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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第424話 あ゛ー!

「団長ー! 団長ー!!」

「ん? どうした? キャスカ」


 『ナイトパレス』と『オベリスク』の国境に面した町に存在する旅団『フリーダム』は十数年前にこの地に定住していた。


「ん? どうした? キャスカ。じゃねーって! 今日は団長が飯当番でしょ!? ローテ組んでるんだから守れって!」


 トレードマークのテンガロンハットを被り、出かけようとした団長のルドウィックは団員の『獣族』『黒豹』の女――キャスカに呼び止められる。


「悪いっ! ちょっと急用が出来てな!」


 ルドウィックは、パンっ! と申し訳無さそうに眼前で両手を合わせる。


「その言い訳、もう23回目! いつまでも騙されると思ったら大間違いだガー!」


 牙を見せて、決めた事を守れとキャスカは怒りを露わにする。


「そんなに細かく覚えてるとは……『アステス』の『機人』かよ。わかった! じゃあ取引だ!」

「取引ぃ〜?」

「セスタを連れて帰って来る! それでどうだ?」

「セタ姉を……ってセタ姉は『ナイトパレス』の首都でメイドしてんじゃん! 高級な職場から、底辺ヒゲ団長の世話をしに戻って来るハズねー!」

「くっ! 確かに俺ならそうだが……け、けどよ! 最近『ナイトパレス』も大きく情勢が変わっただろ? 戦争もあったしな! 怪我をしてたら身動きが取れんかもしれん! だから団長として迎えに行くのだ!」

「……」

「な、なんだ、今度は黙って睨んで来やがって! よ、良し! じゃあ俺のツテで追加でメイドを一人連れてこよう!」

「…………」

「バカな事を言ってないで飯作れって眼を向けやがって……わかった! 聞け!」


 ルドウィックはテンガロンハットを目深に被り、キリっと告げる。


「セスタがピンチだ。団長として俺はアイツを助けに行かなきゃならん」

「セタ姉が……」

「と、言うわけだ! 三日は俺をローテから外してくれ! じゃな!」


 キャスカが少し躊躇った瞬間に、ダッ! とルドウィックは逃げるように走り出す。そのまま建物の影を曲って消えた。


「あ! 待てや帽子ヒゲ! テメーが決めた事じゃねーかニャァァ!!」


 キャスカもルドウィックの後を追いかける様に角を曲がる。しかし、彼の姿は忽然と消えていた。


「クソが!」






「ふーい。キャスカの奴も小さい頃は昔は可愛かったのに、成長すると良い女になるのに比例して小言が凄いねぇ」


 ルドウィックは既に町から大きく離れる様に上空にいた。

 彼が掴まっているのは、光化学迷彩にて姿を消している【スケアクロウ】である。


「――――なになに? 5番勝負? 『アステス』は面白い事になってんな。お前はどう思う? エアレイド」

『…………』

「……ったくよ、お前もゼファーも残されるファミリーの気持ちが解らんかね?」


 既にゼファーもエアレイドも死んでいる。ここにあるのは主に造られた機体(ガラ)に戦闘機動プログラムが搭載されているだけだ。

 返事が返ってこないのは分かっているが、それでも語りかけるのは癖の様なモノだった。


「ま、だからこそ、今の家族は団長の俺が護らねぇとな」


 眼下でぷんすかしつつ、飯の用意に戻るキャスカにフッ、と笑う。


“ルドウィック。貴方には橋渡しをしてもらいます。しかし、この件は私以外には他言無用です。いずれは彼女が私の後を継いでくれるでしょうが……今は彼女にソレを責任として抱えて欲しくないのです”


「初めてだよ。貴女の言葉が嘘になったのは」


“貴方がルドウィックね。初めまして。(わたくし)はゼウス・オリンよ”


 そんで持って、いつの間にか代替わりしてんだもんなー


「天国から見てるなら今の貴女は笑ってるかい? 俺たちの女神」


 『スケアクロウ』人型であるルドウィック・フリーダムは自身を『永遠の国』へ連れ帰る様にエアレイドに頼んだのだった。






「はーい、カイルちゃん。刺しますよー」


 テラーさんにカイルの回復を頼んだ次に彼女が持ってきたのは無数の針だった。

 ソレを見たカイルは即座に刺されると理解した様で腕の力だけでバタバタと逃げ出そうとしたので、即座に僕とボルックさんで抑えつける。


 その後、説得を三十分。 『オフィサーナンバー』と戦えないとか、『霊剣ガラット』にそっぽを向かれるとか、カイルを誘導するワードを連発して何とか大人しくしてもらった。


 人体には急所となる点が存在するらしく、そこへ的確に針で刺激を与えることで活性化を早める事に繋がるらしい。


「うぅ……」


 肌の見える患者服に着替えたカイルの身体にプスプスとテラーさんは針を刺していく。カイルは寝台の上でギュッと眼を閉じて絶対に自分の身体を見ないようにしていた。

 気がつけば、ハリネズミ状態に。


「うわ……カイル。君の身体、凄いことになってるよ」

「絶対に言うなよ! レイモンドォ!」

「痛い箇所はある?」

「ない!」


 カイルは何とか刺されてないと思いたいのだろう。誤魔化す様に声を張り上げていた。


「じんわり熱を感じる様になった箇所が出て来たら教えてね」

「いつまでこうしてりゃいいんだ……」

「二時間くらいね。次は裏返って背面をやるからねー」

「言わないでくれ!」

「君はさ、敵に斬られたり刺されたりするのは平気なのに何で注射系はダメなの?」


 マスターの所でも治療の際には注射を打たれてたと思うけど……


「フツー、皆嫌だろ! レイモンドは好きなのか!?」

「どっちかと言うと苦手な部類だけど……必要だと思えば仕方なくない?」

「俺はチューシャしなくていい!」

『これは注射ではなく、針治療だ。急所に針を刺す事で人体の活性化を促し――』

「あ゛ー! ボルック、言わないでくれ!!」

「ふふ。気持ちをリラックス出来るお香炊くから、カイルちゃんは少し眠ると良いよ」

「わかった! 寝る!」


 現状の受け入れを完全拒否したカイル脳は即座に眠る程に単純だったようで、ぐがーぐがー、と寝息を立て始める。


『驚異的な身体操作だ』

「現実逃避してるだけですよ」


 カイルはこれで大丈夫そうだ。


『レイモンド、ワタシは引き続きカイルの様子を記録しつつマザーと勝負内容に関して細かく詰める』


 すると『サーチレンズ』に情報が掲示された。


 戦う場所。

 勝敗条件。

 公平な審判。


『課題は三つ目だ。こちらとマザーから一人ずつ判定員を出せれば良いのだが、人手が足りない』


 僕、カイル、ボルックさんは全員が戦闘する。審判をする余裕はない。


『他のメンバーでは開始35時間まで間に合わないだろう。レイモンドの方で良い案は無いか?』

「実力もあって公平を期してくれそうなヒトは知ってますが……」


 ローハンさん達じゃ無理なら……条件に当てはまるのはシヴァさんか千華さんくらい。しかし、あの二人も忙しいだろうし……


『ならばその件は後に回そう。レイモンド、君はもう二人、メンバーを探してくれ』


 勝負は全部で5戦。今のままでは後二人メンバーが足りないのだ。


「……今思えば……相当無茶でした」

『非合理的だが、それ故にマザーの推測を外す事が出来る。予測に乗らない動きはマザーに対する唯一の解答だ』

「結局、カイルの考えが『アステス』にとっては一番アンチだったって事ですか」


 ぐがー、と気分良く眠っているカイルに僕はやれやれと視線を向けた。

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