと切り捨てられ、ずるっ、とずれて二つに別れる。

 暴れまわっていた『鎖』も命が尽きた様に停止した。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 二つに分かれて倒れた“黒ゼウス”見下ろして肩で息をするカイル。

 『加速』をかけたその片腕の袖は空気抵抗でズタズタだが、皮膚は傷ついていないので、適切な速度だったのだろう。


「うっぷっ……おぇ……胃液が逆流してきた……」


 カイルは嗚咽をもらす。

 フルダッシュしたに近い運動量だったからな。精神的にも素養をハネ上げた一戦だっただろう。


「よっ、後先考えずに無茶しやがって」

「はぁ……はぁ……おっさん」


 カイルは高い潜在能力を持つことは知っていたが……相対してその場で敵を越えていくとは。駆け引きの無い実力勝負なら『星の探索者』ではカイルが一番かもしれん。


「勝ったぞ! ほら! 俺が来て良かっただろ?」

「ハハハ。ま、弟子の成長を見れてオレも満足だよ」

「そればっか言うじゃん!」


 カイルの次の目標は戦闘の中での駆け引きを覚える事だな。理知的に実力を引き出せればまだまだ強くなる。


「ちょっと、フィジカルばっかり尖っちまってるからな。そろそろ、お前も実用的な魔法を覚えろ」

「うっ……勉強は苦手なんだよなぁ」

「お前が考えるよりも先に動くタイプなのは解ってるが、仲間を護る意味でも必要な事だぞ?」


 もしも、“殺し合い”となればカイルは下の下だ。複雑な搦め手も要する戦いこそ、本物の舞台だとオレは思っている。

 オレの知る限り、サリアやスメラギはその道では最上位。ボルックとクロエは攻撃距離の関係から中堅。レイモンドも局地慣れしてる感じなので、このくくりで良い。クランマスターは盤外位。


「うーん……皆が居るからオレはいい!」


 胸張ってドヤる場面じゃないんだけどなぁ。

 魔法は実感を得られるまでに時間がかかるし、そこら辺がカイルの性格と噛み合わないのだろう。ちょっとフィジカルに寄せ過ぎちまったか。


「アハハ」


 と、カイルに二つにされた“黒ゼウス”が嗤った。


「うわ!? 生きてる!?」

「『シャドウゴースト』に死の概念は無いんだよ」


 驚いて剣を構えるカイルに説明する。

 “黒ゼウス”は倒れた上半身だけを動かして、不気味に嗤っていた。もはや、マスターの面影はない。顔もどろどろに崩れて、上半身と下半身が液体の様に一つに結合する。

 そして、黒い影はもりもりと膨れ上がり、『シャドウゴースト』は魔物の『オーガ』として再度顕現する。


「なんだ? やけに型落ちしたな」


 マスターから魔物のオーガって、どんな選択肢を取ったら――


「あ……あうぅ……」


 すると、カイルは青ざめて硬直していた。おいおいまさか……


「ゴァァァア!!」


 “黒オーガ”は口から吐き出す様に雷を天へと打ち上げると、ソレは『ゼウスの雷霆』へと形を変えていく。


「あー、なるほどね」


 新事実! 『シャドウゴースト』は、模した奴が弱点ではない別の奴が撃破すると、ソイツの弱点となる奴に模倣する! しかも、能力を引き継ぐオマケ付き!


「ゴオオオオ!!」

「ひっひぁっ!」


 カイルは“黒オーガ”に咆哮を向けられると、尻餅を突き、頭を抱えてカタカタと震えだした。

 マジかよ。カイルのやつ……コレを克服出来てねぇのか。


 “黒オーガ”は落ちている『鎖』を拾い上げると、オレ達を狙って力の限り振り回す。


「『磁界制御(マグネット)』」


 しかし、逆に“黒オーガ”の身体に『鎖』が巻き付いた。『鎖』はオレが作ったモノだ。“黒オーガ”程の体格なら拘束する効果は大きい。


「グオオオ!!」


 しかし、持ち前のフィジカルで、糸のように『鎖』を引きちぎる。まぁ、1本じゃ意味はねぇよ。なら――


「100本はどうだ?」


 『檻鎖(ロックスペース)』。

 周囲の金属を分解して生み出される無数の『鎖』が『磁界制御』を混ぜる事で、生き物のように“黒オーガ”を拘束する。


「ォォオオオ!!」


 それでも抵抗し、二、三本は引きちぎるが、多勢に無勢。あっという間に蓑虫の出来上がりっと。

 こう言う、短絡的な『シャドウゴースト』ならマジで楽だ。次は『雷霆』を何とかしないとな。

 オレはマスターじゃないから解除は出来ない。術式をいじって、発動時間を延ばす程度。レイモンドとボルックの方はどうなって――


「ん?」


 『雷霆』を見上げると『水霧』に覆われる。アレはクロエか。二人は無事に助け出した様だ。魔法を使えている所を見るに、能力に支障はなさそうである。


「カイル、クロエは無事だ。帰るぞ」

「うぅ……」


 カイルは膝を抱えて顔を伏せたままだ。

 先程のバーサーカーっぷりは完全に消失して、トラウマに精神をノックアウトされてやがる。

 駄目だこりゃ。カイルを何とかするのは後にして取りあえず、ボルック達と合流しよう。

 オレはカイルを抱えると、そのタイミングでクロエが現れた。


「ん? よう、元気そうだな」

「……」


 クロエは生まれつき盲目なのだ。故にこちらの状況を伝える為に声を出すのはいつもの流れである。


「『シャドウゴースト』。ローハンを倒したのなら……カイルを離して消えなさい」


 おっと、盛大な勘違いをしてやがるぞ。この裸コート女。


「……おい、オレが誰に殺られるって?」

「『雷霆』。動くモノは二つ。貴方には顔がない。『シャドウゴースト』でしょう?」


 あー、“黒オーガ”をぐるぐる巻きにしたのが悪かったのかぁ……それに【オールデットワン】で顔のパーツも無い事も起因……って待て待て!


「上の『ゼウスの雷霆』が見えねぇのか!?」

「そうね。なら発動前に屠りましょう。10秒もかからないわ」


 クロエがオレの首を落としに踏み込んで来た。この女が得意とする戦闘――“秒刻み”が始まる。

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