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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第444話 こちらもだ

 ホワイトさんの攻撃はすり抜ける様に当たらない。この現象を僕とカイルは見たことがあった。

 

 『遺跡内部』上層(冬)で『炎剣イフリート』の使い手とローハンさんが戦った時だ。


 あの時、ローハンさんはクロエさんに匹敵する技量で『炎剣イフリート』を下した。つまり、今のボルックさんはローハンさんやクロエさんと同じ回避技術を持つという事になる。


「ボルックのやつ! あんなに強かったのか!」


 カイルは嬉々としているが、僕としては50年の歳月が大きく関係していると思っていた。

 帰還を目的とした際に『アステス』を知り、イザとなれば越える必要があると判断したのかもしれない。故に、ボルックさんはこの50年間、ひたすら己を磨いていたハズだ。


『――――』

『――――!』


 その時、ホワイトさんの打撃がボルックさんを掠めた。

 この戦いは『機人』同士のモノ。故に優劣を決めるのは、より無駄を削いだ方だ。

 ボルックさんに攻撃が当たり始めたと言うことは……ホワイトさんの“無駄”が消え始めていると言うこと――


『――……』


 そして、頭部にホワイトさんの拳打が当たると、ボルックさんは体勢を僅かに崩し、一気にラッシュが見舞われる。

 ワンテンポ遅れてボルックさんはラッシュを捌くがホワイトさんの乱打が上回る。後方に下がりながら受けていく中、ホワイトさんは洗練されたラッシュの中に肘打ちを混ぜ、ボルックさんを大きく吹き飛ばした。


『今の『エアバスター』を処理するか』

『ワタシ達の装甲強度では単なる打撃ではダメージは無い。せいぜい“繋ぎ”になる程度だ』


 ボルックさんはホワイトさんが『エアバスター』でダメージを狙う様を想定していたらしい。

 吹き飛ばされはしたものの無傷だ。


 ピピピ――とホワイトさんのアイカメラが明滅する。

 踏み込み、頭部への突き。ボルックさんは最初と同じように自然体で受けに回るが、


『――――』


 カッ、とボルックさんの装甲が擦れ火花が散る。先ほどと違って初手から掠めていく。


 次に繋ぎを感じさせない程に流れる肘打ち。ボルックさんは回避するが、突き出した肘がカットする様に避けた先へ叩きつけられる。

 ドォン! ……と『エアバスター』の重い音が響き、衝風がこちらまで流れてくる。ボルックさんが怯む。


『…………』

『――――』


 ホワイトさんは手を緩めない。

 肘打を中心に至近距離の打撃を組み立て、ボルックさんへ見舞う。最早、最初の時の様なすり抜け(・・・・)は起こらず、時折『エアバスター』のヒット音が響いてくる。


「ボルックー! 反撃しろよー!」


 カイルが叫ぶ。当然、ボルックさんも反撃は視野に入れているハズだ。しかし、ソレに移行出来ないと言う事は、ホワイトさんの攻撃に隙を見出せず、下手に手を出せば自分が負けると判断しているのかもしれない。


 互いの機体性能に差は殆ど無いハズ。その証拠にボルックさんは開始当初は完璧に回避出来ていた。

 しかし、ソレが当たる様になっていると言う事は……ホワイトさんの“最適化”がボルックさんの“最適化”を上回り始めている……?


『――――』


 ドォン! と掬い上げるようなホワイトさんの肘打による『エアバスター』。ボルックさんのガードと体勢が崩れ、身体が開いた所に差し込むようなボディブローが追撃のように、ドォン!! とクリーンヒットする。

 既に『エアバスター』を付与した攻撃が容易く当たるまでにホワイトさんの動きが上回り始めた。

 防御を抜けて届いたその攻撃を受けたボルックさんは怯むのではなく、明確に後方に飛んで距離を開ける。


『いつまで“検証”を続けるつもりだ?』


 ホワイトさんは接近せず構えを取ったまま、ボルックさんへ問う。


『こちらの“最適化”はお前を上回り続ける。50年前の私と同じと思うな』

『ホワイト殿、君の事を過小評価していると思わせてしまったのなら詫びよう』


 ボルックさんは拳を握り、構えを取る。


『本来ならば、“詰め”に至るまで情報を固めるつもりだったが。ワタシも反撃も交えねば、破壊されかねないな』

『言葉による揺さぶりは私には効かない』

『知っている。音声に出すのはワタシの癖の様なモノだ』


 ジリ……と構える両者は互いに隙を見せない故に距離を測りつつ間合いを少しずつ詰めていく。


「…………」

「…………」


 『機人』同士。気迫は全く感じないが、独特の間合いから僕とカイルにも緊張感は伝わってくる。

 二人は構えを維持しつつ、ジリジリ……と間合いを測りながら、最適となる距離感を測っている。


 それは、3メートルまで近づき、2メートル……1メートル……更に抱き合う距離(・・・・・・)まで間合いが詰まった瞬間――――


『捉えたぞ』

『こちらもだ』


 最適化を終えた二機によるゼロレンジの攻防が始まった。

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