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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第440話 旅団『フリーダム』

 翼をもがれた鳥は死ぬしか無い。何故なら生きる場所と生きる意味を失うから。


「なる程な。『天空の国』はそんな事になってるのか」

「…………」


 私は『天空の国』を出てから放浪していた所をルドウィック団長と出会った。彼が私を見つけるように声をかけ、そのまま旅団『フリーダム』に迎え入れてくれたのだ。


 旅団は気の良い団員達が集まり、旅先の街で仕事をして資金が貯まったら次の街へ向かう。そのサイクルを繰り返して安住の地を探しているらしい。


 旅団に入って最初の夜。皆は寝静まり、焚き木を挟んだ二人きりの場で私は団長に全てを打ち明けた。


 私が『Tタイプ』である事。

 『天空の国』で何があって、私の身に何が起こったのかを……


「『アステス』は内政には干渉しないからな。良くも悪くも、即日世界に影響が出ない限りは防寒主義だ」

「……詳しいんですね」


 団長は何かを懐かしむ様にテンガロンハットを指でくるくる回すと、パス、とこちらに飛ばしてきた。咄嗟に受け取る。


「伊達に世界を渡り歩いてないさ」


 年季の入ったハットは団長の歩みを共にして来たと思わせる程にくたびれている。


“メイドさん――”


「…………私は……ずっと側に居たんです……」


 どうしてこうなってしまったのか……何故もっと早くルシエルの願いを叶えてあげらなかったのか……

 あの子が望んだのは……ただ窓から見える“自由”だけだったのに……


「……分からない……私は自分が何なのか……何がしたいのか……」

「メイドで良いんじゃないか?」


 答えが出ない私に団長は迷わずにそう言った。


「……それでは……前と同じです」

「同じじゃないさ」


 団長は近くで毛布を被って眠っている子供たちに視線を向ける。皆、旅団が拾った家なき子たちだった。団員達は皆男なので世話が難しかったらしく、私があやしたのだ。


「そうだな……セスタでどうだ? 子供たちの扱いを見てりゃその名前がピッタリだぜ」

「セスタ……?」

「特に異論が無いなら決まりな。今日からお前は『T-108』じゃなくてセスタだ」


 揺り籠(セスタ)……その名前を与えられた時から私は『T-108』ではなく“私”になれたんだと思う。


「……団長……ありがとう」

「正直に言うとな、女手が欲しかったトコなんだよ。厳つい野郎共がチビ共と一緒にいると、滞在先で通報される事が多くてな……」

「――ふふ、そうなんですか?」


 自然に“笑えた”。






 翼が開かない鳥は死ぬしか無いのか?

 その答えを私は旅団が世界を巡る旅の中で探して、探して、探し続けた。

 メンバーは個人で永住する所を決めたりする者や、立ち寄った街で恋人を作り残る者や、成長して独り立ちする者などが旅団を脱退した。


 去る者追わず。

 そして、団長の次に私が最古参になる程に旅をした果てに旅団は安住の地を定めた。


「よし、色々と高く付いたし、国境付近だが『ナイトパレス』の永住権を獲得したぞ! 今日からここが俺らの家な」


 少し古めかしくはあるが、見上げる屋敷は相当大きく、十数人が生活するのには十分な部屋数と庭があった。


「あたしベッドが欲しい!」

「セタ姉と一緒の部屋!」

「悪いが、チビ共よ。もう屋敷を買うので精一杯だったんだ! 家具は無いぞ! 余った旅費を増やそうとしてスッちまってなぁ! まだ屋敷は結構雨漏りするから、皆で稼いで整えて行こうぜ!」


 てめー、団長だろ!

 なに旅団の旅費でギャンブルしてんだ!

 賭け事弱いクセによぉ!

 馬車馬の様に働けニャー!

 逃げんなよー!


