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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第450話 彼らの『重さ』

 常に自分にかかる『重さ』を意識して生活するヒトはいない。

 生まれてから死ぬまで、ヒトが絶対に関わっていくものの一つが『重さ』だ。

 『重さ』は枷。世界で生きる為に必要な制限。誰もが疑う事は無かった。だが唯一、『重さ(ソレ)』から逃れた者達が居た。


『獣族』『兎』


 彼らは生まれながらに月に居た。

 跳ねればヒトの数倍は跳び、駆ければ瞬く間に地平線の彼方へ辿り着く。

 『重さ』の薄い世界。そこで縦横無尽に生きる彼らは『重さ』をコントロールする事は不必要と考えていた。


 故に、彼らが惑星に降り立つ事は困難を極めた。


 月よりも何倍もの『重さ』に支配された世界。駆ける事はおろか、歩く事も立つ事も困難だった。

 故に“彼女”は彼らに『知識』を授けた。

 彼らは『重さ』による苦しみを知り、より深くその意味を理解して己のコントロールに置けると判断したからだ。


 『兎』は『重さ』を理解する。いや、理解しなければならない。コレは彼らの先祖が子孫へ向けてのメッセージなのだ。


 我々は他に比べて弱い存在だ。故に自由が欲しくば『重さ』に屈するな、と――






 【黒蹴球】レイモンド・スラッシュ

 VS

 『オフィサーナンバーⅢ』サード・ブラック


 レイモンドとブラックは開始と同時に蹴打と拳打を見舞った。


 ブラックの突き出すフックを、レイモンドは身を倒す様に逸らして避けつつ、弧を描くように真下からの蹴り上げる。

 フックにより前かがみだったブラックはカウンター気味に食らい、不自然な程に高く打ち上がった。


「…………」

『…………』


 空箱を蹴った感覚だ……


 サマーソルトが衝撃を生んだ瞬間、ブラックは『抜重』し威力をほぼ無力化。そのまま無重力に近い形で空へ。


 レイモンドは身を弛めると、蹴り上げたブラックを見上げる。落ちてくるハズ。その『重さ』に下からの『重さ(蹴り)』を合わせてダメージを通す。


『初歩の初歩だ』


 ブラックはレイモンドの予想通りに『加重』し、落下しつつレイモンドへ手を翳す。同時にレイモンドは『抜重』し、大きく跳び上がった。


「――――」


 跳べ……ない……

 全力で跳んだ。『抜重』も問題ない。しかし、足は地面より十数センチ離れただけでそれ以上は跳べなかった。


『お前の真価がその程度だと言うのなら、何も遺せない』


 ブラックによりレイモンドの周囲の『重力』は彼が跳び上がるだけのエネルギーを押さえつける『加重』が施される。地面は傷つけない様に完璧なコントロールがされていた。


「くっ……」


 まるで上から大きな手の平に押さえつけられている様な感覚にレイモンドは膝立ちから起き上がれない。

 ブラックの着地が迫る分、コントロールは精度を上げ、レイモンドだけを押しつぶし始める。


『3000年早かったな』

「――――」


 バキンッ! ブラックの右肩の装甲の一つが欠け飛んだ。レイモンドは潰されるギリギリでブラックの制御する『重力』に適応し、逆に跳び蹴りを見舞ったのである。


『1年は縮めたか』


 ブラックは着地。二人の位置は逆となり、飛び上がったレイモンドは空中で振り返る様に向き直る。






 外れた(・・・)

 ブラックさんの干渉を受けないように適応した『重力』内での『抜重』と『加重』。そのまま彼の身体の中心を狙ったのに、結果は右肩に当たっていた……


『3000年早かったな』


「……」


 きっと、ブラックさんから見れば僕は未熟も良い所だろう。けど――――


「その3000年以上、『(僕たち)』は世界に適応して来たんです!」


 『加重』と『抜重』を駆使して振り返る様に向き直ると、『重力』を眼前に集め、“黒玉”を作り出す。


「その全てを避けずに受ける覚悟はありますか!?」


 勢いよく足を振り抜き、ブラックさんを狙って“黒玉”を蹴り飛ばす。

 すると、ブラックさんは僕に手をかざし上げ、“黒玉”を手の平で受け止めた。


『児戯だ』

「でしょうね!」


 僅かでも視線を切った瞬間に、僕は大地を踏み砕く勢いで着地。強靭な脚力故に多少の無茶は許容範囲。

 ブラックさんとの距離は50メートル程。しかし、


『間合いだ』

「間合いです!」


 互いに『抜重』と『加重』のタイミングが重なる。無重力で無限に加速する様な接近にて、互いの足裏が激突した。


 『重さ』が拮抗する。いや……拮抗ではダメだ!

 案の定、ブラックさんは瞬時に範囲に『加重』を施し、僕は『抜重』にてソレに適応。蹴りの反動と低重力で、ふわりと距離が空く。

 逆さまになりつつも、“黒玉”の派生――“黒線”をブラックさんに放つ。


視覚(モニター)に捉えられると言う事は、深さが足りないと言う事だ』


 “黒線”はブラックさんの手前で溶ける様に消滅し、纏う黒いオーラが増す。


 悪寒。瞬時に『加重』して着地。ソレに重ねる様にブラックさんの『加重』。『抜重』して移動、その瞬間――


『ライン・グラビティ』


 ゾッ! と、地面に切り込みが入った。悪寒の正体はコレか。

 僅か数センチの縦ラインを範囲とした極端な『加重』による物質の切断。

 見えない重力の刃。射程はブラックさんが干渉できる『重力』の範囲全てと見て良いだろう。ソレが『機人』特有の精確性をもって発動される。


「僕じゃなかったら避けられなかった」


 知覚までは行かなくても『重力』の異常を感じ取る術に長ける故に、僕ならギリギリ初動を読める!


 しかし、ブラックさんによるフィールドの『加重』と『抜重』による僕への干渉。ソレに少しでも足を止められてしまったら最後、『ライン・グラビティ』で身体を両断される。

 攻撃まで思考を回せない。今は適応と回避に専念。完全無欠の能力は存在しないと知っている。『重力』の範囲であるのなら必ず突破口を見つけられるハズだ!


『粘る。だが、外からの要素に対応出来るか?』


 その時、空が明るく感じた。

 真っ昼間なのに明るく……? 僕は一瞬だけ空を見上げると――


「なっ!?」


 無数の燃える流星が『アステス』へ降り注いでいた。

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