 などと、団長のポカにヤジが飛び、物を投げるなー! と団長がテンガロンハットを押さえて逃げる様はよく見る光景だ。

 苦笑しながらも、コレからの生活をどうするか考えていると服を引っ張られる。


「どうしたの? フレデリカ」

「セタ姉……わたし……冒険家になりたい……」


 旅の最中、ずっと塞ぎ込んでいたフレデリカが初めて自分から声をかけてくれた。


「そう。それじゃ、皆に相談してみようか」

「…………うん」

「みんなー、フレデリカが冒険家になりたいって」


 その言葉に団長を吊るし上げ始めた団員達の動きが止まり、フレデリカの為に勉強や学費を稼いであげる方向で纏まった。


「冒険家か……やっぱり、偉大なお手本が居たからだな!」

「いいから、金稼いでこい!」

「ドヤってんじゃねぇ!」

「悪影響な部分をフーに見せんな!」

「とっとと日雇いに行けニャー!」

「お前ら酷くない!?」


 私は翼をもがれた鳥……いや、違った。私は別の『宿り木』を見つけたのだ。しかし、


「随分とガタが来てるぞ」


 永住してから十数年後、団長がそう言った。

 知識が豊富な団長は定期的に私を診てくれていたのだ。

 『アステス』で作られた『機人』ではあるものの、長年きちんとしたメンテナンスを受けていなければパーツも摩耗する。

 本来ならば1年事に身体(ボディ)AI()更新(アップデート)が必要なのだが、半世紀も対応していない。


「全盛期よりも20%は落ちてる」

「後、どれくらい保ちますか?」

「長く見積もって30年だな。ただし、コレは激しい動きを行わない事を前提だ。それまでに『アステス』に帰る事を考えておいた方が良い」

「フレデリカが成人したら屋敷で家事長をしますよ」


 私は『機人』である事は団員達には話してある。けれど『アステス』に帰るつもりは無かった。

 戻ればきっと私は消されてしまうだろう。『天空の国』へ要請したのは『攻撃要請』だったから……その理由を求められれば間違いなく不具合(バグ)として処理される。


「ここが、私の死に場所ですから」

「ま、それも“自由”さ」


 団長はテンガロンハットを指でくるくる回すと私に投げてきた。咄嗟に受け取るとハットは相変わらず年季を感じさせる。

 けど刻まれたその“年季”に私の時間も入ったと思うと、この「宿り木」で朽ちる事に恐怖はなかった。


 フレデリカが死んだ。

 その報告が団長から告げられ、旅団では暗い空気が流れる。

 生きて別れたのではなく唐突な死別。それは団員の誰もが涙を流すも、過激な思想に染まるような事はなく、皆がフレデリカの死を悲しんだ。


「忘れない限り死にはしない。アイツは俺たちの中で今も笑ってるだろ?」


 それが団長の教えだった。

 死は別れであり、どんな理由があろうとも死者の身に起こった事を追求することはしない。純粋にその結末を受け止めて家族の為に祈り、想い続ける事で家族は死なない。

 コレは死者が……残された家族を危機に晒す事を望まないと考えた故に団長が導き出した答えだった。


「フレデリカの事は、アイツの“最愛”が清算してくれるさ」


 その頃から王城でメイドをし始めていた私に団長は釘を刺すように告げる。私も団長の考えには共感していた。

 そして、戦争が始まり私は自分自身と向き合う必要が出てきた。


 首都での戦いで現れたボルックと『エアレイド』によって私は捕捉されてしまったと判断した。


「団長、『アステス』に戻ります」

「そのボロボロじゃあ、コレからの生活は難しいか。なら選別をやるよ」


 団長は『オベリスク』で拾ったバイクを暇つぶしに修理していたらしく直りきったら乗る予定だったらしい。


「もう走れる。運転の仕方は分かるな?」

「はい。団長、お世話になりました」


 長い間、旅団に居て、沢山の団員達と共にあり、私はルシエルの事に対する“答え”を見つけていた。


「安心しろ。誰もお前を忘れない」

「――はい」


 私は嬉しさから涙を流してそう返事をすると、団員達には何も言わず旅団(フリーダム)と言う「宿り木」を飛び立った。






 私は生きた。

 団長や皆……新しい「宿り木」では同じ鳥は居なかったけど、それでも生きていると実感できた。

 十分過ぎる程に命と人生を貰った。

 だから今度は私が……命を繋ぐ番だ。


“メイドさん――”


 あなたは私の中で生きてるよ、ルシエル。だから……


「くっ……」


 衝撃により“ホーク”背部ユニット破損。


 だから――


 1010154378932――


 だから!!


「“タートル”!!」






 ドレッドは直接的攻撃をする際、対象を破壊する最低限の威力を算出し行使する。

 理由は戦闘後にも可能な限り機能を損なわず、損傷のリスクを減らすため。故に――

 

「――これは」

「ぐっ……」


 振り下ろした踵落としは六角形の装甲板が繋ぐように展開した電磁バリアを貫通する事は叶わず、セスタをバリアごと、地面に叩きつけるに留まった。


 セスタを円形に護る電磁バリアは落下の衝撃も完全に緩和し、内部で浮かぶ彼女を安全に地面に足をつかせる。

 ドレッドも追うようにナノマシンの足場を蹴って着地。

 両者に僅かな着地の間があった次の瞬間、ドレッドが弾ける様に駆けてくる。


 抗うんだ。私の持つ記憶(ルシエル)を無かった事にしない為に――


 次が勝負を決する最後の攻防となる。

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